【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】
「納得したのはね――――手前ぇみたいな卑怯者に不意を突かれて殺されたんだってコトさっ!」
豹変した志保が、ラウドネスVVを抱えたまま、〈ザ・サート〉に突進していく。
「親父と母さんの仇――とらせてもらうっ!」
「……キミも感情を処理できない人間か」
〈ザ・サート〉は残念そうに言った。
次の瞬間、飛びかかる志保が抱えるラウドネスVVが一瞬にして光に分解され、続いて志保の身体までもが光に包まれ出した。
「志保っ!」
こんどはルミラは躊躇しなかった。右手のガントレッドに収めていた〈神殺しの槍〉、ロンギヌスの槍の力を発動させ、志保めがけて投げ放ったのである。
するとロンギヌスの槍は光と化し、志保の胴を指し貫いて天井に縫い付けてしまった。
だが志保は死んでいなかった。なんと、〈ザ・サート〉の〈ゼロの世界〉によって分解されそうになった身体が元に戻り始めたのである。
「志保っ!ロンギヌスの槍を使いなさいっ!」
そう言ってから、ルミラは不思議に思った。どうして志保が、神殺しの槍を使いこなせるのかと。
志保は胴からロンギヌスの槍を引き抜き、右手でもち構えて、その穂先を〈ザ・サート〉に向けた。射されたハズの胴には傷一つ見当たらなかった。
「槍よっ!」
志保がそう絶叫した瞬間、通路は槍の穂から放たれた黄金色の光に包み込まれ、〈ザ・サート〉の放った〈ゼロの世界〉が分解されてしまった。
「こ――これは、〈The・Power〉の光っ!?」
何と志保が握るロンギヌスの槍から、マルマイマーがフルパワー発動した時に発現した〈The・Power〉の力が拡がったのである。ワイズマンとリネットは溜まりかねてその場にうずくまってしまった。
そして〈ザ・サート〉もまた、この凄まじいパワーの前に怯んでしまった。
「おのれ――――ぬっ?!」
次の瞬間、ルミラの手刀が〈ザ・サート〉の胸を貫いていた。
「イビル、エビル、そして貴様の為に非業の死を迎えた友の無念――思い知れっ!」
ルミラは手刀を薙ぎ、〈ザ・サート〉の胴を上下に分けた。
――だが。
「――これは?」
「そう言うコトだ」
答えたのは、ワイズマンたちの背後に移動していた〈ザ・サート〉であった。
「感謝するよ、ワイズマン。あすこで我が輩のコピーを作ってくれるとは流石だ――何を怒っている?」
「……貴様との共闘にはまだ価値がある。それだけのコトだ」
「うふふ。親友だった大志を手に掛けたコトをまだ恨んでいるのかね?」
「黙れ――」
「うふふ。まあ、いいでしょう。――それでは師匠、志保ちゃん、ばいばいりゅーん」
〈ザ・サート〉はふざけた挨拶をして、ワイズマンたちとともにゲートの外へ走り出した。
「貴様――うっ?!」
追いかけようとしたルミラだったが、突然激しい脱力感に見舞われ、その場に前のめりに倒れてしまった。
「しまった…………〈The・Power〉の力に……あてられたか……」
倒れたルミラの顔は衰弱していた。不老不死のルミラにとって、魂を限りなく昇華した力、〈The・Power〉は余りにも膨大すぎて、忌避すべき力でもあった。
そしてそれを発動させた志保は、床に着地して直ぐ、ばったりと倒れてしまった。
「力を使い果たしたか…………しかし…………何故、志保が、神殺しの……〈神祖〉の槍を使いこなせたの…………」
そこまで言うと、ルミラもその場に気絶してしまった。
* * * * * * * *
緒方英二がルミラたちの危機に気付かなかったのは、偏に、キングヨークとエクストラヨークとの激突の最中に起きた、ある変事に理由があった。
時間は少し、前に戻る。――〈ザ・サート〉が志保たちの前に現れた数分前。
「TH四号はまだかっ!」
「あ、あいっ!お待ちっ!」
キングヨークを操艦する柳川に呼応して、TH四号が緊急浮上した。
「よしっ!TH四号、バスターフォーメーション!」
「「了解っ!」」
