ToHeart if.『矢島の事情 〜 告白 〜 』第21話 投稿者:ARM 投稿日:8月7日(月)17時16分
○この創作小説はPC版『ToHeart』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しています。また、今回は「性描写」がありますのでご注意。
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【承前】

 由那が、矢島に「女のクセに」と叱られ、頭を丸刈りにしたコトがあった。
 矢島は、スポーツ刈りみたいな頭をする由那を見て、始めは呆れたが、しかし次第に胸が痛み出していた。
 小学生というあまり性差が感じられない頃とは言え、女の子が丸刈り姿は、子供ながらの残酷心は嘲笑をもたらすであろうが、しかし矢島にとっては長いつき合いの女の子のそのとんでもない姿は非常にショッキングであった。
 そして、そんな些細な一言が、由那をここまで追い詰めてしまったコトに、矢島は深く後悔した。髪を切る前、由那は矢島のの家の前で町内に響き渡るくらいの大声で泣きながら謝っていたのだが、その時に許してあげれば――無論、由那が全面的に悪かったワケではなかったのだが、そんなコトにはならなかっただろう。

 だが、今、矢島がついに口にした一言に、矢島に頭を抱きしめられたままの由那が、火が点いたように大泣きする理由は、それとは趣が異なっているものであった。
 恐らくは、待ちわびていた一言を告げられ、気が抜けてしまったためであろう。今まで我慢していた想いが堰を切ってあふれ、嬉し涙となって由那のまなじりから止めどなく溢れ出ていた。
 結局、由那が泣き止んだのは20分後であった。その間、矢島は周囲の客や通行人たちから奇異と白い視線を矢継ぎ早に浴びせられていたが、矢島自身も、どこか心の中で支えていたその一言を、ようやく口に出来た想いが一杯で、あまり気にしていなかった。矢島は由那が落ち着き出すと、家に帰ろう、と言い、由那は頷いた。

 駅を降り、家路につく矢島と由那は、並んで歩いていたが、きっかけを見出せないのか、二人して黙り込んだままだった。
 やがて、学校と家への道に分かれる十字路に差し掛かった時、ようやく由那が口を開いた。

「……手、繋いでいい?」
「…………」

 いきなりだったし、少し気恥ずかしさも働いていたのも事実で、矢島は直ぐには応えられなかった。
 そのうち、あるコトに気付いた矢島は、少し俯いている由那の顔を覗き込んだ。

「……何か顔色悪いな。大丈夫か?」
「う、うん」

 頷く由那だったが、顔が少し赤くなった気がした。
 矢島は仰ぎ、ようやく、ああ、と応えた。
 由那は矢島の右手をとった。矢島は由那が自分の右手を掴むのを確認すると、その手を引くように歩き出した。
 その瞬間、矢島は、デジャ・ヴューに見舞われた。

(…………そういや昔、同じようなコトが…………あ)

 それは、由那が小学校に入学したばかりの頃、両親と些細な理由で喧嘩して家を飛び出した時のコトだった。
 その時は、近くの公園のブランコに、半べそを掻いて座っていた姿を、偶然、父親を迎えに行っていた矢島が見つけ、何とか由那をなだめすかせて帰宅させたのだが、その時も、こんなふうに由那は矢島の右手をとり、矢島に引っ張られるように歩いていた。
 由那はそのコトを思い出して矢島の手を取ったかどうかは判らなかった。ただの偶然なのかも知れないし、矢島が忘れた由那との想い出の中に、その件よりも今日の出来事に近いコトがあって、その想いに突き動かされただけなのかも知れない。
 どっちにしろ、今は今であった。矢島はぎゅっ、と掴んでくる由那の手を、それとなく力を込めて握り返して応えた。
 少しの間だけ、二人には、懐かしい時間が流れていた。

 やがて、由那と矢島は自宅の前に着いた。

「……あれ?寿ん家、灯りがついていないけど?」
「長男さしおいて、女衆は新宿で焼き肉食べ放題だと」
「……?何で寿は行かなかったの?」
「食欲がなかっただけさ――――」

 そう答えた瞬間、狙い澄ましたように矢島の腹の虫が豪快に鳴った。それを聞いた由那は、矢島の右手を掴んだまま、思わず吹き出した。

「笑うなよ」
「だ、だって……」

 由那は必死に笑いを堪えようとしていた。どうして矢島が、家族と一緒に焼き肉を食いに行かず、隣町の、由那が知っているバスケットコートにずうっといたのか。それを思うと流石に笑うワケにはいかなかったのだが、しかし由那はこの手のシチュエーションには弱かった。

