東鳩王マルマイマー第19話「鬼神の子供たち」(Aパート・その3) 投稿者:ARM 投稿日:4月7日(金)00時32分
【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 妻の沙織は、とうに気付いて――思い出しているのだ。長瀬祐介によって時間をかけて消去させたハズのあの悪夢の出来事を。そうでなければ、戦闘兵器に自分の顔が使われているコトを不思議に思わないハズだろう。そのコトに気付いた観月は、見る見るうちに蒼白し、息を荒げ、過呼吸症で倒れかけたところを超龍姫に支えられた。
 そして止めどなく溢れ出てくる涙の量だけ、観月が気付いていなかった――故意に忘れていた罪悪感が、彼の深く暗いところから甦ってきた。つまらない意地だと判っていながら、それを心の奥深くに押し込めるコトで自分のプライドを保ち、満足していた、観月という青年の心が持つ暗部。気付いてしまった今、もはやそれを隠し通すコトは不可能であった。
 その暗部が生み出した、妻に似せて作られた、機械の戦巫女に今、自分は支えられ、その胸で後悔の念に押し潰されてただ泣くしかなかった。
 そんな観月を、向かい側にいたアズエルは、正直に哀れな男だと思っていた。
 侮蔑の念が湧かなかったのは、偏にそんな観月の姿が、自分と重なって見えてしまったからであった。男であり女であり、しかし男でも女でもない、異形の身体に生まれたアズエル。その身体がもたらす抑えきれない業を、たとえ合意の上とはいえ、実の姉にぶつけていた自分が重なって見えて仕方がなかった。

(……あの女性(ひと)だけは護りたかった。……誰よりも自分に近いあの女性を……!)

 それは今となっては叶わぬ夢である。死ぬ前にみた、リズエルの血の涙を、アズエルは未だに覚えていた。

「…………だからこそ」
「?」

 籠もったようなアズエルの呟きを、胸で泣き崩れている観月を悲しげに見ていた超龍姫のセンサーは聞き逃さず、思わず顔を上げた。

「――俺はアズエルとして復活し、リズエル姉さまが目指した真なる鬼界昇華を果たす力にならねばならんのだ!その為に必要な命を、超龍姫、貴様が持っているのだ!その命、取り戻させてもらうぞっ!」

 アズエルは咆吼するように言うと、全身から凄まじい闘気を発散させた。周囲の空気は、鬼神の魂を持つ鬼女の周囲からじわじわと下がり始め、床が急激な温度降下によって生じた結露を放射状に広げていた。
 流石にその凄まじい闘気に気付いた観月が、慟哭を止め、戸惑いの顔をアズエルのほうに向けた。
 だが次の瞬間、観月は自分の背中のほうで超龍姫がゆっくりと身じろいだコトに気付くと、困惑した顔を超龍姫のほうへ向けた。

「超龍姫――――」
「……大丈夫です」

 超龍姫は、にこり、と笑った。不安げな観月を安心させるためと言うより、何げないそれであった。

「……主任」
「?」
「私は闘いに行くのではないのですから――全てを正すために」

 そういって超龍姫は観月に唇を重ねた。突然のコトだったが、しかし観月は驚かなかった。何となく顔を合わせた時点で、そんなコトをしそうな雰囲気だった。
 長いような口づけの後、超龍姫はゆっくりと観月から顔を離した。そして呆然としている観月にまた、にこり、と微笑んだ。どことなく頬が赤らんでいた。

「…………沙織」

 観月は超龍姫の顔を見てそう言った。

「……私は、観月沙織という女性の顔を持てて、幸せです。だってこんなふうに愛してくれる人の大切な女性なんですから」
「…………超龍姫」
「勝ちます。――アズエルではなく、人が背負う全ての業に。私たちは勝ってみせます」

