東鳩王マルマイマー第19話「鬼神の子供たち」(Aパート・その2) 投稿者:ARM 投稿日:3月10日(金)12時10分
【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 綾香が生機融合体・楓をEI−09と認定する少し前、TH壱式メンテナンスルームでは、修理が完了したレフィとドラゴン・アルトが、鬼界四天王の一人、アズエルと向かい合っていた。

「修理が完了したようだな。――では、再戦しようか」

 アズエルは嬉しそうにいう。完膚無きまでに倒した超龍姫の修理を手伝ったハズのこの鬼女は、その手で再び破壊しようとしているのだ。
 すべては、一つに戻るために。超龍姫の中にいる”半身”を取り戻すために。

「超龍姫の中にいるもう一人の”アズエル”を取り戻すためには、その魂を極限にまで高める必要がある。超龍姫のTHライドを臨界ギリギリまで発動させるために、俺は超龍姫を強化する手伝いをしたのだ」
「…………」

 あくまでも闘いを望む鬼女を、コンソールパネルの前に立つ観月は憮然とした顔で見つめていた。

「……観月主任」

 そんな観月に、レフィは声を掛けた。一度目は無視され、二度目は観月の側に近寄って呼びかけて、ようやく観月は振り向いた。

「……レフィ」
「大丈夫です。今度は負けません」

 心配そうな顔をする観月に、レフィは、にこり、と笑って答えた。

「だって今度は、強化されたアルトが居るんだから」
「…………」
「…………主任?」

 レフィは戸惑った。そして、観月が昏い顔をする理由が、またアズエルに負けるのではないか、と言う不安の所為でないコトに気付いた。

「……どうしたんです?」
「レフィ」

 不安がるレフィの横に、新型のドラゴン・ボディを得たドラゴン・アルトが立った。

「アルト……」
「観月主任。心配要りません」
「しかし…………」
「何を不安がられているのです?」

 訊かれて、観月は俯いて押し黙った。

「「主任――」」
「僕は――」

 ようやく観月は顔を上げた。

「…………正直、お前たちがこれ以上傷つくのを見たくない」
「「…………?」」
「だって……」

 辛そうな顔をする観月は、整備中に拭いて綺麗にしたレフィの頬を優しく撫でた。

「……お前たちは沙織をモデルにして造ったんだ。……僕が……つまらないコトに拘ったばかりに…………最低なコトを考えたばかりに――――?」

 言い切ろうとしたそこへ、レフィが、自分の頬を撫でている観月の手に自分の手をそっと重ねた。
 レフィは真っ直ぐ観月の顔を見つめていた。

「レフィ……」
「そんなコトはありません」

 アルトは竜の首を下げて観月の顔に近づけながら言った。

「あなたが、私たちを奥様の顔をモデルに造られたのは、奥様に対する深い愛情があってのコトです。決して、観月主任の業で生み出されたものではありません」
「――――」

 観月は絶句した。整備中の、アズエルとのやりとりを二人とも聞こえていたのだ。

「……聞こえていたのか」
「電源は確かにカットされていました。――しかし、その間、あたしたちは夢――夢と呼んで良いのでしょうか、そんな不思議な光景を観ていた覚えがあります」
「夢…………」
「機械仕掛けの私たちが、果たして夢などみられるのでしょうか。――マルチ姉さんは特別な方ですから夢を見てもおかしくはないのですが、私たちがまさか夢を見るとは思いもしませんでした」
「それは、お前たちの中にある魂が見たものだ」

 答えたのは、観月たちの会話を黙って聞いていたアズエルだった。

「もともとお前たちのTHライドには、女のアズエルと、柏木梓の魂が収められている。恐らくは、この闘いでお前たちのTHライドが限界まで稼働したコトで、魂が活性化し、センサーを介さずに見るコトが出来たのだろう。ふふふ、確実にもう一人のアズエルが目覚めようとしているらしいな」
「……そうなのですか?」