「ちぇ。……さーて、俺は一晩寝かせたカレー(ごちそう)を喰いますか」
「カレー?晩飯あるんだ」
「?そーいや、由那んトコはおばさんたち、用意してくれているんだろう?」
「ううん。急いでいたから。タマには自炊しようかと――そうだ、ねぇ、寿」

 由那は矢島の手を離し、両手を、ポン、と叩いた。

「うちで一緒に食べようよ、カレー。ボクがごはんや他の料理を用意するから」
「料理……?」
「……なんだよ、その不審の眼差しは?」

 さっきまで矢島に甘えていた顔は何処へやら、由那はむっとして矢島を睨んだ。

「――神岸さんには及ばないだろうけど、それでもボクだって料理ぐらい作れるさ!時々、おかあちゃんに代わって夕食作ったりしているんだぞ!」
「そ、そう?――悪い」

 苦笑して詫びる矢島を見て、由那は、もぅ、とふくれっ面になった。


 程なく、矢島はカレーが入った鍋を持って、平光家の玄関を潜っていった。
 台所に顔を出すと、制服の上にエプロンを着ていた由那は、コップの水で薬を飲んでいた。

「何だよ、風邪か?」
「……似たようなモン――あー、これこれ!おばさんのリンゴ汁絞ってチーズを隠し味に加えたカレーだよね!」

 ガスコンロ台に乗せられた、その鍋を指して、由那は嬉しそうに言った。

「何だよ、良く知っているな」
「昔は良くご馳走になったじゃないか」
「あれ、そうだっけ?」
「これねー、ボクもカレー作る時に思い出して作って見るんだけど、なかなか同じ味にならなくってねー――うわっ、これ、ニンニクだろ?」

 由那は手に持つおたまで鍋の中を注意深くかき混ぜ、茶色が染みている半月形の野菜を見つけて驚嘆した。

「ああ。風味と辛みを少し増す為らしいけど」
「……そうそう、これこれ!そうなんだ、何かが足んないと思っていたんだ……そっかぁ、ニンニクかぁ。よし、今度作ってみるから味見してくんない?」
「あ、ああ。……つーかお袋と同じ味作られてもあんまし珍しみがない、つーか」
「はは、それもそうか。なら、プラスアルファ考えてみる。――カレーだから、サラダとスープあったほうがいいか」
「?」
「今夜の、だよ」
「あ――ああ、そうだな」
「それと、――そうだ、この間みんなと食べに行ったカレー屋でさ、揚げタマネギのトッピングが着いてて、それがまた香ばしかったんだぁ。確か、好き嫌い無かったよな?」
「……ああ、OKだ」
「そう?――なら、ちょっと待ってて」

 由那はコンロに火を点け、弱火でカレーの入った鍋を温め始めた。
 鼻歌混じりで料理を始める由那を見て、矢島はちょっと驚いて呆然となった。不断はがさつに見えるのに、家事をしている姿は堂に入っていた。予想外だったが、どうやら本当に夕食を作っているようであった。
 矢島は口出しせず、キッチンのテーブルの前で大人しく黙って座り、料理している由那の後ろ姿を見守っていた。
 少し室温が上がったところで、由那の料理は終わった。テーブルに出されたカレーの上には由那オススメの飴色になった揚げタマネギが振りかけられ、ライスもバターで少し炒められていた。そして、トマトとレタスとハムを自家製ドレッシングで和えたサラダと、残っていたフランスパンを刻んで、タマネギと一緒に軽く揚げて作ったクルトンを乗せたコンソメスープ、最後の一品は、砂糖で少し甘みをつけたスクランブルエッグだった。

「ほら、うち、おとうちゃんが辛党でさ、カレー作る時は福神漬けやラッキョウよりこれ使ってンだ。卵だとマイルドになるし」

 由那はそう言ってカレーにスクランブルエッグを乗せた。

「それと」

 由那はおもむろに持ち上げたウスターソースを、揚げタマネギとスクランブルエッグが乗っているカレーの上にダボダボとかけ始めた。

「……思い出した」
「?」
「俺、それがどーしても子供の頃から許せなかったんだ」

 そう言って矢島は、ソースを皿からあふれるばかりに掛ける由那を睨んだ。

「そーゆう寿だって」

 そう言って由那は、醤油を皿からあふれるばかりに掛ける矢島を睨んだ。

「カレーにはソースだよ」
「いーや、醤油だ」

 二人してそう言い張り、暫し睨み合う。
 1分も立たず、同時に破顔した。

「そういや、由那、昔おじさんたちと喧嘩して家飛び出したコトあったよな?――確かアレも」
「……悪かったね。……まったく、なんで二人とも醤油党なのか、まだ納得できないよ、ボク」


