東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Aパート・その4) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:9月24日(日)23時40分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「驚くコトはない。――わたしは、お前なのだから」
「どういう――意味なの?」

 聞き返すマルチ。しかし、浩之との電脳連結に支障を来している所為で、次第にマルチ自身も装備しているマルーマシンを巧くコントロール出来なくなっていた。

「……次第に、お前の纏う新型マルーマシンが、タダの重い鎧となってきたようだな」
「くっ!」

 マルチは右腕を上げて攻撃しようとした。ところが、今まで機能していたプラズマジェットブレードが停止し始めたのである。

「うわ――あ――ダメっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 慌てるマルチだったが、自分でもコントロール出来ず、ゆっくりと地上へ墜落していった。
 そんなマルチを、マルマイマー・シャドウは嘲笑うような面差しで、浮遊しながら見下ろしていた。


「主査!」

 綾香は、TH壱式に乗っていた長瀬主査に指示を仰いだ。
 すると長瀬は、困った顔をして首を傾げ、ふむ、と唸ってから、

『コンセント、ひっこぬっちゃえ』
「待てコラおやぢ(怒)」
『そう睨むなって。勘違いしないでもらいたい。――非常用に用意した、マルメイマー緊急停止プログラムを使うのだよ』
「緊急停止――あ」

 あかりが素っ頓狂な声を上げた。

「これですか」

 そう言ってあかりが徐に、コンソールパネルの下から、一本のケーブルを引き出した。

『それだ』
「それは――?」
『長官、お忘れか?以前、初音君が暴走した事件の反省を踏まえ、マルマイマー運用システムの暴走発生から、マルチ本人とマルチ専属サポートオペレーターの生命保全の為に用意した、緊急停止プログラムの存在を?』
「あ――そうだっ!」

 綾香は、はっ、と閃き、胸のポケットから銀色の鍵を取り出した。すると長瀬主査も内ポケットから、同じ銀色の鍵を取り出した。

『カウントは5』

 そういうと、長瀬主査は、自分の手前にあるコンソールパネルからせり上がった鍵穴に、手に持っていた鍵を差し込んだ。

『同時にカットする。保科作戦参謀、ミスタ、宜しいか?』

 長瀬主査に訊かれ、TH弐式にいた智子と、月島瑠璃子の肉体を回収するべく、病院の敷地にキャリアを降ろす準備をしていたTH参式の艦橋にいるミスタも、懐から取り出した緊急停止プログラム発動キーを差し込んだ。

『長官』
「ええ――」

 綾香も、長官席のコンソールパネルにせり上がってきた鍵穴に、緊急停止プログラム発動キーを差し込んだ。

「長官!ヒロユキの心拍数、限界値突破!血圧上昇、アドレナリン分泌過剰――このままじゃヒロユキが死んじゃうヨ!、」
「あたしが音頭をとります。――5」
『4』長瀬主査が言った。
『3』智子が言った。
『2』ミスタが言った。
「1――ゼロ!」

 カキン!四人は同時に緊急停止プログラム発動キーを捻った。すると、各々のコンソールパネルにあるモニタが、緊急停止プログラム発動ウインドウを開いた。

「緊急停止プログラム発動承認、確認!――システム、プラグアウト!」

 緊急停止プログラムを確認したあかりは、手に持っていたコンセントの接合面が光り出したのを見て、それを一気に引き抜いた。三本のプラグで構成されるコードは分離し、マルメイマーの動作プログラムは強制終了させられた。

「――ぐふっ」

 電脳連結が停止した途端、浩之に掛かっていた負荷が消滅した。浩之は咽びながら、自分の身体が正常機能を取り戻したコトを実感した。

「ヒロユキの生命維持パラメーター、正常値に戻りました。……goodネ、good……!」

 レミィは半べそを掻きながら嬉しそうに言った。状況をハラハラしながら見ていたあかりも、何とかしのげたコトを知って、ほっ、と胸をなで下ろした。

「――って、そうだ、マルチちゃん!マルチちゃんが墜落して――」
『大丈夫です、あかりさん』

 撃獣姫が応答した。

『ギリギリ、キャッチしました』

 続いて真・超龍姫が応えた。
 二人は、マルマイマー・シャドウの電磁ネットに捕らわれて墜落していたが、真・超龍姫が右腕のドラゴンファングで電磁ネットを食い破って脱出を果たし、翼を広げて上昇を始めたが、そこへ落下してきたマルメイマーを見つけ、二人でキャッチしたのである。

