【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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(高速巡航空艇TH四号・バスター・フォーメーションの映像とスペックが出る。Bパート開始)
〈ザ・サート〉が志保たちの前に現れる少し前、TH四号の艦橋で出動準備を続けていたタマとアレイは、四号を制御する多次元コンピューター、メイフィアから、MMMバリアリーフ基地のセキュリティシステムからのパージが完了したコトを告げられた。
「これで出動できるにゃあ。……でも、どうしよう?」
操舵手のタマ・スーは艦橋窓を仰ぎながら、頭上に拡がる蒼さの先で闘っているであろう、キングヨークのコトを考えた。
「ルミラ様無しでは出動できないし……かといって、相手がエクストラヨークだったら尚更あたしたちの艦が必要になるだろうし……ん?」
そんな時だった。タマは、妙に暗い顔で黙り込んでいる機関管制官のアレイの様子に気付いた。
「どうしたにゃー?」
「……タマ」
アレイは不安に押し潰されたような顔で親友の顔を縋るように見た。
「……嫌な予感がする」
「嫌な予感、って――」
たちまち不安になったタマが訊くと、アレイは頷いた。
「……はっきりとは言えないんだけど…………なんか、物凄く不快な――――ねぇ、ルミラ様もイビルもエビルも、きっと無事だよね?」
「う、うん……」
タマにも保証できるハズはない。しかし今は、親友のために頷いてあげるしかなかった。
「――タマ、アレイ、聞こえているか?!」
突然、スピーカーから、柳川の声が聞こえてきた。
「あ、柳川さん。どうしたにゃー?」
「どうした、ではないっ!直ぐ、上がってこい!今がチャンスなんだ!バスターフォーメーションで一気にエクストラヨークを斃すっ!」
海上でエクストラヨークと交戦している柳川たちは、まったく抵抗しない今が千載一遇の機会と思っているようである。
「で、でも、ルミラ様がまだ……」
「バスターフォーメーションは、メイフィアのサポートがあればお前ら二人で充分操艦出来るだろうがっ!くだくだぬかすと後で狩るぞっ!」
「ひ、ひぃっ!――アレイ、出そうっ!」
「え、ええ」
タマは脅されて出撃するつもりだが、しかしこの場合、戦術的にも柳川に従うべきであった。アレイは不安を隠せなかったが、四号のフライホイールジェネレーターを稼働させた。
「〈ザ・サート〉……!」
ルミラは歯噛みした。
「相変わらずのご壮健と美貌に、我が輩、ホッとしております」
そういって〈ザ・サート〉は、にやり、と笑った。
「……何、アレ?噂のヤツって、こんな軽いヤツ?」
志保はぼそり、と悪態をついたが、この場に浩之がいたらきっと、どの口が言うか、とツッコミを入れていたコトだろう。
「〈神狩り〉が5人がかりで――いや、一人違うか」
〈ザ・サート〉がそう言った時、志保の隣にいるサラが〈ザ・サート〉を睨んだ。
「この場に相応しくない者には退場していただこう――」
そういって〈ザ・サート〉はサラを指した。するとその指先が光った瞬間、なんとサラの身体が四散してしまったのである。
「サラっ?!」
その叫びは、メインオーダールームでも同時に聞こえた。
メインオーダールームで最初にサラの名を呼んだのは、サラの“隣りに居た”長瀬主査であった。そう、サラはマルマイマーが楓を浄解した時からずうっとメインオーダールームに居たのである。
サラは右肩からおびただしい鮮血をあげると、その場に倒れ込んでしまった。
「お、おい、サラっ!しっかりしたまえっ!」
「……影を……やられた」
「影?あの、ここへ来る途中、ゲートの各所に配置させた、サラの影か?」
「今のは……はん、天王洲ゲートにおいてきたヤツだ……大穴狙いか――――いや、あたしの影術を討ったのはワイズマンじゃ…………な……い……」
長瀬に抱き起こされているサラは、そのままがっくりと首を落とした。
「サラさんっ!?サラさん、死んでしまったの?」
長官席にいた綾香がサラの様子に驚いた。
「いや、気絶しただけだ。影術の影法師を討たれた反動で傷つきもしたが、もう塞がっている」
「よかった……」
綾香は胸をなで下ろし、
「――でも、サラさんの影術を敗る敵とは、ワイズマンってそんなに強い……」
「いや、サラは違うと言っていた――――まさか」
長瀬主査の顔が突然閃いた。そして見る見るうちに青ざめた。
「……〈三賢者〉ほどの実力者を討てる“敵”など、指折るまでもない――〈ザ・サート〉だ!」
〈ザ・サート〉に討たれ、黒い平面の身体に戻ったサラを見ながら、志保は舌打ちした。
「……サラの影術を敗るなんて、今の軽い言動だけでは侮れないわね」
「志保!」
ルミラは志保を呼んだ。
