東鳩王マルマイマー第19話「鬼神の子供たち」(Aパート・その1) 投稿者:ARM 投稿日:2月22日(火)21時01分
【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

「――マルマイマー、いや、マルチよ!良く聞け、これはお前にとって重大な――そして、お前自身の真実なのだからなっ!」
「――――言うなっ!」

 ワイズマンの言葉に、青ざめていた耕一が思いっきり怒鳴った。額には汗さえ滲んでいた。まるで何かに怯えているようであった。

「……頼む……言わないで……くれ…………」
「無駄だ。いずれ、マルチも知るコトになる。――マルチよ。お前は、人間だ」

 ワイズマンが告げたそれは、既にマルチも知っていたコトであった。それくらいではもう、マルチも驚かなかった。
 だが――――

「お前は、柏木耕一と柏木千鶴が契り、千鶴の中に宿った生まれるはずだった命――つまり耕一と千鶴の娘なのだよ」


「――――」

 浩之はTHコネクター内で唖然となった。いや、浩之ばかりか、オペレーターのあかり、そして、ようやく回線が回復し、マルマイマーたちの戦いが把握できるようになったメインオーダールームに居た綾香たちも、そのワイズマンが告げた真実を聞いて唖然となった。しかし、オペレーター席に着いた〈レミィ〉と長瀬主査だけは、驚きはせず、複雑そうな顔をして黙り込んでいた。
 しかし意外なのが、MMM長官である綾香が、その事実を知らなかったコトであった。

「…………ど……どうして…………?」
「――綾香ぁっ!いったいこれはどういうコトや?」

 血相を変える智子が、長官席にいる綾香のほうをみて怒鳴った。

「マルチが人間やと――――」

 その悲鳴のような声に、THコネクター内の浩之は、はっ、となった。言われてみれば、朝比奈美紅やリズエルそして魂の存在となっている柏木千鶴が浩之に告げたコトを、智子たちに確かめていなかった。
 つまり、マルチが人間であるという話を、綾香も智子も知らされていないのだ。これはいったいどういうコトなのか。

「……綾香。マルチが人間だってコトを聞かされていなかったのか?」

 浩之が訊くと、綾香は青ざめた顔で頷いた。

「……あたしだって、知らされていなかった――主査!」

 綾香は長瀬のほうを見て、

「あなたなら――あなたは知っていたの?」

 長瀬は即答せず、暫し黙り込んでから、やがてゆっくりと頷いた。

「…………重要機密事項中、機密ランクSA。――たとえ長官であろうとも、これは一部の限定された者以外は秘密にされている」
「なんだと――――うわっ!」

 怒鳴ろうとした浩之は、しかしそこで突然、初音をさらったワイズマンの縦となってそびえる生機融合体・楓がマルマイマーたちに触手攻撃を開始してきたので驚かされた。


「――うわっ!――え?」

 攻撃をかわしたマルマイマーは、生機融合体・楓が自分を睨み付けているコトに気付いた。

『こいつ…………え?』

 電脳連結でマルマイマーの視点を確保している浩之は、やがて、生機融合体・楓が何か呟いているコトに気付いた。

「…………柏木千鶴…………リズエル…………」
『……何?』
「……………………許さない…………お前たちは…………許さないから!」

(「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出てOPが流れる。今回より〈ラウドネスVV〉を抱える志保と、TH五号ことMMM所属衛星軌道要塞フィルスノーンをバックに、ティリアとサラ、エリアら〈三賢者〉と、ルミラや緒方英二たち〈神狩り〉が顔を出す。Aパート開始)

 丁度その頃、地上では、東京湾に出現したエクストラヨークに騒然となっていた。
 MMM天王洲ゲート前にいた警官たちは、来栖川警備保障本社ビルに接近してくる巨大な宇宙船を見て、混乱が起こり始めていた。

