東鳩王マルマイマー第20話「終わり、そして始まり」(Aパート・その1) 投稿者:ARM 投稿日:5月23日(火)23時14分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

「――――――うぉおおおおおおおおおおっっっっっっっ!!」

 凄まじい閃光が、ゴルディオンナックルと生機融合体・楓の接触箇所から放出された。その閃光は、その場にいた者達を苦しめていた衝撃波を全て消滅させた。

「――ぬぅおりゃあああああああっっっっっっ!!!ナックル・ヘルっ!」

 マルチが咆吼したその瞬間、生機融合体・楓の外装が弾け飛び、その中から意識を失っている全裸の楓が露わになった。

「核(コア)、発見!ナックル・ヘヴン!」

 すかさずマルマイマーはゴルディオン・ナックルの回転を止め、その巨大な手を一気に開いた。そして楓の身体を飲み込むようにむき出しになった生機融合体・楓の内装に指を突き刺し、楓の身体を掴んでえぐり取った。そして掴み取った瞬間、ゴルディオン・ナックルの内側から浄解パワーであるエメラルド色の光が楓を包み込んだ。始めは強張っていた楓の貌は、その浄解パワーを全身に浴びると、ゆっくりと和らぎ、笑みさえこぼした。

「柏木楓、回収!――ゴルディオン・フライパーンっ!」

 えぐり取った楓を左腕で抱き抱えたマルマイマーは、ゴルディオン・ナックルの手甲に装着されているフライバーン・ユニットを分離し、その柄を掴み取った。

『グラビティゲイザー・マークアップ!GDN特異点、シュワルツシルト半径突破。――――定常限界面内からの活断ショックウェーブ放射確認っ!』
「EI−09、ミートせんべいになれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっ!!」

 大きく振りかぶったゴルディオンフライバーンを、核を失った生機融合体・楓の頭部に叩き付けるマルマイマー。するとそこから生機融合体・楓は無限加速する重力波に絶えきれず、光粒子へと分解されていった。

((やった――――――――っ?))

 一瞬だった。
 マルチと、マルチの意識と電脳連結でシンクロしている浩之は、黄金色のほとばしりの中で、エメラルド色の煌めきを見つけた。

(おかあさん――――)

 マルチは、母親である千鶴の姿を見てほっとする。
 だがそれは直ぐに、戦慄へと変わった。

(――何で、そんなところに――――)

 ……マルチ。…………いえ、千歳。

 そう言って千鶴は微笑んだ。
 しかしマルチと浩之には、その笑みが不吉に思えてならなかった。

 そして、その予感は確信へと変わった。

(千鶴さん――――まさか――――)

 浩之さん。…………娘を宜しくお願いします…………

 千鶴という女性の姿を構成するエメラルド色の光が薄らいでいく。その光こそが、柏木千鶴を構成するオゾムパルス――魂であるコトは、浩之たちにも判っていた。

(なんで――待てよっ!何で消えて行くんだよっ!?)

 …………もう私は、柏木千鶴という私を構成する魂を維持できなくなったからです。

((――――――))

 言いしれぬ衝撃が、マルチと浩之を見舞った。

 ……私はとうに死んだ女。……しかし、マルルンの中で、私はリズエルに支えられて、魂を拡散させずに維持し続けるコトが出来ました。…………生機融合体とはいえ、人の魂と機械の身体を持った、マルチのような完全体と違い、私は、死した魂を無理に引き留めていたので、魂の維持には限界があります。――生機融合体としてその力を発揮するには、私自身の魂を代償にしなければならなかったのです。

 千鶴の告白を聞いた浩之とマルチの顔は呆けていた。
 つまり、マルマイマーになるために、千鶴は自分の魂を削っていたのだ。
 そして恐らく、今回の闘いで、マルチや楓たちを助けるために、必要以上にパワーを消費したために――――

(……そんな…………!千鶴さん、消滅しちまうのかよっ!?)

 完全に消滅するわけではない。

((?!))

 その声は、千鶴に良く似ているが、別人のモノだった。
 その主は、千鶴と重なって存在していた。――リズエルであった。

(…………あんたは……まさか、リズエル?)

 リズエルは頷いた。

 魂は、不滅だ。――そして、お前たちの中にも、私たちの魂の欠片が残るコトになる。

(し、しかしっ!)

 また、いつか逢える。――そう遠くない日に。――私たちには見えるのです。その日が。私たちを呼ぶ、大いなる存在が――――

(おかあさんっ!)

 堪らずマルチが泣きわめいた。

(行っちゃ嫌です!――――折角――――折角、あなたと巡り会えたというのに――――私はあなたのコトを何も知らないんですよ!)

