○この二次創作小説はPC版およびPS版『ToHeart』(Leaf製品)のレミィシナリオをベースにした話となっており、レミィシナリオのネタバレを含んでおります。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 【承前】 4月21日。 学校の昼休み、浩之たちの通う高校の掲示板に、校内新聞の最新号が張り出された。すると同時に、昼食を終えた生徒たちがどっとその前に群がった。今回の号より、校内の有名人である長岡志保のコラムが載るというコトで、いったいどんな暴露話が出るか、生徒たちは注目していたのである。 第一回目は、誰かの噂話ではなく、タイトルに使われた洋館にまつわる話、つまり浩之が志保に話した初恋話であった。無論、館の場所や固有名詞は、浩之の要望通り伏せられ、名前もH君、となっていた。志保の話にしては余り派手でない内容であったが、それでも生徒たちの評判は良かった。 そんな、校内新聞を読んでいる生徒たちの中に、一人目立つ存在が居た。 黒だかりの中でもビジュアル的にも目立つ金髪の主は、志保のコラムを見つめながらポカンとしていた。 そんなレミィを、雅史とともに人だかりの前を通りかかった浩之が見つけた。 「……よぉ、レミィ。どうしたんだ、ぽかんとして?」 「――――ヒロユキっ!」 浩之に声をかけられ、レミィは、はっ、として浩之のほうへ振り向いた。 「な、ナガオカさん、どこにいる?」 「ナガオカ……、ああ、志保か」 「Yes!」 「えーと、……雅史?」 浩之は隣にいる雅史に訊いてみた。 「んー、多分、志保は教室を渡り歩いているんじゃないかな」 「また、志保ちゃんニュースかぃ(笑)」 「Thank you!」 レミィはお辞儀すると、階段のあるほうへら駆け出して行ってしまった。 「珍しいね、浩之。レミィがあんなに血相を変えるなんて」 「俺も初めてみたよ。……もしかして、その校内新聞でレミィの暴露話が乗っているとか(笑)」 「案外、志保のコトだから、レミィは昔、金髪じゃなく黒髪で、どこかの魔法を使う鳥に無理矢理金髪にされて魔法使いになっちゃって、他の魔法使いのライバルになった、とか書いていたりして」 「おいおい(笑)」 * * * * * * * * * 4月23日。 放課後。浩之は、部活のあるあかりと雅史と教室で別れ、寄り道もせず帰宅した。 「……さてさて、今日の晩飯はどーしよっかねー、一人暮らしはわびしいなぁっと…………あれ?」 さっそく台所で材料を調達しようと漁るが、見つかる食材は調味料ばかりであった。 それをポカンと見つめていた浩之の顔は、やがて驚きの色に満ちあふれた。 「…………あ。――しまったぁっ!買い置きのラーメン、切らしていたんだっ!くぅぅっ、朝、そーいや気付いていたんだよなぁ……」 ぐぅぅぅ。思わず鳴る、浩之の腹の虫。 「……ちぇ。せっかく帰ってきたのに、また出かけンのかぁ?……面倒くさいなぁ…………、ったく、買い置きぐらいしとけよ……って俺か(泣)」 浩之はぶつくさ言いながら服を着替え、家を出た。 「……出たはいいけどさぁ、……作るの、面倒になっちったなぁ。いっそ、あのトンカツ屋で…………そこまで金の余裕は無い(泣)」 浩之は商店街の中央にあるスーパーへ行くコトに決めた。家を出るとき、居間に置いてあった今日の朝刊に入っていたチラシに、インスタントラーメンの安売りが載っていたからである。他にも色々安売りの品があり、買い置きするコトに決めた。 間もなく、駅前商店街に着くと、どこかで見たような光景を目にした。 「……また迷子?」 商店街の入り口でワンワン泣いている迷子は、今度は女のコだった。歳はこの間のヒロアキと同い年くらいだろう。 