 そう言って頷くと、超龍姫は観月の横をすり抜け、再びアズエルと対峙した。

「アズエル。この闘い。――正義も悪もない」
「そうだとも、超龍姫。目指すべきは、真なる姿への回帰のみ」

 呼応するアズエルは、超龍姫を睨み付けたままゆっくりと頭を落として身構えた。

「――我が愛する人の為に死んでくれ、超龍姫ぃっ!!」

 最初に、絶叫するアズエルが飛びかかるように前に出た。しかし超龍姫はそれを予測していたかのように右へ飛び、アズエルが空かさず放ったエネルギー衝撃波の直撃をかわした。

「ドラゴンウィング!」

 宙を舞う超龍姫が、背中の翼を二三はためかせ、天井間際まで舞い上がった。そして反転して天井を踏み台にし、一気に床のほうへ飛来した。
 しかしその狙いはアズエルではなかった。

「何を――あれは?!」

 超龍姫の奇妙な動きに即座に気付いたアズエルは、超龍姫の目標が、自分たちが闘っているメンテナンスルームの奥におかれていたある物だと言うコトに気付いた。そしてそれは、壁のほうへ逃れていた観月にも直ぐに理解出来た。

「「――イレイザーヘッド?!」」

 理解出来たが、それをどうするのかまでは、二人とも思いつかなかった。試作品のXLカートリッジが装着されていたイレイザーヘッドの傍に着地した超龍姫は、覆っているアプリケーターを腰に後ろ向きになって装着されているドラゴンアルトのドラゴンクローで引き剥がし、四つの腕でそれをがっちりと支え持った。

「……それで何をする気だ、超龍姫?」
「私は、戦闘武器を内装されていない。それはマルマイマーの支援目的であると同時に、人命尊重を目的に設計された為でもある。――だから、だ」
「だから?――」

 アズエルは不快そうな顔で聞き返した。

「だから、何だというのだ?俺は、お前を破壊する!それだけだっ!」
「だから私は、お前を救う。――このイレイザーヘッドで、お前の全てを受け止めてみせる!」
「な――――阿呆かっ!」

 アズエルは怒鳴り声とともに、超龍姫目がけてエネルギー衝撃波を放った。

「――イレイザーヘッド、エックスエルっ!!消去対象、エネルギー衝撃波ぁっ!」

 超龍姫はアズエルがエネルギー衝撃波を放ったと同時に、イレイザーヘッドを起動させる。超振動によって周囲に生じた重水素粒子の防壁幕が、アズエルのエネルギー衝撃波を全て受け止め、メンテナンスルームの壁を突き破って遙か上空目指して吹き飛ばされていった。

「俺の攻撃を全て消し去る気だとぉっ!?正気か?!」
「受け止めてみせる!これが私の闘い方だからなっ!」

 間断なく放射されるアズエルのエネルギー衝撃波を、超龍姫はイレイザーヘッドで消去する。そして消去しながら、一歩一歩、アズエルに向かって前進し接近して行った。

「な――全て消去しきれると思うなっ!」

 アズエルの絶叫は、見る見るうちに減っていくイレイザーヘッドの縮退氷塊を指していた物だった。これでは確かにあと一、二分で完全に無くなってしまうだろう。

「パワーがそこまで保てばなっ!」

 超龍姫は、不敵な笑みを浮かべて言った。アズエルの両手から放射されているエネルギー衝撃波は、次第に威力を失い始めていたのである。

「一端、放射を止めればまた威力は戻せるだろう。――しかしその間にイレイザーヘッドの超振動が、お前の身体を吹き飛ばす!」

 これには観月も、あっ、と驚かざるを得なかった。超龍姫は始めから、これを狙っていたのだ。たとえ頑強なエルクゥの血を引く柏木梓の身体と言えども、量子レベルの干渉を果たす超振動の衝撃波に耐えきれるハズもない。
 アズエルは、舌打ちするも超龍姫の戦略性に酷く感心していた。そして同時に、自分は手を積まれた将棋の駒であるコトを悟った。エネルギー衝撃波の放射は保ってあと30秒ほどだろうか。

