東鳩王マルマイマー第21話「終焉序曲」(Bパート・その1) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:9月15日(金)01時03分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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(新型マルーマシン・KHEMM-12XME専用半自律型機動ユニット『ファントム・マルー』の映像とスペックが出る。Bパート開始)

 白い空間があった。
 地平線も空の果てさえも見当たらない、この地上では存在し得ない平地に、白いボディスーツ姿のマルチが佇んでいた。
 マルチは目を瞑り、黙っていた。
 やがて、かっ、と目を見開くと、大きく口を開いて、

「ファントムマルー!」

 マルチの叫び声とともに、白い世界の果てから高速で飛来してくる物体があった。
 緑色をした三角錐のシルエットを持つそれは、内装されている推進用プラズマ・ジェットで唸りを挙げて、マルチ目指して飛んできた。

「――イークイップ!」

 その物体がマルチの頭上を通過した瞬間、マルチがそう叫ぶと、物体の中から金色をした、4本の筒と2本の帯が投下された。筒はそれぞれマルチの腕とスネに装着され、帯はマルチのヘッドギアとベルトに変形して装着された。それはマルチ用に設計されたマルーマシン武装アーマーであった。
 各部のアーマーがしっかりと装着されると、マルチは両腕を上げ、祈るように静かにこう言った。

「……フュージュン」

 すると、マルチの左胸、つまりダリエリのTHライドが内蔵されている部分がエメラルド色の発光を始めた。
 同時に、遠くに飛んでいた三角錐の物体――ファントムマルーと呼ばれる新型マルーマシンは反転し、再びマルチ目指して飛来してきた。
 ファントムマルーは飛行しながら、鶴を想起させる細長い機首を背後に回転させ、やがて左右に分割して細長い翼となった。そして機首の両脇にあった装甲ブロックが左右にスライドし、最後に機体そのものが左右にスライド分割を果たした。それはまるでその中に何かを受け入れるような状態であった。
 変形したファントムマルーはマルチの頭上に到達すると錐揉み反転し、その垂直に上昇する。しかし推力プラズマジェットがジェット排出を瞬時に止めると、ゆっくりとマルチの頭上に落下してきた。

「とう!」

 するとマルチも垂直にジャンプした。ジャンプしたマルチは、展開したファントムマルーの内部に吸い込まれる。そして展開した機体を再び閉じると、二つは空中で合体を果たした。

「――メイマー!」

 ファントム・マルーと合体したマルチの姿は、左右に分かれた機首がまるで腰に下がったリボンに見える、両肩に大きなアーマーを装着した緑色のメイドドレスを着込んだメイドを想起させるものだった。
 そう、これが新たなる力を手に入れたマルチであった。――そしてそれは、この姿だけではなかった。