「……なんだよここは。…………迷子のメッカかよ(笑)…………ったく、しゃあねぇなぁ」 やれやれ、と呆れる浩之だったが、しかしこの間同様に、放っておけるハズもなかった。 「おーい…………あれ?」 浩之が女のコに近づいた時、女のコの背後から見覚えのある人影を見つけた。 浩之が通う高校の女子生徒制服と綺麗なブロンドの髪、という派手な組み合わせなので、浩之はすぐに判った。 「レミィ……!?」 「Oh!ヒロユキ、奇遇ネ!」 「レミィこそどうしてここへ?」 「うん、弓道部の帰りネ。ヒロユキこそどうして?」 「いや、買い物に来て、そこで見かけてな。…………って、なに?レミィ、この娘の知り合い?」 するとレミィは首を横に振り、 「ヒロユキこそ、この娘、知り合い?」 「いーや。――ちょっと可哀想だったんでな」 そう言って浩之は女のコの前でしゃがみ、女のコの視線の高さに自分の顔を持ってきた。 「お嬢ちゃん、ママとはぐれたの?」 女のコは始め、浩之の顔を見て警戒するが、しかし、ゆっくりと頷いてみせた。 「ヒロユキ、どうする?交番に連れていく?」 「交番はこの商店街の一番向こうだっけ…………うーん」 「ねえ」 どうしたもんか、と決めあぐねている浩之に、レミィが声をかけた。 「このコのママ、アタシたちで探そうよ!」 「……え?」 思わず浩之はきょとんとする。 「……嫌?」 「そ、そうだな…………でも」 「でも?」 聞き返すレミィに、浩之は戸惑った。戸惑ったが、どこか諦めたような、それでいて、はにかんでいるような顔で頷いてみせた。 「……しゃあねぇ。でも、この先の交番へ行くあいだ、商店街の店を当たるだけだぞ」 「うんっ!」 レミィは花が咲いたように嬉しそうに微笑んだ。 「ほら、――えっと、お名前は?」 「……メグミ」 メグミと名乗る女のコは、でっかく頷いた。浩之の顔を見るその目は、さっきまで泣いていたので、赤く腫れていた。 「ほら。おんぶしてあげるよ」 浩之はしゃがんだ姿勢のまま、メグミに背中を見せた。メグミは何も言わず浩之の背中におぶさった。 「よっしゃあ」 「……あはは、高い高い」 浩之が立ち上がると、メグミは急に高くなった視界が楽しかったらしく、すっかり機嫌を良くしていた。それを見てレミィは嬉しそうに笑った。 そんなレミィの笑顔を、メグミは不思議そうに見た。 「……ねえ!」 「ナニ?」 「お姉ちゃん、どーして髪の毛、白いのぉ?」 メグミの疑問に、浩之は思わず吹き出しそうになった。確かに、こんな郊外の街に住んでいて、こういった日常の中で、TVや映画以外で、金髪の美少女をお目にかかる機会などそうそうない。レミィのブロンドヘアは、メグミにしてみれば、不思議でしようがないのだろう。 するとレミィは、にっこり微笑んで、 「おねーちゃんね、ホントは天使なのヨ!」 浩之は思わずツッコミを入れそうになった。いくら子供相手とはいえ、少しノリ過ぎてはないか、と苦笑していると、 「天使ぃ?」 どうやらメグミは信じ込んでしまったようである。目を輝かせながら訊くメグミに、浩之はどうしたモノかと一人困った。 「そーよ」 レミィがうなずくと、メグミはますます喜んだ。 「ねーねー、見せてー!」 「いいわよぉ」 レミィは浩之の背中に近づいて、メグミに自分のポニーテールで束ねている髪を触らせた。 「すごぉい、さらさらだぁ〜」 メグミは両手で、レミィの輝くブロンドをもてあそんだ。背中にいるのではっきりとした状況は判らなかったが、しかしレミィのブロンドは陽射しを受けて光を散らしている。 (…………本当、天使かもな) 浩之は、ふっ、と微笑んだ。 「……早くメグちゃんのママを見つけなくちゃな」 1時間経過。 メグミのママはまだ見つからない。 さらに、1時間経過。 