【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
【承前】
エディフェル――いや、柏木楓の絶叫。
エディフェルという鬼女の果たせなかった想いが、柏木楓の姿を借りているのか。
それとも――
「…………」
耕一は俯いたまま黙っていた。放心しているようにも見える。
耕一には判ったいた。あれはエディフェルの記憶に翻弄されつつ、しかし自分の本心と重ねてしまった楓の哀しみであると言うコトに。
楓は物静かな少女であった。決して自分の感情を露わにせず、どこか一歩引いたその姿勢は、他の姉妹と何処か毛色の違う雰囲気があった。9年前、耕一が賢治の死によって隆山にやってきた時、楓は耕一を避けていた。
それが、楓の前世――いや、耕一や賢治がそうであるように、エルクゥの血の記憶によって、その魂にもっとも近しい存在であったエディフェルの記憶が、その心の内に秘める耕一への慕情とシンクロしてしまい、それによる混乱が楓に耕一を避けさせてしまったのであろう。
そう。この怒りは、エディフェルの悲しみの仮面を被った、楓の鬼哭なのだ。
そしてそのコトを、耕一以外にも判っている者がいた。
霧風丸。そのTHライドの中に、エディフェルの魂を収めている戦闘型メイドロボット。
霧風丸は、生機融合体・楓に向かって構えつつ、途方に暮れる耕一の様子を時折見ていた。
霧風丸――いや、エディフェルには、楓の哀しみは痛いほど判っていた。むしろ、これは自分の痛みそのものであった。
なのに、エディフェルはそれを抑えられている自分が不思議であった。
それは、耕一だけが次郎衛門の生まれ変わりというわけではないという事実に起因しているのかもしれない。そう、今まで鬼界四天王のリーダーとして暗躍し、柏木初音を誘拐した、あの柏木賢治の姿をした敵を、エディフェルは次郎衛門とみなしているのだ。
エディフェルには、耕一よりも賢治のほうがより次郎衛門に似ていると考えていた。耕一と賢治の差。実の親子である二人を比較して、一口でその差を説明するコトは出来なかったが、耕一が「柏木耕一」という人格であるに対し、賢治はワイズマンと名乗る「次郎衛門」の人格で行動している点が一番大きいようである。記憶のみを持つ耕一と比べて、その思考や行動論理が次郎衛門そのものである賢治のほうが、エディフェルには次郎衛門として感じるのだ。
その「次郎衛門」は、今や人類を脅かす敵。その野望を阻止しなければならない。
(……私にそんなコトが出来るのであろうか?命を懸けて愛したあの男を――?)
そう思った時、エディフェルは、ふと疑問を抱いた。
あれは本当に次郎衛門なのか、と。
そして何より、霧風丸は、自分が本当にエディフェルなのか、という疑念であった。
柏木楓がエディフェルの記憶に翻弄されているように、霧風丸も、THライドにあるエディフェルの魂がもつ記憶に、自分がエディフェルではないかと思わされているのではないか。そんな気がしてならなかった。
そして、ワイズマンという男も、「次郎衛門」を語っているだけではないか。
そう思った瞬間、霧風丸は再びクサナギブレードを両手に持って構えた。
「……私は私だ。――柏木楓でもエディフェルでもない。――霧風丸という”おんな”に過ぎない」
霧風丸の顔は、不思議と笑っていた。それは何に対しておかしいのか、と言うモノではなく、自嘲とも何かを悟った顔のようにも見えた。
『――マズイ』
一方、出力が低下してしまったマルマイマーをこの場から連れ出そうとしていたゴルディアームと撃獣姫は、マルマイマーの電脳回線経由で、狼狽している浩之の声が届いていた。
「藤田の旦那……」
「千鶴さんのTHライドの出力が下がる一方です。仮に壱式メンテナンスルームに連れて行こうにも、このままでは途中で……」
