【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】
「――気になる?」
梓は、じっと妹の寝顔を見つめているしのぶの様子に気付き、声を掛けた。しのぶもまた楓と同じ顔をしているため、こうして同じ場所にいると、まるで楓が二人いるような複雑な気分で、しのぶの様子が少し気になっていた。
「別に――ただ」
「?」
「…………彼女は今は、ゆっくり休ませてあげたい。それだけです」
しのぶの複雑な想いを、梓は気付いていない。しかししのぶが、楓の境遇に同情してくれているコトだけは、その憂う面差しから察するコトは出来た。
「……そうだね。…………ありがとう、しのぶ」
梓は、アルトであった時の記憶を持っていた。
始めから、戦闘用に設計されてしまった、姉妹ロボット。いつも物憂げなその横顔は、うちに秘めた、愛する、大切な人たちを護りたいその一途な優しさが造り出した心の鎧。その非情さは、時には周囲との軋轢をもたらす原因になってしまったが、それでも梓にとって実に頼もしい「妹」であった。梓として蘇った今も、たとえ正体がエディフェルであったとしても、そのコトに変わりはないと梓は思っている。
そんなしのぶを設計したのは、東教授。「二面鬼」と呼ばれた多重人格者の理工学の天才であった。
実は梓は、東教授とは面識があった。東は、楓の同級生だったのだ。
東は、かつて柳川が引き起こした猟期連続殺人事件を目撃し、それがきっかけで殺人鬼の人格に目覚めるまで、平凡な学生であった。しかし目覚めたその悪しき人格は、理工学に関する異常な知識を備えていて――後の調査で、多重人格というより、理工学に長けた何者かのオゾムパルスが憑依したのでは、という仮説が立てられたが、既に当人は鬼籍に入り、真実を知る術はない。しのぶの戦闘力は、殺人鬼の人格である東が、高性能な二足歩行型の対人殺傷兵器を研究した成果をすべてそそぎ込んだものである。
その東を手に掛けたのは、自らのすべてをそそぎ込んだしのぶ自身であった。本来の人格が、科学知識を駆使して殺人を繰り返す殺人鬼の人格を嘆き、自分を慕ってくれたしのぶに自分を殺せと命令したのである。
しのぶは、東の命令通り、それを遂行した。その日を境に、しのぶから暫く笑顔が失われることになるのだが、決してしのぶの「こころ」が壊れた為ではなかった。
単純に、東が最後に命令したコトを忠実に守っていただけなのだ。
鬼になれ。そして、愛する者を、護れ、と。
東が、しのぶのTHライドにエディフェルが宿っていたコトを知っていたかどうかは不明であるが、恐らく、しのぶの中に宿る「力」を感じ取っていたのだろう。心を鬼にする。実際に「鬼」は宿っていたのだが、無論、意味合いは違う。あるいは、東は自らのすべてをそそぎ込んだしのぶに、贖罪までも押しつけただけなのかも知れない。しかししのぶは自らを否定せず、持てる戦闘力のすべてを、オゾムパルス災害をもたらす敵に対して揮っているのである。
「…………あれ、これ」
そんな時だった。しのぶが何かに反応した。
「どうしたの?」
梓が不思議そうに訊くと、しのぶは廊下のほうを見つめていた。
「……歌」
「ああ、音楽療法で使っているBGMね」
香奈子が応えた。
「音楽によって人の心を癒すという治療法なの。音は一番原始的に心に作用できる力でね、研究によって殆どの人は音楽によって安らぎを得られるコトが立証されているの」
「……この曲」
「?」
「………………私が作られていた時に、東教授が良くかけていました」
「ふぅん。……あたしは聞いたコトないなぁ」
「これは2000年に流行った、ドラマの主題歌ね」
瑞穂が応えた。
「5人の有名なアイドルグループが歌ってヒットさせたヤツ……だったと思うなぁ。ドラマの主題歌だってコトは覚えているンだけど」
「ふぅん。……あたしはその時、死んでいたからなぁ」
「死…………?」
梓の呟きに、瑞穂と香奈子が目を丸くした。梓が9年前に殺されて、つい最近、復活したコトを、この二人は知らなかった。
「――あ。い、いや、ちょっと死んでいた、っつーか仮死状態だったっつーか……あはは、色々あって知らないのよ、その辺りの話は」
「そ、そう……?」
まだ目を丸くして驚いている瑞穂を見て、香奈子はくすくすと笑ってみせた。
その曲は最近、リメイクされてまた人気を呼んでいたらしく、恵比寿ガーデンスクエアにあるカフェテリアの店内でも、BGMで流れていた。
その店内の一角で、柏木耕一は、今まで調べ上げまとめた資料をテーブルに広げてじっと睨んでいた。
ワイズマンと呼ばれる男――柏木賢治の、今までの行動を追った資料。
