東鳩王マルマイマー第21話「終焉序曲」(Aパート・その1) 投稿者:ARM 投稿日:8月25日(金)23時35分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

 柏木初音が、リネットに覚醒してワイズマンとともに逃走してから一ヶ月が経った。
 依然、その行方はようとして知れない。エクストラヨークが、リネットを接触したコトで、ブラックボックスの一部であったESドライブエンジンが稼働できるようになってしまった為である。地表から月の裏側まで瞬時に移動できる脅威のオーバーテクノロジーは、その制御が特殊なエルクゥ波動のみに呼応するシステムであり、その特殊なエルクゥ波動を持っていたのはリネットのみであった。
 MMMは国連を通じて各国に警戒を促した。エクストラヨークがそのパワーを100パーセント発揮できる状態にある今、地球の何処かで〈鬼界昇華〉を実行されてしまったその時が、人類文明の最期となる瞬間でもあった――。


「……まだ、鬼界四天王たちは〈鬼界昇華〉を実行には移さないでしょう」

 来栖川京香は、丸の内にある来栖川財団本部ビルの総代室に招聘した、娘の芹香と綾香、そして柳川裕也の前でそう言った。

「……月島瑠璃子の肉体を取り戻してから、か」

 相変わらずムスッとしている柳川がそう言うと、京香と芹香が同時に頷いた。
 その横では、綾香が憮然とした顔で母親の顔を見つめていた。

「……肉体は、オゾムパルスの入れ物であると同時に、培養機能を持っています。いくら月島瑠璃子が強大なパワーを保有しても、オゾムパルス体のままでは文字通り、その身を削るばかりで、このままでは鬼界昇華の前に消滅してしまうでしょう。……月島瑠璃子の肉体の在処は、彼らには知られないよう、情報管理を厳重に行っていました。……EI−04事件の際、西大寺女子大付属病院を彼らが襲撃したのは彼女の肉体を取り戻すのが目的かと思っていましたが、あれは偶然であったようです……しかし、初音さん――いえ、リネットはその在処を知っています」
「もはや、時間の問題か。――いっそ、月島瑠璃子の肉体を処分したほうが良いのでは?」
「そんなこと出来るわけがないでしょう――」

 柳川の言葉に、綾香は呆れ顔を横に振った。

「……ミスタの報告では、〈ザ・サート〉と呼ばれる〈神狩り〉の裏切り者に操られているそうじゃない?きっと初音さんも、そいつに精神を支配されてリネットの覚醒を果たしてしまったんだと思うの」
「……反オゾムパルス保有者の影響は、確かにあると思います」
「?反?どういうことです、お母様?」
「……ルミラの話では、彼のオゾムパルスは、我々人類が保有するオゾムパルスとは正反対の性質を持っているそうで、オゾムパルスを対消滅させるコトが出来たそうです。しかもそのパワーはオゾムパルスを保有しない物質にすら、僅かでもオゾムパルスの影響下にあるモノなら全て対消滅させることが出来るそうです。彼はその力を〈ゼロの世界〉と称しているそうです」
「〈ゼロの世界〉――オゾムパルスの無害昇華を果たす、マルマイマーのヘルアンドヘブンとはまるっきり反対の力だな」
「……はい。ルミラは、きたる〈鬼界昇華〉の切り札として彼を手駒に加えたのですが、彼は、その性質故に、自らの存在理由を、人類と対消滅するべき存在と定義し、造反してしまったそうです」
「……要するに死にたがり屋か」

 柳川は鼻で笑った。

「……滅びは生きとし生けるもの全ての運命。生物が新陳代謝によって成長していくように、彼は人類という巨大な細胞の集合体の中で、滅びを司る存在として自らを定義するコトで、そのアイディンティティを確立しようとしたのでしょう。……判らないコトでもありません」
「お母様――?」
「…………それを狂気と捨て置くコトは出来ないのも事実です。生命体の進化は太古から、滅びと再生の繰り返しによって続けられているものなのですから。ならばこそ私たちは、彼の望み通り、彼を人類に与えられた試練の一つとして向かい合う勇気を持つべきなのでしょう」
「…………」

 綾香は京香の顔を見つめたまま、また黙ってしまった。何か苛立っているようであった。
 そんな綾香をみて、芹香はすこし寂しげな顔をした。芹香の後ろにいる柳川は、この親子の様子を黙って見守っていた。

