東鳩王マルマイマー第19話「鬼神の子供たち」(Bパート・その1) 投稿者:ARM 投稿日:4月18日(火)23時29分
【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(緒方英二が装備する〈インドラ・パニッシャー〉の映像とスペックが出る。Bパート開始)

 柏木梓が奇跡の生還したその頃。マルマイマーたちは、初音を連れて再び逃走したワイズマン=柏木賢治を護るように立ちはだかる生機融合体・楓に苦戦していた。

「死ねっ!死ねっ、千鶴っ!リズエルっ!」

 生機融合体・楓の攻撃は、そのほとんどがマルマイマーを狙ったものであった。ゴルディアームと霧風丸そして撃獣姫は必死に援護を続けるが、まるで勇者ロボの合体した姿に変形した後も再び始めた、無限とも言える触手攻撃に苦戦を強いられていた。

「じょ、冗談じゃねぇぜ全く!キリが無いったらありゃしねぇぜっ!」

 ゴルディは慣性制御攻撃で触手を弾き返して行くが、後から後からと襲ってくる触手の群れに閉口していた。

「風虎牙(フォン・フー・ガォ)!」

 撃獣姫の放った荷電粒子の嵐が、触手の群れを一瞬にして灰に変える。だが直ぐに本体から出現する触手に、常に冷静な撃獣姫の顔に焦りの色を浮かべさせていた。

「これは――本体を攻撃するしかないわ」

 霧風丸が険しい顔をして言った。

「で、でも、本体は楓さんが――」

 生機融合体・楓を睨み付けている霧風丸に、マルマイマーが戸惑い顔で言った。

「――これ以上、次郎衛門と阻まれては、初音さんが救えない」
「くそっ!」

 マルマイマーを庇うように立っていた耕一が、飛来してきた触手を浄解パワーでエメラルド色に輝く拳で粉砕した。

「――そんなコト、出来るわけ無いじゃないかっ!」
「『――――」』

 マルマイマーと、そしてマルマイマーと電脳連結している浩之は、苦渋の耕一を見て迷っていた。

『……ヘル・アンド・ヘヴンなら救い出せるかも知れないが……しかし……これは……』

 浩之が戸惑っているのは、生機融合体・楓からマルマイマーを狙って発せられる、凄まじい憎悪であった。マルマイマーはこの憎悪にすっかり臆してしまい、攻撃すら出来ない状態にあった。

『……ここまで酷い憎悪は…………ヘル・アンド・ヘヴンでも浄解出来るかどうか……!』
「……どうして」

 マルマイマーが、電脳回線を通して浩之に訊いてきた。

「……どうして、楓さんは千鶴さんたちをこうまで憎むのでしょうか?」
『…………千鶴さん』

 浩之は少し迷ったが、マルルンの中にいる千鶴にアクセスした。

『――まてよ』

 千鶴にアクセスした浩之は、表示されたパラメータの数値をみて唖然となった。

『なんだよこの低いメンタル値は――千鶴さん、聞こえていますかっ!』
「え――」

 動揺する浩之に、マルマイマーは仰天した。

「ちづ――い、いえ…………お、おかあさん……?」

 そう言うマルチの顔が少し赤らんだ。自分とフュージョンしているマルルンのTHライドの中にいる柏木千鶴が、その時とても身近な存在となった。
 それは同時に、自分の中でわだかまっていた混乱を一層増幅させる結果となった。
 思えば、自分は人に尽くすために作られた、機械仕掛けの人形――そう信じていた。だが突然、しかもこのような場で本当は人間だと知らされ、その上母親が、ずうっと自分の傍にいたクマ型ロボットの中に居たとは。あまりにも衝撃的な事実が次々と明らかになり、正直いつものように気絶したい気分であった。
 そんな現実逃避をしなかったのは、しかし戦闘中だからと言うワケではなかった。
 迷っていた。本当に自分が人間なのか、と言う迷いが、今のマルチを支配していた。
 人の心には、憧れさえあった。限りなく人の心に近い超AIを備えられていた(と信じていた)とはいえ、決して自分は人にはなれないと思っていた。
 ヒトになる。――それはマルチですら気付いていない、密かな欲望であった。人と機械の境界線を超えるコトは、ロボットである自分にはタブーであったが、しかし人と変わらぬその心は、人に愛されたいという感情が強く働いていた。
 愛されたい。みんなに。そう願った。何度も何度も、そう願った。
 だから、人のために尽くしているのだ。

