東鳩王マルマイマー第21話「終焉序曲」(Aパート・その3) 投稿者:ARM 投稿日:8月25日(金)23時32分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 芹香は、悪夢の中にいるような気分だった。
 いきなり、柳川の両手が芹香の服を引き裂き、そのまま芹香を押し倒した。そして、露わになった乳房を鷲掴みにしてむしゃぶり始めたのである。
 芹香は恐怖の余り声が出なかった。もとより蚊の鳴くような小声の芹香が、ショックの連続で声帯が完全に麻痺してしまった。
 やがて、自分でも滅多には触れぬ秘所に、鬼の形相をする柳川が、奇怪に変形した舌を押し当てた時、芹香は背筋に今まで感じたコトのない衝撃を覚え、一瞬にして全身が麻痺してしまった。
 ついに、柳川が自分の中に無理矢理入り込んできた時、芹香は破瓜の激痛に悲鳴を上げた。上げたが、声にはならなかった。それ自体が別の生き物のように容赦なく動き回る異物は、芹香を内側からゆっくりと麻痺させていった。

 無理矢理ねじ入れてきた巨大な異物から吐き出された大量の白濁を、芹香は咽せて吐いたコトで、ようやく声帯の麻痺が収まった。
 ねっとりとする体液が、切り裂かれてボロボロの服を纏う芹香の全身にこびり付いていた。呆れるほどの量が、芹香の全身を滴り、張りさえ感じる下腹部の秘所からも朱色が混じった白濁が未だに零れ続けていた。
 一昼夜、柳川の芹香に対する陵辱は続いた。その間芹香は、何度も気を失うが、尋常ならぬ大きさがその身体に侵入する度、芹香は目覚めさせられていた。やがて、今まで感じたコトのないゾクゾクする感覚に、芹香は半ば正気を失いかけていたが、正体を無くさなかったのは、直ぐ目の前に居る“鬼”の姿に恐怖していた為であった。
 胃の中にまで入った胃液混じりの精液を全部吐き出した所で、芹香はまた、鬼化した柳川に押し倒され、容赦なく貫かれた。ドロドロの体液のお陰で、もう痛みは感じなくなっていた。

「――ひぁ――あっ」

 芹香は、また背筋に、ゾクゾク、っとする不思議な感覚を覚えた。当に芹香は、自分が柳川に性的暴行を受けているコトは理解していた。始めは恐怖と痛みしか無かったのに、今ではそんな柳川を喜んで受け入れ、あまつさえ声を上げて快感に浸っている自分を、恥ずかしく思った。

「――オンナ」

 芽生え始めた快感に顔を赤くして喘ぎだしていた芹香に気付いた柳川が、腰を動かし続けながら読んだ。

「…………?」

 芹香は、柳川が芹香の名前をどうして忘れてしまっているのか、不思議に思った。だが、そのコトで芹香は、この鬼の柳川が、あの柳川ではないと直感させた。鬼化したコトで、柳川は別人と化してしまったのではないのか、と。

「ドウシテ、テイコウシナイ?」

 柳川の顔をした鬼が訊いた。
 芹香にしてみれば、恐怖で身が竦んでしまったのだから、抵抗など出来るハズもなかった。
 だが、芹香が怖いと思ったのは、鬼である。柳川ではなかった。
 陵辱されている今も、芹香にとって柳川は、川べりを穏やかそうな顔で見つめている、自分の父親に良く似た青年の姿しかなかった。

「…………ドウシテ、ナニモコタエナイ?」

 鬼は、気を殺がれたか、腰を動かすのをやめて、ゆっくりと芹香から自分のものを引き抜き、芹香を押し倒した姿勢で不思議そうに訊いた。

「………………」
「……コタエロ」

 どうして鬼は、そんなコトにこだわるのだろうか。芹香は不思議だった。
 しかし、鬼が不思議がるのももっともである。
 だが芹香がもっとも不思議に感じたのは、その答を知っていた自分であった。

「…………だって」

 芹香は右手を挙げ、ゆっくりと鬼の頬にそっと触れた。

「…………」
「……………………ドウシタ?」

 芹香は返答を躊躇っていた。その答はあくまでも自分の感じたコトであり、本当にその通りであろうハズもないからだ。
 それでも、芹香は答えた。思った通りに、感じた通りに。

「…………泣いていました」
「?」
「……………………あなたが、泣いているように見えました」
「――――――」

 鬼は、何を言い出すのだ、と呆れた。
 だからこのまま、女のコトは無視して、陵辱を続けようと思った。
 なのに、鬼は何も出来なかった。
 芹香は、鬼の頬を撫でる右手を、鬼のまなじりに寄せた。
 そして、こう言った。