『よかった。――二人とも、マルメイマーを地上へ降ろして!』
「判りました――」

 そう言って撃獣姫は仰いだ。
 撃獣姫の視界に拡がる青色の中で、黒く滲んでいたマルマイマー・シャドウの影は、その輪郭をゆっくりと拡げていた。

「敵は――マルマイマーか」

     *     *     *     *     *

 緊急停止プログラムの発動を確認後、ミスタは私立西大寺女子大学医学部付属病院の地下に眠る、月島瑠璃子の肉体を収めたカプセルを回収するべく、TH参式から降下したキャリアに乗って地上に立った。
 艦橋でも作業は出来るのだが、ミスタは、先ほどから応答しなくなった霧風丸が心配になり、直接様子を見ようとやって来たのだ。
 直ぐ先に見える病院本棟から人の姿が少なく見えるところから、患者の避難がだいぶ済んだと思ったのだが、そぞろ大きな生命維持装置を伴った重病患者の避難風景が見られるあたり、まだ手間取っていると理解した。
 ミスタはその様子に溜息をもらし、そしてエクストラヨークが滞空する方向を見た。

「……エクストラヨークが攻撃を仕掛けてこないのは、いったいどうしたコトか。キングヨークが牽制しているからいいとして、――」

 ミスタは再び病院本棟のほうを見た。

「――――瑠璃子さんが動いたか。フォロン!」

 ミスタは、被っているマスクに内蔵されているマイクで、TH参式に搭載されている多次元コンピューターに応答を求めた。

「オゾムパルスレベル4を探索しろ!平行して、霧風丸の所在シグナルをチェック!」
「……了……解」

 フォロンが応答した。今ひとつ反応が悪いのは、自分の端末である霧風丸との相互処理が異常を来している所為であった。
 高性能の分析・情報処理能力と、マルマイマー以上の戦闘能力を保有する霧風丸。そんな高性能を誇る理由は、この多次元コンピューターと連結出来るが故であった。
 霧風丸を設計した「二面鬼」東教授は、等身大ロボットに対する情報処理能力の限界を指摘していた。人間と同じ動作をする為のプログラムは、様々なデータ圧縮技術を用いるコトで押さえるコトが出来たが、実行する為にはアーカイブするために必要な大量の記憶容量をどれだけ確保できるかにかかっていた。
 事実、市販されている来栖川電工製メイドロボットは、サテライトシステムを導入している。これは膨大な動作プログラムをすべて本体メモリーに記憶させず、外部からプラグインや動作プログラムを信号化して送信し、受信して初めて動作できるようにして、動作が完了した後は、受信したデータは廃棄して、本体の動作を軽減させる、オブジェクト指向を基幹理念にした、ロボット用オペレーションシステムであった。初期は、来栖川電工が、倒産によって放棄されていた衛星通信電話用の人工衛星を買い取り、それを利用してデータの送受信を行っていたのだが、気象状況に影響されやすい人工衛星による配信システムが見直され、現在は、来栖川グループの一つ、クルスガワ・サテライト・ネットワーク社が管理する、16基の通信衛星気球船が地上700メートルの上空で滞空し、データの送受信を受け持っている(この辺りの設定に関しては、第5話「その名は超龍姫」Bパートを参照)。
 霧風丸のオペレーションシステムは、このサテライトシステムを更に進化させたものである。つまり霧風丸はその動作管理システムの殆どを、このTH参式に搭載されている多次元コンピューター・フォロンに移していた。つまり、霧風丸に至っては、基本体であるしのぶの人格以外のデータすべてはフォロンが管理しており、フォロンの端末という形で動作しているのである。いわば、霧風丸の本体はこのTH参式なのだ。
 フォロンの様子がおかしくなったのは、10分ほど前、霧風丸からの定期信号が途絶してからであった。
 信号が途絶する理由は一つしかなかった。何者かと交戦し、攻撃を受けて信号の発信が困難になったためである。

「……この病院内に、敵が居る――無事でいてくれよ、霧風丸!」

 ミスタは不安を抱きながら、病院本棟へ向かっていった。


「――――何?」

 突然、太田香奈子が、はっ、と驚いた。

「香奈子、どうしたの?」

 柏木楓の病室から搬出準備が終わった途端、親友のこの奇妙な反応に驚いた瑞穂が、不安げに訊いた。

「………………何かが、来る」
「何か、って――」

 香奈子は、廊下のほうを見つめていた。瑞穂も不安そうに廊下を見た。
 その途端、何者かが病室に飛び込んできた。

「誰――――」

 と訊いて、瑞穂は、あっ、と驚いた。

「――柏木梓さん!」
「楓の様子は?」

 恐らく慌てて走ってきたのであろう、梓は息を切らせながら訊いた。

「だ、大丈夫ですけど――――」

 そう答えて瑞穂は、香奈子のほうを見た。
 香奈子は、梓が現れても警戒を解いていなかった。

「――誰?」
「誰、って――」

 思わず呆気にとられる梓。

「柏木さんじゃない。――あなた、まさか」

 香奈子の顔が閃いた。
 それを見た梓が、何かに気付き、振り返った。

「お前は――――!?」

 梓の背後に人が居た。
 飛んでいた。
 まるで幽霊のように。――それはオゾムパルス体であった。

【……なんだ。柏木楓のもとに来ただけか】
「月島瑠璃子!?」

 瑠璃子の姿を見つけた途端、梓は病室の奥へ飛び退いた。すると、梓の抜けた空間に放電が入れ替わるように生じた。

【……流石、鬼神の末裔。反応、速い】
「ちぃ――みんな、あたしから離れないでっ!」

 そう怒鳴って、梓はヘアバンドに触れた。
 すると、そこから、ぶぅん、と羽音のような音が鳴った。
 同時に、浮遊していた瑠璃子が、背後の壁に激突した。オゾムパルス体の瑠璃子が、まさか壁にめり込むとは。

