東鳩王マルマイマー第21話「終焉序曲」(Bパート・その2) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:9月16日(土)00時37分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「――久しぶりだな」

 鷹橋龍二は、久しぶりに再会した幼なじみの戸惑う顔を見て、苦笑した。癖っ毛のある茶色がかった頭髪の主は、幕僚というエリート出身には見えない気さくな青年だった。

「鷹橋二佐、知り合いか?」
「はい」

 上官である下川一佐に訊かれ、鷹橋は頷いた。

「中学2年まで、家が隣同士でした。中学2年の秋に、自分の家族が東京に引っ越しまして、はい」
「そうか。――暫く休憩にしてもいいのだぞ」
「いえ、今は我々の配置を把握するほうを優先しましょう。――トモ、済まんな、後でいいか?」
「へ?――あ、ああ、…………ええよ」

 智子は相手が鷹橋と知った途端、智子は妙に顔を赤らめ、落ち着きが無くなっていた。

「姉さん、アドレナリンと心拍数が上がってまっせ。何、ドキドキしてまんのや」
「や、喧しいっ!勝手にうちのコト、アナライズすなっ!」

 勝手に心理分析された智子は、いやらしそうに笑うゴルディの頭を拳骨で小突いて怒鳴った。
 そんな智子を見て、鷹橋は頬を指で掻いて苦笑した。

「相変わらずだな、まったく。――一佐」
「おう。長官、まずTH四号の乗員たちと打ち合わせしたいのですが」
「判りました。TH四号に乗員のタマ隊員とアレイ隊員が待機しているハズです。Dブロックルートが近道です」
「判りました。鷹橋二佐、仲上三佐、向かうぞ」
「はい」
「わかりました」

 鷹橋と、その隣にいた、仲上と呼ばれた、ノートパソコンを腰溜めにしているもう一人の自衛隊出向者である長髪の青年が頷くと、下川一佐は綾香に一礼し、二人を連れてDブロックゲートをくぐり抜けていった。
 智子はゴルディの頭をグリグリと拳骨でねじ込むように押し当てつつ、メインオーダールームを出ていく鷹橋のほうを黙って見送っていた。その視線はどこか浮かされているようであった。

「――トーモー」

 そんな智子に、綾香は、にやっ、と笑いながら言った。智子は思わずビックリする。

「――な、なんやっ!気色悪いっ!」
「あっらぁ?あの素敵な士官さんにはそう呼ばれて顔赤くしたのにぃ?」
「――――だぁっ!ほっときぃっ!」
「あらあら、ムキになって(笑)今度っから、トモ、って呼んであげるね」
「おんどれ、やめんかっ!きしょいっ!」

 綾香にからかわれ、智子はすっかり錯乱し、自分のペースを見失っていた。アルトとレフィは呆れつつ、苦笑して静観を決め込んでいた。

「へぇ。長官命令なら仕方ないわネ。HEY、トモ!」
「トーモちゃん(笑)」
「……うううっ、レミィばかりかあかり、アンタまで(血涙)」


「鷹橋二佐」

 TH四号へ向かう通路の途中で、先頭を歩いていた下川一佐が不意に尋ねた。

「……知り合いが居たが、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ――おや」

 答えた鷹橋は、ふと、通路の向こう側から歩いてきた、長瀬主査と、彼が資料室から閲覧用に持ち出した大量の資料を載せた台車を押しているテキィ=風姫の姿を認めた。

「――長瀬さんですね」
「……?」

 呼ばれて、長瀬は鷹橋たちの方を見た。

「……失礼ですが、どちら様で」
「これは失礼しました」

 下川は敬礼した。

「本日、イチマルマルマル付けをもって幕僚本部より出向して参りました、霜川一佐であります。後ろの二人は鷹橋二佐、仲上三佐であります。以後、宜しくお願いいたします」
「ほう、自衛隊から出向してくると聞いていましたが、そうか、あなたたちですか――――?!」

 長瀬も敬礼しようとしたその刹那、突然長瀬の顔が閃いた。

「――――まさか」

 そんな長瀬の様子に、鷹橋は不敵そうな笑みを浮かべた。

「……9年振りですね」
「――やはり!」
「知り合いか?」

 霜川が訊くと、鷹橋は意味深な笑みを浮かべて頷いた。
 それに呼応するかのように、長瀬はその名を口にした。

「――ダリエリ」
「「!?」」

 長瀬が口にしたその名を聞いた途端、霜川と仲上が、険しい表情で長瀬を睨んだ。

「大丈夫です。9年前の隆山で起きたEI−01とのファーストコンタクトの協力者です」
「協力者――そうか、あなたがあの長瀬博士でしたか」
「…………」

 長瀬の素性を理解した霜川は、親の仇を見るような顔からすぐに温厚そうな顔に戻った。

「失礼。鷹橋二佐のコトは我々の内部でもトップシークレットなので――そのメイドロボットは?」
「風姫と申します。MMM特殊戦術部隊所属です。――ダリエリのデータは特戦隊のメンバー内で箝口令が敷かれております」
「そうですか」

