東鳩王マルマイマー第20話「終わり、そして始まり」(Aパート・その4) 投稿者:ARM 投稿日:8月14日(月)00時53分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「『影狩り』――――そうか」

 ワイズマンは、サラの二つ名に心当たりがあった。
 次の瞬間、サラの足元から伸びた奇怪な黒い影が、ワイズマンを左右に分断した。
 いや、分断されたのは、瞬時に生成したワイズマン=次郎衛門の愛刀、伽瑠羅の刀身であった。

「刀身を、まるで飴細工のように垂直に斬るか――――」

 ワイズマンは二つになった伽瑠羅と、左腕で抱えていた初音を床に置いた。だが直ぐにその手には新しい伽瑠羅が、しかも今度は左右の手に一本ずつ握り締められていた。

「一つも二つも同じコト――」

 もう一度、サラの足元から奇怪な黒い影が伸びた。
 ワイズマンは咄嗟に、二本の伽瑠羅を手前で交差させ、その影を受け止めた。
 しかし刀身は、交差を待たず、その鍔から綺麗に1センチ間隔でバラバラに切断されていた。

「我が抜刀を凌駕する速度――影を武器にするとは、『影狩り』とは怖ろしいものだな」
「光あるところに影がある。光と影は常に一対。――影は光の同等の速度で伸びると言うコトを、誰しも忘れがちなのよね」

 そう言ってサラは舌なめずりをした。まるで肉食獣が、獲物を前にしたかのような雰囲気であった。サラは欲情しているのであろう。

「――そして影は二次元のもの。たとえ聖剣であろうと、二次元の刃の前には及ぶコトはない。さぁ、覚悟しなさいよ」
「そうはいかん」

 いかな理屈で影を鞭のようなしなやかさを備えた至高の刀剣と化したか、サラの恐るべき秘術に、ワイズマンは再び伽瑠羅を手にし、青眼に構えた。

「――鬼神の剣は伊達ではない」
「ほざけっ!」

 サラは再び、影の刀をワイズマンに放った。今度の狙いは、ワイズマンの首であった。

「光に匹敵する速さ故に、哀しいかな太刀筋は最初の狙いしか制御出来ない。――だから」

 サラが影の刀を放つと同時に、ワイズマンは飛び出した。そして伽瑠羅を下げ、剣先を寝かせて水平に薙いだ。
 まさかその剣が、限りなくゼロに近い厚さの黒き刀身を上下に斬り分けるとは。
 ワイズマンの太刀は、光と同等の速度で飛来するサラの影の刀に、狂い無き平行をもって挑み、それと比較して圧倒的に厚いハズの刀身で影を斬り分けたのである。これにはサラばかりか、ルミラさえも瞠った。

「これが、エルクゥたちを圧倒した、次郎衛門の剣――――」

 絶対の自信があったサラだったが、それ故にショックも大きく、その場にへたり込んでしまった。

「油断大敵、ってヤツね」

 志保は直ぐに立ち直り、改めてワイズマンを狙ってラウドネスVVの砲口を向けた。

「言って置くけど、自滅は怖かないの。――ルミラさん、命令して!」

 そう、志保は、ルミラの命令があれば即座にソリタリーウェーブを発射する気なのだ。

「莫迦な――使えば、柏木初音の命は――」
「ようは、あなたたちの手に柏木初音が渡らなければ良いの。――どうなろうと、ね」

 ルミラは涼やかな顔で言った。
 ワイズマンはルミラの非情さを理解していたらしく、その返答には驚かなかったが、感心もしなかった。
 志保が即座にソリタリーウェーブ発射してしまえば、全てが水泡と化してしまうからである。迷う暇など無い。何としてもこの場を切り抜ける術を考えるコトが優先だった。

「――志保、行きなさい」

 ついにルミラは命令した。同時に、サラ、エビルそしてイビルが息を呑んだ。
 志保はいつの間にか冷淡な顔をしていた。自害に対するマインドセットが、死の恐怖を克服させているのだ。

「ソリタリーウェーブ――」
「させるかっ!」

 ワイズマンは伽瑠羅を蜻蛉に構え、志保めがけて突進する。薩摩示現流・一の太刀を想起させるその動きは、この絶対の危機において信を置く、ワイズマンか得意とするものなのであろう。しかし志保は動揺するコト無く、発射を始めようとしていた。

