東鳩王マルマイマー第20話「終わり、そして始まり」(Aパート・その3) 投稿者:ARM 投稿日:8月14日(月)00時54分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「…………おかしい」

 ワイズマン=実父・賢治と、彼に連れ去られた初音を追っていた耕一は、いつまで経っても二人に追い付かないコトを不思議に思い始めた。

「……親父ばかりか、ルミラさんたちも追い付いてこないなんて――?!」

 そんな時、耕一は、通路の奥に人影を見つけ、慌てて止まった。

「誰だ――――いや――――お前は――――」

 耕一はその人影に心当たりがあった。直接的な面識はないが、しかし以前、来栖川姉妹の母親である京香に案内されて、私立西大寺女子大学医学部付属病院の地下室で、魂の抜け殻となった彼女を見ていたコトがあった。

「――月島瑠璃子?」

 耕一は、その半透明の、今やオゾムパルス体である瑠璃子を見つけ、咄嗟に身構えた。
 暫く様子を見ていた耕一だったが、次第に、瑠璃子の様子が少しおかしいコトに気付いた。
 うずくまって泣いているのだ。

「…………おにいちゃあん…………ゆうくん…………えっく……ひっく…………」

 まるで迷子になって途方に暮れ、泣きじゃくっている迷子のようであった。
 人類を脅かす、鬼界四天王の一人が、である。
 耕一は罠かと思い、警戒を解かなかったが、やがて、泣き怯える瑠璃子の様子が、演技とは思えなくなった。

「……月島……瑠璃子、か?」

 耕一は思わず呼びかけてしまった。どんな相手であれ、怯え弱っている者を放ってはおけない優しい性分が、耕一の警戒心を上回った。
 すると瑠璃子は、くしゃくしゃになった泣き顔を、呼びかけた耕一のほうへ向けた。

「…………柏木…………耕一…………さん?」

 耕一は驚いた。初対面のハズなのに、名前を知っていたのである。だが、ワイズマンが耕一の顔をして暗躍していたコトを考えると、知っていて当然なのであろう。

「…………助けて」
「え?」

 耕一は更に驚いた。瑠璃子が助けを求める理由が思い当たらないのだ。咄嗟に罠かと思い、耕一は一歩下がって更に警戒した。

「……クイーンJが――――私を――私を壊そうとするの!」
「――――」

 耕一は、京香から、瑠璃子がエクストラヨークに眠っていたクイーンJのエルクウ波動に浸食され乗っ取られる可能性を示唆されていた。つまり瑠璃子はそれを拒絶しているのだ。
 なんてコトだ、と耕一は呆れた。毒電波=オゾムパルスによって引き起こされた数々の災禍の源にあった瑠璃子たち鬼界四天王が目指していた〈鬼界昇華〉を、瑠璃子が否定しているのである。身勝手とも思った。
 だが、続いて瑠璃子が口にした言葉を聞いて、耕一は唖然となった。

「――お願い――――おにいちゃんとゆうくんを――二人の力で、私を――クイーンJに侵される前に、私を壊して!」
「――――――」
「…………驚いたようだね」

 唖然としていた耕一は、突然の第三者の声に驚き、声が聞こえた背後へ振り返った。
 そこには一人の男が立っていた。

「――――月島拓也――ミスタ?何故お前が?」
「柏木耕一――――後ろだ!」

 ミスタが慌てて耕一の背後を指した。え?、と耕一が振り返ろうとしたその時、耕一の全身に電撃が走り、通路の壁に弾き飛ばされてしまった。

「ぬおっ!」

 耕一の身体は、その凄まじい衝撃に通路の壁にめり込んでしまう。耕一はそのまま昏倒してしまった。

「……今は殺さない。柏木初音を押さえる切り札だからね、キミは」

 またもや声が。しかしそれは、ミスタのものではない。

「――どこにいる?!」

 ミスタは、壁にめり込んでいる耕一と、怯えているオゾムパルス体・瑠璃子以外見当たらないその通路を見回した。

「…………久しぶりだね、月島拓也」
「――誰だ?」

 ミスタは凄むが、姿無き声の主は、くくくっ、と忍び笑いしてみせた。

「……もっとも、我が輩と出会った時の記憶は消しているから憶えてはいまい――長瀬祐介はどうした?」
「祐介――――」

 拓也の顔が険しさを増した。

「――ほう、妹恋しさに、妹が愛する男を押さえつけているのか。長瀬祐介のほうがパワーが上だというのに。これも肉親の情が――キミがその情を上回る、第6の大罪・嫉妬の罪〈 ENVY 〉の能力者であったのは不幸の始まりだったな」
「――――」

 ミスタは戸惑った。

「――憶えているハズもないだろうから、教えておこう。我が輩が、君たち兄妹のオゾムパルサー素質を見抜き、その開花のために、妹を犯せと命じたのだ」
「――――」

 バチッ!