「……お母様。私がMMMの長官として戦いに赴くのは、――大切な人たちがいるから、彼らを、彼女たちを――お母様や姉さんも護りたいから、です。なのに――」

 そう言うと、綾香は芹香のほうに戸惑いげな眼差しをくれて、

「――今の今まで、会長職にいる姉さんがどうして、私より危険な前戦に出て行くのか、不思議に思っていました――とても戦いなんて似合わない、護られるべき存在の姉さんが!」
「…………」
「――人類の進化を見守る一族。それが、あたしたち〈ゲートキーパー〉、来栖川一族に与えられた試練なんですか?教えて下さい――――来栖川京香」

 綾香は哀しげな顔をして母親を睨み付け、仰々しくフルネームで呼んだ。

「――――来栖川京香と呼ばれる存在は、人類の末を見守るために、自らのマトリックスを生成し続けながら、人類を見守り続けるためにこのように長きに渉り生き続けているのですか?――――姉さん、いえ、来栖川芹香が、来栖川京香の生体マトリックスによって生み出された合成人間だと知らされても――――」

(「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出てOPが流れる。今回から、鬼界四天王として、不敵な笑みを浮かべるワイズマン=柏木賢治と、向かい合わせに哀しげな顔で涙を流している初音=リネットがフラッシュしながら登場し、入れ替わるように生気のない操り人形状態の瑠璃子(最後に一瞬、邪悪な笑みを浮かべる)と「ゼロの世界」を放つ〈ザ・サート〉が登場。つづいて漆黒のオーラを伴ったヘル・アンド・ヘブンを仕掛けてくるマルマイマー・シャドウが登場。また、超龍姫は真・超龍姫となり、THコネクター内にいるコネクタースーツ姿の浩之と梓と楓が三分割でカットイン。聖槍ロンギヌスをセットした、AI搭載の新型オーガニックブースター「マイクサウンダース・88」を振りかざす志保と、初音の幻影を掴み損ねて悔やむ耕一、そして鬼神の影を伴った幕僚出向の自衛官・鷹橋龍二が今回より登場。Aパート開始)

「綾香――」

 溜まりかねて柳川が口を挟んできたが、綾香はそれを無視した。

「“あたし”は――姉さんと違い、お母様とお父様の間に設けられた実の娘。なるほど、道理であたしがキングヨークに乗らずに基地の中央という安全地帯に居るわけなんですね!」

 綾香は少し興奮気味だった。母親に対して初めて怒りを抱いている所為だった。

「その上――――――浩之が本当のコトを知ったら――」
「綾香!」

 柳川は怒鳴ってみせた。今度は綾香は、びくっ、と驚いたが、そのおかげで少し冷静になった。

「…………」
「…………キレる気持ちはわからんでもないがな」

 黙り込む綾香を見て、柳川は溜息を吐くと、今度は京香を睨んだ。

「……総代。このコトはまだ綾香に言うのは早すぎたと思うが」
「柳川さん、まさか――――?

 驚く綾香に、柳川は頷いて見せた。

「……昔、芹香から聞かされていたのだ。……もっとも、藤田のコトは今日初めて知ったがな。暫くヤツを監視していた身としては、芹香と藤田の出会いは本当に偶然だった。――いや、俺たちにも及ばぬ力の所業か――宿命とやらの仕業だろう」
「…………」
「俺は、人間は宿命の操り人形ではないと思っている。――それに逆らってみるコトも一つの道だが、しかし与えられた“偶然”を利用し、生き足掻くコトもまた道ではないのか?――来栖川京香と呼ばれる〈ゲートキーパー〉の宿命に終止符を打つ。今の綾香と藤田なら、それが可能だろう」
「……あたし…………浩之には言えないわよ、そんなコト!」