 アズエルに一瞥をくれた後、アルトが観月に聞いた。観月は、恐らく、と答えて頷いた。

「では、自分のこの意識は、もしや――」
「お前たちの人格は、どちらかの、いや両方の魂の影響を受けている可能性がある。――まだ思い出せないか?」

 アズエルはアルトに訊いた。アルトは竜の顔を観月に向けたまま戸惑っていた。

「自分は――――?!」

 アルトがそう言った時だった。この竜の顔では殆ど表情など判らないが、しかしその雰囲気は、人間で言うなら、何かを閃いた、そんなふうだった。

「アルト――?」

 最初に気付いたのはレフィだった。

「アルト――」
「――大丈夫だよ、レフィ」

 そう言ってアルトは首を横に振った。

「――そう。”あたし”たちは今は、果たすべきコトを果たす。超龍姫になろう」
「う、うん」

 頷くも、しかしレフィは何故か戸惑っていた。

「どうした?」
「だ、だって、さ……今……アルト、あなた――」
「何をもたもたしている。早く超龍姫になれ」

 アズエルが不機嫌そうな顔で促した。

「んなコト、判っているわよ!」

 レフィはアズエルのほうに向いて怒鳴り返した。その剣幕に、アズエルは肩を竦めてみせた。

「今度は負けないからね!アルト!良いわね?」
「望むところよ。――主任、お願いします」

 アルトがそう言うと、頷く観月はコンソールパネルのキーボードを素早く叩き、上のモニタ上にMMMのマークが入ったOS画面を開いた。

「スターティングプログラム、シールアウト!セルフ・シンメトリカルドッキング・プログラム、ロード!」

 するとコンソールパネルの手前側に内蔵されている赤外線通信ポートが稼働し、アルトとレフィに初回起動テスト用に用意されているシンメトリカルドッキング制御用キーコードデータを転送した。マルマイマーもそうだが、ドッキング用のプログラムは様々な状況にも対応できるよう複雑に組まれている為、使用する記憶容量が膨大なモノとなっている。それ故に常駐など出来ず、当然ながら他のソリッドにも影響を与えるために合体制御用プログラムは内蔵されていない。承認を受けるコトで、プログラム本体をホストから転送し、合体後はデリートされるようになっているのだ。今回はメンテナンス用に用意されている合体制御プログラムで、アルトのデータ保存領域に既に圧縮されてインストールされており、それを起動させるバッチプログラムを送信したのである。

「「ロード完了――シンパシーシグナル、マーク!!シンメトリカルドッキング!!」」

 そう言うとレフィが宙にジャンプし、とんぼを切った。するとアルトの頭部から尻尾が浮き上がり、90度スライド回転する。すると胴体部が逆さになった胸部アーマーであるコトが判明し、肩の部分に、スライドしていた頭部と尻尾がドッキングした。頭部が右腕に、尻尾は左腕となった。胴体部が腰に当たる箇所から大きく口を開くと同時に、脚部が外れて手前に浮き上がり、変形してレッグアーマーとなった。その空いている空間に、レフィが逆さになって飛び込むと、脚部にレッグアーマーを装着し、開放されている胴体部に頭から入り込んだ。レフィの肩から出現したドッキングポートがアルトの内部にあるドッキングポートと合体すると、アルトが背負う黒い翼が羽ばたき、身体を起きあがらした。
 そして足から着地すると開いていた胴体アーマーが閉じ、レフィの両腕部が、アルトの強化腕部に吸い込まれて一体化した。
 やがて身を大きく逸らすと、胴体の中からヘッドギアを装備したレフィの顔が現れ、最後にアルトの頭部にあった角が額にドッキングし、ドッキングが完了した。

「――――?!」

 ドッキングが完了した瞬間、今まで悠然としていたアズエルの顔が豹変した。
 その唖然とする鬼女の変貌の理由を、観月も理解していた。
 ドッキングした超龍姫の四肢から発せられる、何者も圧倒する凄まじい気は、メンテナンスルームの空気を確かに変化させていた。超龍姫が合体した瞬間、このメンテナンスルームが急に冷え込んだような気がしたのだ。しかし実際に気温が下がったわけではない。超龍姫から発せられるこの気――殺気に近い闘気が、アズエルと観月に著しいプレッシャーを与えていたのだ。
 二人を圧倒させた超龍姫は、その背にある黒き竜の翼をはためかせ、悠然と身構えた。

「超龍姫――――いや、真なる力を秘めた超龍姫。さしずめ、真・超龍姫と言うべきか」

 アズエルはこのプレッシャーを楽しんでいるかのように笑ってみせた。だがその笑みはとてもぎこちなかった。

「……とんだ化け物を直す手助けをしてしまったようだな、俺は。――だが」

 アズエルは、口元を横に大きく広げた。

「――こうでなくては、闘い甲斐はない」

 歓喜しているのだ。この鬼女は、最高の獲物を目の前にして、快楽にも似た歓喜に打ち震えているのだ。

「……観月主任」

 合体が完了した超龍姫は、唖然としていた観月のほうへ振り向いた。

「最高の力をありがとうございます」

 そう言って微笑む超龍姫に、しかし観月は困却した顔を浮かべ、唇を噛みしめた。

「……主任?」
「……僕は」
「?」
「…………何のためにキミを、沙織の顔にしたのか判らなくなってきた」
「主任……」
「沙織を汚した理不尽なモノへの怒りを晴らすための道具に仕立てるつもりで、その実、沙織の姿をしたモノが傷つくを見て自己満足に耽っていた――ハズなのに…………」

 観月はコンソールパネルの上に置いた両手をぎゅっ、と強く握りしめた。

「……そのどっちにも落ち着かない…………また、沙織の顔をするモノを闘いに送り出そうとしているコトに迷っている。……俺はもう、本当に沙織を愛しているのかどうか判らなくなってしまった……」