「――おや?」

 不可視の声は、ミスタの身体から生じた放電を見て、可笑しそうに言った。

「…………それは……本当のコトなのか?」
「……ほう。流石はあの〈七大罪〉を全滅に追い込んだ張本人。――真実を知って驚いたか?」

 ミスタの身体が小刻みに戦慄いていた。それは、本来の主である月島拓也の意志を凌駕して表に出ようとしている祐介の強い意志の現れであった。――怒りという名の意志の。

「――そうか、貴様――――生きていたのか?」
「〈七大罪〉は、異界の男が居たコトであの魔人たちをも敵に回すコトになり、その崇高なる目的は潰えたのは認めよう。――しかし、我が輩の理想は終わったワケではない」
「出てこい――――〈ザ・サート〉!」

 ミスタが絶叫すると、それに呼応するように、瑠璃子の居る通路の奥の闇が濃さを増した。

「そこか――――」

 ミスタは瑠璃子のほうを見た。
 奇妙な出で立ちの男であった。透き通るような長い銀髪を冠し、着込んでいる着流しの胸元をはだけて、厚い胸板を自慢げにみせながら不敵に笑う、美形の男。左胸の上あたりに、筆書きで大きく、悪、の一文字が書き込まれているのは何の冗談か。

「長瀬祐介。キミもなかなかしぶといよ。――流石は我が愛しのハニー。本来の肉体を取り戻していないのが何とももどかしいよ」
「黙れ――」

 ミスタは嫌悪感を露わにした。生理的嫌悪もあるのであろう。祐介はこの〈ザ・サート〉と呼ばれる男が、性差にこだわらない性癖を思い出していた。

「つれないなぁ……。これでもわが輩たちは一度は愛し合ったコトが――」
「人の自由を操ったヤツが何を言うか――このソドム野郎」
「おやおや、嫌われたものだ――でもね、我が輩は女性も好きだよ」

 〈ザ・サート〉はやり切れなさそうに肩を竦めると、両手を広げた。
 すると、今までうずくまっていたオゾムパルス体・瑠璃子の身体が持ち上がると、その身体が、〈ザ・サート〉の前で大の字に開いた。

「こんなふうに」

 そういって〈ザ・サート〉は、何とオゾムパルス体の瑠璃子を背後から抱きしめ、愛撫し始めたのである。

「い――嫌ぁっ!」
「怖がるコトはないんだよ、瑠璃子?――君は今、クイーンJとの融合によって、我が輩が施した精神調律が乱れてしまっただけなのだ。さぁ、4年前のあの時のように、また愛し合って我が輩の意のままになろうぞ」
「何…………何だとっ!?」

 絶叫するミスタの全身から、〈ザ・サート〉めがけて放電が走る。その放電は〈ザ・サート〉の足元にも落ちるが、〈ザ・サート〉は動揺もせず、瑠璃子の胸を揉みながらその首筋に舌を這わせていた。

「では――4年前の――――瑠璃子さんの暴走は――」


 豪雨の中、ロボット形態になっているエクストラヨークの艦橋の上あたりで、プラズマ浮遊をしている瑠璃子が居た。
 その澱んだ眼差しをみて、祐介たちには、瑠璃子が生気のない抜け殻のような印象を抱いていた。
 その理由を、祐介はようやく知ったのだ。
 そして、真実を。
 本当の敵は、目の前にいるのだ。


「――君もだ」
「な――――」

 にを、と続けようとした時、ミスタは突然見えない衝撃波を受けて、耕一のように通路の壁に激突した。

「――キミはエルクゥではないからパワーを押さえたが、しばらくは起きあがれないと思う。――我が輩にとって愛しの君の存在だが、それ以上に、瑠璃子を押さえる切り札でもある。死なせはしないよ」

 〈ザ・サート〉は、昏倒して床にうずくまる祐介を見て、にやり、と笑い、再び瑠璃子の愛撫に専念し始めた。

「おにい……ちゃぁん……………………ゆう……くぅん…………」

 瑠璃子は切なげな声を上げて、気絶している祐介に手を伸ばすが、やがて〈ザ・サート〉の全身から光を放ちながら伸びてきたオゾムパルスの触手が全身に浸透し始め、その意識は消えていった。


 祐介たちが〈ザ・サート〉に退けられた丁度その頃。
 MMMバリアリーフ基地の一角で、異変が起きていた。
 ワイズマンによって生み出された、コピーマルマイマー、コピー超龍姫そしてコピー霧風丸の残骸から、どす黒い煙のような光が立ち上り始めた。