TH四号を操艦するタマとアレイが同時に返答した。すると、TH四号は艦尾から大きく開き、艦首も左右に分かれて戦術砲口を露わにした。その形状はまるで巨大な大砲である。
それを、キングヨークが両脇から掴み取り、胸部に露出したコネクター部とドッキングさせた。
「四号のフライホイールジェネレートをキングヨークのTHライドと接続!出力、83パーセント修正!」
「対電磁波防壁フィールド展開!マグニカル・モーメント3Dセット!」
「反中間子散乱予想域にモル・キャッチャー放出!大気分散率、修正38コンマ7パーセント――放出!」
キングヨークの両脇から、青い光が散乱し始める。これは、バスター砲使用時に生じる電磁波等様々な粒子を、受け止める為に大気中に散布した、マグニカルモーメントと呼ばれる電磁制御機能内蔵の分子ロボットである。つまりそれだけの高出力を持ったエネルギー砲であるコトを物語っているのだ。同時に、大気中での使用により、エネルギー弾道の、空間中の量子レベル歪曲を修正する機能も持っている。超龍姫のイレイザーヘッドに似た機能を備えているが、その性質上、全てのエネルギーを吸収するコトは出来ない。いわゆる防壁なのだが、その機能からむしろ巨大なバレルを造り出したと言った方が良いだろう。
「粒子加速器、出力94パーセント!」
琴音がそういうと、柳川の正面にホログラフで造り出されたTH四号・バスターフォーメーションが現れた。それが現れると、柳川はキングヨーク同様、両脇から抱え込むようにそれを掴まえた。無論、映像だが、メガ・フュージョン中の柳川は、触感制御によって実際に掴んでいるように感じていた。
「よし――照準、セット!」
柳川がそう言うと、柳川の顔の正面にホログラムの照準が出現した。
狙いは、海上でフラフラ浮遊しているエクストラヨークであった。
「海上封鎖確認――一撃で仕留めるぞっ!」
照準が、エクストラヨークの艦体を捉えた。狙われているのは一目瞭然だが、エクストラヨークが急速離脱する様子はない。撃破は確実に思えた。
「マグニカルモーメントによる自由電子レーザーと、チェレンコフ効果のフォトンウェーブ砲の重合二段攻撃――直撃したら一瞬にして艦体は消滅だっ!」
「……エネルギー充填、144パーセント」
芹香がキングヨークと四号のジェネレーターのエネルギーゲインを告げた。バスター砲の発射はこれで可能となった。
「いくぞ――――これで貴様らのくだらん野望はお終いだっ!」
柳川はトリガーに指をかけ、一気に引いた。
すると、四号戦術砲口は周囲の電子を引き寄せ、砲口の周囲に荷電粒子を対流させ始めた。しかし直ぐに、砲口の奥に膨大なエネルギーが満ち溢れると、最初に、マグニカルモーメントの電磁力によって得られた自由電子エネルギーによる超々出力レーザーが発信された。ぱっ、と光ったのは余剰エネルギーの放熱である。電磁力によって周波数を変化できる自由電子レーザーの直撃を受けたエクストラヨークが、着弾点から第一外部装甲が吹き飛ばされた。
だがこの破壊力が、レーザー照準システムと、電磁波による砲身冷却機能の付帯機能に過ぎないとは誰が思うか。追って発射される、光粒子(フォトン)の衝撃波がもたらす破壊力は、この自由電子レーザーのそれなど足元にも及ばないのである。光速度で発射される荷電粒子の衝撃波は、その凄まじい威力故に、砲身の原子運動をレーザー光線の光圧力で押さえ込まないと、発射時にTH四号の艦体も蒸発させてしまいかねないのだ。
「第2トリガー、接続っ!――フォトンウェーブ砲、発射ぁっ!」
柳川の絶叫とともに、フォトンウェーブ砲が火を、いや、荷電粒子が発光したのだから光を噴いた、と言うべきだろう。
直撃すれば、理論上、核をも上回る破壊力がエクストラヨークを見舞う。余剰エネルギーでエクストラヨークの真下にある海面もかなり蒸発する。東京湾上の船艇は、すでに2体のヨーク戦を恐れ、移動できる船は既に浦賀水道付近まで避難していた。直撃によって生じ拡散する電磁波は、放出したマグニカルモーメントが吸収し、不用意な散乱は押さえて、被害は最小限に食い止められるハズだった。