「――ファイナル・フュージョン!」

 メイマーと化したマルチは、そう叫ぶと、腰に展開した機首から放出されるプラズマジェットで一気に宙に舞い上がり、型のアーマーから超電磁竜巻を放出してメイマーを包み込んだ。
 すると、ファントムマルーが飛来してきた方角から、ハート型のステルスマルーIIIと、気球船に前方翼とブースターを付けたバルーンマルーIIが飛来してきた。そして、マルチが立っていた地点の地中からは、ドリルで突き破って現れたドリルマルーIIが内蔵されているプラズマジェットで上昇し始めた。
 三機のマルーマシンを確認したメイマーは、超電磁竜巻の内部に、その腹部にある半球体のプログラム・ランチャーから金色の光を放出した。
 それは光ではない。ファイナルフュージョンに必要不可欠なマルーマシン制御プログラムソースを組み込まれたナノマシンであり、ひとつあたり約1GBのデータを保有していた。そしてそれは集合体となって質量を持ったプログラムソースのリングを大気中に組成しているのである。
 メイマーから放出されたプログラムリングは、メイマーを中心にドッキング用の球型レールを形成した。やがて超電磁竜巻の内部に突入してきた三機のマルーマシンは、メイマーを取り囲むプログラムリングに触れると機体を反転させ、レールに沿って飛行し始めた。通過した箇所のレールが消失しているのは、マルーマシンがファイナルフュージョンプログラムを取り込んでいるからである。取り込まれたプログラムリングは、それを組成するナノマシンから受け取ったドッキングプログラムを光通信型デコーダーで取り込んだ為である。やがてすべてのプログラムリングが取り込まれると、メイマーとマルーマシン各機に内蔵されているファイナルフュージョン・オペレーティングシステムがプログラムのドライブ開始を認識した。
 まず、メイマーは両腕を胸の前に組んだ。すると肩にあるアーマーが内蔵アームでスライドし、その腕の上に覆い被さって胸部アーマーを形成した。すると左胸に埋め込まれるようにあるエメラルド色の半球体が大きく発光し、メイマーのドッキングポートを外部に剥き出しになった。
 最初に接近してきたのはドリルマルーIIだった。左右に分離した機体は、ドリル部を前方にスライドさせ、ドッキングポートを開いた。しかしそのポートに、キャタピラ部が展開してその下からせり上がってきた腿部がスライドして接続した。従来はマルチの腿をそのまま使用していた脚部だが、装甲部の強化を果たしたようである。
 いや、正確にはそればかりではない。新たなマルーマシンは、従来のマルマイマーで使用していた機体より一回り大きく、アップサイジングが図られていたのである。腿部の長さは丁度マルチの股下の長さほどもあった。腕部も母体であるマルチのフレームを使用しないあたり、関節部の設計がマルチに負担を掛けないよう根本的に見直されたらしい。
 やがてドリルマルーIIの腿装甲部は、マルチの両脚を取り込み、ドッキングを果たす。すると、メイマーのスカート部がスライドして大きくなり、その内側にあるドッキングポートと腿装甲部のドッキングポートが連結を果たした。外骨格による外部股関節と言うべきか、股関節もマルチのフレームに依存しないように設計されていた。
 次は、バルーンマルーIIがドッキングを開始する。肩と腕を構成するこのマルーマシンも設計が見直され、従来の前後分離型から、上下展開型にして、機体の完全分離による肩部の構造的弱点を改善していた。ドッキングで接近するバルーンマルーIIは、展開して剥き出しになった内部をマルチの背中へ、平行にスライドドッキングした。背部ロックと結合したバルーンマルーIIは、背中からはみ出している機体を前方へ90度回転して、メイマーの肩部ポートと連結し、肩部アーマーとなった。同時に、メイマーの腰にある、リボン状のプラズマスラスターを再び上へ垂直に回転させ、ステルスマルーIII用ドッキングレールになった。
 メイマーの背中にドッキングレールが出現すると、ステルスマルーIIIが垂直降下し、レールをキャッチしてメイマーとドッキングを果たした。さらにメイマーの背部にあったパーフェクトロックがステルスマルーIII側のパーフェクトロックと結合し、その合体を強固のモノとした。
 やがて、肩部から降りてきた腕部が、ステルスマルーIIIに牽吊されている両腕をキャッチして連結し、両手を出現させて腕部を完成させた。
 そして最後に、ステルスマルーIIIから出てきたヘッドギアがメイマーの頭部に覆い被さり、頬部の穴から4本の牙を出現させると、額のMマークが激しく輝きだした。
 大きさは従来のそれより一回り大きくなったが、そのシルエットはまさしく、マルマイマーであった。
 しかし、マスターボディと、ファントムマルーという新たな力を手に入れたマルチの雄々しい姿は、その名を冠していなかった。

「マル・メイ・マーっ!!」

 超電磁竜巻を吹き飛ばし、雄々しく構えて叫ぶそれは、マルマイマー・EX(エクストラ)、『マルメイマー』という名前が与えられていたのである。


「――よし。バーチャル・フュージョンシステムカット」

 浩之がそう言うと、マルメイマーにファイナルフュージョンを果たしたその姿が霧散し、再び母体である白いボディスーツ姿のマルチに戻っていた。
 同時に、あの不思議な空間が消え去った。今、マルチが居る場所は、TH壱式内に用意されている、バーチャルシミュレーター内であった。マルメイマーへのファイナルフュージョンは、すべてCGで合成された仮想映像だったのだ。