 ぴくっ。

「?」
「……どうした、ゴルディ?」

 TH壱式のメンテナンスルームで、充電ケーブルが差し込まれたコトでようやくGツール形態を解除されたゴルディは、マルマイマーの右腕から外される瞬間、奇妙な反応を示し、作業を行っていた観月を驚かせた。

「……いや、な。……マルチ姉さんから、面妖な信号を受けたんや」
「信号?でも、今、マルチはスタンバイ中で寝ている状態にあるんだが……」
「夢、やろか?」
「夢?――――別にお前たちのAIなら、夢を見てもおかしくはない設計になっているが…………特にマルチは人間だからなぁ」
「……しかし、なぁ」
「?」

 観月は戸惑うゴルディアームの様子を訝しんだ。

「…………いや、おいらの間違いかもしれん」
「?何だよ、ゴルディ。お前らしくないな」
「ああ」

 そう言ったきり、ゴルディは黙り込んでしまった。
 言いたくもないし、言う気にもならなかった。
 マルチから受けた、ある感情のような信号。
 それは、殺意であった。


 瓦礫の中から、それは目覚めた。どす黒い油が伝い滴り落ちる姿は、異形の子宮から這い出てきた禍々しい赤子を想起させた。

 ああ――――ああ――――――

 喘ぎ声のようにも、泣き声にも聞こえた。まるでそれは、生まれ落ちたコトを呪い哀しんでいるかのように。
 かつて、人間が生まれ落ちた時、赤子が大声で泣くのは、生まれてしまったコトを後悔しているのだ、と言い表した者が居た。まさに彼女はそうなのかも知れない。
 油で紡がれたおびただしい黒い血を全身に滴らせ、残骸の上でへたり込んでいる影のような姿は、まさしくマルマイマーであった。撃退されたコピーマルマイマーの中に、まだ稼働可能なものが存在していたのであろうか。
 いや、違う。コピーマルマイマーはオリジナルと同じカラーリングであったが、このマルマイマーは全身が、髪の毛までもが黒色であった。決して油で染め変えされたものではない。
 そして、その身体を構成するパーツは、オリジナルとは異なっていた。肩部は超龍姫のそれと、そして両脚は、膝のドリルを除き霧風丸のそれと同じ形状をしていた。
 このマルマイマーは、残骸の中から足りないパーツを寄せ集めて作られたような姿をしていたのである。
 黒き少女は、暫し暗い天井を見つめていたが、やがてゆっくりと立ち上がり、何処かへと去っていった。


 逃亡者は、あと一息の所で、その進退を封じられていた。

「……そこまでよ、賢治おじさん――いや、ワイズマン」

 意識を失っている初音を抱えて、地上のゲートまで走ってきたワイズマン=柏木賢治は、外の光が遠くに見える所で待ちかまえていた――本当のところは、たまたま出くわしてしまっただけなのだが――オーガニック・ブースター、ラウドネスVVを抱えていた長岡志保と〈三賢者〉が一人、サラ・マクドゥガルが立ちはだかっていた。
 そして躊躇しているうちに、後ろからようやくルミラとエビル・イビルが追い付いて包囲したのである。

「〈神狩り〉が五人がかりとはな。――また、しーぼうに阻まれるとは、俺も運がない」
「柏木賢治――いや、ワイズマン。大人しく柏木初音を解放しなさい」

 志保はラウドネスVVの砲口をワイズマンに差し向けた。
 しかしワイズマンは、ふっ、と口元に笑みを浮かべ、

「――ソリタリーウェーブを、こんな狭い場所で使用したら、俺ばかりか初音もルミラさんも、いや、しー坊自身も分解されてしまうぞ」
「……ふん」

 志保は使用できないコトを既に承知していたが、砲口は下げられなかった。

「そのかわり、さ」

 淫靡な笑みを浮かべるサラが、一歩前に出た。

「あたしらが居る――ルミラ姉さんも、ね。もう一人、手強いのが外にいるし」

 エクストラヨークを幾度も撃墜させていた〈インドラパニッシャー〉を装備する『雷神』緒方英二は、ゲートの外で待機していた。自分の武器は狭い室内向きではないから、と言う理由からであった。

「ねえ、ルミラ姉さん」

 サラは、にぃ、と薄笑いして見せた。

「タマには――ね?」

 そう訊くサラだったが、別にルミラとは血縁関係など無い。単にサラはルミラを尊敬する人物として、ルミラを姉さん呼ばわりしているだけである。だが、サラのサディスティック性癖を知るルミラは、サラが何を訊いているのか直ぐに理解した。

「そうね――『影狩り』、久しぶりに見せて貰おう」
「あいよ」

 サラは嬉しそうに笑った。

「『影狩り』――――そうか」

         Aパート(その4)に続く