東鳩王マルマイマー第18話「鬼哭」(Bパート・その1) 投稿者:ARM
【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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(MMM−SPT99・撃獣姫の映像とスペックが出る。Bパート開始)

 9年前。――一夜ばかり現代に近い、朝。
 長瀬はダリエリの協力を得て、死んでしまった柏木千鶴のオゾムパルス体すなわち魂を、リズエルの遺産であるTHライドに収めるコトに成功した。
 耕一や梓たちは、この二人が行ったコトをよく判っていなかった。柏木千鶴から魂を抽出するさい、なにか神妙な面もちで作業をしていたのだが、柏木の者には誰一人としてその意味を理解出来た者は居なかった。ただ一人、初音だけが、彼らが侵入した、地下に眠る宇宙船と精神感応によって意志疎通を図ることが出来たのだが、しかし長瀬たちが千鶴に施している施術は、宇宙船を介しても理解出来なかった。

 長瀬は、フロアの中央にあるテーブルらしき上に置かれたTHライドを憮然とした面もちで見つめていた。
 耕一たちは、千鶴の亡骸を抱えて、柏木邸に戻っていた。ここにいるのは、長瀬とダリエリだけであった。先ほどまで初音も残っていたのだが、ダリエリが後は任せろ、というと慌てて帰っていった。

「……キミは戻らないのかね?」

 やがて長瀬は、コンソールパネルで何かの操作を行っているダリエリに訊いてみた。

「――気になるコトがある」
「気になるコト?」
「この方舟(ヨーク)は、墜落以来、ずうっと〈聖なるレザム〉に信号を送り続けている。私の知るところではなかった。――おそらくは、反抗した男どもが発信してしまったのだろう。…………どうやら接近してくるものがある」
「え――――」

 驚く長瀬に、ダリエリはコンソールパネルにあるスイッチらしきモノに触れると、正面にあるスクリーンらしきモノが発光した。するとそこには、地球をかたどった円形の図と、それに近づいてくる星形の物体があった。

「これは――――」

 それをみてダリエリは唖然となった。

「何だね、いったい?」
「アリエルの方舟――いや、〈クイーンJ〉の旗艦だ……何故?」
「〈クイーンJ〉?何だねそれは?」
「……我らが〈エルクゥ〉の女王が乗る方舟だ。――――星々を渉る時、この方舟が〈聖なるレザム〉となる」
「では、君たちの一族が地球にやってくるというのか」
「いや――」

 首を横に振るダリエリは、信じられないものを見ているような目でスクリーンを見つめていた。

「……一艦だけなのだ…………もし、地球に”戻ってくる”のなら、一族の者たちを引き連れて来るはずなのに――まさか?」
「おい、どういうコトなんだ?」

 ダリエリの言葉が理解出来ず不安がる長瀬に、しかしダリエリは答えようとせず、コンソールパネルを操作する手を一層忙しくした。

「……一族が滅んだか、あるいは――〈クイーンJ〉が追放されたのか!」
「追……放?」
「いづれにせよ…………地球に危機が迫っているコトには変わりない」
「な――――」

 長瀬が絶句するとようやくダリエリは長瀬のほうを見た。

「――〈クイーンJ〉の力は、君たちの言葉で言う、神に匹敵する力を備えている。もしあの女が、この地球の封印を解くためにやってくるとしたら――〈扉〉が開かれてしまう!」

   *   *   *   *   *   *   *

 千鶴の亡骸を連れて帰った耕一たちは、居間の畳の上に寝かせた物言わぬ千鶴を前に、途方に暮れていた。長瀬たちが作業している姿があまりにも非日常的な光景だった為、この現実を直視する心が麻痺していたのかも知れない。日常の光景に置かれた、千鶴の亡骸を見て、最後まで黙っていた梓は台所に駆け込み、ひとり嗚咽した。
 楓は、千鶴を前にして先ほどまでむせび泣いていたが、居間は泣き疲れ、千鶴に沿うように畳の上で寝付いていた。
 耕一は、あぐらを掻いて呆然としていた。
 耕一は泣けなかった。ダリエリと長瀬が、千鶴を助けると言った。作業が完了したら柏木邸を訪れると言っていた。真実を知ってからでも遅くはないと考えたからだ。
 とにかく、何から何まで異常であった。
 自分が、柏木一族が、鬼の姿をする異星人――いや、かつてこの地球に存在した先住民族の子孫であるコト。そしてその血が、先祖の力を呼び覚まし、人ならぬモノへと変貌できるコト。
 だが一番の異常は、千鶴が死んでしまったコトであった。
 守れなかった。愛する女を、折角結ばれた大切な女を、耕一は護りきれなかった。そのショックが耕一にも計り知れないものだったのかもしれない。
 一眠りすれば、きっとまた、千鶴が自分を起こしにやってくる。そうだ。もし起こしてくれたら、もう一度千鶴を抱こう。愛し合おう。二度と手放さない。一緒に暮らそう。――そう、言おう。