『くそっ!』
浩之はTHコネクター内にあるコンソールを慌ただしく操作し、必死に出力回復の方法を考えた。しかしこのような異常低下をリモート操作で修復できるとは浩之も思っていないが、それでもやらざるにはいられなかった。
『何でだよ……!何でこんな時に……くそっ!千鶴さん、しっかりしてくれ!――折角マルチと親子の名乗り合いが出来たんだろ?こんなところで、このまま終わらせたくないだろうがッ!――頼む…………頼むからっ!』
「浩之ちゃん……」
浩之のサポートをしていたあかりは、THコネクター内で、半泣きで千鶴に呼びかけている浩之を見て、いたたまれなくなっていた。無論、その場にいた綾香たちも、この悲痛な叫びに何も出来ず、悔しそうな顔で黙っているしかなかった。
『マルチ!お前もしっかりとお母さんに呼びかけるんだ!』
「……浩之……さん」
マルルンの出力低下とシンクロして電圧が下がっているマルチではあるが、シンクロしているだけで出力低下は既に収まっていた。だから千鶴のように自我の消滅の恐れは無かったが、それでも今のマルチの意識は人間で言う微睡みの状態に近かった。その為、浩之の呼びかけにもうまく応えられずにいた。
「……やはり」
「……やっぱり?」
険しい顔をする長瀬主査の呟きに、隣にいた〈レミィ〉が反応した。
「……先ほどの生機融合体化の所為だ。THライドのパワーを大量に消費するその機能は、前の闘いで疲弊していたマルルンのTHライドに多大なる負荷を与えてしまった……やはり止めるべきであった」
長瀬主査はそう言って歯を食いしばった。この事態を招いてしまったのが全て自分に責任があるかのように、長瀬主査は俯いてしまった。これ以上、正面のスクリーンを見ていられないのであろう。
「THライドなのだから、充電で何とか回復は?」
「……無理だよ。千鶴君が消費したのは、千鶴君そのものを構成する魂だ。…………THライドは決して無限に力を発揮するのではない。無限に近い有限の力を持つ人の魂がエネルギーとして消費されているだけでも無限に見えるのだ。無論、魂は回復することも可能だが…………彼女は、千鶴君は一度死んだ命だ……動き出した滅びはもう止められない。ましてや、マルマイマーのパワーの源として、娘を護るために幾度も魂を削ってきたのだ…………!」
『いやだっ!』
長瀬主査の言葉に、浩之が激高した。
「藤田……?」
『俺は――もう――誰も死なせたくないんだ!』
それを聞いた長瀬主査は、浩之がこの間の新都心・新宿での闘いのコトを引きずっているコトに気付いた。黙示と朝比奈。あの二人を救えなかったコトを浩之は激しく後悔しているのだ。あの二人が闘いの中で、浩之に与えた影響がとても大きかったコトを長瀬主査は知っていた。機械と人を超えた愛。マルチを愛おしく思う浩之は、その姿に自分を重ねていたのであろう。
そして、マルチが人間であるという事実を知り、その背景を知った今は、尚更、死というモノに対して過剰に反応してしまうのであろう。己の全てを賭して、新たな命を守り、そしてそれを見守っていた命に対する敬愛。浩之でなくともその運命はあまりにも残酷すぎると思うであろう。
だからこそ、浩之は千鶴を救いたかった。
「――くそおっ!!」
長瀬主査は浩之の想いを理解した瞬間、絶叫していた。その突然のコトに、スクリーンに釘付けになっていた綾香たちが驚いて主査を見た。
「――私だってそうだっ!このまま、千鶴君を死なせるものかっ!私は、私は行くぞ!」
「主査……!」
そう怒鳴ってマルマイマーたちがいる通路に一番近いゲートのほうへ走り出した長瀬主査を、驚いた〈レミィ〉は立ち上がって呼び止めようとした。
その時だった。
「……長瀬さん、あんたがそんな熱いセリフ吐ける男とは思わなかったよ」
「――キミは」
「サラさん!」