「待て待て、諸君」

 そんな中、一人だけのんびりとした顔で、騒然とする警官や刑事たちを落ち着かせようと手を振っている男がいた。

「長瀬警部、何を呑気なことを……!」

 長瀬警部の部下である若い刑事が、怯えた顔でとがめるように言った。

「あれはこの間、新宿を壊滅に追い込んだ化け物なんですよ!例の、防衛組織が機能していない今、――しかし我々警察の相手に出来るヤツでは」
「だから落ち着け、って」

 長瀬警部は混乱している部下に苦笑し、

「アレ見てみ」

 そう言って長瀬警部は、モノレールの天王洲アイル駅のほうを指した。言われて、部下はその方向を見ると、駅舎の屋根の上にいる三人の人影に気付いた。

「な――なんて奴らだ、あんなところに!早く避難させる――」
「あ、あれ、さっき俺が許可した」

 のほほんとして言う長瀬警部の言葉に、部下は口をあんぐりとさせた。

「と言っても素人さんじゃなく、内調さんだ」
「内調――内閣調査室ぅ?」

「さぁて」

 天王洲アイル駅の屋根の上にいた長岡志保は、手に抱えていたギターケースから愛用の武器「ラウドネスVV」を構え、迫り来るエクストラヨークに向かい合った。

「やっぱりこのあたしがいなきゃ駄目なのよねぇ。このまま主人公の座奪っちゃおうかしら」
「何、ワケのワカランコトを言ってるの、志保」

 志保の隣にいた、腰まである長い髪を潮風に靡かせ、革ジャンと短パン姿というえらく不用心な格好の美女が呆れるように言った。

「それより、志保だけで相手できるの?」
「ダイジョーブ!だいたい、生物の相手しかできないサラこそ、とっととMMMの援軍に回ったら?」

 サラと呼ばれた美女は、うーん、と首を傾げて、鞭を持っていた左手で髪をすいて苦笑した。

「……いや、さ、あらかた中のほうは片づいたみたいだから。折角久しぶりに〈サイコフルード〉を揮えるかと期待して来たけどさ、これならとっととティリアといっしょにフィルスノーンに戻れば良かった」
「フィルスはティリアさんとエリアさんの二人で充分機能するんだから良いんじゃない?」
「何よ志保、この〈三賢者〉が一人、サラ・マクドゥガルにケチつける気?」
「いい加減にしたまえ、二人とも」

 睨み合う二人の後ろで沈黙していた青年が、涼しげな顔で言った。

「だけどさぁ、緒方のダンナぁ、この色ボケ娘が……」
「誰が色ボケ娘ですってっ!このフーゾク女王様!」
「あによぉ!」
「……二度は言わないよ」

 緒方と呼ばれた銀髪の青年は、かけていた丸眼鏡のづれを掌で押し上げて戻しながら、重く低い声で言った。その声に、睨み合っていた志保とサラは思わず顔を引きつらせ硬直した。

「俺、聞き分けのない人は嫌いなんだから」
「「あ…………は、はい」」

 あれだけ睨み合っていた志保とサラが、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。どうやら二人とも、この緒方という青年を怒らせるコトを酷く恐れているらしい。

「判れば宜しい。――しかしお嬢さんの言うとおりかもね。ここは俺とお嬢さんの”力”で何とか出来よう。サラさんは下にいるルミラ師匠の援軍に向かってくれたまえ」

 そういうと緒方は、腰に下げていた金属製の手甲を手に填めた。

「お嬢さん」
「あ――、は、はい!」
「〈ラウドネスVV〉の準備はどうかね?」
「え、ええ、後はあいつの固有振動周波数を測定するだけ――」
「では、その時間を俺の〈インドラ・パニッシャー〉で稼ぎます」

 そういうと、両手に金属製の手甲を装備した緒方が、志保の横を抜けてエクストラヨークに近づいた。
 緒方英二。元有名なミュージシャンで、突如引退して緒方プロを設立し、実の妹である緒方理奈をアイドルとしてプロデュースし大成功を収めた、緒方プロの社長である。志保も彼がミュージシャン時代に発売されたCDを揃えていたが、その彼が自分と同じ〈神狩り〉の一人である事を知ったのはつい最近のコトであった。そして彼がミュージシャンをやめた理由が、4年前に出現し世界各地に災害をもたらしたモスマンの出現により、先祖代々受け継がれていた〈神狩り〉の使命に殉じる為であった。
 〈神狩り〉。かつてエルクゥ=人類原種が地球から旅立った際、遺伝子操作によって一部の人類を改造強化し、望まれざる進化を果たした存在を抹消する使命を与えられていたのだが、〈神狩り〉はその末裔である。だが彼らはすべてが特殊能力者と言うわけではなく、〈神祖〉と呼ばれる初代〈神狩り〉によって造り出された〈超兵器〉を制御・操作出来る資格を与えられている。志保が持つ、目標物の固有振動周波数を検出して破壊する〈ラウドネスVV〉や、生体物のみを限定にした破壊力を持つ、サラの鞭〈サイコフルード〉のように、この緒方英二も〈神祖〉から受け継がれた〈超兵器〉を所有していた。
 それがこの手甲、〈インドラ・パニッシャー〉であった。緒方は両腕をゆっくり上げると、頭の上で両手を重ねた。するとその手甲から光が放たれ、そのまま頭上遙か先に昇っていった。
 手甲から放たれた光が空に消えた刹那、突然、青空の奥から無数の凄まじい稲妻が飛来し、次々とエクストラヨークを直撃した。そのエネルギーは、強固を誇る鬼神の方舟を揺るがし、ついには海上へ叩き落としたのである。

「……すっごぉ!あれが古代インドで起きた、世界を滅ぼし兼ねない超兵器を互いに使用されていた大戦を、〈神祖〉様がたった一撃で集結させた伝説の超兵器……”雷帝の鉄槌”」
「ほら、お嬢さん、唖然としていないで聞き分けたまえ」
「や、やってます――」