 千鶴は死んだように眠っている。――耕一はそう思いたかった。眠っているだけだ、と。

「…………耕一お兄ちゃん」

 耕一は呼ばれるまで、いつの間にか初音が自分の背後に立っていたコトに気付かなかった。

「……ダリエリが、千鶴お姉ちゃんの魂を抽出した、って」
「そう……か」

 耕一は振り返りもせず言った。
 次の瞬間、初音が耕一の背中に抱きついた。そして大声で泣き始めた。

「――お兄ちゃん――何なの――千鶴お姉ちゃんが死んで――ヨークが目覚めて――あたし、あたし!」

 どうやら初音も、居間に横たわる千鶴を見て、度し難い現実にようやく打ちのめされたらしい。あの宇宙船と意志疎通を果たす力が、現実認識を暫し麻痺させたのであろう。
 耕一は、初音を慰めてやらなければ、と思った。だが、思うだけで何も出来なかった。激しい無力感が耕一を支配していた。

 ――何を泣く、リネット。

「――?!」

 突然のフラッシュバック。次郎衛門の背にしがみついて泣きじゃくるリネットの姿だった。
 ――耕一は、こんな光景を知っていた。見たコトもない光景を。
 それが耕一に、僅かに気力を与えた。

「……初音ちゃん。…………あの二人が千鶴さんを生き返らせてくれる、って言ったんだ。…………信じよう」

 初音は、振り返って微笑む耕一に頷くと、今度は耕一の胸に飛び込んでまた泣き出した。

 正午、ようやくダリエリと長瀬が柏木邸にやってきた。

「――敵?」

 そう言って唖然とする耕一たちに、ダリエリはゆっくりと頷いた。

「……敵はひとりだが、しかしそれは、神に匹敵する力を持っている。…………〈クイーンJ〉に対抗できるのは、エルクゥの血を引く、柏木一族しかいない」
「……でも、ダリエリは……」

 初音が戸惑いげに訊くと、ダリエリは済まなそうに首を横に振った。

「……私は転生したが、しかしこの身体はエルクゥの血を持つモノではない。――それに、まだ力が足りない。こうしてダリエリの意識を維持できるのはあと一日が良いところだろう」
「そんな…………!」
「だが、対抗策がないわけではない。先ほど来栖川の者に連絡を取った」
「来栖川――」

 梓が驚いたふうに言った。

「――って、京香おばさまがいる来栖川?」

 長瀬は頷いた。

「来栖川は〈扉〉を護る一族。彼女らの力も得られるがしかし――」
「しかし?」

 楓が聞き返すと、俯いていたダリエリは顔を上げ、

「――〈クイーンJ〉の方舟はあと4時間後に、この地に飛来する。〈ゲートキーパー〉や〈神狩り〉たちが集結するのを待ってはいられないのだ」
「そんな…………」
「――――わかった」

 答えたのは耕一だった。梓は驚き、

「おい、耕一!わかったって、あんた――」
「……千鶴さんの魂は確保できた。後は肉体を再生する手段があれば良いのだな?」

 耕一は戸惑う梓を無視し、長瀬の顔を睨んだ。

「……ああ。初音君が甦らせたヨークには、エルクゥのウルテクが備わっている。私はそれを理解出来る”力”を持っている。約束しよう」
「……判った」

 耕一は立ち上がった。

「千鶴さんを護る。――俺たちの力は、きっとこんな時のために神様が与えてくれたものなんだろう。…………俺はもう、これ以上誰も死なせたくない」
「……待てよ」

 梓が耕一を睨んでいった。

「……ひとりで、闘う気?」
「当たり前だ。梓たちは――」

 そう言った途端、梓から凄まじい気が噴き上がった。堪らず耕一は身じろいでしまう。

「…………わたしも闘う」
「し、しかし――楓ちゃん?」

 今度は、梓の横に立つ楓までもが凄まじい気を放ち始めたのである。

「……耕一さん。私も闘います――これ以上、こんな理不尽な宿命の所為で誰も死なせたくない――宿命と闘います!」

 楓がそう言うと、千鶴の横で正座していた初音も、怯えつつ、頷いていた。
 耕一は彼女たちの決意を押さえられる自信はなかった。
 護るのは千鶴ばかりではない。彼女たちも、きっと護ってみせる。耕一はそう決意した。