 観月は俯きながら、まるで懺悔しているかのように言った。いや、事実、懺悔であった。観月の妻に対する愛憎の念が、納得のいくその理由を得られずに迷っているのだ。勢いとも狂気とも付かぬ自らの暴走に、必死になって答えを導き出そうと足掻く、哀れな男であった。
 そんな観月を見て、超龍姫はいたたまれなくなった。そんな思いが、口をついて出たのであろうか、

「……こぉら、シャキッとしろ、とおるクン」

 その声に、観月ははっとして顔を上げた。
 目の前に沙織がいた。――いや、超龍姫だった。
 超龍姫が、沙織の顔をしていた。形状的には確かにその通りだが、まさか雰囲気まで全く似てしまうとは。
 それは、以前レフィが、藍原瑞穂が太田香奈子の回復祝いで観月の家に(半ば強制的に)観月家を訪れた時に認識した、沙織の様子を思い出して演じているのだろうか。

「さ……沙織?」
「一家の大黒柱が、いつまでもうじうじと悩んでいない!――だいたい、迷ってばかりでいつまでも結論が出せないコトが、本当に大切なコトだと思っているの?」
「え……?」
「迷いがあるのは、それが自分にとって本当に大切なコトではないからなのよ。――真実は常に、結論にあるのよ」

 超龍姫は、叱るような口調で言いながら観月の側に近寄った。

「本当に大事な、大切なコトなら、迷いなんて存在しない。――私はその結論なんです」

 急に超龍姫の口調が穏やかになった。それは演じていた沙織の言葉ではなく、超龍姫の言葉だと観月は直ぐに理解した。

「観月主任は沙織さんが憎くて、沙織さんという存在を傷つけたくて、沙織さんの顔を模して私を作ったのなら、それこそ誤解です」
「誤解……?」
「はい」

 超龍姫は嬉しそうに笑った。そしてそれこそ、観月が子供の頃に見慣れた、沙織の笑顔そのものであった。

「もし、私が主任の言うようなタダの道具なら――私は、貴方を嫌いになっていたハズです。そして沙織さんも、貴方のコトを嫌いになっていたでしょう」
「……」
「そのコトは多分、――いえ、沙織さんも気付いているコトです」
「な――――」
「だって、私は以前、沙織さんとお話ししているのです。……酔っぱらっていましたけど(苦笑)、沙織さんは自分と同じ顔をする私を、快く受け入れてくれました」

 言われて、観月はレフィが訪問した日の夜、沙織がまるで妹が出来たかのように機嫌が良かったコトを思い出した。あの時は特に不思議には思わなかったが、沙織が自分と同じ顔をした機械仕掛けの――戦闘兵器に嫌悪感を抱かないでいたその理由を、今頃になって不思議に感じた。沙織には、人類防衛のために闘っているロボットであるコトは告げていた。しかしそんな大義名分だけで、自分の顔を使用されている理由など――

「――――――」

 突然、観月の顔が呆けたのは、ある事実に気付いた為である。
 何故、もっと早くに気付くコトが出来なかったのであろうか。沙織は、自分の顔を、超龍姫の顔のモデルにした理由を、観月に一度も訊いていない事実に。
 一見、おおらかで大雑把な女にみえるが、しかし細やかなところで気が行き届き、意外と小心な面もある。子供の頃からのつき合いである観月にはそれがよく判っていた。
 そんな女が、その肝心なコトを忘れているハズがあろうか。
 沙織は、自分以上に他人に気を遣うほど神経の細やかな女で――――

「…………まさか……沙織…………気付いている……のか?」

 そう呟く観月の口元は震えて歯はガチガチと音を立てていた。胸は張り裂けそうに痛く、頭の中はひどく混乱してまともに離すコトさえ出来なかった。しかし実のところ、超龍姫が沙織と重なって見えた瞬間から、そんな状態だった。まるで、沙織本人に、自分の心の闇を知られて狼狽しているかのように。
 やがて観月は確信した。沙織は、心に負荷をかけまいと祐介によって破壊されたハズの、あの悪夢の一夜の記憶を取り戻しているコトに。
 そうでなければ、説明がつかない。覚えているから、あの毒電波の災禍を防ぐために闘っているロボットの顔の一つが、自分の顔をモデルにしているコトを黙認するハズもない。
 そして、自分の真意も、きっと。――――

「――主任?」

 目眩を覚えて倒れ込む観月を、超龍姫は慌てて抱き留めた。観月の呼吸は過呼吸状態のようにぜいぜいと荒く、顔はすっかり青ざめていた。

「しっかりして下さい、主任!」
「あ――、ああ、ああ」

 耳元で聞こえる超龍姫の声にようやく我を取り戻し、深呼吸を繰り返して呼吸を整えた観月だったが、次第に溢れ出てくる涙だけは止めるコトが出来なかった。

「……主任」
「僕は――僕は――――取り返しのつかないコトを――取り返しのつかないコトをしてしまったんだ――キミのモデルに沙織を選んだ時点で、すべてが――――」

 観月は超龍姫の胸に顔を埋めて泣きながら言った。

         Aパート(その3)に続く

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