地上でそれを見守っていた英二と、少し離れたところでゲートの様子を伺っていた長瀬源三郎警視とその部下の警官数名は、突然、海上から噴き上がったそれが、人型をした物体であるコトに気付くのに少し時間がかかった。
そして、それが、マルマイマーと同じ形をした、色違いの姿をしているというコトにも。
「――プロテクト・シェーッィドッ!」
漆黒に染まったマルマイマーは、エクストラヨークに迫り来るフォトンウェーブの正面に入り、左腕を突き出して空間湾曲エネルギーを放出した。膨大なフォトンウェーブ・エネルギーは、その湾曲空間に取り込まれ、巨大なハート型のエネルギーチューブを生成した。
「何――マルマイマーだと?!」
柳川が、突然出現し、キングヨークからの攻撃を防御した黒いマルマイマーを見て動転した。
「――いけない」
動揺する芹香が珍しく声を荒げた。
「プロテクトシェードならば、あのフォトンウェーブがこちらに返ってきます!裕也さん!」
「――判っている!ジェイクォース!」
咄嗟に柳川は、TH四号を挟み込んでいる両腕を外し、正面で十字に組んだ。即座にブロウクンエネルギーとディバイディングエネルギーが収束し、巨大な光の鳥が出現した。
「間に合えッ!」
柳川は右腕を大きくしならせ、シンクロするキングヨークの右腕を振りかぶらせた。そして正面に振り下ろし、弾き返される寸前にあったフォトンウェーブめがけてジェイクォースを放った。
同時に、黒きマルマイマーは、ハート型のフォトンウェーブを押し戻し、キングヨーク目がけて弾き返した。
次の瞬間、凄まじいエネルギーの激突が東京湾上で拡がった。天王洲一帯の高層ビルの窓ガラスは衝撃波にことごとく粉砕され、工事中のプレハブ小屋は紙細工のように押し潰された。
「うわぁぁぁぁぁ――――あ?」
地上にいた長瀬警視たちは、とてもこの衝撃波に耐えられるハズもなかった。遠くでまだ避難していなかった長瀬警視たちを見つけた英二が慌てて駆け寄り、インドラパニッシャーを使った電磁防御壁によって全員無事だった。
衝撃波は暫く周囲を激しく振動させていたが、やがて収まると、長瀬警視はようやく顔を上げた。
「……えーと」
「駄目ですよ、とっとと避難しないと」
「これは失礼。いや、何か気になるので残っていたのだが、こんなコトになるとは……えーと、確か、貴方はあの緒方英二さんですよね」
「いかにも。今は色々あって、政府に協力しています」
「それは凄い。あ、私、昔、貴方の作られたORANGEってアルバム持ってます。いやぁ、あれは今も聞かせていただいております。凄いですよ、あれは」
「それはそれは」
何とも緊張感のない会話を続けながら、二人の視線は周囲を警戒していた。とりあえず、他で人的被害がなさそうなコトを確かめると、二人は申し合わせたように同時に安堵の息を吐いた。
「…………二艦とも健在ですね」
長瀬警視は、衝撃波の発生した向こう側で、キングヨークとエクストラヨークがまだ対峙しているコトに気付いた。
「――おや?」
「どうしました?」
長瀬警視が、エクストラヨークを見て、何かに気付いたらしい。英二が不思議そうに訊くと、長瀬警視は指した。
「あれ――誰かあの船に乗り込もうとしていますよ」
「え――あ」
英二はようやくそこで、エクストラヨークの甲板の上に小さく見えるその三人の人影が、ワイズマンと柏木初音、そしてどこかで見覚えのある着流し姿の男であるコトに気付いた。
「柏木初音さんですね――どういうコトですか?まさか人質……」
「いえ――やられました」
英二は残念そうに言った。
「…………リネットが覚醒してしまったようです。しかし――」
そう言って英二は、まだ滞空している黒きマルマイマーを見て嘆息した。
「……何者なんだ?まさかマルマイマーが寝返ったとか?」
「……それはないです。現在、マルマイマーはTH壱式で整備中です」
柳川の疑問に、芹香が答えた。
「では、マルマイマーと同性能の敵が現れたというのか――攻撃が跳ね返されては埒があかん、くそっ!」
「……それに、どうやら…………」