「――ファイアッ!」

 しかし間に合わなかった。志保はソリトン発生装置を起動させ、ワイズマンめがけてソリタリーウェーブを発信した。
 ――ハズだった。
 その突然のコトに、ワイズマンは咄嗟に飛び退き、志保の正面に生じた奇怪な光球を唖然とした顔で見つめていた。

「――――ソリタリーウェーブが――停止している?!」
「これは――――空間湾曲だっ!」

 サラは、志保のソリタリーウェーブを封じた奇怪な光球の正体を見抜いた。

「空間の垂直面に量子励起を引き起こし、衝撃波を包み込んでいる――――こんなコトが出来るのは、マルマイマーのディバイディングエネルギーぐらいしか」
「いや――」

 ルミラはゆっくりと頭を横に振った。
 ルミラの視線は、ワイズマンの足元で俯せになっている初音に注がれていた。
 その初音が、ゆっくりと身を起こした。

「初音、目が覚め――――?!」

 イビルは嬉しそうな顔をしたが、しかし直ぐにその顔は硬直した。

「…………誰?」

 エビルが、不安げな顔で訊いた。

「まさか――――」

 ルミラは、初音の異変に気付いた。

「――まさか――まさか――」
「――――妾の次郎衛門を苦しめているのはお主らか?」

 初音は、妙に時代がかった言い回しで訊いた。まるで別人である。

「――違う。これは、初音ではない――――あの女だ」

 ぎりっ。ルミラは溜まらず歯噛みした。

「いつの間に……」
「……何が、いったい――うわっ!?」

 志保が戸惑うと、突然正面の光球が破裂し、志保を尻餅させた。

「あー、びっくりした(汗)。封じられているうちに周波数帯が変化していなきゃ、あたしが粉々になってたわよ!――でもこれって、まさか?!」

 唖然とする志保も、立ち上がった初音のほうを見た。

「その昔――星々を渉る方舟を、その意志によって操る力を持った女が居た。その女は、希有な才をもつ姉に、我々が知るTHライドの原型を生み出させるモデルを思いつかせた――生体THライドでもあった」

 ルミラは、初音から覚える、奇怪なプレッシャーに圧倒されかけながらも、話を続けた。

「その女は、全滅の憂き目にあった鬼神の中で唯一生き残り、人と交わるコトで生き長らえた――鬼神の末裔、柏木一族の祖でもある」
「その名は、リネット。――方舟の巫女」

 サラがその名を口にすると、志保たちは息を呑んだ。
 そう、今目の前にいる柏木初音は、柏木初音に非ず。
 ――鬼神の一人、リネットであった。

「どうして――覚醒を――――いや」

 ルミラは、今までの経緯を思い出し、一人納得した。
 そう、ワイズマンは、初音を誘拐し、初音に自らの正体を始めとする衝撃的な事実を突き付けて、精神的に追い詰め、衰弱させていたではないか。
 そして、ワイズマンの危機に呼応して、今まで初音の中で眠っていたリネットが覚醒したのである。

「かつては、初音の意識が強すぎて失敗したが――今度は待たせて貰った分、多くのものが初音の自我を封じる要素となった」

 ワイズマンは、待ち望んでいた結果に嬉々としていた。

「――リネットよ!よくぞ目覚めた!」

 ワイズマンが呼びかけた。すると初音、いやリネットはワイズマンのほうへ振り向き、

「…………次郎衛門。歳を召されたな」
「これは転生後の身故だ。それとももう少し若い身体のほうがよいか?」

 笑って訊くリネットに、ワイズマンは苦笑して答えた。

「マズイ…………このままでは――エクストラヨークが完全体に!」
「――それこそ、我が望み」

 突然背後から聞こえたその声に、ルミラたちは慌てて振り返った。

「久しぶりだな、ルミラ師匠」

 次第に驚愕するルミラたちの前で、〈ザ・サート〉は、そう訊いて不敵に笑ってみせた。

(Aパート終了:マルマイマー・シャドウの映像とスペック表が出る。Bパートへつづく)

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