東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Aパート・その1) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:9月22日(金)00時29分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

 それは、浩之たちの通う高校に配属される一ヶ月近く前。
 3月19日。――運命の日。奇蹟の生機融合体が“誕生”した日。
 来栖川電工中央研究所・第七研究開発室HM開発課特別研究室内で、一つの奇跡が起きた。
 その奇跡を起こしたのは、長瀬祐介のオゾムパルス理論であった。
 オゾムパルス。素粒子OZ。人間の脳波を対消滅させる、第6番目のゲージボソン。
 そして、人間の「こころ」を構成する主物質。

「……理論的には可能ですが、しかし……」
「ダリエリたちのTHライドを起動させるためには、それしかないでしょう」

 長瀬祐介は、叔父であり、来栖川電工中央研究所・第七研究開発室HM開発課主任、長瀬源五郎とともに、試験室の中央に設置された、少女のような姿をしたロボットを見つめていた。その手前に設置された機器には、三基のTHライドが組み込まれていた。

「人間の脳波は、オゾムパルスによって対消滅し、その思考を狂わされますが――本当は、人間の脳波そのものは、意志を持っていないのです。人類原種たちによって造り出された、にんげん、とよばれる生体ロボットは、人類原種たちのような感情など持てないように設計されていたハズでした――そうでしたよね」

 長瀬源五郎は頷いた。その事実は、長瀬源五郎自身が、そのサイコメトリー能力によって人類原種たちの遺産から読みとった情報であった。

「しかし、我々は、感情を、――自我を持った。オゾムパルスが、人類原種が組んだ脳波――プログラムを狂わせ、本来持ち得ない感情を持ってしまった」
「……我々の感情や自我は、エルクゥたちにすれば、“バグ”または“システムの暴走”に過ぎない、というワケだな」
「人類原種のプログラム通りに生じる脳波が、特定の波長で対消滅するコトで変質し、果たして思考や感情を生み出し――“こころ”が生まれたのです」
「だから――」

 そう言ったのは、長瀬源五郎の隣りに立っていた、朝比奈美紅研究部長であった。

「ダリエリのTHライドを、リストアしたばかりの、リズエル・メガノイドボディに組み込み、メガノイド用に組んだAIプログラムにオゾムパルスを干渉させて、人間と同じ“こころ”を造り出そうとするわけ?」
「そうです」

 祐介は頷いた。

「ダリエリのTHライドの中には、柏木千鶴の中に宿っていた胎児のオゾムパルスが封入されています。それも、肉体もなく純粋培養された、究極の生命(いのち)として。――そして起動させたこのTHライドを起爆剤に、オゾムパルスが封入されている残りのオリジナルTHライドをすべて稼働させます」
「暴走して融解する危険もあるが――それが一番ベストなのだな」

 長瀬源五郎には判っていた。未だに人の心は数値化できていない。別室で設計されているHMX13型に使用するAIの設計が困難を極めているのを、彼は知っていた。
 長瀬源五郎は、決してこころを持ったロボットを作りたいわけではない。しかし、このTHライドには、特別な思い入れがあった。
 そして、どうしてもTHライドを起動させたい強い思いがあった。ひん死の千鶴から、ダリエリの協力を得て取り出したオゾムパルスを封入したリズエルのTHライドは、あの日から一度も起動出来ていなかった。何が不足しているのかと悩んでいたそんな時、その話を知っていた甥の祐介が、THライドを起動させるヒントを思いついた、と連絡してきて、今日、それを実行してみるべきかどうか、責任者である朝比奈美紅を立ち会わせたのである。

「……判った。やってみましょう」
「……部長!」
「面白そうじゃない」

 そう言って美紅は、にっ、と不敵な笑みを浮かべた。来栖川の血を引くこの上司のそれは、あの姉妹の次女に良く似ていた。逆境に燃える血筋なのであろう。

「それにわたしがリストアした、あのリズエル・メガノイドボディは、メイドロボ用に設計しているマスプロボディなど足元にも及ばない強度を持っている。大丈夫、奇蹟は起こせる」

 美紅の決断によって、ダリエリのTHライドは、リズエル・メガノイドボディに組み込まれ、起動させた。

「これでTHライドが起動したら――わたしたちは、わたしたち自身の根源の真理を知るコトになるのかしらね」
「いいえ」

 祐介は頭を振った。

「『クォ・ヴァディス』」
「?」

 祐介が応えたそれは、遥か昔、聖人に対し、その敬虔なる信者が彼の行く末を問うた言葉であった。聖人はしかし何も応えなかったという。

「『主よ、どこへ行こうとするのか』――オゾムパルスがどうして我々の魂となりえたのか。我々は生を受けた時、オゾムパルスはどこから宿るのか。そして我々が新だ時、オゾムパルスはどこへ消えてしまうのか。――それこそが真理ではないのでしょうか?」