 それから30分ほど、由那と矢島は昔話に花を咲かせながら夕げを摂り、後かたづけに入った。後かたづけで矢島は、持ち込んだ鍋を由那の右横に並んで洗っていた。

「一晩寝かすのは良いんだけど、こびり付くのが難点でねぇ…………?」

 ふと矢島は、横目で自分を見つめている由那に気付いた。

「何?」
「……なぁ、寿――――お前、本当に良いのか?」
「何が?」
「――就職だよ」
「…………」

 矢島は慌てて視線を鍋に戻した。
 そんな矢島に、さっきまで陽気だった由那は唇を噛んで当惑した。

「――進学すればバスケだって」
「無理ゆうなよ……」
「でも!」
「だって、さぁ」

 矢島は鍋の汚れと格闘しながら答えた。

「……俺はそれでも悪くないと思っているんだ。後だろうが来年だろうが、結局就職して家族支えるコトになっていただろうし、――それに、何年か経てば、支えてやらなきゃいけない家族が増えそうだし」

 矢島は由那と目を合わせずに答えた。後半はぼそりと、気恥ずかしそうに小声で呟いていたので、由那には良く聞き取れていなかった。聞こえないように言ったのだから当然ではあるが。
 だが、そう答えてから矢島はようやく由那のほうを向いた。

「――そんなに俺、頼りないように見えるか?」
「へ?」
「だって――俺の就職のコトで来栖川さんと勝負したりするから」
「あ…………」

 すっかり忘れていたが、由那は、矢島があの時怒った理由は、そうだろうというコトを思い出した。もしあの時の勝負が矢島の就職を賭けたものだと知られたら、矢島はきっと怒るだろうと思って黙っていたのだ。結局、綾香が話してしまった為に矢島が怒り、そのコトを謝ろうと、由那は2時間も町内を探し回ったのだ。

「――そ、そんなコト無いよ!寿は頭良いし、しっかりしているし――」
「でも、お前は――」
「――ごめんなさい!」

 由那は矢島の言葉を遮るように、大声で言って頭を下げた。突然のコトに、矢島は一瞬怯んだ。

「……ごめん」

 由那はもう一度謝った。

「…………そのコト、謝るのを忘れてた。……謝りたくって寿を探してたんだ」
「……いいよ、それは」

 また矢島は鍋を洗い始めた。

「……それに、そのコトで怒ったんじゃねーし」
「……え?」

 不安げな顔できょとんとする由那は、鍋を洗う矢島の横顔を見つめた。

「……俺が怒ったのは…………お前にそんなに頼りないように思われている俺に腹が立ったんだから」
「――――」

 由那は驚いたが、納得できた。昔からそう言う男だったのだ。そう思うと由那は、自然に笑みをこぼした。

「……なんだよ、笑いやがって」
「ううん」

 由那は嬉しそうに矢島の左腕に抱きついた。

「やっぱり、寿は頼りがいあるよ。カッコイイよ」
「…………」

 矢島は少し顔を赤らめ、由那を左腕に抱きつけたまま、汚れを落とした鍋をすすいだ。
 恥ずかしがっている矢島を見て、由那は、にっ、と笑った。

「……何か、さ」
「?」
「二人して並んで台所仕事しているの、って新婚家庭みたいだね」
「みたい、って見たコトあるのかお前(笑)」
「気分だよ、気分――」

 そう答える由那の顔は、少し赤くなっていた。
 そして、抱きついている矢島の左腕を、もっと強く抱きしめた。
 沈黙。
 気まずい、静寂。
 由那は熱っぽい顔で矢島の顔を見つめていた。
 由那に見つめられている矢島は、少し戸惑った。
 高鳴る鼓動。
 そして、二人して申し合わせたように顔を近づけ、ゆっくりと唇を重ねた。
 静寂。
 初めての口づけ。カレーのスパイス臭い、ファーストキス。
 矢島は由那とのキスに興奮していた。ゆっくりと舌を入れると由那はびくっ、と身体を震わせたが、直ぐに受け入れ、矢島の左腕から手を離してその胴にまわして抱きつき、入り込んできた舌に自分の舌を絡ませた。
 まずい、と矢島は思った。――押さえきれないと。
 そんな理性に反して、矢島は由那のエプロンと制服の間に左手を滑り込ませた。
 ビクッ、と由那はまた震えた。しかし抵抗する様子はなかった。矢島は、由那のふくよかな胸を制服の上から揉み始めた。
 がたんっ。由那の背中を流し台に押し当てるような姿勢で、矢島は由那と濃厚なキスを続けながら由那の胸を揉み続けた。やがてその手を離し、由那の腰の後ろに廻すと、蝶々結びで止めていたひもを解いてエプロンを外した。エプロンが床に落ちると、矢島は手を上げて制服の中に滑り込ませ、直に由那の胸に触れた。
 由那の胸が大きいコトを、矢島は知っていた。休日、Tシャツ一枚でくつろいでいる由那が自分の部屋から矢島の部屋を覗き込んでくるコトがあったが、決まってからかう言葉よりも、他の子より妙に胸が張っているその姿のほうが印象的だった。
 しかし実際触れてみて、矢島は、これほどか、と正直驚いた。
 その目で見たかった。矢島はキスを止めると、おもむろに由那の制服を引き上げ、ブラジャーで押さえつけている由那の豊かな乳房を露わにした。