 言われて志保は慌てて〈ラウドネスVV〉のアナライザーを操作する。今の攻撃で生じた反響から、エクストラヨークの固有振動周波数を計測しているのだ。
 言われたら言い返す。負けず嫌いの志保がここまで恐れ入る緒方英二のひととなりは不明だが、この志保の様子から察するに、彼の機嫌を損ねると相当恐ろしい目に遭う事を知っているのだろう。あるいはこの〈超兵器〉で容赦なく攻撃するのかも知れない。こういう温厚そうな人物が怒ると怖いのは世の常である。

「じゃあ、あと、任せたわね。あたしはMMMバリアリーフ基地の応援にまわるから」

 サラはそう言うと翻り、屋根から飛び降りた。そして手にする鞭で街路灯を絡め取ると、宙でとんぼを切って落下の加速を減らし、20メートル下の道路に悠然と着地した。
 間もなく、エクストラヨークが浮上するが、同時に志保は、チューニング完了、と呟いてから、にぃ、と不敵そうに笑ってみせた。

「仕事、早いね」
「ついこの間アレとはやり合ったばかりですから」
「いやいや、それでも早いほうだよ。うーん、どうだね、今度、理奈のバックで演奏する気はないかね?」
「何、ここで表の仕事っ気出しているんですか(笑)――おっと、やばそう」
「急ぎたまえ」
「あのですね(笑)――ええい、志保ちゃんのワンマンショー、いってみようかっ!今回は緒方英二プロデュース、”SOUND OF DESTINY”バージョンっ!ファイアッ!」


「……なんですかアレ?ギター何か持って演奏して?」
「ナントカと煙は高いところが好き、っていうからねぇ」

 さりげなく酷いことを言う長瀬警部の目の前で、志保はエクストラヨークの固有振動周波数に合わせた衝撃波を〈ラウドネスVV〉から放射した。その直撃を受けたエクストラヨークは表面が一斉に泡立ち始め、再び海上へと墜落してしまった。

「うっそぉ?」
「彼女、まるでほら、あのドラえもんに出てくるでジャイアンだね」

 その長瀬警部の感想を聞いたら、志保はきっと振り返って彼の固有振動周波数を測定して〈ラウドネスVV〉で吹き飛ばしてしまうだろうコトだろう。


 どこか緊張感の欠けている地上とは裏腹に、MMMバリアリーフ基地内では、現在も死闘が続いていた。
 生機融合体・楓は、マルマイマーを執拗に狙って襲いかかっていた。

「うわっ、わっ!」

 マルマイマーは両翼のウルテクエンジン・ブレードを開き、ホバリングしながら触手攻撃をかわしていく。ゴルディアームと霧風丸、そして撃獣姫がマルマイマーを救うべく、触手と本体を狙って反撃していた。

「慣性制御っ!」
「クサナギブレード!」
「うなれ疾風!とどろけ雷光!――風虎牙(フォン・フー・ガォ)!!ええい、きりがないっ!」
「――まずい!ワイズマンがいなくなっている!」

 最初に気付いたのは、素手で触手を粉砕していたルミラであった。一番奥にいたハズのワイズマン=柏木賢治は、恐慌状態の初音を抱き抱えたまま、既に逃走していたのだ。

「しまったっ!――楓ちゃん、お願いだからやめるんだ!」

 ルミラ同様に拳で触手を粉砕していた耕一は、ルミラのその言葉に驚き、暴れ続けている生機融合体・楓の説得を試みた。
 その声を聞いた途端、生機融合体・楓の動きが止まった。それを見て耕一は意外そうな顔をして、ホッとした。

「よかった――何?!」

 安心したのもつかの間、生機融合体・楓は放出していた触手を体内に引き戻し、そして全身の表面を波立たせた。すると突然卵形になってからゆっくりと人型に変形して行ったのである。
 やがて完成したその新たな生機融合体・楓を見て、マルマイマーたちは唖然となった。
 両腕はマルマイマー、腰からは下は超龍姫、そして胴体部と頭部は霧風丸のそれをした、巨人になったのである。

「取り込んだコピーをベースに再構成したか――あの顔は」

 霧風丸は、静かにマルマイマーたちを見下ろす巨大な自分の顔を見て戸惑った。
 それはまさしく、核となっている柏木楓の貌であった。そしてその冷酷そうな眼差しは、確かにマルマイマーに注がれていた。

『何故、こんなにまでマルチのコトを狙う……』

 …………柏木千鶴…………リズエル…………許さない…………お前たちは…………許さないから!

『……もしあれが柏木楓だというのなら……何故、実の姉を憎む……?』

 THコネクター内部の浩之は、楓の真意が判らず戸惑った。
 その横で、マルマイマーから送られてくる映像を見て、少し顔の青い綾香が一度深呼吸してから、ついに宣言した。

「……現時刻をもって、彼女を、EI−09と認定、呼称する」

         Aパート(その2)に続く

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