 祐介は、かつてその質問を、ある男に同じように向けたコトがあった。恐るべき敵との闘いの中で自分に味方してくれたその不老不死の男なら、その質問を応えられる存在であると思ったからである。
 だが彼は、同じように応えなかった。
 しかし祐介は、それで充分だった。大学での研究で、オゾムパルスを魂そのものと定義づけたのは、その時に得た祐介の結論であった。

「THライドは、たましいの真理の一片を我々に著してくれるだけです」

(「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出てOPが流れる。Aパート開始)

『……祐介』
「?」
『……マルチが誕生した時のコトを思い出していたのか』

 ミスタは、重合精神体となっている月島拓也に呼ばれて、自分がTH参式艦橋にある艇超長席で船を漕いでいたコトに気付いた。
 この一ヶ月、柏木初音やワイズマンたちの行方を追い、そして彼らの襲撃に備え、殆どこの艇内に泊まり込みであった。もっとも、ミスタは自宅などなく、MMMバリアリーフ基地の居住ブロックに泊まり込んでいるので、余り不断の生活と変わりはない。しかし連日の情報収集、分析でミスタはかなり疲弊し、ここ数日、つい居眠りしてしまいがちだった。

『……オゾムパルスが人の心を造り出したのだよな』
「……ええ」
『……今更ながらだが、オゾムパルスとは不思議な力だよな』
「…………」
『肉体を失ったお前や瑠璃子が今もなお、存在しているコトもそうだ。――しかし』
「?」
『……決して不滅ではない』

 オゾムパルスは、自らを組成する力を失えばカタチを、こころを維持するコトが出来なくなり、消滅する。柏木千鶴は自らの力を消費してマルマイマーを稼働させ、そしてついに消滅してしまった。

『……消えてしまったオゾムパルスはどうなってしまうのだろうな』
「?」
『天国とか地獄とかに行って――いや、消えてしまえば行き場などないか』
「そんなコトはないですよ。――あの不老不死の男はこう言っていました。こころは受け継がれていく、と」
『……?』
「こころが、意志が誰かに受け継がれている限り、オゾムパルスは消滅しても、たましいは消えるコトはありません。…………僕は、柏木耕一やマルチを見て、あらためて実感しました」

 愛する者を目の前でロストしたあの親子が、その哀しみに沈んでいない姿は、拓也にも印象的であった。まるで二人とも、彼女が“死んだ”とは思っていないようだった。真実から目を背けているようにも取れるが、そう切り捨ててしまうにはあまりにも気丈過ぎていた。

『…………そうか』

 ミスタの中で、拓也は安心したふうに言った。

『……なぁ、祐介』
「?」
『瑠璃子はどうなってしまうのだろうな――』
「――――!」

 4年前の嵐の日、並列空間に消えたエクストラヨークを制御していた月島瑠璃子は、心と魂が分離してしまった。祐介の精神爆弾が、その威力故に祐介自身の肉体と魂を分離させてしまったのだが、瑠璃子にも影響を及ぼしてしまったのだ。
 精神体となった瑠璃子が、人類に牙を剥いているのは、瑠璃子の意志ではなく、瑠璃子を精神汚染し、操っている〈ザ・サート〉の仕業であるコトは、先の鬼界四天王強襲の際に〈ザ・サート〉自身から語られていた。その事実に、祐介、そして〈ザ・サート〉に同じように操られて、実の妹である瑠璃子を陵辱してしまった拓也は酷いショックを受けていた。
 立ち直れたのは、敵の存在であった。斃すべき、許し難き悪しき存在を、二人は認めたのだ。
 そして、守るべき存在を。彼女は、自分たちを必要としていた。
 瑠璃子は、悪しき存在ではないのだ。

「……拓也さん。瑠璃子さんは〈ザ・サート〉に操られているだけなんだ」
『…………』
「……絶対助け出しますよ」
『……ああ』

 ミスタは頷いた。
 その時だった。
 突然、基地内に緊急事態を告げるアラームが鳴り響いた。

『――――多摩地区上空に、ESドライブ反応を確認!エクストラヨークが出現したと思われます!各部門担当者は全員、所定の配置に着いて下さい!』

 あかりの切迫した声がスピーカーから鳴り渡る。ミスタは思わず腰を上げるが、直ぐに席に着き、MMMの戦力すべての制御する多次元コンピューター、「フォロン」に各戦術飛空挺の出撃管制を命じた。

「…………ここが正念場だな」

 ミスタは、来るべき時が来たと思い、昏い想いになった。
 しかしその想いにふと抱いた一抹の不安は、この闘いでミスタを見舞う、恐るべき運命を予期していたものだとは、ミスタは気付いていなかった。


「――――患者の避難を!」

 藍原瑞穂は、病院の上空に出現したエクストラヨークの攻撃に備えて、患者たちの避難誘導を指揮していた。以前、鬼界四天王の襲撃を受けて以来、病院の警備体制は強化を図られ、医師たちも非常事態に備えて緊急避難指揮訓練を行っていた。それが徒労に終わってくれれば、と瑞穂は思っていたが、ここにあの月島瑠璃子の肉体が保存されている以上、必ずその事態が来ると覚悟していた。

