【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM【承前】
――ぞくり。
「――――?!」
離岸寸前であったTH参式の艦橋にいたミスタは、突然凄まじい悪寒に見舞われた。
「…………これは…………ま――――まさか」
するとミスタはTH参式の離岸作業を慌てて中止し、スクリーンをすべて、回復したばかりのバリアリーフ基地内のセキュリティ・アナライザー画面に切り替えた。
「――そんなハズはない――敵はもう殆ど殲滅出来たハズ――――――――!」
突然、ミスタはコンソールパネルを操作する手を止めた。硬直したと言っていいだろう。
「…………いや………………そうだ………………あいつなら……………………自らのオゾムパルスを“無かったコト”に出来る――――――」
そう言うと、ミスタはメインオーダールームに通信を入れた。
『――何、ミスタ?参式の出撃は――』
「長官!」
応答してきた綾香に、ミスタは怒鳴り声で訊いた。
「――――バリアリーフ基地内に、ランクSAエマージェンシーの発動をするんだっ!」
『……へ?』
綾香は、何故ミスタがこんなに狼狽えているのか判らなかった。
「敵だ!」
『敵――』
思いもかけない報告に、綾香は声を無くした。
『敵、って、まさかワイズマンとやらが?』
「違う!」
『……ちょっとちょっと、何をそんなに……』
「エルクゥどころの騒ぎではない――――ヤツが侵入しているんだ!〈七大罪〉の――」
そこまで言った途端、突然ミスタは立ち上がった。
『ミスタ?どうしたの、何よ、ななたいざい、って――』
「――――瑠璃子が」
そう答えたミスタは仮面を外し、青ざめて焦燥する月島拓也の顔を露わにした。
「瑠璃子が、呼んでいる」
『ミスタ?!どうしたの、ミスタ?!』
綾香はミスタに応答を求めたが、ミスタは既にTH参式の艦橋から姿を消していた。
「――気になる」
そう言って、泣きつかれてぐったりとしている、ゴルディアームを装着したままのマルマイマーを抱き抱えて通路を進んでいた撃獣姫は、直ぐ横に並んで、昏睡している柏木楓を抱き抱えている霧風丸のほうを見た。
「いや、彼女は意識がない――」
「違うの。――何か、得体の知れない気配がします」
「気配――」
ロボットの癖に気配が分かるのか、と言おうとしたその時、霧風丸も理解出来ない感覚に見舞われた。撃獣姫が感じたというのはどうやらこれらしい。
「これは――私たちのTHライドに直接影響を及ぼしている――」
「オゾムパルス、それも、今までに感じたことのない強力な反応です」
そう言うと撃獣姫は、辺りを警戒するようにぐるりと見回した。霧風丸はフォロンにアクセスを試みていたが、まだこのブロックの通信状態が回復していないらしく、仕方なく視覚センサーで周囲をチェックした。
「わたしのセンサーでは、微細な測定は難しいのですが、やはりこの濃度は異常です。霧風丸、あなたのセンサーではどうですか?」
「……オゾムパルス濃度が高いのは、これまでの戦闘によるものと思われますが…………でも」
「でも?」
「……異様に強大なオゾムパルスは過去にも観測したコトがあります。――月島瑠璃子と対峙した時です」
「月島――」
撃獣姫は直接対峙したコトはなかったが、その名前はライブラリーから直ぐに見つけるコトが出来た。現在、オゾムパルス体となっている月島瑠璃子は、ミスタの分析でエクストラヨークの中枢にいるらしい。そしてあの巨大な悪魔をコントロールしているというのだ。
しかしその彼女がこの基地内にいるというのならば、現在、エクストラヨークは機能していないハズである。だが現在、海上では柳川裕也と特戦隊の操舵によるキングヨークと交戦している情報は、二人とも既に受けていた。
「あるいは、月島瑠璃子以外に、これほどのパワーを持つオゾムパルサーが存在しているのかも」
「……となると」
「何、霧風丸?心当たりでも?」
「あるとしたら、オゾムパルスブースターが他にも居る可能性があります」
「EIナンバー――?!」
撃獣姫は、はっ、とした。