 それが、こころをもったにんぎょうのひそかなよくぼう。

 だが、それが今、何かが壊された。

 じぶんはにんげん。
 かしわぎこういちと、かしわぎちづるのあいだにできた、おんなのこ。

 信じられなかった。夢ではないかと思っていた。
 それも、とびきりの悪夢を。
 現実も悪夢だった。自分の母親であり、彼女にとっては実の姉である千鶴を憎悪し、殺そうとしている女が目の前にいた。
 凄まじい憎悪。殺意。闘いで幾度と無く感じてきたものではあったが、しかしそれらとは比べ物にならない感情であった。
 人はここまで、近しい者を憎めるのか。
 そして、自分はこの人間と同じ「こころ」を持っていると言うコトが、とてもショックであった。だから、マルマイマーとして戦うコトに躊躇いを感じているのである。
 逃げ出したい――しかし出来るハズもない。
 浩之がいる。機械仕掛けの自分を普通の女のコとして扱い愛してくれる、最高のご主人(マスター)。
 そして、千鶴がいる。存在さえ考えたコトの無かった、実の母。
 マルチは、嫌な想いしかしないこの場所にいる理由は、この二人の為なのだと自分に言い聞かせていた。そうするコトで、「自分」を保てる。人と機械の狭間を往く痛みは、今は胸の奥に秘めておけばいい。そう、今は――

 その時だった。突然マルチは著しい脱力感に見舞われ、膝をついた。

『千鶴さん!千鶴さん、応答してくれっ!』
「ひ……浩之さん…………ど、どうしたんですか?」
『――マルチまで出力が下がっているっ!?』

 浩之は慄然となった。最初の異常は、マルルンのTHライドの出力を表示するメンタル値が急激に下がったコトであった。そして、それを追うようにマルチのTHライドまでもが出力を落とし始めてしまったのである。マルマイマーが倒れだしたのはその為であった。


「――いかんっ!」

 メインオーダールームで各勇者メカのパラメータをアナライズしていた長瀬主査が、二人の出力低下を知って慄然となった。

「まさか、マルルンのTHライドが――千鶴君、しっかりしろっ!このまま出力が下がったら、君の自我が消滅してしまうっ!」

『何だとっ!――千鶴さん、しっかりして!』

 浩之も電脳回線を使って必死に千鶴に呼びかけた。

「――マルチっ?!」

 倒れるマルマイマーを、耕一が慌てて抱き留めた。

「マルチ、千鶴さん!どうしたんだっ!?」
「マルマイマーの出力が急激に低下しています」

 TH参式のスーパーコンピューター・フォロン経由でマルマイマーのパラメータをアナライズした霧風丸が、動揺を堪えながら耕一に答えた。

「おそらく、マルルン内のオゾムパルスが著しく減少しているのでしょう。マルルンのTHライドの出力に支えられているマルマイマーが人事不省になるばかりか、このままでは――THライドの中にある柏木千鶴さんの自我が維持できなくなります」
「そ……そんな…………お……おかぁさ……ん……!」

 マルマイマーは力を振り絞り、胸部にあるマルルンの顔を両手で触った。

「し……しっかりして……ください……!」
『霧風丸!マルチを壱式のメンテ室へ連れて行くんやっ!』
「わ、わかり――うわっ!」

 メインオーダールームにいる智子の指示に霧風丸が答えたその時、霧風丸の身体に、いつの間にか触手攻撃から拳で攻撃を開始していた生機融合体・楓に殴られて吹き飛ばされた撃獣姫とゴルディアームが衝突する。その衝突に耕一とマルマイマーも巻き込まれ、全員床に倒れた。

「あんたたちっ!」

 奥でイビルとエビルを介抱していたルミラがそれをみて驚いた。

「――くっ!イビル、エビルっ!」

 ルミラは息も絶え絶えな二人を睨み付け、まるで氷のような眼差しでこう言った。

「――二人とも、死んでこい」
「「……は……はい」」

 イビルとエビルはふらふらしながら起きあがり、生機融合体・楓のほうを向いた。そして最後の力を振り絞り、飛びかかっていった。
 だが、酷いダメージを受けている二人には、先ほどまでのような速さは無く、咆吼する生機融合体・楓が繰り出した巨大な拳と激突し、そのまま壁に叩き付けられて肉塊とかした。

「――っ!」

 最初に起きあがった耕一がその光景を見て目を瞠った。だがそれは、イビルとエビルに無謀な命令を下したルミラの冷酷さにでも、二人が押し潰されて肉塊に変わったのを目撃したからではなかった。
 なんと死んだハズのイビルとエビルが、全く無傷――衣装の破損はそのままだったが、生機融合体・楓の両肩に立ち、その場から飛びながら得物を振り回して、先ほど自分たちを潰したその剛腕を両方とも切断したのである。

「……殺されなきゃ〈リセット〉がかけられないんだからヤンなっちゃうよ」

 床に着地したイビルがにやっ、と笑いながら言う。そしてすぐに二人ともルミラの脇に立ち、構え直した。

「……事態が事態だ。もはや悠長は許されない。一気にカタを――」
「ルミラさんっ!」

 生機融合体・楓に迫ろうとするルミラたちを、耕一が慌てて呼んだ。

「楓ちゃんは俺が何とかする!ルミラさんは、親父を、ワイズマンを追ってくれっ!」
「耕一…………」

 ルミラは戸惑うが、しかし直ぐに、うん、と頷いた。

「……判った。行くわよ、二人ともっ!」
「はいっ!」

 無口なエビルは頷いただけであった。三人は疾風の如き速度で、藻掻いている生機融合体・楓の横をすり抜け、ワイズマンが初音を連れて逃走した通路を走り抜けて行った。

「二人とも、遅れるんじゃないわよっ!」

 険しい顔をするルミラの横顔を、イビルは走りながら見て、くすっ、と笑った。

「何?」
「いや、ルミラ様、何となく嬉しそうな顔しているもんだから――まるで伯斗様に命令されたみたいに」
「……煩いわね」
「……でも、似ていますよね。柏木耕一と伯斗様――軽そうで、芯が強そうなところなんか特に」