「……すげえ」
「ば、ばか――」

 由那は顔を真っ赤にして小声で怒鳴るが、矢島は躊躇わず由那の胸に顔を埋めた。そしてブラジャーも上に引き剥がすと、ボリュームのある、きめ細やかな肌で包まれた綺麗な乳房を露わにした。興奮のあまり、その乳首は既に勃起していた。矢島は左手で左乳房を揉み始め、右の乳房を荒々しく舐め始めた。

「――――は――ぁっ、あっ!」

 涙目の由那はこれ以上は耐えられないか、矢島の身体を両手で押し戻そうとした。その動きに矢島はようやく我に返り、がぱっ、と身体を引き剥がした。

「――ご、ごめん!お、俺、調子に乗って――?」

 矢島は狼狽して謝るが、しかし由那は首を横に振った。

「……違……う、の……」

 由那は息も絶え絶えに言い、

「…………ボクの…………部屋…………で」

 ぶるぶる震えている由那は、もうその場に立っていられない状態で、その場にへたり込んでしまった。


 矢島は、由那の部屋に入ったのは何年ぶりだろう、と思った。室内はもう少し女らしいかと思ったが、あのさばさばした両親の血を引いているだけあって、小綺麗にまとまっていた。
 そして、小学生の頃からずうっと使っている学習机の上には、いつの間に撮ったのであろうか、昨年の全国大会で活躍しているときの矢島の写真が写真立ての中に収められていた。
 その直ぐ横にあるベットの上で、矢島は横たわっている由那の制服を脱がせながら、胸を中心に拙い愛撫を続けていた。胸が大きい女性は胸が一番感じやすい、と言う話があるが、由那はまさにそうだったらしい。想いを寄せていた矢島に胸を触れられているだけで由那は胸が高鳴り興奮が収まらずにいた。
 やがて矢島に服を脱がされ、矢島自身も服を脱ぐと、由那はもう何も考えられなくなった。
 二人とも初めての経験だが、矢島はそれなりに知識があったらしい。しかしいざ、矢島が身体を下げてクンニを始めると、由那は酷く慌てた。

「だ、駄目だよ、今、汚――はぁ、あっ!」

 矢島は気にせず、茂みに顔を沈めた。陰部に滲む汗と愛液が混じった、妙にピンク色かかった体液が、矢島の鼻の頭を濡らしていた。
 由那は切ない声を呼吸に合わせて上げていた。腰の辺りがビリビリと痺れ、感覚もないのに、脊髄を通じて、由那の理性を酷く狂わせていた。
 やがて、矢島が勃起したクリトリスの先を吸うように加えた瞬間、由那は溜まらず大声を上げた。これには矢島も驚き、顔を離して起き上がると、由那は両手で真っ赤になっている顔を覆い隠していた。

「…………やだ…………駄目…………変にな……る――――」

 由那は消え入りそうな声で切なげに訴えるが、逆にそれが矢島を刺激した。矢島は再び顔を沈め、クリトリスを音を立てて吸い出した。

「か――はっ、――あ――や――――ああっ、――――あ゛あ゛っ゛!!」

 由那は声を上げて喘いだ。矢島はお構いなしだった。
 そのうち矢島は、怒張する自分のものに鈍い刺激を感じた。自分もヤバイかも知れない、そう思った。

「…………由那、いいか?」

 一線を越えたいとする矢島の言葉に、由那は逆らう理由はなかった。由那も矢島が欲しかった。
 ゆっくりと身を起こし、腰を由那の両脚に割って入ると、矢島は先ほどまじまじと見て確かめた部位に、怒張するモノの先端を当てた。
 大丈夫だ。――矢島は一気に突き入れた。
 びちっ。