 綾香は悲鳴のような声で言った。

「……祐也さん」
「何だ、芹香?」

 珍しく普通に聞こえる声で芹香に呼ばれ、柳川は少し驚いた。

「……このコトは、まだ浩之さんには秘密にしておいて下さい」
「…………判った」

 柳川は少し迷ったが、芹香の思惑を何となく理解し、頷いた。

「……綾香」
「――判っています!これよりあたしは職務に戻ります!」

 綾香は苛立ち怒鳴って返答すると、踵を返して部屋から出て行こうとする。芹香と京香はそんな綾香を見て少し物憂げな面もちをした。
 すると、今のやりとりを呆れてみていた柳川は怒鳴ろうとして、しかし一瞬、困っている芹香の顔を見ると、はぁ、と溜息のような深呼吸をして落ち着いてから、綾香の背中に声をかけた。

「……突拍子もない話だから苛立つのは判る。――しかし、たとえ芹香が母親と同一の存在だとしても、お前にとって、芹香と過ごしてきた日々は決して偽りのモノではない」
「…………」
「それに、芹香はクローン体ではない。〈扉の守護者〉の使命を受け、長きに渉りその使命を全うするために〈神祖〉から受け継いだ、来栖川京香のオゾムパルスのみに応じて稼働するオーバーテクノロジーによって、母親の生体マトリックスを受けて作られた“娘”だ。――同じ母親から生み出されたお前たちは、紛れもない“姉妹”であるコトを忘れるな」
「………………うん」

 綾香は振り返らずに頷いた。綾香はそのコトは判っていた。判っていたが、感情が抑えられなかった。しかし柳川にそう言われて、綾香は少し気が楽になった。振り返らなかったのは、そんな情けない顔を三人に見せたくなかったのかも知れない。綾香はそのまま退室して行った。

「……総代。俺たちも職務に戻ります」
「裕也さん」
「?」
「……二人を宜しくお願いします」
「…………判りました」

 ぺこりと頭を下げる京香を見て、柳川は亡き母の面影を感じていた。

 柳川たちが退室した後、京香は後ろにある窓から都心方面を展望した。先に見える新宿の高層ビル街は、先の戦闘で相当な被害を受けてその殆どが修繕工事中にあり、特に新都庁舎は上半分が損失して無惨な姿をさらしていた。この窓からは見えないが、左側には天王洲方面の湾岸ビル街が望める。新宿市街戦間もなく襲ってきた鬼界四天王との戦いで、キングヨークと、突如出現した黒いマルマイマーとの対決で被害を受けて、同様に修繕中の光景が望めるハズだ。

「……完全体となったエクストラヨークがこの先出現したら、その周囲一帯は今まで以上の被害を受けるコトは必至でしょう。加えて、〈鬼界昇華〉によるオゾムパルス災禍も、今まで以上の被害が出るハズ。……MMMにはもう敗北は許されません――――?!」

 突然、京香は立ちくらみを覚えてその場にへたり込む。蒼白する顔は脂汗で一杯となり、呼吸も荒くなっていた。

「…………どうやら……限界が近づいている……みたい…………芹香、綾香…………ひろ………と………………」

 京香は拳を握り締め、何とか椅子に縋りながら立ち上がった。

「…………まだ…………私は……滅びるわけには…………!」


 柳川と芹香は肩を並べて廊下を進んでいた。

「…………?何だ、芹香?」

 不意に、芹香に呼ばれて柳川は芹香のほうを向いた。

「…………ありがとう?――気にするな。俺は――」

   *   *   *   *   *   *   *   *

 川のせせらぎが、ボロクズのようになった柳川の耳に聞こえていた。
 生きている。
 もう一人の“鬼”と闘い、破れて川に落ちてから、どれくらい経ったのであろうか。
 少し眩しい。どうやら少なくとも半日は経っているらしい。
 柳川が目を覚ましたのは、手前にいる誰かに呼ばれていたからであった。
 黒髪の物憂げな面もちをする少女だった。
 蚊の鳴くような声だったが、柳川にははっきりと聞こえていた。

 それが、14歳の芹香と柳川の初めての出会いであった。

 夏休みを利用して、隆山にある別荘に滞在していた芹香は、別荘の裏を流れている川の川べりに、俯せになって傷だらけの柳川を見つけた。驚いた芹香は、芹香の世話をしていたセバスと、そして一緒に滞在していた芹香の家庭教師である伯斗龍二を呼び、別荘へ連れ込んだ。
 救急車を呼ばなかったのは、芹香達の前で柳川の身体が、見る見るうちに傷が回復していくしていく姿を目の当たりにしたからである。