「…………やっぱり」
「?」
「…………泣いています」
「ナニヲ――――」

 鬼は怒鳴ろうとした。だがその声を詰まらせたのは、自分の頬を撫でている芹香の掌に、光るものを見つけたからである。
 鬼は、泣いていた。

「――――――」
「…………また、泣いているんですね」

 芹香は、少し衰弱した顔で微笑みながら言った。

「…………あの時もそうでしたね」
「――――――」
「わたしが見つけた時も、あなたは泣いていました。――裕也さん」


 川べりでボロボロになっていた柳川は、芹香を見つけて突然泣き出していた。

 鬼は、どうして泣いているのか判らなかった。
 どうしても、泣き止むコトが出来なかった。
 切なかった。
 自分が放った体液に顔中まみれ汚れた芹香が、どうして自分を見て微笑むコトが出来るのか。

 ――――俺は、取り返しのつかないコトを、してしまった。

 突然、脳裏を過ぎった、誰かの言葉。
 聞き覚えのあるその声は、柳川本人のモノだった。鬼の中で、柳川の意識がゆっくりと回復し始めていた。いや、鬼も柳川も同一のモノである。柳川が鬼の人格を忘れていたように、鬼もまた、柳川裕也という穏やかな青年の心を忘れていただけであった。

「A…………AA…………AAAHっ!」

 鬼は肩を震わせ、大声で泣き始めた。芹香を陵辱していた傲慢さなど、今や微塵もなかった。
 そんな鬼の首に、突然、芹香は両腕をまわし、そして鬼を抱きしめた。
 鬼は驚いたが、抵抗しなかった。抵抗できなかった、と言った方が良いかも知れない。決して芹香が自分を上回る腕力を持っていたのではなく、力が入らなかったのだ。

「……オンナ…………?」
「…………哀しいのなら、泣いて下さい。………………私でその哀しみや辛い気持ちを受け止められると言うのなら、いくらでも受け止めて上げますから…………」

 鬼は、声を無くした。
 同時に、鬼は、全てを取り戻した。
 芹香が抱きついていた鬼は、その体細胞を一瞬に崩壊させ、塵と化した。その中から現れた裸の柳川が、芹香の胸の中でボロボロと泣き続けていた。

「…………裕也さん」

 芹香はほっとして、泣き続ける柳川の頭を抱き抱え、そして堪えきれない疲労から意識を失った。


 柳川は疲弊している芹香を抱き抱えて、下山してきた。そしてセバスから連絡を受けて隆山にやってきた京香に、犯した自らの深い罪に対する裁きを仰いだ。死さえ覚悟していた。
 それを芹香が母に、咎を問わぬよう柳川を弁護した。柳川の意志ではなく、柳川の中にいる“鬼”の仕業だから、と言って。
 もっとも、京香はもとより柳川を裁く意志はなかった。その理由は告げなかったが、恐らく柳川の苦悩に気付いているからであろう。この日以来、京香は柳川を前以上に信用するようになった。幸い、芹香は暴行から妊娠するコトはなく、医師の検査でも、乱暴されたが女性としての機能は損なわれてはいなかった。暫くして京香は、芹香を同席させて芹香の秘密を柳川に告げ、協力して欲しい、とだけ言った。
 柳川には断る理由は無く、柳川自身も断る権利は無いと考えていた。
 この事件を境に、柳川は、まったく正体を無くすほど鬼化して暴走するコトは無くなった。柳川は内なる鬼を制してしまったのである。
 その理由は、柳川にもよく判っていない。
 ――かつて自分を斃した柏木耕一が、鬼の力を制したのが、大切な女性を護りたいという一心からだった。あるいは、柳川もそうなのかもしれない。



「――気にするな。俺は――」

 そう答えて柳川は、芹香の肩を引き寄せた

「――――俺は、俺を救ってくれたお前を護る為だけにあるのだから」

 それを聞いて芹香は、頭を柳川の胸にもたげて、こくん、と照れくさそうに頷いた。

 柳川は、芹香に涙を見せたあの日以来、一度も涙を流していない。

   *   *   *   *   *   *   *   *

 長岡志保は、有明の東京国際展示場前にあるホテルのロビーで、ある人物と待ち合わせをしていた。
 フカフカのソファにもたれ、優雅にモーニングセットを口にして、英字新聞を読んでいる姿を浩之たちが見たら、

「何、読めもしねークセにカッコつけてんだよオメーは」

 と突っ込んできそうだが、浩之もあかりも、志保がクイーンオブイングリッシュを発音出来るコトを知らない。浩之たちと過ごした学生時代は、〈神狩り〉の催眠処理で、16ヶ国語を自在に話せる語学力や戦場で鍛えた超人的運動能力を含めた、天才的学力を封印されていたのである。
 やがて、セットのコーヒーを飲み干した所で、待ち人がフロントから現れたコトに気付いて、ソファから立ち上がった。

「ハロー、パパ――――シンディ?!」

 笑顔で迎えた志保を驚かせたのは、志保がパパと呼んだ、顎髭を蓄えてマドロスパイプを銜え、成人男性が直立した姿勢で入れる程の大きなトランクを引いている壮年の男性の後ろにいた、自分より年上の金髪の美女の姿であった。