 霜川はテキィを警戒していたが、長瀬の説明でどうやら安心したらしい。
 長瀬は鷹橋をまじまじと見つめ、

「しかし、ダリエリは……」
「ええ。彼はあの夜以来、一度たりとも覚醒していません」
「……エルクゥ人格保有者第一号は、あの事件以降、政府の管理下に置かれていたと聞いていたが……」
「ご心配をお掛けしました。しかし、来栖川家の口添えで、上京後は監視されるだけで家族全員、普通に生活できました。何より、私もダリエリと呼ばれる存在の子細を知りたかったコトもあり、積極的に政府に協力しておりました」
「それで自衛官か……いや、大変だったろう」
「割と性分でした」

 鷹橋は気さくそうに笑ってみせた。

「積もる話もありますが、先を急ぎますのでこれで失礼させていただきます」
「あ、……ああ」
「それでは」

 と霜川が敬礼すると、自衛隊出向組の三人は長瀬の横を通り抜けて行ってしまった。
 長瀬はそんな三人の背を黙って見送り、溜息を吐いた。

「……ついに、ダリエリまでもがここに」

 そう呟く長瀬の顔が、とても複雑そうであったのが、横にいたテキィには印象的であった。


「……鷹橋二佐」

 長瀬の姿が視界から消えたところで、霜川が訊いた。
 しかし鷹橋は何も答えなかった。
 霜川はもう一度、鷹橋の名を呼んだが、そやはり何も答えなかった。
 すると霜川は一度深呼吸をして間をおき、

「――ダリエリ殿」
「何ですか、霜川一佐?」

 ダリエリと呼ばれた鷹橋は、にぃ、と笑って答えた。

「……正直、私は彼らにあなたのコトが気付かれてしまうかと心配しました」

 上官である霜川が、部下である鷹橋に敬語を使う異様な光景。

「心配はご無用です、霜川一佐。私はそんな迂闊ではありません。その名前も不用意に使用されない方が宜しいでしょう。――それより、仲上三佐、例の……」
「ええ、こちらに」

 仲上は抱えているノートパソコンの天板をぽん、と叩き、

「……データの回収は自分が責任を持って遂行します」
「宜しくお願いします。今回の任務で、MMMを告発する為の証拠を集めなければならないのですから。――MMMが〈鬼界昇華〉を計画していたという証拠を」

 そう言って鷹橋――いや、ダリエリは、仲上が抱えているノートパソコンを見つめ、ニヤリ、と笑った。


「ちゅ、中学までは一緒やったんや。あ、あっちがイッコ上で、うちが入学したその年の秋に、おじさんの仕事の都合で東京に引っ越して、それっきり――い、今はあないにノッポやけど、む、昔は、うちより背が低くて中学生になっても小学生に見えるくらいやったし――――だ、だから、あんたらの考えているようなっ、変なコトは――――!」
「ふぅん」

 智子は長官席の前で、綾香に尋問されていた(笑)。横には管制業務そっちのけのレミィとあかりが智子を挟み込み、意地悪そうに楽しんでいた。

「で、もしかして初恋のヒト?」

 そう訊いてレミィははしゃいだ。浩之との一件でどうやらそう言ったシチュエーションには必要以上に興味を示してしまうらしい。

「そ、そないなコト!」
「……ゴルディ」
「今の発言、ごっつうクロ」

 ゴルディはアナライズ機能を利用され、嘘発見器と化していた。

「ゴルディ!おんどれっ、うちの人格移植しとるのに、オリジナルを裏切る気かっ!」
「あー、ダメダメ。――っていうか、もしこれがあたしと智子、逆の立場だったら、智子、どうしてる?」
「え……?(汗)」
「んーと、智子のコトだから、容赦なく根掘り葉掘り聞き出そうとするわね」

 あかりは頷きながら言った。

「あかりのゆう通り。今のゴルディが、その時のあんた、ってワケ(笑)」
「だってさぁ、こうゆう話で困るヤツの顔みるのって楽しいし。けけけっ」
「…………ゴルディ。あとで覚えときぃや(血涙)。――アルト、レフィ、何とかしてぇなぁ」
「承認されておりませんので」

 と意地悪そうに言ったのはDR2アルトであった。

「…………アルト。あんた、柏木梓サンと入れ替わって、性格悪ぅなっとらんか?」
「はっはっはっ、気の所為、気の所為」
「……しっかり変わっとるやん」
「「うんうん(笑)」」

