【警告】この創作小説はPC版ならびにPS版(これが今回のポイント(笑))『ToHeart』(Leaf製品)の世界及び長岡志保シナリオを悪よげふんげふん使用しており、志保シナリオ・エンディングの激しいネタバレがありますのでご注意。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
浩之と志保が勢いでHしてから、5年の歳月が流れた。
大学生になった浩之だが、相変わらずルーズなところがあり、今日も講義に遅刻しそうになっていた。
「ちくしょう、車が欲しいぜぇ!」
走りながら見遣る、限りなく限界に近い腕時計の時刻に、浩之は人生最大のピンチ(誇張)を感じていた。
そんな時だった。
プァー、と、不意に野太い音を立てて、真っ赤なスポーツカーが浩之のすぐ脇に並びかかった。
更にそのクラクションは、パッ、パパパーパー、パッパー、とふざけた調子で鳴らされた。浩之は何事かと、その車の運転手を覗き見た。
運転手は女性だった。シャギーの入ったセミロングヘアをする、サングラスで顔を隠しているが、かなりの美人であるコトは浩之も容易に判った。
「……ひょっとしなくても、藤田くん?」
運転席の美女は、サングラスを外しながら、浩之にそう声を掛けてきた。
浩之は目をしばたき暫し呆然とするが、やがてその貌が、記憶の中にあったある人物と重なった。
「……お前、もしかして志保?」
「久しぶりじゃん。ヒロ」
そう言って、志保は微笑んだ。
「ヒロ……か。凄っげー久しぶりじゃんか、そのセリフ。今、なにやってんだ?」
「あんたと話してる」
志保は意地悪く笑って言った。
「変わってねえな、オメーも」
「あんたもね」
「……」
志保との再会。一度だけの関係を持った、そして浩之にとって初めての相手。
いろいろ話したいコトがあった。しかし浩之は、どれから話せばいいのか分らなくなり、言葉に詰まっていた。
そんな志保も、浩之と同じ想いでいるのか、黙って浩之の顔を見つめていた。どこか愛おしげに見つめているのは気の所為か。
「……今からどっか行くの?」
最初に口を開いたのは志保だった。
「……、あ、ああ。大学」
「へえ。真面目に通ってんだぁ」
「いや、不真面目だから、今日の講義に遅れると、単位が危ねえんだ」
「アハハッ、やっぱヒロだ」
志保は安心したふうに、陽気に笑った。
「おいおい。…………あ、そうだ、なあ、いい車じゃねえか。乗せてってくれよ」
「いいわよ。乗って」
浩之は最後まで聞かないうちに、助手席へ滑り込んだ。
「ふう、助かり〜っ」
乗り込むと、車は軽くホイルスピンしながら走り出した。
――と思ったら、車は対向車線を走り始めてしまった。
「あ、あぶねぇっ!!」
アクション映画顔負けのハンドル裁きで対向車をかわし、車はようやく正常に走り始めた。
「ふぅ……、ああっ、焦ったわ」
「オ、オメェッ、免許持ってンかよっ?危ねえだろーがっ!」
「ごめんごめん。日本の道路、久しぶりなのよ」
「…………へ?」
「何よ、変な顔して」
「……いや、お前、日本にいねえのか?」
「まあね。仕事でずっとアメリカ。……でも最近は、ヨーロッパが多いかな?」
「へぇ。なんか凄ぇな。いったいどんな仕事だよ」
「フフフッ」
志保は悪戯っぽく微笑み、
「国際的ジャーナリストかな」
「ジャーナリスト?なんか高校ン時とそのまんまじゃねーか!」
「ああ……。そういえば、高校時代、バカなことしてたわね……」
「ホント、バカやってたよな……」
二人して、遠い目をしていった。
「……懐かしいわねぇ。あ、そうだ、あかり、どうしてる?」
「あかりか?先にキャンパスに着いてるだろうよ」
「へえ……、一緒じゃないんだ?」
「あったりめーだろ。いつまでも一緒に学校へ行ってられっか!」
「ふ〜ん……。じゃあ、進展あったんだぁ」
「なんだそりゃ?」
「あんたたち、今、付き合ってるの?」
「別にぃ。……今まで通りだな」
「そうだとしたら、進展ありってコトよ」
「だから、どういう意味だよ」
「ただの幼なじみから、一歩進展したって意味よ」
「何でだ?俺たちは何も変わってないぜ?」
「……ふふっ。あんたたち、そのうち結婚ね」
「おいおい」
「これでよかったのよ」
遠い目をして、志保は言った。
「何がだよ」
「――ま、いっか。教えてあげる」
志保は、うーん、と首を傾げてでから、そう言った。
「教えろ」
「ヒロ、覚えてる?あたしとHしたコト」
「ん?……ああ。よ〜く覚えてるぜ」
「そうなんだ。――あたしね、ホントはあんたのコト、好きだったんだ」
「――ぬわにぃ!?」
「あかりを思って、あたし、身を引いたのよ」
「知らんかった……」
「まあ、いいじゃん。今でもあんた、あかりと一緒なんだから」
「……」
そうこうしてる間に、大学のキャンパスが見えてきた。
「ほいさ。到着」
「サンキュ、余裕で間に合ったぜ」
「…………あんたさあ、車の免許取りなさいよ」
「いや、免許はあるけどな、なにぶん貧乏学生で……」
「あっそ。じゃあ、この車、あげる」
さらりと志保は、とんでもないコトを言ってのけた。
「は?」
「日本で車持ってても、ほとんど海外にいるから意味ないのよ。だから、あげる」
「おい…。この車、高いんだろ?こんな…………!」
「つべこべ言わないの。あたしからの結婚祝いよ」
「だ、誰が結婚だよ!」
「いいからいいから。じゃあこれ、この車のキィ。あとで譲渡証明を送るから。じゃね」
「おい、志保っ!」
そう言って志保は、キャンパス前で停車させた真っ赤なスポーツカーから飛び降りた。
そして何故か、周囲を慌ただしくキョロキョロ見回すと、ふぅ、と安堵の息を吐いた。
「…………良かった。そろそろ出てくる頃じゃないかと思ったのよねー」
「?なんだよ、不審な行動は?大体、何で車降りるんだ?確か、PC版のエンディングではオメー、このまま車に乗って走り去っていくハズじゃあ……」
「いーの、いーの。――オ・ト・ナの事情、ってヤツ」
そう言って志保は浩之に投げキッスをして、大きく腕を振りながら、その場から逃走してしまった。浩之は志保の背が見えなくなるまで呆然と見送っていた。
「……まさかこの車、盗難車ってコトはねーだろうな?…………あ、自賠責の保険証と車検証が入っている。うん、確かに志保のだ。なんだい、あいつも何かに遅刻していたんか?」
浩之は見つけ出した保険証を見つめながら呆れたふうに肩を竦め、そして、ふっ、と笑みをこぼした。
「……ふっ。あいつ。成功してんだな。………さ〜て、オレも頑張んねえとな」
浩之は座席で大きく伸びを一つした。
その時、浩之は知らなかった。
浩之が乗っている真っ赤なスポーツカーに迫り来る、一台の四駆の存在を。
そして走り来るその四駆に、誰も乗っていないコトを。
「うわーい、真っ赤なスボーツカーちゃーん♪やっとみーつけたー♪」
そう言って四駆がロボットに変形し、浩之の乗る真っ赤なスポーツカーに飛びかかってきたコトを。
* * * * *
志保「ねーねー、あかり、物真似物真似。『カーロボ三兄弟、応答願います!』」
あかり「こらこら(笑)」
終わり。