「ソリタリーウェーブを発射しなさい!」
「し、しかし……」
志保は目で、ワイズマンの横に立つ柏木初音――いや、覚醒したリネットを見た。発射しても、リネットによって空間湾曲による防御で防がれてしまうだろう。
(……まてよ)
そんな時志保は、その対象物を変更するコトを思いついた。
(一か八か、だけど――しかし)
気懸かりなのは、〈ザ・サート〉の存在であった。
「ワイズマン、不甲斐ないなぁ」
〈ザ・サート〉は、ルミラたちを前にして臆するコトなく、ワイズマンを見て笑った。
「せっかくこの我が輩が出張ってやっているんだ。もう少し頑張って欲しかったな」
「黙れ――」
ワイズマンは〈ザ・サート〉を忌々しそうに睨んだ。
「おーコワコワ。――でもね、我が輩としては、キミに協力するコトが、我が輩の理想実現に繋がるコトでもあるのだから、そうつれなくしないでほしいなぁ」
「理想?」
志保が訊いた。
「ほう。――ルミラ師匠、そこのレディにはわが輩の高潔な思想を伝えていなかったのかね」
「裏切り者の思想など、教える必要もないだろっ!」
イビルが怒鳴った。
「貴様に殺された仲間たちの恨み――忘れては居ないぞっ!」
イビルは感情的になって〈ザ・サート〉を睨んでいた。無言のエビルも、イビルに劣らぬくらい怒りに満ち溢れていた。
「ふふふ。怒ってる怒ってる」
〈ザ・サート〉は嘲笑った。ワザと笑って挑発しているのが見え見えであった。
挑発とは判っていても、しかしイビルもエビルも、怒りを抑えられなかった。
「「ここで会ったが百年目っ!覚悟っ!!」」
イビルとエビルは得物を構え、〈ザ・サート〉に襲いかかった。
「待て、二人とも――――」
そんな二人を、ルミラは慌てて引き留めた。
だが、〈ザ・サート〉を前にして生じた、ルミラらしからぬ迷いが、その判断を鈍らせてしまったのかも知れない。
「……君たち二人は、我が理想には不要だ。だから――」
〈ザ・サート〉はゆっくりと両手をあげた。
「〈無〉に帰してもらう――――〈ゼロの世界〉っ!」
突然、志保たちの居る通路が、混沌に飲まれた。極細色の世界に一瞬にして包まれたのである。
その奇怪な世界を放ったのは、〈ザ・サート〉の両掌だった。そして――
「「な――――」」
次の瞬間、イビルとエビルの身体が霧状の光に包み込まれた。いや、これはイビルとエビルの身体が光となって分解されているのである。
「イビルっ!エビルっ!?」
ルミラがこうも激しく蒼白するとは何事か。光粒子となったイビルとエビルの身体はそのまま分解されてしまったのである。
「そんな――――いや、あの二人なら」
「無駄だ」
答えたのはワイズマンだった。
「〈ザ・サート〉の〈ゼロの世界〉。ヤツのオゾムパルスは、物質レベルでの“存在を否定する”力を持っている。だから、たとえ再生能力を持っているあの二人をしても、今度ばかりは再生は――不可能だ」
「――――」
不思議と、哀しげな口調をするワイズマンであった。本気で、自分たちと渡り合った戦士の“消滅”を嘆いているのであろう。志保は唖然としたまま、消滅していった二人の輪郭の僅かな残像を追っていた。
ルミラは、不死身だった部下の完全なる“死”に、呆けていた。
「非情の魔女と恐れられた貴女でも、部下の死は嘆くのですね」
ただ一人、この呆気ない最期に同情する素振りさえ見せない魔人は、次第に消え入る混沌の世界を体現して居るかのようであった。
最悪の男。かつて〈ザ・サート〉と対峙したある戦士が、この魔人をそう罵って果てたコトがあった。
「いつまでも嘆かれるコトはないでしょう?あの二人は、力はあっても感情をコントロールできない旧い人間。――そう、我が輩は、人類の革新を果たすべく、『人類の脅威』として存在し、このような者どもを狩っているのですよ」
「何ですって…………?」
「〈ザ・サート〉。――〈神狩り〉のリーダー、ルミラの一番弟子にして、自らを人類の進化に欠かせない“脅威”と位置づける道を選んだ魔人だ」
「そして、真なる〈鬼界四天王〉の一人でもある。――そいつを忘れちゃいけないよ」
〈ザ・サート〉はワイズマンの言葉を補足して、また笑った。
「何……?」
「〈鬼賢者〉ワイズマン、〈鬼姫〉リネット、〈扉の守護者〉月島瑠璃子、そして〈脅威〉ことこの我が輩が本当の〈鬼界四天王〉――エディフェルもアズエルも、本当の我々の目的の手駒に過ぎなかったのだ」
「何だと…………?!」
ルミラが驚いた。
「〈ザ・サート〉、貴様が関わっていたというのかっ!?」
「何を驚かれる?考えても見たまえ、〈鬼界昇華〉の本質は、我が輩の理想そのものではないか?」
「――――」