 あかりとレミィは笑う顔を向かい合わせて頷いた。アズエル化によって、DR2アルトの人格は更に男性化し、一人称も、自分、から、俺、に変わっていた。

「――ところで」

 不意に、レフィが辺りを見回し、

「その梓さんは、今日はお見えになられないのですか?」
「ああ、梓さんは今日、お見舞い」

 綾香が答えた。

「お見舞い?」
「入院している楓さんのところへ。しのぶも一緒よ」
「あ、言われてみればエディフェル、いえ、しのぶも居なかったんですね」

 レフィが不思議そうに言うと、綾香は急に顔を曇らせた。

「……彼女が居れば、楓さんの意識も戻るのじゃないか、って梓さんが」


 鬼界四天王がMMMバリアリーフ基地を襲撃したあの日以来、自我を取り戻した楓はしかし、意識不明の昏睡状態に陥っていた。
 MMM所属の医師の初期治療の判断では、楓の昏睡状態は、マルマイマーのナックルヘルアンドヘブン発動時に生じた強力な電磁波が影響しているのでは、と思われた。そこで来栖川グループの傘下にある、脳神経病理学の権威がいる私立西大寺女子大学医学部付属病院に、楓を入院させて、治療を行ったのである。
 しかし外的にも内的にも異常が見当たらず、原因不明の症状に、医師たちもこのまま様子を見ながら治療を続けていた。
 思えばかつて、太田香奈子がオゾムパルスブースターとして暴れた時、病院内では、エディフェルと名乗っていた楓が暴れて多くの死傷者を出していたハズである。そこへ入院させるのは問題がないかと綾香は躊躇したが、楓の話を聞いて、その治療を進んで引き受けた、脳神経科の新しい医療主任となった藍原瑞穂は、任せて欲しいと言った。

「……過去のコトなんてどうでもいいんです。どんな患者だろうと、みんな、今が大切なんですから」

 眼鏡越しに、にこり、と微笑む名医を見て、綾香の隣で黙っていた梓が、ほっ、と胸をなで下ろした。
 しかし瑞穂をして、楓の意識を取り戻すコトは至難の業であったようである。梓はMMMの新隊員として智子の補佐官として配属され――実年齢は梓のほうが上のハズだが、死後5年後にワイズマンに、殺害された年齢の状態で蘇生された為、事実上、肉体的には智子たちと同い年であった――、折を見て病院へ見舞いに行っていた。
 あれから一ヶ月。しかし楓は未だに目覚めないままだった。それが短いのか長いのかは判らないが、いつの日か意識を回復してくれると梓は信じていた。

「…………ダメですか」

 しのぶは、ベットの上で昏睡している楓の手を取ってみたが、何ら変化の見られない様子にがっかりした。

「かなり精神的に酷いダメージを受けていたのでしょう。……心の傷は簡単に立ち直れるものではありません」

 瑞穂の横で、看護婦見習いとしてこの病院で働いている太田香奈子が、実感を込めて辛そうに言った。香奈子もまた、毒電波――オゾムパルスによって壊された心を長い歳月を掛けて治療し、ようやく再起できた女性であった。

「…………」

 しのぶは、自分と同じ顔をした、いや、自分の顔のモデルとなった眠り姫の顔を黙って見つめた。

(死ねっ!死ねっ、千鶴っ!リズエルっ!)
(…………私はただ、現世で次郎衛門と添い遂げたかっただけなのだ!)
(――私は、あの約束をひとときも忘れたコトはなかった――ずうっとずうっと、あの男の仔が欲しかったのだ……それを……それを……リズエル、お前はぬけぬけとぉっ!!)

 偽りのエディフェルの人格と記憶に翻弄され、狂気に走った鬼神の末裔。
 しのぶ――エディフェルは、あの事件以来、暴走する楓を見て、もしかすると本当はそこに居たのは自分だったのではないのか、と戸惑っていた。
 あの慟哭は、自分自身だ。自分自身の闇なのだ、と。
 しかしエディフェル、いや、しのぶは、それを甘んじて受け入れた。
 楓の、耕一に対する狂おしいまでの想いは、まさしく次郎衛門へ渇望した自分自身の想いだったからだ。それを否定するコトは、次郎衛門への愛情を否定するコトになる。それだけは否定したくなかった。
 しかし次郎衛門は、柏木賢治の中で目覚めた次郎衛門は、エディフェルを見捨て、リネットを連れ去った。
 不思議と、ショックは受けなかった。あるいは、エディフェルはそれが当然だったのだろうと思っていたのであろう。柏木一族は次郎衛門とリネットの血を受け継いだ一族である。
 何より、しのぶは、自分はエディフェルの記憶を持っているだけの存在だと割り切っていた。所詮、記憶など、機械仕掛けの自分には、活動する上で使用するデジタルデータの一片に過ぎないのだ。
 そう思わないと、自分の心までも壊れてしまう。
 いつの日か、楓は目覚めるだろう。
 その時、自分は楓と何を話すか。どんなコトを楓は訊いてくれるだろうか。
 そして自分は、エディフェルでも柏木楓でもなく、しのぶとして接するコトが出来るだろうか。――しのぶは言い知れぬ不安で一杯になった。

     Bパート(その3)へつづく

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