「瑞穂!D棟の避難が完了したって――」

 太田香奈子が、一番エクストラヨークの進行方向に近い病棟の避難完了を、瑞穂に報告してきた。

「それと、MMMの人たちが迎撃に向かったわ!」
「迎撃――あの、柏木楓さんに似たロボット?」
「一緒にいた、柏木梓さんて人もよ」


「スーパーモード、システム・チェンジ!――三位一体、霧風丸!」

 D棟の手前にある庭で、待機させていた翼丸と狼王と合体したしのぶは、クサナギブレードを両手に構え、ゆっくりと接近してくるエクストラヨークを睨み付けていた。
 その横には、柏木梓がジャケットを脱ぎ、軽装になって悠然と身構えた。

「……アルトの時とは違って、手持ち無沙汰だから緊張するわね」
「梓さんは後方へ。それと――」
「判っているって」

 梓は頭のヘアバンドを人差し指で、ポン、っと小突き、

「この小型オゾムパルスキャンセラーがあれば、月島瑠璃子の毒電波はある程度防げる。病院の逃げ遅れた患者には手を出させない」
「済みません。私のものでは威力が大きすぎて、施設の精密機器に影響を与えかねません……あと」
「…………賢治おじさん――いえ、ワイズマンのコトは気にしなくて良いわ」

 そう答える梓の顔が翳った。かつて自分を手に掛け、操っていた――慕っていた叔父が敵としてまた現れても、容赦はしない。

(耕一も、覚悟を決めていた――――)

 鬼界四天王襲撃後、梓は、目を覚ましたばかりの耕一に、千鶴の死と、楓の無事を告げた。楓の無事は千鶴の死によるショックを和らげる為に、胸が詰まる想いを堪えて最初に告げたのだが、何故か耕一は驚きもしなかった。

「……耕一?あんた……」
「……あん時」
「?」
「…………千鶴さんが消える前に言ったんだ。……いつか逢える。そう遠くない日に。私たちには見えるのです。その日が。私たちを呼ぶ、大いなる存在が――――って」

 それは、電脳連結していたマルチと浩之に伝えた千鶴とリズエルの声であった。その声は耕一にも届いていたのだ。

「…………また、逢える…………」
「ああ。…………だから」

 耕一は仰いだ。

「…………その時は、みんなで千鶴さんを迎えてやろう」

 耕一の横顔は、ひどく穏やかなものだった。そんな耕一を見て、梓は少し切ない気分になった。
 耕一は信じているのだ。――いや、梓には感じられない、見えない絆が二人、いやきっと三人を、今もこうしてしっかりと繋いでいるのだ。
 そう思うと梓は、不思議と耕一の言うコトが信じられた。いつか千鶴は還ってくる、と。
 そして、耕一が指す、みんな、とは、梓や楓、そして取り戻した初音も含んでいるだろう。無論、二人の娘であるマルチも。

 そこに、あの男は含まれるのであろうか。

 耕一が娘と距離を置いて闘おうとしている理由は、その迷いから来ているのではないのだろうか。
 梓は、再び賢治と対峙した時、果たして闘えるだろうか。本当は自信はなかった。

「……いっそ、アルトのままだったらなぁ」
「そんなコトは言わないで下さい、梓さん」

 自嘲気味に洩らしたそれに、霧風丸が反応した。

「折角生き返るコトが出来たのに……機械の身体にこだわる必要はないのですよ。だから――」

 どうやら、霧風丸は梓の呟きを別の解釈で受け止めてしまったらしい。当然、梓の思いなど知るよしもないから誤解して当然であった。
 そんな霧風丸が、梓は愛おしくなった。
 アルトの時も、感情表現が不器用な娘だと思っていた。自分の強さを決して驕るコトなく、黙して行動で示す。生真面目で、そして誰よりも優しい。
 エディフェルとは、そんな娘だったのではないだろうか。愛する男のために――たとえそれが、自らの同胞か造り上げた“人形”であっても、自分の心を突き動かした“こころ”だったから――命をなげうってまで愛した。
 梓は、霧風丸の肩に手をかけた。鋼の体温は、不思議と冷たくなかった。

「……判っているって」

 梓は本当は、霧風丸の頭を撫でてやりたかったが、しのぶの時と違い、スーパーモード時の霧風丸の身長は2メートルを越しており、とても手が届かなかった。
 それでも霧風丸は、梓に触れられて少し照れくさかったらしい。その横顔は朱を帯びていた。

「……戦術飛行艇全艇の出撃を確認しました。直、マルチ姉さんたちも到着するハズです」
「了解――総力戦になるわねっ!」

 梓はそう大声で応え、避難が続く病棟の玄関へ向かっていった。
 だが梓は、頼もしいと思った霧風丸の迷いに気付いていなかった。
 エディフェルもまた、次郎衛門と対峙した時、倒せるのだろうか、という迷いをまだ抱いていた。

         Aパート(その2)に続く

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