 マルチは千鶴たちのほうへ飛び出そうとした。しかし前に進んでも一向にその差は埋まらず、マルチを戸惑わせた。

(これは――そうか、直接電脳連結回線に――――)

 浩之の言葉に、マルチはようやくそれが、直接、回線に混入している幻影であるコトに気付き、胸に抱くクマの顔を見た。二人はその中にいるのである。
 いや、正確には、居なくなろうとしていた。

(おかあさんっ!待って下さい!)
(千鶴さん!待て、諦めるな――)

 浩之さん。

 千鶴に呼ばれ、浩之ははっとする。千鶴は浩之の直ぐ目の前に居た。回線に混入しているからなせる所業である。

 …………ダリエリに逢いなさい。それがあなたに課せられた運命。

(え――――)

 …ど………娘をお願いしま…………おと…………ま……………………

 そして浩之とマルチの目の前から、千鶴の形をしたエメラルド色の煌めきは消滅した。


「……EI−09の反応、完全消滅を確認」

 そう言って〈レミィ〉は、ほっ、と息を吐いた。続いて伝染したかのように、あかりや智子、綾香も安堵の息を吐いた。
 だが、長瀬主査だけは、惑乱したような顔でスクリーンを見つめていた。
 そして、〈The・Power〉の発動が収まり、元の緑色の装甲に戻ったマルマイマーを見て、我を忘れたかのように叫んだ。

「――千鶴君!千鶴君、まだ自我があるなら返事を―――」

 そう訊いた時だった。長瀬主査は、THライドの中から聞こえてきた浩之の嗚咽する声に気付いた。
 浩之は泣いていた。ぐしゃぐしゃに泣いていた。
 そして、スクリーンの中で、ゴルディオンフライバーンを地面に叩き付けたままの姿勢でいるマルマイマーも、同じように泣いていた。

「ちづ――――」
『……千鶴さんは…………もう……』

「……もう、おかあさんはいません」

 そう言ってマルマイマーは地に膝を突いた。


「――――」

 メインオーダールームにいたあかりは、マルルンのパラメータを観て絶句していた。
 ただならぬ事態に気付いた綾香が、慌ててあかりに呼びかけた。するとあかりは、引きつった顔をゆっくりと綾香のほうへ向け、そしてこう言った。

「…………マルルンのTHライド、全出力停止。………………再……起動…………」

 そこまで言ったあかりの頬を、光るモノが伝い落ちた。マルマイマーの管制担当であるあかりは、回線に混入していた千鶴と浩之たちのやりとりをヘッドホン越しに聞いていたのだ。

「……再起動………………不可能……!」


 マルマイマーは仰いだ。そして自分の身体を両腕で強く抱きしめ、二、三、ぱくぱくと口を開いていたが、それは声にならない声を発しようと苦労している姿であった。
 やがてそれは、ようやく声になった。

「――――ぉ、おかあさぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

(「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出てOPが流れる。今回から、鬼界四天王のエディフェルとアズエルの代わりに、漆黒の色で構成された不気味なマルチ「マルマイマー・シャドウ」と、透き通るような長い銀髪を冠し、着込んでいる着物の胸元をはだけて厚い胸板を自慢げにみせて不敵に笑う美形の男、「ザ・サート(人類の脅威)」が、混沌の世界を分解する「ゼロの世界」を放ちながら登場。Aパート開始)

 生機融合体・楓との闘いが終わった丁度その頃。
 初音を連れ去ったワイズマンを、イビル・エビル姉妹を引き連れて追いかけていたルミラは、突然自身を見舞った奇怪な現象に、その足を止めた。

「ルミラ様――――」

 唖然とするイビルとエビルが指しているものは、ルミラが右腕のガントレッドに小さくなって収まっていたハズの伝説の武具、〈神殺しの槍〉ことロンギヌスの槍が、突然元の大きさに戻っていたからであった。

「そんな――操り人形如き相手には威力がありすぎるからって、仕舞っていたロンギヌスの槍が、実体化している――――」
「まさか…………」

 ルミラは突然、元の大きさに戻った、〈神祖〉から預かりし聖槍の変調に、言いしれぬ不安を覚えた。

「……槍が…………槍自身が、敵の存在を感知したのか――――自らでないと叶わぬ強敵を!?」
「でも、あのワイズマンからは、そんなパワーは感じなかったけどなぁ」
「……本当の力を隠していたのか」

 珍しく無口のエビルが神妙な面もちで呟いた。

「…………あるいは…………ワイズマン以外の、そしてそれ以上の敵が居るのかしら」
「「?!」」

 エビルの推論は、ルミラとイビルを酷く戦慄させた。イビルはともかく、ルミラまでもがここまで動揺するとは。ルミラを知る者たちなら、そんな顔は見たくても見られないコトはよく判っているだろう。