「新型の抗オゾムパルスキャンセラーの威力は如何かな?イレイザーヘッド技術のダウンサイジングは目覚ましくてね、先日、消防庁から依頼を受けて消火用装備として開発していたものが完成したんだけど――大気中の浮遊粒子を制御して、強力な電磁波やエネルギーを散乱断面積で受け止める新世代消火器のプロトタイプを、更にダウンサイジング化が成功してね。さっき、TH参式が敷地内に着陸したのを確認したわ。このまま、ミスタに――――何っ?!」

 梓が得意げに講釈していたその時、ゆっくりと瑠璃子が、めり込んでいた壁から起き上がってきた。

「そんな――最低でも40分は稼働するのに!」
【……弱い】
「――月島瑠璃子のパワーはハンパじゃないか!」

 梓は歯噛みした。
 すると、周囲の気温がゆっくりと下がり始めた。
 驚いた瑞穂が梓の顔を見た。
 鬼が居た。
 その美貌はそのままに。
 しかし、赤く燃える獣のような瞳は、梓が人ならぬモノへ変身したコトを告げていた。

「柏木梓――」
「……下がってて。…………物理攻撃が効かなくても――――!」

 どんっ!梓の正面にある空気が爆発した。
 するとまた、瑠璃子の身体が吹き飛ばされた。今度は壁にはめり込まなかったが、苦悶する瑠璃子の顔から、かなり効果的なダメージを与えられたコトを物語っていた。
 それは、梓が瑠璃子に向かってエネルギー衝撃波を放った為である。エルクゥ化によって放出できる梓のエルクゥ波動は、大気中に浮遊する粒子の電子運動を加速させ、そこへエルクゥ波動を利用した制動放射によって膨大なエネルギー衝撃波を生み出すことが可能なのである。超龍姫のイレイザーヘッドとは対極を成す能力であるが、梓はこの能力を、観月の協力のもとに、真・超龍姫に導入された、「スーパーノヴァ」という新システムとしてフィードバックしている。

「あたしのエネルギー衝撃波の味はどうかし――ぬっ!?」

 そう言いかけた瞬間、梓の足元の床が炸裂し、梓の身体が天井にまで吹き飛ばされた。

「ぐはっ!」
「柏木さん!――――そこに居るのは誰?」

 床を突き破って現れた、謎の影。
 それは、ワイズマンであった。

「……月島瑠璃子、急げ。この穴から直ぐ降りられる」

 何と、ワイズマンは先回りして、瑠璃子の肉体が保管されている地下室から、この病室まで穴を掘ってきたのである。その手には何も握られていないコトや、天井にめり込んで呻いている梓の身体に傷が無いコトから、素手で掘ったようである。

「……叔父さ…………いや、ワイズマン、貴様……!」
「手加減はした。そこで伸びているがいい、梓」
「だ……ま……れっ!」

 梓は渾身の力を込めて、めり込んでいた天井から身を起こし(この場合、天地逆ではあるが)、ワイズマンに蹴りを浴びせようと飛んだ。

「無駄だ」

 ワイズマンは梓の蹴りを軽々と避けた。梓は着地するが、ダメージの所為でその場につんのめってしまった。

「仕方ない、覚悟――」

 と、右腕を振りかぶったその瞬間であった。ワイズマンは、背後に凄まじい殺気を覚え、慌てて振り返った。

「――そうか。……忘れていたよ」
「――香奈子ちゃん!」

 驚く瑞穂の横で、香奈子が“変わって”いた。

「……確か、EI−04と認定呼称されたのだよな。――太田香奈子」

 ワイズマンは、香奈子のコトを知っていた。
 かつてこの病院で、人の身でありながらオゾムパルスブースターと化した、人間。
 そして、後に、秘密裏に、新たな認識番号を与えられ、MMMとの要求で藍原瑞穂の監視下に置くコトで日常生活を許された存在。
 エルクゥ人格保有者、第3号。

「…………それ以上の振る舞いは許さないわ」

 物静かな貌でエルクゥ化した太田香奈子は、梓の影響を引き継いで、室内の気温を更に引き下げていた。

(Aパート終了:ステルスマルーIIIの映像とスペック表が出る。Bパートへつづく)

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