突然、長瀬の前に現れた、鞭を持った革ジャン姿の美女――〈神狩り〉の一人であり、世界十大頭脳の中でも「奇跡の存在」とまで呼び称えられている三人の女性科学者集団〈三賢者〉の一人であるサラ・マクドゥガルを見て、綾香は驚喜した。
「一体いつここに?」
「東京湾上空にエクストラヨークが現れたのに、MMMが一向に出てこないから変だと思ったら、中、滅茶苦茶じゃない?」
「ワイズマンが襲撃してきたのだ」
「ワイズマン?」
その名を聞いて、サラの目が光った。
「……参ったね。そっかぁ」
「?」
「――実はさ、ヤツも現れたんだよ」
「ヤツ?」
「〈脅威〉――サ・サート」
「――!?」
その名を聞いた瞬間、長瀬主査の顔が驚愕に凍り付いた。その名を聞いて反応したのは、長瀬主査以外は〈レミィ〉だけであった。
「……バカな?ヤツがこの日本に――?!」
「ああ。――あたしはそれをルミラの姉さんに伝えに来た。〈神狩り〉史上唯一の裏切り者にして、〈神狩り〉史上最強の、いえ最凶最悪の実力を持つ――自らを人類の脅威と位置づけた狂気」
「なんだと……?」
そう訊く長瀬主査は心なし青ざめ、額には冷や汗さえ浮かんでいた。
「もはや、あたしたちの闘いは鬼ごっこだけで済まされなくなった。――人類そのものの存在意義を賭けた、総力を必要とする闘いが始まってしまったんだよ」
『――くそっ!』
メインオーダールームに一部に走った戦慄など知るよしもなく、THコネクター内にいる浩之は今だ必死になって復旧を試みていた。
『くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそっ!――何でだよっ!――――何であの二人がこんな目にばかり遭わなきゃいけないんだよっ!神様あんた何やってんだよっ!――あの二人はなぁ、いつもみんなのために、自分を犠牲にしてきたんだぞ!その上、なんだとっ!あの二人をまだ苦しめようというのかっ!』
「……浩之ちゃん…………もう……それ以上……」
絶叫する浩之の姿をこれ以上見ていられなくなったあかりは、コンソールパネルに突っ伏し泣いていた。智子も綾香も、そしてその絶叫に気付いた〈レミィ〉や長瀬主査、サラさえも、その悲痛な叫びを続ける姿にいたたまれなくなってしまった。
その声は、マルマイマーの近くにいるゴルディアームや撃獣姫、霧風丸にも届いていた。そしてその声が届いていないハズの耕一にも、倒れているマルマイマーを辛そう見つめている撃獣姫たちの姿から察したのであろう、やり切れぬ悲しみに自然と無言になった。
『俺は――俺は――』
浩之がそう言いだした時であった。コンソールパネルに泣き顔を突っ伏していたあかりは、浩之のメンタルパラメータの異常に気がついた。
「これは――浩之ちゃん!?」
あかりが驚いて振り返ると、なんと浩之が入っているTHコネクターが金色の凄まじい光を放ち始めていたのである。
「こ、これは――」
「〈The・Power〉」
そう言ったのは、呆気にとられていたサラであった。
「――そうか。彼が――」
「――何やとっ?!」
浩之が〈The・Power〉を発動させたのと同時に、マルマイマーも同様に金色の光を放ち始めたのである。
「これは〈The・Power〉――しかも!」
「マルルンの出力が回復し始めているっ!」
マルルンの出力やメンタル値パラメータをトレースしていた霧風丸が酷く驚いた。
そして唖然とする全員の前で、マルマイマーはゆっくりと立ち上がったのある。
『……マルチ』
〈The・Power〉を発動させた浩之自身も、この奇跡的な出力回復に驚いていた。だがやがてそれは喜悦に変わり、嬉しさのあまり大声で喜んだ。
『――やった、やったっ!これで、これで千鶴さんが――』
「……駄目だ」
否定したのは長瀬主査であった。