「そういえば、鬼界四天王にはあと一人、鬼女が居たハズです!」
「……アズエル姉さまですね」
霧風丸は、アズエルのコトを思い出した時、うっかりエディフェルのパーソナルで応えてしまった。そんな霧風丸に、撃獣姫は戸惑った。
「……失礼。安心して下さい。わたしはあくまでも霧風丸。THライドの中にエディフェルという鬼女のオゾムパルスを収めていますが、――ただの機械人形です」
「…………」
撃獣姫は、どこかもの悲しげにそう応える霧風丸を見て、痛ましく感じた。そう割り切らなければ自分が保たないと思っているのであろうか。かけてやれる言葉すら思い浮かばす、ただ黙るしかなかった。
「そのアズエルですが――」
「ここだ」
突然、通路の前方から、何者かが応える声があり、撃獣姫と霧風丸は驚いた。
だが直ぐに、識別反応でそれが超龍姫であると判り安心するのだが、しかし視界に捉えた、その見覚えのない容貌に、二人とも唖然となった。
そして何より、その直ぐ隣を一緒に歩くアズエルを見て、二人とも咄嗟に身構えた。
「待って二人とも。――色々あったんだ」
「色々とは――鬼女に気安く声をかけられる筋合いは……」
「あー、だから、もう」
アズエル、いや、死闘の末に自らの肉体を取り戻し生還した柏木梓は、警戒を解かない二人を見て、呆れたふうに仰いだ。
その仕草を見て、最初に警戒を解いたのは霧風丸であった。
「霧風丸……」
「……あの鬼女から、懐かしい感じがする――――まさか」
霧風丸は、抱いている柏木楓の寝顔に一瞥をくれた。
「…………まさか、柏木梓か?」
「さっきまでアルトだったけどね」
梓は苦笑してみせた。
「?霧風丸、何が判ったのか?」
「雰囲気だ」
「?」
「あの女性は…………アルトに似ている」
そう言って霧風丸は自分のマスクを開き、うっすらと笑みをこぼした。
「似ている?わたしにはさっぱりなのだが……それに」
「?」
「機械にも、雰囲気が判るのか?」
「――――」
訊かれて、霧風丸は黙った。
無論、それは撃獣姫が遠回しに、「霧風丸、あなたは決して機械仕掛けの人形ではない」と言う意味合いを込めていた皮肉であった。無論、嫌味からではないコトは、霧風丸も判っていた。もう割り切ったハズで、そこに拘る必要など無いのは判っているが、どうしても拘ってしまう、哀しい自分の性分を霧風丸は少し嘆いた。
「でも、いったい、その超龍姫のボディは……あ、観月主任」
撃獣姫は訊こうとした時、遅れて後から現れた観月主任の姿を見つけた。
「……ご無事でしたか」
「死ぬかと思ったよ」
観月主任はそう言って、真・超龍姫の左腕を、ぽん、と叩いてみせた。叩かれた真・超龍姫は、困ったふうに苦笑した。
「アズエルとの戦闘で以前のボディが全損してね。代わりに、僕が整備していた新型のボディに超龍姫のTHライドを載せ換え、再戦した結果、奇跡が起きて、アズエルと、アルトの中に収まっていた柏木梓くんのオゾムパルスが入れ替わった」
「では、今の超龍姫は――」
「私は敵ではないよ。――アズエルは4OO年も昔に死んだハズの女だ。私はアルトでありレフィであり、そして超龍姫以外の何者でもない」
真・超龍姫は、霧風丸たちの戸惑いをあらかじめ予想していたらしいか、自信ありげに頷いてみせた。
「まぁ、無理に信じてくれとは――」
「信じよう」
そう言ったのは、霧風丸であった。
「奇遇だな。私もつい先ほど、エディフェルだった頃の記憶を取り戻していた」
「エディフェル――――」
真・超龍姫は思わず瞠った。そしてまじまじと霧風丸を見つめて、ふむ、と唸った。
「…………前から、気にはしていた。柏木楓がエディフェルを名乗っていた時よりは――お淑やかだがそれでいて私たち姉妹の中でもっとも篤い心を持っていたあの娘に良く似ているわ」
「霧風丸、キミはまさか――――」
「大丈夫です、観月主任。――アズエル、いや超龍姫がそう言うように、死者は何も出来ません。わたしは、今までも、今も、そしてこれからも、霧風丸です」
アズエルの存在が、霧風丸の心にわだかまっていた昏い想いを払拭したのであろうか。晴れ晴れとした顔で応える霧風丸を見て、横にいた撃獣姫はようやく安心した。