 ダリエリが予想した時間は夕方であった。茜色の隆山上空に巨大な火の玉が現れ、雨月山に墜落した。警察が雨月山を封鎖し、調査隊がくるのを待っていたが、既に耕一たちは地下にあるヨークに待機していた。
 墜落を確認した後、耕一はヨークに初音を残し、梓と楓、そしてダリエリと長瀬を引き連れて、〈クイーンJ〉が乗ってきたと思われる、表面の装甲を摩擦熱で燃やしているもう一つのヨークの墜落地点にやってきていた。

「この中か――」
「下がって!」

 そう言うと、楓は両腕を翼のように振った。すると装甲が避け、宇宙船に侵入する穴を拵えた。

「これは――」
「次元刀です。空間に断層をつくって引き裂く力です。――記憶ではそういうものらしいのですが……」
「記憶?」

 梓が不思議そうに訊いた。

「……うん。……わたしの記憶の中に、不思議な衣装を着た女の人が居て、そう告げているの」
「女――――」

 唖然とする梓を、耕一たちが不思議そうに見た。すると梓は、うん、と何かを決意したような顔で耕一たちを見て、続いて森のほうを見た。
 おもむろに森のほうへ差し向けた梓の右手から閃光が走り、その先にある木を二、三本粉砕するのをみて、耕一たちは唖然となった。

「……エネルギー衝撃波、っていうらしいんだ。……もっともあたしの場合、男と女の二人がそう告げたんだけど」

 やがて耕一たちは、楓が空けた穴から、墜落した宇宙船に侵入し、ダリエリの案内で、艦橋と思しき大きなフロアについた。するとそこには、あのTHライドを大きくしたものと思われる、血の色のように真っ赤な光を不気味に放つ、ハート型の物体が鎮座していた。

「――あの中に、〈クイーンJ〉が居る」
「なら――」
「待ちたまえ」

 ダリエリが、攻撃しようとした梓を制した。

「なんで――」
「物理的攻撃では、精神体たる〈クイーンJ〉を倒すコトは出来ない。アレを倒せるのは、エルクゥ波動を〈浄解〉出来る者だけだ」
「浄……解?」
「そうだ」

 頷くダリエリは、耕一の顔を見た。

「その能力は、エルクゥの男を獣戦士化させるエルクゥ波動を押さえた、オゾムパルスの力をついに備えた――柏木耕一、キミしかできない」
「オゾムパルス?」
「平たく言えば、人間の魂だ。キミたち柏木一族は、エルクゥの血を引くがゆえに、オゾムパルスとエルクゥ波動を備えている。柏木の女は成長するによってオゾムバルスを自然と浄解し分解吸収するが、男たちは保有するエルクゥ波動が大きすぎてそれが出来なかった。だから、柏木の男たちは不幸な最期を遂げていったのだ」
「じゃあ――」

 耕一は唖然としながら、

「親父も――」

 その言葉に、梓と楓は複雑そうな顔をした。親愛なる伯父の死が、そんな理不尽な理由にあったコトを知り、やりきれなくなったのである。
 耕一はしばらく黙り込んでいたが、やがて、うん、と頷くと、〈クイーンJ〉が居るという巨大THライドのほうへ向いた。

「……でも、どうやって……」
「鬼神化、エルクゥ化をしながら、人間のイメージを維持したまえ。キミが鬼の力を押さえきった時を、もっと思い出せ!」
「――わかった」

 そう言うと耕一は両手を突き出し、目を閉じて精神集中した。

「「……あ!」」

 すると、驚く梓たちのの前で、耕一の身体がエメラルド色に煌めき始めたのである。
 同時に、耕一の頭の中に、ある言葉が浮かび上がった。

「ゲル・ギル・ガン・ゴー・グフォ……!」

 そう呟いた途端、耕一は両手を重ね合わせた。すると重なったその拳からエメラルド色の閃光が放たれ、〈クイーンJ〉のTHライドを直撃した。
 その瞬間、宇宙船が激しく揺れた。まるで耕一のこの光に、宇宙船が苦しんでいるようであった。

「柏木耕一、いまだっ!」
「うぉおおおおおおっっっっっっっっっっ!」

 ダリエリの合図とともに耕一は絶叫し、〈クイーンJ〉のTHライドに突進する。耕一は緑色の光となり、〈クイーンJ〉のTHライドに重ねた拳を叩き付けた。
 すると血の色のように真っ赤だったTHライドが、拳を受けた場所からみるみるうちに緑色へ変化していったのである。

               Bパート・その2へつづく

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