 そう言ったのは、無口なハズのエビルだった。

「ここしばらく伯斗様とはご一緒では無かったですから、恋しくなられたとか」
「……エビル、無駄口は叩かない」
「はーい」

 エビルは無口な割に、いったん口を開くと結構軽い娘であった。
 ルミラが呆れるだけで済んだのは、図星を突かれて少し気恥ずかしい所為もあった。
 確かに、永劫の時を生きる自分を気にもせず娶ったあの不思議な男の笑顔は、耕一と良く似ていた。願わくばその男の仔をもうけたいと本気で思った、同じ〈神狩り〉である自分の亭主は、今は何処の空の下にいるのであろうか。この瞬間も、途方もない力を持ったあの魔人の行方を追って流離っているのであろう。この騒動が落ち着いたら、一度連絡を取ってみようとルミラは思った。
 そう思ったルミラは、どうしてそんなセンチな気分になったのかよく判らなかった。しかし何となくだが、初音を気にかける耕一の姿を見ていると、時空の魔女とまで恐れられていた冷酷な自分を忘れてしまいそうな気分がしたのは事実であった。
 しかしその時点で、本当はそれが、ルミラが十数分後に目撃する悲劇を予感させていたものだとは知るよしもなかった。


「――耕一さん」

 最初に立ち上がった耕一が、ゆっくりと生機融合体・楓のほうに近づいていった。それを見て続いて起きあがった霧風丸が驚いて呼んだ。

「危険です――」
「……楓ちゃん」

 耕一は霧風丸の静止を無視し、楓のほうを向いて無防備に両手を広げ、そして微笑んだ。

「……もう、やめよう、こんなコト」

 耕一がそう言った時だった。生機融合体・楓の身体が激しく震え、そして咆吼した。

『――こ・ん・な・コ・ト・で・す・っ・て・?』

 その怒りの声は、室内に反響した。壁や床がぴりぴりと震え、意識が遠のきかけていたマルマイマーを目覚めさせた。
 そして、次の瞬間、静寂が訪れた。
 ぺり。ぺり、ぺり、ぺり…………。その奇妙な剥離の音は、静寂の空間の奥からゆっくりと湧いてくるように聞こえてきた。

「――楓ちゃん」

 唖然とする耕一たちの前で、生機融合体・楓の胴体の中から、なんと全裸の柏木楓がその姿を現したのである。
 しかしその貌は、凄まじいまでの憎悪に満ちあふれていた。

『……許せるわけがない』
「どうしてなんだ、楓ちゃん?」

 耕一が訊いた。すると楓はゆっくりと目を瞑り、大きく深呼吸した。

『…………私はただ、現世で次郎衛門と添い遂げたかっただけなのだ』
「――――」

 耕一は絶句した。姿は楓だが、人格が違う。
 しかしその人格の主は、今は霧風丸の中に宿っているハズである。これは記憶の混乱であろう。ワイズマンに植え付けられた、エディフェルという偽りの記憶が引き起こした混乱なのだろう。
 だが、耕一はそうでないと考えた。

「……楓ちゃん」

 耕一は理解した。ワイズマンと同じく、次郎衛門の記憶を持つ者として。

 ……消えかけていくこの愛する女の温もりに、酷く戸惑う武士がいた。

「……忘れるな、エディフェル。……忘れるな。……たとえ生まれ変わっても、この俺の温もりを、この俺の抱擁を忘れるな。……きっと迎えにいく。……そして、きっとまたこうして抱きしめる。……たとえお前が忘れても、俺は絶対に忘れない……!…」

 そう言うと、彼女は――エディフェルは泣きながら頷いた。

「……忘れない。……私も……あなたのコト……決して……忘れない……。……私……ずっと……待っているから。……あなたに……再び……こうして……抱きしめてもらえる日を……ずっと……ずっと……夢みてるから…………」


 耕一の後を追うように、霧風丸も、エディフェルの魂を持つ者として、その情景を思い出し、そして楓が何に対して激高しているのか、ようやく理解した。その時霧風丸は唇を噛んでいたのだが、誰も気付いていなかった。

『――私は、あの約束をひとときも忘れたコトはなかった――ずうっとずうっと、あの男の仔が欲しかったのだ……それを……それを……リズエル、お前はぬけぬけとぉっ!!」』

 生機融合体・楓は、マルマイマーを睨み付けて絶叫した。
 無理矢理歪まされてしまった、報われぬその想いの暴走は、全ての怒りのはけ口を、彼女にとって理不尽でしかない存在にぶつけるしかなかったのだ。

         Bパート(その2)に続く

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/