「ところで、それ」
と真・超龍姫が指したのは、撃獣姫が抱き抱えているマルマイマーであった。
「マルチ姉さんに何かあったのか?」
訊かれて、微笑んでいた撃獣姫の顔が強張った。
「…………色々、あったんや」
応えたのは、マルマイマーの右腕に装着されたままでいるゴルディアームであった。
「何だ、ゴルディ、外せないのか?」
「マルルンが起動不能になったので、おいらが代わりに出力制御しとるんや」
「え――?!」
それを聞いた観月が血相を変えて撃獣姫の傍へ駆け寄った。
「ではまさか、マルルンの中にいる柏木千鶴は――」
変形しているゴルディに代わって、撃獣姫が沈痛な面もちで首を横に振った。
「千鶴――」
観月の言葉に、梓が反応した。
「千鶴姉ぇも生きているのか?」
「う――――」
喜悦する梓に気付いた観月は、返答を躊躇ってしまった。梓はマルルンの中に千鶴の魂が入っているコトは知らないのだ。慌てて駆け寄ってきた梓に、しかし観月はどう応えればいいのか判らなかった。
そんな辛い表情をする観月を見て、撃獣姫は唇を噛みしめた。
そして暫くして、何かを覚悟したような顔をすると、
「――超龍姫!マルマイマーを頼む!」
「え?ああ、構わないが…………」
真・超龍姫は、撃獣姫から差し出された眠っているマルマイマーを託すと、今来た道へ振り返った。
「――柏木梓」
「ねえ……、へ?」
背を向けている撃獣姫に呼ばれ、観月に質問していた梓はきょとんとなった。
「柏木初音が敵に捕まっている」
相手が梓の叔父である柏木賢治であるコトは、撃獣姫は意識して伏せた。アズエルなら知っていて当然だが、アルトであった梓が、柏木賢治が息子の耕一に化けて初音を誘拐した、それら一連の事実を果たして知っているかどうか知らなかったからである。先ほどの闘いで撃獣姫たちと一緒にいた耕一は、既に賢治の後を追っていた。
「え――――!?」
「これ以上、犠牲は出したくない――必ず、助け出します」
「――――」
呆気にとられる梓の前で、撃獣姫は白い大きな翼をはためかせ、猛スピードで飛んでいってしまった。
「な、なに、あのロボット…………?」
「霧風丸……」
呆気にとられる梓の隣にいる真・超龍姫は、楓を抱いている霧風丸を見た。
霧風丸は何も応えず、ゆっくりと頷いた。しかしそれで、真・超龍姫は全てを理解した。
「……判った。姉さんたちをメンテナンスルームに送ったら、私たちも初音さんを助けに行こう」
「頼む。……梓さん、詳しくはメンテナンスルームで説明します」
観月がそう言うと、梓はようやく、ただならぬ事態であるコトを察し、それ以上の詰問は諦め、真・超龍姫たちとともに今来た道を戻るコトにした。
一方、地上では、キングヨークがエクストラヨークをマウンティング状態でタコ殴りにしていた。
「なんとも、手応えのない――まるで抜け殻だな」
柳川の動きをトレースして闘っていたキングヨークだが、全く反撃しないエクストラヨークに柳川はいつしか呆れかけていた。
「……変です」
「葵、何が変なの?」
キングヨークの火器管制担当である姫川琴音に訊かれた、操舵管制担当の松原葵は、コンソールモニタに出力されているエクストラヨークのアナライズ情報を見て、戸惑いながら応えた。
「THライドが機能しているのなら、出力に応じてそれなりに電磁波等が感知されるのですが……今のエクストラヨークからは、まるで停止しているように全く出力が感知されないの」
「……どういうコトだ?」
柳川は攻撃の手を休め、葵のほうを睨んだ。
すると、艦橋の一番にある臨時の出力管制席に座っていた来栖川芹香が、首を横に振った。
「……何?あの中に月島瑠璃子を感じないだと?しかし、先ほど、メインオーダールームがあいつに襲われて、直ぐに居なくなったと――――?」
そこまで言って、柳川は、はっ、と驚いた。そして海上のほうを見て、ぎりっ、と歯噛みした。
「……戻ったのではないのか?まだ、MMMバリアリーフ基地内に潜伏しているというのか?」
Aパート(その3)に続く