「いま、こんな状態で〈The・Power〉を発動させたら、千鶴君は今度こそ間違いなく――――!」
しかし驚喜する浩之にはそんな長瀬主査の声など聞こえているハズもなかった。
【……浩之さん】
そしてついに、千鶴から応答が回復した。
【…………楓を救い出して下さい】
『おうっ!マルチ!ナックル・ヘルアンドヘブンで、生機融合体の中から柏木楓を助け出すぞ!』
「はいっ!」
『綾香っ!あかりっ!』
「判ったわ!ナックル――」
「駄目だっ!」
綾香の承認を止めさせたのは、長瀬主査の怒鳴り声であった。
「今、パワーを消費したら――」
「無駄だ、長瀬さん」
長瀬主査の背後に立つサラが、昏い顔で戦慄く長瀬の左肩を掴んだ。
「〈The・Power〉は発動してしまった。……もう、遅い」
「――――」
サラの言葉に、長瀬主査は力尽きたようにその場に膝を突いてがっくりと項垂れた。
その尋常ならぬ姿に、綾香は不吉な予感を覚えた。しかし怒鳴って承認を要求し続ける浩之の声に、悩みつつも従わざるを得なかった。
生機融合体・楓がマルマイマーたちに襲いかかってきたのである。
『急いでくれっ!』
「――ええいっ、ゴルディオンフライバーン、発動承認!」
「了解っ!ゴルディオンフライバーン、セーフティデバイス、リリーブっ!」
あかりが慌てて解除カードをリーダーに通す。するとゴルディアームに内蔵されているセーフティデバイスシステムが、解除信号を受信し、変形を開始した。
「よっしゃあっ!システムチェンジっ!」
飛び上がったゴルディは手足をたたみ、巨大な金色のミトンと化した。
「ツールっコネクトぉっ!!」
ブロゥクンマグナムを外したマルマイマーは手前に飛来してきたゴルディオン・ナックルとドッキングし、巨大な黄金の拳を振りかざした。やがてその拳は轟音とともに高速回転を始め、閃光をまき散らした。
『マルチ、浄解パワーをゴルディに集中させろっ!楓さんをえぐり出すっ!』
「了解ッ!うおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!!」
マルマイマーは背部スラスターを全開にして、迫り来る生機融合体・楓に飛びかかった。
「マルチっ!」
不安げな顔をする耕一が思わず叫ぶ。それは不意に過ぎった一抹の、根拠のない不安がもたらしたものだった。
耕一には聞こえたのだ。千鶴の声が。
後を頼みます。
『いっけぇぇぇぇぇぇ――っ!』
マルチとシンクロした浩之は、右拳を思いっきり正面に突きだした。
同時に、ドリル回転するゴルディオンナックルが生機融合体・楓の胸部にめり込んだ。
――だが。
「――――無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!」
『「うわぁ――――――っ!!』」
生機融合体・楓から発せられた、次元刀で用いる空間湾曲エネルギーをそのまま衝撃波に変えた攻撃の直撃を受けたマルマイマーは、その外装に著しいダメージを受けた。
「「マルマイマー!」」
慌てて撃獣姫と霧風丸が飛びかかるが、しかし同じ衝撃波を受けて吹き飛ばされてしまった。耕一も衝撃波をかわそうと思ったが、指向性のない攻撃に避ける暇も場所もなく吹き飛ばされてしまった。生身の常人なら粉々になってもおかしくないその破壊力を辛うじて浄解パワーでその殆どをうち消すコトが辛うじて出来たが、撃獣姫たちと同様に直ぐには起きあがるコトは出来なかった。
「……くっ……マルチ……千鶴…………」
マルマイマーはゴルディオン・ナックルを叩き付けた状態で、衝撃波の嵐の中で身動きの出来ない状態にあった。
「……なんて……パワー…………?」
あまりのダメージに意識が遠のきかけたその時だった。マルチは自分の意識の中に、見覚えのない光景を見つけた。
Bパート(その3)に続く