「旧態然たる人類は、さも自らが頂点にあるが如く振る舞い、自らの所属する生態系さえも狂わしてしまった。生命は、先があるのだよ?そう、エルクゥたち人類原種が人類を生み出したコトでオーバーロード化を果たし、宇宙へ進出していったように、人もまた、〈神〉への道へと進まなければならないのだ」
「〈神〉への道?」
「進化には果てなどない――いや、唯一あったな。――そう、『たましい』へたどり着く為に、人は仰ぎ続けなければならない。その為には、人類には適度な試練や障害が必要なのだ。障害なくして環境の変化など望めるべくもなかろう?だからこそ、我が輩は『人類の脅威』として立ちはだかり、人類の促進を図って見せているのだ」
「――それは貴様の傲慢に過ぎんっ!」
悦に入る〈ザ・サート〉の演説に、ルミラは堪りかねて怒鳴った。
「人類は急激な進化など望まなン!性急すぎる進化は、かえってテロメアを促し、種の絶滅を招くばかりだっ!」
「それは〈神狩り〉たちの詭弁に過ぎん」
〈ザ・サート〉は鼻で笑い、
「そうやって師匠たちは太古より、“神”に成れる素質をもった者達を人知れず葬り去ってきた。いや、かつて中には暴帝ネロ、聖者キリスト、近年では織田信長やヒットラーをも屠り去って来たのですよね?そういえば信長やヒットラーを仕留めたのは師匠、貴女でしたな?」
「…………」
志保はルミラが不老不死の魔女であるコトを知っていた。しかし歴史の大変の裏に、この魔女が暗躍していたとは、正直、志保は驚いた。
「数多くの“神・候補者”を葬り去るコトで、人類の性急な進化を押さえていた〈神狩り〉こそが、人類という種にとってもっとも忌むべき存在であろう?だから我が輩は、師匠たちと袂を分かち、人類の為にこの身を削って闘っているのですよ――はははっ!」
よく笑う男である。しかしその目には狂気も一点の曇りさえない。
「……だからといって、それが正しい道とは言えるハズもないでしょうに」
「正しい?それは、相対的なものの見方だ。あなたたちの言う正しさなど、われらにとっては決して正義ではない。正義など所詮は、相互の価値観の前には無意味なモノに過ぎない――正義も悪もない」
「だったら、その胸の文字は何よっ?」
志保が突っ込むと、〈ザ・サート〉は、ふふん、と鼻で笑って胸を張って見せ、
「我が輩の座右の銘だ。伊達や酔狂で描いている」
「あ、そう」
志保は呆れつつ、ラウドネスVVの砲口を、ワイズマンから〈ザ・サート〉のほうへ向けた。
「――どうやら本当の敵とやらが見えてきたわね」
「志保?!」
「今度はそのレデイですか?――名は何とおっしゃいます?」
「長岡志保。いずれ、〈神狩り〉を背負って立つスーパーレディよ」
その名を聞いた途端、〈ザ・サート〉は、ほう、と感心したふうに洩らした。
「長岡……あの長岡大志の縁の者か?」
「娘よ――何でアンタが知っているのよ?」
「だって、彼を殺したのは、この我が輩だから」
「――――――?!」
志保は思わずルミラのほうを見た。
「――ルミラさん!あたしの両親は、〈クイーンJ〉と闘って死んだんじゃないのっ!」
「〈クイーンJ〉?――そうか、柏木賢治が次郎衛門に覚醒した時の騒動の話か」
「な――――」
唖然とする志保に、〈ザ・サート〉は、ふむ、と唸って頷いた。
「確かにキミのご両親――大志も志津佳も、あの雨月山の騒動の時、我が輩と一緒に、覚醒した柏木賢治を誅するべく出動していました。――その時ですよ、我が輩が〈神狩り〉を裏切ったのは」
「な――――」
「そう。――柏木賢治、いやワイズマンの行動に興味がありましてね。どうしても仕留めようと聞かない二人を始末し、彼の動向を伺うコトにしたのです」
「なん…………ですって………………」
志保は慄然としてその場に硬直していた。
先ほどまでイビルとエビルの死に怒り心頭だったルミラだったが、そんな志保をみて、昏い顔で唇を噛みしめ黙り込んでいた。
ルミラたちにとって〈ザ・サート〉は恥の何物でもなかった。だから志保には、二人は〈クイーンJ〉との戦いで死んだコトにして、密かに〈ザ・サート〉を処分する腹づもりだったのだ。しかし〈ザ・サート〉はその後、手駒だった〈七大罪〉のメンバーを操って〈神狩り〉たちと対峙し、〈七大罪〉全滅後は暫く鳴りを潜めていたのである。
ルミラは、真実を知った志保が我を忘れないかと心配した。
ところが、志保は、一度深呼吸すると、ふふっ、と笑った。
「……そうなんだ」
「?」
「いや、さ。話じゃ〈クイーンJ〉って幽霊だか馬鹿力の持ち主だとか聞いていたからさ――親父たちがそんな単純なヤツに負けたなんてなんて信じていなかったから。…………なるほど、アンタほどの相手なら納得がいくな」
「ふふっ。我が輩の力に恐れを成したかな?」
「……違うよ」
志保はぼそり、と呟いた。
「?」
「納得したのはね――――手前ぇみたいな卑怯者に不意を突かれて殺されたんだってコトさっ!」
Bパート(その2)に続く