「ひぎっ――」

 由那は痛みの余り顔をしかめる。しかし、後から来た、じんじんと痺れるような鈍い刺激が、矢島のモノが深々と侵入しているコトを示していると気付くと、由那は涙を流しながら笑った。

「やったぁ……!」
「……やったぁ、って(笑)、お前、痛くないのか?」
「……痛くないわけないだろう!初めてだし、さっきからアレだし……」

 顔をつきあわせて訊く矢島に、由那はにらみ返したが、直ぐに微笑んだ。

「……でも、ね」
「?」
「……これで寿のモノになったんだなぁ」
「………………」
「……もう、寿のコトを追いかけなくて良いんだなぁ、って……って思ったら……“あたし”、ほっと……」

 微笑む由那の頬を、涙が伝い落ちる。
 矢島とひとつになれた。これで、想いが通じた。遠慮も何も要らなくなったのだ。
 それが由那には溜まらなく嬉しく、長年自分を縛り怯えさせていた不安を払拭させて安堵をもたらしたのだ。
 矢島はそんな由那がとても愛おしかった。矢島はその涙をキスで吸うと、また由那と唇を重ねた。

 正直、爆発しそうだった。先ほどから、矢島の動きに合わせて切なげに喘ぐ由那の声だけが、室内に単調に聞こえ、気が緩むとそのまま達してしまいそうだった。
 先ほどから、矢島の脳裏を、初美の失敗が過ぎる。
 避妊具もつけず、由那との行為に没頭している自分に、矢島は戸惑っていた。いつもの自分じゃない。快楽に理性が負けつつあった。いや、もう負けているのかも知れない。
 ついに、脊髄にビリビリと電気が走った。途端に矢島は腰の動きを止めた。

「……つ…………ヤベ、出そう…………だ」

 矢島は慌てて引き抜こうとするが、ちょっとでも刺激があると一気に射精しそうな状態にあった。
 由那は未熟な快感に溺れていたが、矢島の言葉に我に返った。

「…………いい……よ」
「……え?」
「このまま……イって……」
「で……でも……うぐ」

 もう爆発寸前だった。

「いい――の――い――――イって!寿っ!」
「く――ゥ、おっ!」

 切なげに泣く由那の顔を間近にみた矢島は、もうどうなっても良いと思い、今まで以上に激しく腰を振った。

「「あ――は――ひぎ――――――あふ、あっ!――――――――はぁっ!」」

 快楽に逆らうコトを止めた二人は、激しくぶつかり合った。
 そして。

「――――――――――ぎ!」
「ひ――あ――――ああっ!」

 矢島は一番深いところで爆ぜた。好きな女の中で弾ける。最高の気分だった。
 由那は腹の奥でねっとりと拡がる熱い感覚に、脊髄から痺れた。愛する男の全てを受け止めて、快感の有無に関係なく最高の気分だった。
 全部吐き出した矢島はそのまま力尽き、由那の胸の上に倒れ込んだ。由那は最後の快感に呼吸もままならなかったようだが、やがて矢島を胸に乗せたまま、深呼吸を繰り返し始めた。

「……由那……」
「寿…………」

 由那は嬉しそうな顔で矢島にキスした。

「……悪ぃ…………中でやっちった…………でも、もし出来ても、ちゃんと――」
「……大丈夫だよ」
「……え?」

 不安げな顔をする矢島に、由那は舌を出して苦笑した。

「……つーか、さ。さっき、帰ってくる途中で“始まっちゃって”」
「…………は?」
「どーせ痛いのなら、この際丁度良いかなぁ、とか思ってさ――でも痛いの変わンないし」

 由那は照れくさそうに答えた。矢島はそこで、帰るときに由那が具合悪そうに見えたコトを思い出し、理由をようやく理解した。女家族の中で暮らしている以上、その意味は矢島も知っていた。

「…………おめー(怒)どーりで変にあすこから出てくる汁が赤っぽいと思ったんだ」
「ああん、怒んないで、怒んないで(笑)だから汚い、っていったじゃん……あたし、出血少ない体質だから気付かなかったかもしれないけど、――黙っていたのは悪いと思ったよ。だけど――――あ」

 由那はに、萎み掛けていた矢島のモノが、また膨れ上がって来たコトに気付いた。

「……エッチ」
「人、からかった罰だ――いいか?」
「…………うん」

 由那が恥ずかしげに頷くと、矢島は由那に口づけしてまた由那に溺れていった。

       第22話へ つづく

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