「…………まさか…………!」
「ルミラ様……?」

 イビルが不安げに聞くと、険しい顔をしたままのルミラは、ゆっくりと頷いた。

「……二人とも」
「「はい?」」
「――――最悪の場合、ワイズマンではなく、柏木初音を殺しなさい」
「「――――――」」

 イビル・エビル姉妹は絶句した。そして、その理由を、二人とも気付いていた。

「“彼女”が目覚めたら、人類は破滅です」
「「………………判りました」」

 返事をしたイビルとエビルは、自分の得物を、ぎゅっ、と握りしめた。
 ルミラは元の大きさに戻ったロンギヌスの槍を大きく振りかざし、肩に担ぐと、再びワイズマンの後を追うべく駆け出した。
 だがルミラは、その時点で、ワイズマンに追いついたその時に待ち受けている結果が、彼女たちが想像した最悪のケースを凌駕してしまうなどと、知るよしもなかった。


 舞台は地上へ移る。
 〈神狩り〉の緒方英二と志保の連係攻撃によって撃墜され、東京湾に墜落したエクストラヨークが、再び浮上してまた侵攻を開始した。

「……頑丈ねぇ」
「破壊された傍から再生しているのでしょう。本体の中枢である核を破壊しない限り、再生を食い止める術はなさそうです」
「はぁ……。ソリタリーウェーブで破壊できるかしら」

 正直、志保には、自身の得物であるラウドネスVVで、エクストラヨークにダメージを与えるコトは出来ても、完全破壊する自信は全くなかった。大きさの違いもあったが、構成するパーツの素材は別である以上、エクストラヨークを構成する物質全ての固有振動周波数帯を短時間で“聞き分けて”放射するなど、不可能であった。せめて動力炉や、英二が言う核部分の物質の固有振動周波数帯が判ればなんとか出来ると思っていたが、到底無理である。

「――まったく、いい加減、ヒロとマルチだけでも飛んでこないのっ!あたしゃ抑えるので精一杯なんだからっ!」
「〈神狩り〉期待のエースは、泣き言なんて言わないの」
「……はーい」

 ほとほと、志保は英二が苦手であった。どんな弱みを握られているのか知らないが、しかし実際、マルマイマーたちが来られるまで、自分たちがこの場を抑えなければならないのは事実であり、もはや義務と化していた。
 その時だった。
 突然、飛行するエクストラヨークの真下の海中から、幾重の閃光が迸り、エクストラヨークの船体を次々と撃ち抜いていった。

「あれは――メーザー砲!」
「やっときたの――それもとびっきりのっ!」

 爆炎をあげてまたもや海へ墜落していくエクストラヨーク。そこへ海中から、フィギュアモードに変形して浮上してきたキングヨークが、同型艦のエクストラヨーク目がけて、とどめとばかりに十連メーザー砲を撃ちまくりながら接近していた。そして燃え上がるエクストラヨークの艦首を、キングヨークはマニュピレーターアームで鷲掴みにすると、空中で持ち上げ、一気に、真下にある埋め立て地の上に投げ落とした。

「……肉弾戦?ワイルドな攻撃だね」
「でもあれ、芹香さんと姫川さん、松原さんが操艦しているんですよねぇ」

「――――ははははははははははっ!弱い、弱すぎるっ!こんなモノか、エクストラヨークの力とはっ!」

 現在、エクストラヨークの殆どを制御しているのは、柳川裕也であった。葵は操舵管制、琴音は火器管制を務めているが、本来なら芹香が務めるべきメガ・フュージョンは柳川か行い、そのサポートとして、芹香が出力管制を担当していた。早い話、一人暴れる柳川のサポートに三人が頑張っているのである。

「食らえッ!」

 降下したキングヨークは、再生しながら浮上しようとするエクストラヨークを殴りつけた。殴りつけるついでに、腕部のESミサイルも発射し、再生するヒマを与えようとしない。更に蹴る。いわゆるヤクザキック。キックしながら腰部の砲門からESミサイルを発射。それを繰り返す。いつか、エクストラヨークの艦体を二つに引きちぎりかねない勢いだった。

「…………なんて乱暴かつシンプルな攻撃(苦笑)。まるで往年のロボットアニメねぇ」
「いやぁ、燃えるねぇ。ああ言うロボットの主題歌、一度書いてみたいと思っているんだ、俺」
「お好きなように(苦笑)。……さて、どーします?」
「どうもこうもない」

 志保に聞かれた英二は踵を返し、

「後は彼女たちにお任せしましょう。――ルミラ師匠の許へ急ぎましょう。あの男が侵入しているのですから」

 その言葉に、志保は青ざめた。
 忘れていたわけではない。志保たちがここへ来たのは、エクストラヨークと闘うためではなく、〈神狩り〉最大の裏切り者にして最悪の敵を追ってきたためである。

         Aパート(その2)に続く

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/