「……ふっふっふっ………………あっはっはっはっはっ!」

 突然、アズエルはエネルギー衝撃波を放射しながら大声で笑い始めた。

「迂闊だったわ。気ばかりが焦って、お前の手を推測する暇さえなかったとはな。――流石、私の半身を保つだけのコトはある」
「――本当に、そう思っているのか?」

 アズエルは、はっ、と驚いた。勝利を確信しているハズの超龍姫が、もの悲しげに自分を見つめているコトに気付いたからである。

「もはや私にもイレイザーヘッドの超振動を引くコトは叶わぬ。――それを承知で、あんたはイレイザーヘッドの攻撃を受け入れたのではないの?」
「何を――」

 鼻で笑うアズエルに、超龍姫は首を横に振った。

「始めから死ぬ気だったのだろう、アズエル?」
「――――」

 アズエルの顔が硬直した。

「いや、死ぬ意志自体は自覚していなかったが、それとなく感じていた。この闘いの真実を気付き、ワイズマンの真意に気付けずリズエルに刃向かっていた自分を酷く後悔している。――“あたし”にはそんなふうにしているように見えてならない。――泣いているようにしか」

 唖然とするアズエル以上に、観月は超龍姫の様子が少しおかしいコトに気付いた。超龍姫の一人称は「私」であるとプログラムしたのは観月本人だった。そしてその声や口調も、それと微妙だが異なっていた。
 いやそれは、今に感じたコトではなかった。そう、観月と口づけを交わした時点から、彼は超龍姫の異変を感じ取っていた。

「もしかすると――――」

 ある仮定を思い浮かべた観月の目の前で、次第にエネルギー衝撃波の威力を失っていくアズエルが、ふっ、と笑ってみせた。

「…………俺にも理解出来ないものを勝手に見抜くなよ。――いや、やっと目覚めてくれたのか?」

 そう訊くアズエルは、どこか嬉しそうであった。
 超龍姫は、ゆっくりと頷いてみせた。

「……そうらしい。アルトの時の記憶がまだあるけどね。……よりにもよって9年間、男やらされていたなんで失礼だよなぁ、全くあのおっさんたちめ」

 苦笑する超龍姫は、やがて、ふっ、と寂しげに微笑んだ。

「……あんたが本当に覚醒させたかったのは、あたしなんだよ」
「さあな」

 アズエルの身体が小刻みに震え出す。イレイザーヘッドの超振動がもたらす衝撃波が、アズエルのエネルギー衝撃波を上回り始めたのだ。

「……だけど、あたしはあんたのそのやり方は認めない」
「認めるも認めないもない。――勝負はあった」
「言ったろ?この勝負、正義も悪もない。そして、全てを正し、あんたを救うって!」
「無駄だ。イレイザーヘッドの衝撃波はこの柏木梓の肉体を分子分解させてしまう――」
「諦めるなっ!」

 超龍姫の一喝に、アズエルは、はっ、となった。

「忘れたか?あんたは護りたいものがある、って言ったろ?――――あたしを置いていく気なの?」

 その声に、アズエルは大きく瞠った。それは、観月にも判る、超龍姫とも先ほど感じたいなる口調のそれともまた異なっていた。第三の存在か、いや――

「……目覚めたんだな。……我が半身よ」

 アズエルの何と晴れ晴れとした顔だろうか。目前に死を控えたものがする悟りなのであろうか。

「これで心おきなく――」
「言ったろう、アズエル?!あんたは助ける!それがあたしの闘い方(やりかた)だっ!」

 その一喝は、第二の存在の口調であった。それを耳にした観月には、何となく妻が叱る姿を想起させるものであった。
 アズエルも、そんな超龍姫が面白いのか、絶対の危機の中でくすくす笑っていた。

「……リネットと次郎衛門の末裔は威勢がいいな。あの二人の出会いは、神が望んだ理想的なものなのかも知れないな」
「あんただって、同じようなもんだ」

 超龍姫も、にぃ、と笑った。止めるコトの出来ぬ死の運命を与えている相手に、屈託のない笑みを浮かべてみせた。
 異様な光景であった。殺し合う中で、対峙するその二人が、互いを嬉しそうに語る。異質で、しかしとても哀しい光景であった。