一時、MMMに所属していたワイズマンは、MMMの結成に力を貸し、そして3年前、突如姿を消した。その際、保管されていたアズエル、エディフェルのTHライドから、その内部に収まっていたオゾムパルスを回収し――その時点で梓と楓の肉体を復元したものと思われる。耕一の肉体はその前後に復活していたようであるが、耕一自身はその辺りの記憶は全く失われていた――、どんな手段で捕縛したのか不明だが、月島瑠璃子のオゾムパルスを手駒にしていた〈ザ・サート〉と接触して鬼界四天王を結成し、オゾムパルスブースターによるオゾムパルス災禍を引き起こし始めたのである。
「――ついに〈ザ・サート〉が現れたか」
聞き覚えのあるその声は、耕一の正面からであった。
耕一が顔を上げると、そこには見覚えのある顔が二つあった。
「……伯斗龍二、それに、人形娘――」
「フランソワーズです。耕一様、お久しぶりです」
伯斗の隣りに立つ、まるでフランス人形のような可愛らしい金髪碧眼の美少女は、華が咲いたような笑みを浮かべた。
「いつ、日本に?」
「今朝だ。これからルミラが入院しているMMM基地に向かう途中だ」
「…………そうですか」
耕一は、先の鬼界四天王戦を思い出した。あの闘いで、ルミラが実の娘のように可愛がっていたイビルとエビルを失い、ルミラ自身も負傷――不死身のルミラが負った傷は意外に深かった。二人を失ったコトで、精神的なダメージを負ってしまったのだろう。その報を聞いて帰国したのであろうが、それにしては時間が掛かりすぎている。
「サン・ジェルマン伯爵様のお力をお借りに参っていたのです」
「――――」
耕一は、人形娘が、自分の考えていたコトを口にしたので驚いた。そしてすぐに納得した。
人形娘と呼ばれる由縁は、決してこの美少女が本当に人形であるワケではない。余りにも感情表現が少ない――微笑む以外は能面なのだ。それは、フランソワーズが「覚り」という、周囲の人間の思考を読みとってしまう「リミビットチャネラ」能力に原因があった。自分の意志に関係なく、周囲の思考が全部頭の中にそそぎ込まれてしまう為、精神破綻を防ぐために自分の感情を笑うコト以外すべて精神封鎖してしまったのだ。それでもかなりの負荷がフランソワーズの精神に影響を与えるため、不断はルミラの居城である、ルーマニアにある人里離れた古城の留守番を務めている。
「サン・ジェルマン伯爵――〈不死なる一族〉の先代当主だな」
「ルミラの親父さんでもあるが、風来坊な人でな。一度行方をくらますと平気で100年は戻ってこないので、探すのにフランソワーズのリミビットチャネル能力を駆使して貰った。それでも3週間は掛かった」
「何故、彼を?」
不思議がる耕一は、サンジェルマン伯爵とは面識があった、というより、ワイズマンの手から救い出してくれた恩人であった。ルミラより少し年上の兄ぐらいにしか見えないその若々しい風貌とは裏腹に、その齢はまったく不明という、伝説の不老不死者は、突然、ワイズマンの拠点に現れ、正体をなくしていた耕一の自我を取り戻させたのである。そしてサンジェルマン伯爵の手引きで脱出したのだが、その時にはもう彼の姿は消えていた。〈神狩り〉を組織した神祖と浅からぬ因縁があるらしい彼が、鬼界四天王に対して特に目立ったアクションを取らない理由は、娘のルミラも判らないという。
「伯爵なら、イビルとエビルを蘇らせるコトが出来るとルミラから連絡を受けて探していた。何とか連絡を取ってみたら、わかった、一月ほど待て、と。それをルミラに伝えに来た」
「…………」
耕一はマジかよ、と思った。
「マジです」
「そうですか」
にっこりと笑う、笑う以外感情を閉ざした美少女をみて、耕一は呆れつつ笑みをこぼした。どんな手段で、完全にロストしたオゾムパルスを復活させるのか非情に興味深いところがあったが、あえて知りたいとは思わなかった。
「――耕一様」
「?」
いきなり人形娘に訊かれ、耕一はきょとんとした。
「……ご息女のコト、ご心配なのですね」
「――――」
唖然となる耕一は、人形娘が耕一の思考をかなり深いところまで読みとっているのだというコトに気付いた。無論、自分の意志で読みとっているのではないのだろう。あるいは、耕一自身がその意志に反して、必死に忘れようとしている実の娘、マルチへの想いを人形娘に向けてしまったのかも知れない。皮肉か、マルチは文字通り人形娘であった。
耕一は暫し、人形娘の顔を見つめ、やがて俯いた。
「……誤魔化そうとする必要があるのですか?」
「――無理だよ」
「それは耕一様のお父上が――」
「そうさ――――」
耕一は沈痛そうな顔を上げた。
「――俺は父親という存在を、否定せざるを得ないんだ」
「――いづれ、その手に掛けるために」
「ああ!」
返答する耕一の声は少し荒げていた。
「俺は親父をこの手で斃す――斃さなければならないんだ!」