「……まるでルミラ様のようですな」

 セバスは、京香の旧い友人である不死の女・ルミラを知っていた。正確に言うと、来栖川家に執事として入る以前からの知り合いで、――戦後の東京で、ストリートファイターに明け暮れていた頃、不敗伝説を誇っていたセバスに唯一、黒星を与えた存在でもあった。先代の会長の紹介で来栖川家に執事として入り、30年後に京香の友人として、まったく歳を取っていないルミラと再会したセバスは、ルミラの正体に納得していた。
 しかしそれ以上にセバスを驚かせたのは、そのルミラに夫がいた事実であった。もっとも、伯斗はルミラのような不死の男ではない。セバスには、どんな経緯でこの二人が結ばれたのか非常に興味深いモノがあった。
 伯斗龍二。年中、白いコートを羽織り、日向のような笑顔を絶やさない20代後半の好青年なのだが、その正体は、裏の世界では名の知れた、フリーランスの戦術エージェントである。更に〈神狩り〉と呼ばれる謎の組織のメンバーでもあるそうだが、セバスはその組織についての詳細は知らない。ただ、来栖川家と深い繋がりがあり、先代の会長と京香もそのメンバーであるらしい。今はとある事情で戦場には出ず、芹香と綾香の住み込みの家庭教師を勤めている。だがセバスは、伯斗は来栖川家のボディガードを務めているのだろう、と踏んでいた。
 正直、セバスはこの伯斗と一度、手合わせをしてみたかった。それとなく聞いてみると、伯斗は、セバスのほうが強いですよ、とはぐらかしてしまうので未だに適わないのだが、全く隙のない様子に、セバスも安易に仕掛けるコトもできなかった。
 そんな伯斗の強さの片鱗を、一度だけ垣間見るコトが出来たのは、つい先日のコトであった。――隆山市内で起きた、連続猟奇殺人事件である。
 当日、セバスと伯斗は、芹香をつれて隆山海岸へ海水浴に出ていた。いつも家に籠もりっぱなしの芹香に、伯斗が海水浴を誘ったのだ。
 その帰りに、三人は“鬼”と出くわしてしまった。
 それを撃退したのは、伯斗の奇怪な格闘術であった。

「高天原流古武術〈伊邪那岐(いざなぎ)式・〉――神を仕留める神武道?」

 聞いたコトもない大仰な流派以上にセバスを驚かせたのは、伯斗は、掴みかかってきた鬼の右手を弾いただけで、なんと吹き飛ばしてしまったのである。その場には他にも観光客たちが居たのでセバスも伯斗と協力して鬼に立ち向かい、結局鬼はその場から逃走してしまったが、伯斗は後に市内の事件を聞いてその場で仕留めれば良かったと悔やんでいたのが、セバスには印象的であった。セバスは鬼を最初見た時、竦んでしまったというのに、伯斗はためらいもなく鬼に突進したのである。その差が、セバスには天と地の開きほどにも感じていた。
 伯斗が鬼に追い打ちを躊躇わせたのは、一瞬、伯斗に囁いた「予知言」の所為だった。殺してはいけない、と。「予知言」は伯斗の能力の一つで、彼の場合は何者かが未来の暗示を囁いてくるのである。
 そして伯斗は、その理由をようやく知った。川べりで見つけた青年の右手の甲には、確かに〈伊邪那岐式〉でつけた傷の跡があったのである。

「……成る程。この男は、柏木一族に縁の者らしい」
「柏木?というと、あの?」

 セバスは、来栖川家と懇意の関係にある、隆山では名の知れた名門の一族の名前を知っていた。

「でも、何故?」
「……鬼です」
「鬼?」
「柏木家の男は、鬼に変化する力を備えているのです――その意志に関係なく」
「――――」

 つまり、伯斗は、あの鬼がこの男だというのである。

「しかし――」
「ええ。このまま警察に突き出しても、証拠は――――え?」

 そんな時だった。芹香が伯斗のコートを引っ張り、首を嫌々振ったのだ。

「……警察は駄目?どうして?」

 戸惑うセバスと伯斗に、芹香は頷いた。二人はその時芹香が口にした理由に酷く戸惑ったが、その後、伯斗が京香に指示を仰ぎ、その青年を来栖川家で保護するコトになった。

         Aパート(その2)に続く