「これでシミュレーションでも26回中、初回のフリーズを除く25回、ファイナルフュージョンが成功している。これで僕の仕事は98パーセント終わったも同然かな」

 バーチャルシム・コンソールの前にいる浩之の横に立つ観月が、やれやれと満足げに言った。
 しかしその横で浩之は、一人難しそうな顔をしていた。

「――一回目」
「?」
「……最初の失敗の時です。あの時のフリーズが、ちょっと……」

 浩之は、最初にテストしたときに発生したシステムフリーズを未だに気に掛けていたようである。
 すると観月は困ったふうな顔をしてみせた。

「んー。あれは、システム調整が不完全だった所為だろう。事実、すぐ調整してから行ったシミュレーションでは成功したし」
「確かに……」

 確かに観月の言う通りだろう。浩之は判っているつもりだったが、何故か納得出来ずにいた。
 浩之を当惑させている理由は、そればかりではない。

「――どうでしたか、浩之さん!」

 マルチは、浩之たちの居るコンソールのほうへ駆け寄り、嬉しそうに訊いてきた。

「……あ、ああ。成功だよ」
「そうですよね!」

 マルチはガッツポーズをとり、満足げに言った。不断のおろおろする姿からは想像もつかないハイテンションぶりである。浩之はマルチのこんなハイテンションは、マルチが掃除をしている時ぐらいしか見たコトがなかった。
 そんなハイテンションぶりが、浩之に妙な違和感を感じさせていた。


 柏木千鶴のオゾムパルスが消滅し、その妹である初音までもが敵の手に落ちた、あの闘いから一週間後。
 浩之とあかりはマルチとともに、マルチの実の父親である柏木耕一と、お台場にあるアミューズメントパーク内のカフェテリアに居た。
 あまりにも異質すぎる、親子の名乗り合い。父は9年前に死んだハズの男で、その娘の身体は機械仕掛けであった。
 柏木耕一は、4年前、ワイズマンがMMMから離反した直後に、ワイズマンの手によって、梓と楓とともに蘇らされていた。楓はその記憶を操作されて、梓はアズエルの魂を取り込んだ状態での復活だったが、耕一も記憶を操作されて復活させられていたハズだった。
 しかし、耕一はその記憶を取り戻し、ワイズマンの手から逃れた。その時耕一は梓と楓も復活させられていたコトを知らなかったので、一人で脱出するコトになった。それから暫く日本国内を放浪し、爆死してしまった以降の出来事を独自に調べ上げているうち、1年前、丁度太田香奈子がEI−05に認定された闘いの直後に、来栖川京香と出会うコトとなった。その際、京香の元にいた柳川と再会し、千鶴の一件で一触即発状態になったが、事情を説明して二人は休戦するコトになったのである。
 そして、千鶴が生きているコトと、千鶴との間に出来た子供が機械の身体を得て今も生存しているコトを知り、京香の薦めで、遊園地でマルチと会ったのであった。
 その事情をマルチは、遠くで浩之とあかりに見守られながら、父親である耕一から語られ、黙って聞き入っていた。
 正直、ショックだった。自分が誕生するまでの真実を聞かされたマルチは、今まで自分が人間に尽くすロボットに過ぎないと信じていた分、酷く動揺した。
 動揺したが、それでいて“人間不信”になるようなコトはなかった。何故なら、自分が慕っていた人々は、事情を知っている者知らぬ者問わず、その優しいこころに感銘を受けて決してマルチをロボット扱いせず、一人の女の子として接してくれていたからだった。それは今のマルチにとって、充分すぎるくらいの救いだった。
 しかし、それだけだった。
 耕一は、初音の行方を追うため、再びマルチの元から離れると言うのである。
 それを聞いて、浩之はこの親子を黙って見ていられなくなった。

「……耕一さん。千鶴さんが、マルチのお母さんが居ない今、あなたが支えにならないでどうするんですか?」

 浩之が訊くと、しかし耕一は憮然とした顔で浩之の顔を見つめた。

「……俺はいまさらな男なんだよ。……俺より、藤田のほうがマルチの支えになれる」
「しかし――――」
「いいんです、浩之さん」

 憤慨しかけた浩之を止めたのは、他ならぬマルチであった。マルチは少し弱ったふうに微笑み、

「……お父さんには、やらなくてはならないコトがあるんです。お父さんなら、初音さんをきっと救い出してくれると思うから――だから――――」


「…………本当にそれで良いのか?」
「?」

 観月から各部関節のチェックを受けていたマルチは、不意に浩之に訊かれて、きょとんとなった。

「な、なんですか?」
「あ――、い、いや、何でもない」

 浩之は、初音を探しに去っていった耕一の後ろ背を見送るマルチの姿を思い出していた。
 父親に置き去りにされた少女。それを見て浩之は、マルチを愛するが故に酷くショックを受けたのだが、それはマルチのほうがもっとショックを受けていただろう。
 耕一の考えも判らないわけでもなかった。すべては、実の父親である柏木賢治が仕掛けたコトと知れば、耕一でなくても、抱えている苦悩と怒りをどうしても押さえられないだろう。
 それでも、これはあまりにも哀しすぎる再会だった。二人が親子だったなどと、知らなかった方が良かったのかも知れない。浩之は二人を見舞っている運命の余りの酷さにいたたまれなくなっていた。
 なのにマルチは、きっと抱えて居るであろう辛さや哀しみをおくびも出さず、元気に振る舞っていた。
 浩之には、元気すぎるように見えてならなかった。なのに、自分はマルチを見守っているしかなかった。何もできないのだ。浩之は自分の無力を痛感していた。