「ハロー、シホ。元気そうで何よりね」
「シンディ?――足、足!」
「足?」

 シンディと呼ばれた美女は、志保が自分の足を指しているのに気付き、下を見た。

「別に何も無いわよ」
「そーじゃなくって――」
「ああ、義足のコトか」

 頷いて言ったのは、志保がパパと呼んだ壮年の男性であった。

「義足――――」
「MMMの新型ロボットのデータをフィードバックさせて作った試作型だが、先々週完成したばかりなのにもうシンディの足に馴染んでいるのには驚かされたよ。そればかりか」

 壮年の男性は自分の右目を指し、

「右目の義眼も、新型のを使っているが、全く目立たないだろう?」
「あ…………、そういわれてみれば」

 志保はシンディの顔をまじまじと見つめた。シンディは困ったふうな顔をして肩を竦めて見せた。

「技術は日進月歩で進化する、というけれど、たった4年の間に、あれだけの怪我がまったく目立たなくなる程になるとは、私も思わなかったわ。この義眼、視力さえあるのよ」
「へー、そうなんだ。……じゃあ、さ、レミィには逢った?」
「ヘレン?――ううん、これからよ」

 シンディは意地悪そうに笑ってみせた。

「ヘレンには、特に驚いてもらわなくっちゃ――心配かけたから」
「…………」

 志保は、同窓生だった宮内レミィの実の姉であり、志保がパパと呼んでいる育ての親のフランク・ナガセの妻、シンディ・ナガセの笑顔を見て、少し嬉しくなった。
 シンディは、4年前、サンフランシスコに出現したモスマンの襲撃によって、両親と、自らの右目と両脚を失っていた。この時、妹のレミィが、隔世遺伝によるエルクゥ人格を発動させて〈レミィ〉、「括弧付きのレミィ」になって応戦しなければ、弟のマイケル共々死んでいたであろう。レミィがMMMに参画している理由は、その多重人格の能力だけではないのであるが、今のレミィはそんな暗い過去をおくびにも出さず、学生時代のようにサンフランシスコに降り注ぐ太陽のような明るい笑顔を絶やさないでいる。
 フランク・ナガセは、名の通り「長瀬一族」の一人である。
 そして、任務で世界中を駆け巡っていた両親に代わり、志保の面倒を――戦術や格闘等、戦闘能力の英才教育を含めて見ていた、生体工学の権威であり〈神狩り〉の一人であった。
 若い頃は志保の両親と一緒に活動していたそうだが、任務中の事故で重傷を負い、戦場へ戻るコトが出来なくなっていた。そこでフランクは、忙しい親友たちに代わって、親友の一人娘の育ての親になっていたのである。

 フランクがシンディと知り合ったのは、4年前、シンディが入院した病院であった。
 フリスコ一帯を壊滅に追い込んだモスマン事件の災禍によって不足していた医師の応援として、フランクは参画し、彼の“能力”によって多くの負傷者たちが命を救われた。その事件によって、10年ほど前から米国国内で噂されていた、「神の手」を持つ“伝説の医師”がフランクであるコトを病院の関係者たちに知られてしまうのだが、例によって、〈神狩り〉の超法規的情報管制が数日以内にその情報を再び、伝説の世界の話にしてしまった。フランクが最初に治療したのはシンディだった。
 酷い怪我であった。両脚はモスマンに食い千切られて喪失し、弟を庇って追った右目の欠損は、脳の近くにまで達していた。生きているのが不思議なくらいであった。
 しかしフランクは、メス一つ使わず、不足していたから、と麻酔や輸血さえも使用せず、シンディの怪我を綺麗に塞いだのである。
 心霊手術。フランクの手から突然出現した、フランクの心霊体(エクトプラズム)で作られた、メスや縫合糸の代わりに用いた〈霊糸〉が、欠損部の再生不可能な体組織を削除、縫合し、脳幹に通して代謝機能をコントロールし、足りないマテリアルはその〈霊糸〉を使って、不足していた血さえも造り出してしまった。彼の〈ドクター・N〉の二つ名を知っているのは、〈神狩り〉関係者だけである。
 どんなきっかけでフランクと付き合うようになったのか、志保はその詳しい馴れ初めは聞いていなかったが、長いリハビリの末、シンディは退院し、フランクと結婚した。二人の姉に救われたマイケルは、若干18歳の若さで現在、姉の代わりに、亡き父の遺した会社の運営に励んでいる。才覚者の多い家系なのであろう。
 志保がシンディと最後に会ったのは2年前である。丁度、退院してから3ヶ月ぐらいの頃だが、その時は両脚に義足をはめて車椅子に座っていた。右目は伸ばした前髪で隠していたのだが、恐らくはその当時に、フランクが〈霊糸〉を使って傷跡を綺麗に消していたであろう。
 それが今や、そんな大怪我を負っていたとは思えないくらいの回復ぶりである。大体、両脚を大腿部から失っていたハズなのに、普通に歩いているのはどうしたコトか。

「義眼も義足も、MMMの新型ロボットのデータを使って作った、って言うけど、ほとんど生身じゃない――、って……まさか?」
「ええ」

 シンディは頷いた。

「『マルメイマー』。完成したのよ」

(Aパート終了:〈ザ・サート〉の映像とデータ表が出る。Bパートへつづく)


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