エクストラヨークは、先ほどとはうって違って、機敏な動きをするようになっていた。マルマイマーをどうにかしてもう一度フォトンウェーブ砲を使用しても、交わされてしまうだろう。
「千載一遇のチャンスを、よもやマルマイマーに防がれるとはな――くそっ!」」
エクストラヨークの艦橋にあるTHコネクター内には、月島瑠璃子が戻っていた。その生気の無い目は、またしても〈ザ・サート〉の精神調律が完了して操り人形と化してしまった証拠であった。
「とりあえず、目的は果たした。逃げるが勝ちですな」
〈ザ・サート〉は不敵な笑みを浮かべてみせると、艦橋の反対側でスクリーンを見ている柏木初音と並んで立っているワイズマンのほうを見た。
「……〈鬼姫〉リネット様。お待ちしておりましたよ」
「〈ザ・サート〉」
ワイズマンが訊いた。
「あの黒いマルマイマーは貴様の差し金か?」
「へ?」
〈ザ・サート〉はきょとんとなった。
「あれ、貴方が創ったんじゃないんですか?」
「俺ではない――」
「強い悪意を感じます」
今まで沈黙していた柏木初音が、スクリーンに映る黒きマルマイマーを見てそう評した。
「お、どうやらこちらへやってくるようです。――敵ではなさそうですね」
「良くは判らないが――話を聞いてみるか。あのマルマイマーを収艦確認後、大気圏外へ高速転艦!」
【……了解】
ワイズマンの指揮を受けた瑠璃子は頷き、黒きマルマイマーを艦内に確認した途端、一気に上昇した。
「――リネット」
「判っています、次郎衛門」
柏木初音――いや、今やリネットとなった彼女は、艦橋の正面に立った。すると床から3本の触手が伸び、リネットの両手首と首を巻き取った。
「……コネクト。――ESドライブ稼働、月の裏まで」
リネットはエクストラヨークの操艦中枢にアクセスし、今まで未使用だった主エンジンのESドライブエンジンを稼働させた。するとエクストラヨークは一瞬にして光と化し、一気に大気圏外まで飛んでいってしまった。
「……これは…………ESドライブ?!まさかっ?」
驚愕する柳川に、芹香はゆっくり頷いた。
「…………初音さんが、敵の手に落ちたのでしよう」
「くそっ――――!」
柳川は歯噛みして悔しがった。
「…………マルマイマーだと?」
ワイズマンは、艦橋にやってきた、黒いマルマイマーと対面し、その素性を訊いて戸惑った。
「そうだ」
鷹揚のない声をするマルチと言うべきか。冷淡な顔をする黒きマルマイマーは、リネットのほうをみると、にっ、と薄ら笑みを浮かべてみせた。
「……わたしは、マルマイマーそのもの。――――だからこそ、わたしは、もう一人のわたしを否定する」
「それで、我々に協力して下さるのですか?」
「利害は一致しているハズだ」
「ははは。なかなか頼もしい味方ではありませんか」
〈ザ・サート〉は本気で愉快がっているようである。人類の脅威と自負するこの男には、この不気味な存在ですら、怠惰な人生を刺激してくれる余興をもたらすものぐらいにしか感じていないのであろう。
ワイズマンはこの黒きマルマイマーを見て当惑していたが、このマルマイマーから感じる不気味な波動に、何かを感じ取ったのか、それ以上は口を挟まなかった。
「しかし、敵であるマルマイマーの名をそのまま使うのはどうにもしっくりこない。――どうです?いっそ、もっと格好良く、渋い名で決めるとか?」
「名などどうでも良い」
「いやいや、やはり名前はしっかりしておかないと。――そうですね、マルマイマー・シャドウ、何てのはどうです?」
「……好きにしろ」
黒きマルマイマーは呑気に笑う〈ザ・サート〉を置き去りにして、艦橋の奥にいる月島瑠璃子のほうへ歩いていった。
「なら、そう呼ばせていただきます。――ねー、ワイズマン、リネット?」
〈ザ・サート〉の軽さに、ワイズマンは呆れ気味に嘆息した。リネットは操艦に集中して聞いてもいなかった。
マルマイマー・シャドウは、THコネクター内に漂う月島瑠璃子を暫し見つめ、やがて不気味な笑みをこぼした。
「…………わたしが、貴女を救ってあげるよ。うふふ…………」
Bパート(その3)に続く