「……なぁ、超龍姫」
「?」
「……わたしたちの出会いは、いったい何だったというのだろうな?」

 アズエルの手からはもうほとんどエネルギー衝撃波は消えかかっていた。アズエルの全身は激しく震え始め、頭髪が衝撃を受けて浮き上がっていた。その静かな表情は、覚悟を決めたようであった。
 イレイザーヘッドを構える超龍姫は、ゆっくりと首を振った。

「…………すべては、ひとつに還るために。――そうだろ、あたし?」

 その刹那。アズエルの手からエネルギー衝撃波が消滅し、イレイザーヘッドの超振動波がアズエルの全身を飲み込んだ。――ハズだった。

「う――――わっ――――――」

 突然、超龍姫の胸部から放たれた黄金色の光が――それはまさしく、マルマイマーがエクストラヨークを撃退した時に発動させた〈The・POWER〉の力を揮った時のそれと同じ煌めきの色が超龍姫とアズエル、そしてメンテナンスルームを飲み込んだ。


「――今の黄金色の光は?」

 キングヨークの艦橋で、固定アームが外れずに発進できず対策を練っていた柳川と特戦隊の三人は、TH壱式から突然放射された黄金色の光によって問題の固定アームが破壊され、ようやく発進できるようになった。柳川のサポートとして操舵管制処理を行っていた葵が、火器管制処理を行っていた琴音に訊いてみたが、琴音も首を傾げるばかりであった。

「イレイザーヘッドの光とばかり思ったけど……まさかあれはあの〈The・POWER〉の……」
「何をぼうっとしているか松原!メガフュージョンを開始するぞ!」

 柳川に一喝され、葵は慌てて操舵管制用コンソールのほうへ向き直った。今は、この頭上にいるエクストラヨークとの対決に専念するだけであった。


 観月がようやく視界を取り戻したのは、メンテナンスルームが黄金色の光に飲み込まれてから二、三分経った頃だった。強烈な光を受けて目が少し痛かったが、ようやくメンテナンスルームの中央で、アズエルの身体を抱き起こしている超龍姫の姿が見えた。

「お、おい、超龍姫……?」
「怪我はないか、観月」

 と男の口調で訊いたのは、アズエルではなく、超龍姫のほうであった。これには観月も戸惑ってしまった。

「俺――いや、私だ、アズエルだ」
「――――え?」

 観月はぽかんとするが、直ぐに、超龍姫が抱き起こしているアズエルの姿を見て、あっ、と驚いた。超振動の直撃を受けたのに全くの無傷だったからである。

「柏木梓のオゾムパルスが発動させた〈The・POWER〉の光が、イレイザーヘッドの超振動を消去したのだ。――これが、人類と融合を果たした鬼神の末裔の力なのか」
「……格好……よか、ないけどね」

 と、アズエルが――いや、柏木梓は力なく笑ってみせた。

「……なんか、さ、……うまくアズエルの魂とシンメトリーが取れたからチャンスと思って肉体、入れ替わってみたは……良いけどさ……こっちのダメージのコト忘れてたわ」
「入れ替わっ…………た?」
「ああ」

 超龍姫は頷いた。

「アズエルは超龍姫の身体にひとつとなり、柏木梓の魂は本来あるべき所に戻った。――私ですら諦めていたこの結末を、我らが誇り高きエルクゥの血を引きし末裔、柏木梓が望み、実現した」
「……そう……なんだ」

 観月は、安堵の息を吐くように言った。笑い切れていないのは、まだうまく事態を飲み込めていないためであろう。
 まもなく観月の脳裏に、ある言葉が浮かんだ。
 奇跡?――いや、違う。
 もっと――もっと、奇跡などでは語り尽くせない、感嘆と賛辞の代名詞であった。
 続いて観月の脳裏に、普通の言葉が思い浮かんだ。
 在り来たりな言葉。誰もが自然に使う言葉。

 お帰りなさい、と。

 こうして柏木梓は、死の世界から帰還した。
 勇気ある者のひとりとして。

(Aパート終了:真・超龍姫(アズエル・フュージョンVer.)の映像とスペック表が出る。Bパートへつづく)

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