   *   *   *   *   *   *

 綾香がメインオーダールームにやってくると、そこには勤務中のあかりとレミィ、そしてゴルディとDR2アルト、レフィと打ち合わせしていた智子が居た。

「ああ、綾香、お帰り。――総代にはしっかり絞られたか?」
「絞られた方がまだマシだったわよ――」

 綾香は忌々しそうに言うと、不意に、あかりのほうを見つめた。あかりはコンソールパネルに向かったままで、綾香に見つめられているコトなど気付いていなかった。
 やがて綾香は、はあ、と溜息を吐いた。そんな綾香のそばに、智子はゴルディたちを連れてやって来た。

「何や綾香、そないシケた顔して。……まさか、お見合い相手でも紹介されたか?」
「お見合い――はぁ」

 綾香はまた溜息を吐いて、

「……しようかしら、お見合い」

 綾香が暗い顔をして、ぽつり、と洩らしたモノだから、智子は酷く驚いた。

「――な、なんや、アンタッ!何か悪いモンでも喰ったんかっ?!」
「それは言い過ぎというモノでは(笑)」

 思わずDR2アルトが、竜の巨体で肩を竦めて見せた。

「まぁ、長官ももうそろそろお年頃の賞味期限切れちゃうかもしれないし」
「――レフィ、あんた、セバス直伝の奥義喰らいたい?」
「じょ、冗談ですって、あはは」
「……つーか、綾香」

 智子は掛けているサングラス(度無し)をわざとらしくかけ直して綾香の顔をまじまじと見つめ、

「……そーゆうのはフラれた女が言うセリフやないか。――何やアンタ、誰かにフラれたんか?」

 智子はそう訊いたが、綾香が想いを寄せている人物は一人しか思い当たらないコトを知っていた。だから、今更なコトに、余計に不思議に思ったのである。
 そんな時だった。綾香が着いていた長官席に内線が入った。

『来栖川長官、宜しいでしょうか?』

 それは、男の声であった。それを聞いて綾香は我に返った。

「――あ、そうだった。智子、そんなコトより」
「うちはそっちのほうが気になる」
「いーから。――先ほど、雀鬼組の補充として、幕僚から出向してきた3名の自衛官が到着していたんだ。――どうぞ」

 綾香が応答すると、Bブロックに通じるゲートが開き、MMM男性隊員制服を纏った、凛々しい三人の男たちが現れた。
 その姿を見た綾香は背筋を伸ばし、彼らに敬礼した。

「失礼します!本日イチマルマルマル付けをもって幕僚本部より出向して参りました、霜川一佐であります」
「ようこそ、MMMメインオーダールームへ。私がMMM長官、来栖川綾香です。隣にいるのが、MMM作戦参謀の保科智子」
「保科――――」

 そう言ったのは、下川一佐の右隣に立っていた、三人の中で一番背が高くがっちりとした体型をする青年士官であった。

「――智子――トモか?」
「?」

 智子は気安く名を呼ばれ、怪訝そうな顔をした。
 そこへ、いきなり綾香は、ああっ、と驚いた顔をした。

「――見覚えあると思ったんです――あなた――――鷹橋さん?」
「え?――あ、ええ、そうですね、――久しぶりですね、エクストリームチャンプ」
「?」

 智子の視線は、綾香と、鷹橋と呼ばれた青年士官の間を何度も行き来した。

「来栖川女史が最後に参加されたエクストリーム大会。あの時の奥義にはやられましたよ――ところで」

 どうやらこの鷹橋という青年士官は、綾香とエクストリーム大会で闘った旧知の間柄だったらしい。しかし鷹橋の興味はすぐに智子に移った。

「――やっぱり」
「?」
「ほら、俺だよ――小学生の時、トモの隣に住んでいた――――」
「――――――――あ」

 不意に、智子の記憶の底から、とても懐かしい笑顔が急浮上してきた。
 そしてその笑顔が、今、目の前にいる青年士官と重なった時、智子は彼の名前を思い出した。

「――鷹橋龍二――リュウ兄ちゃん?!」

     Bパート(その2)へつづく

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