「哀しい人」
そう呟く人形娘の表情は、笑うコト以外出来ない能面のままであったが、耕一の目には、何の変化もないハズのそれが、どこか哀しげに見えた。
「……丁度ここで、子供が生まれたら世界で2番目に好きだ、っていうんだよな。このBGMの唄は」
二人のやりとりを黙ってみていた伯斗は、BGMの調べに耳を傾けていたようである。生憎、耕一もこの歌は知らなかった。知らなかったが、何故か、伯斗の呟きが耕一に重くのし掛かった。
思えば、マルチと別れたあのお台場のカフェテリアでも、この歌は流れていた。その時は原曲なのか、男性コーラスが入っていた。
君を守るため その為に生まれて……♪
そんな唄が流れていたあの時、耕一は確かに、娘を本気で守りたいと思った。
なのにどうしても振り向くコトが出来なかったのは、自分の本質的な弱さに気付いてしまった為であった。
愛する者を目の前で死なせ――二度も。
そして愛する者を奪われた――二度も。
そんな男が、娘を護れるのか。
そして、実の父を殺そうとする男が、父親を名乗れる資格があるのか。
「……耕一様」
「………………!」
耕一は人形娘に呼ばれてようやく、いつしか考え耽っていた自分に気付いた。
「誰かを愛する気持ちに、資格なんて要りません」
「――――――」
言われて、耕一は沈黙を守っていた伯斗の顔をようやく見た。
伯斗は、呆気にとられる耕一を見て、したり顔で頷いた。
「……どうしても先にお前さんに会いたかったそうだ」
伯斗がそう言うと、人形娘は、にこり、と微笑んだ。流れ込んでくる意志を防ぐコトは出来ないが、興味深い意志を聞き入れるコトには、抵抗はないようである。
やがて耕一は人形娘のほうを向き、何も言わず笑顔で頷いた。しかしその笑顔が、耕一が自らの悲壮な決意を放棄した印しでないコトは、伯斗にも判っていた。
丁度その頃、TH壱式のメンテナンスケイジで新型マルーマシンの整備を行っていた浩之は、奇遇にも伯斗が聞き入っていたBGMの調べを口ずさんでいた。
浩之は、先ほどのバーチャルフュージョンテストが終了してからずうっと、マルチのコトが気になっていた。
マルチの様子が少しおかしいコトに気付いたのは、鬼界四天王MMM基地強襲戦が終わってから直ぐのコトだった。
始めは、実の母親を失ったコトや自分が本当は人間であったコトを知ってショックを受けたものと思っていた。だから今はそっとしておいてやろうと決めたのだが、そんなマルチを見ているうち、どこか思っていたそれとは違和感があるコトに最近ようやく気付いたのである。
とにかく、テンションが高いのだ。ナイーブな面がまるっきり欠如してしまったというか、とにかく考え方すべてが、以前からもそう言う傾向だとは思っていたが、極端なポジティブ思考になっていたのである。
たとえば、失敗しても笑ってやり直す。まだ新しい身体に馴染みきっていない超龍姫が連続して引き起こしたフォーメーションミスを叱る観月に、大丈夫です!と勢い良く口を挟むコトもあった。
浩之と初めて出会った頃の、直ぐ落ち込む性分であった姿から見れば、それは成長したのだと単純に受け止めて喜んでも良かった。それがどうしても出来ないのは、自分の傲慢もあるのだろうが、何故か、理性の根底に根ざした何かが、自分を戸惑わせている、そんな気がしてならなかった。
「…………一度、主査に相談してみるか――――」
ぼそり、と呟いたその時であった。
突然、基地内に緊急事態を告げるアラームが鳴り響いた。
『――――多摩地区上空に、ESドライブ反応を確認!エクストラヨークが出現したと思われます!各部門担当者は全員、所定の配置に着いて下さい!』
あかりの切迫した声がスピーカーから鳴り渡る。浩之は、一緒に整備していた整備班のチームに早急に出動態勢に仕上げて欲しい、と告げて急いでメインオーダールームに向かった。
その時、浩之に去来していた言い知れぬ不安感は、別の意味で的中するコトとなった。
そしてこのエクストラヨーク襲来を機に、物語は驚天動地の終焉へ加速度的に進む。――――
(画面フェードアウト。ED:「それぞれの未来」が流れ出す)
第21話 了
【次回予告】
君たちに最新情報を公開しよう!
自らの肉体を取り戻さんとするオゾムパルス体の月島瑠璃子を乗せ、彼女の肉体を隠していた病院施設へ襲いかかるエクストラヨーク!撃退に向かったマルチたちに立ちはだかる、黒きマルマイマーの影!思わぬ理由でその力を100パーセント発揮できないマルメイマーとキングヨークを救おうとするミスタと霧風丸だったが、二人には恐るべき悲劇が待ち受けていた!
東鳩王マルマイマー!ネクスト!
第22話「拓也と瑠璃子」!
次回も、ファイナル・フュージョン承認!
勝利の鍵は、これだ!
「太田香奈子」