メグミのママはまだ見つからない。まずいコトに陽が西にすっかり傾いていた。 メグミは浩之の背中で寝息を立てていた。1時間経った時点で交番には到着していたのだが、何となくそのまま交番に置き去りにする気にはなれず、商店街を抜けたあとも、その近辺をレミィと一緒に訪ね歩いていた。 「……レミィ。部活で疲れてンだろ?メグちゃんは俺に任せて、先に帰っていいぜ」 「No way。……アタシ、帰らないワ」 「……」 レミィは強い責任感みたいなものを感じているのだろう。浩之は、自分は子供の頃の経験が意地の源になっていたのだが、レミィにも似たようなコトでもあったのだろう、と考えた。 「ねえ、ヒロユキ」 不意に、レミィが呼んだ。 「何?」 「ヒロユキは、どうして交番、行かなかったの?」 「?」 きょとんとする浩之は、レミィの訊いた意味がよく判らなかった。 するとレミィは、ふっ、と笑みをこぼし、 「……アタシ、見てたヨ。この前、ヒロユキが、迷子のコおんぶしてたの……」 「…………え?」 言われて浩之は、先月、この辺りで迷子の男の子の親を捜し歩いていたコトを思い出した。 「……この前って、…………あの時の…………?」 「うん!」 「……あちゃあ。恥ずかしいところを見られたな」 「恥ずかしいコト、ないヨ」 そう言って、レミィは微笑む。 今までのそれとは違う、見てて優しくなれる、そんな微笑みに、浩之は少しドキッとした。 「ヒロユキ、ずっとあの子のお母さん、探してた」 「……なんだよ。隠れて見てたのか?」 「アタシ、ヒロユキのコト、よく知らなかったの……。それで、男のコの面倒、ちゃんと見てくれるか、見張ってたの」 「見張り、って……ひでー言われようだな。でも俺は、ちゃんと迷子の母親を見つけたぜ」 「うん……。それでアタシ、ヒロユキのコト、よくわかった」 「なんてわかったんだ?」 浩之が訊くと、レミィは恥ずかしそうに俯き、 「とっても、優しい人……って」 「どーかな。俺、けっこう悪人だぜ。この間もカツサンド選んで一人の女のコの存在、抹消しちゃったし(笑)」 レミィはクスッと笑った。 「……アタシね、迷子を見つけたら、絶対に最後まで面倒見るって決めてたの」 「なんで?」 するとレミィは、何か遠い目をした。 「アタシね……小さい頃、ニッポンに住んでたの……」 「ふ〜ん……」 「……天気がいい日は、いつもお庭で、遊んでたワ」 「うん」 「そのときに、Dadがアタシと同い年くらいの男の子を連れてきて……」 「それで?」 「……その子、迷子だったの…。Dadは、その子のお母さんが見つかるまで、アタシと遊んでいなさいって…」 (……なんか、聞いたような話だな) 浩之はレミィの話を聞いて、何か頭の中で引っかかるモノを覚え始めた。 「アタシ、その子とすぐに仲良くなったワ。その子も、いつも家に遊びに来てくれて……、アタシすごく嬉しかった」 レミィがそう言った時、浩之の頭の中で引っかかっていたモノが、ぞわぞわ、と騒ぎ始めた。 だが、同時に違和感も感じていた。 奇妙な符丁。しかし、浩之が持つ記憶のそれには、決定的な相違点があった。 それは、浩之が幼い頃遊んだという初恋の少女の髪は、黒髪だったというコトだ。 「…………おいおい。その話って……」 「What's、ヒロユキ?」 「……ちなみに、その男の子の名前、なんて言うんだ?」 すると、レミィは目を伏せた。 「……ニッポン人の名前、覚えにくいから、自然に忘れちゃったのヨ………………でも、ね」 ざわっ。不意に、なま暖かい風が浩之たちのいる道を通り過ぎた。 すると、レミィは、ポニーテールで束ねている髪のリボンに手をかけ、それを解いた。 ふわっ。束ねられていたレミィの髪が背中の辺りまで下がり、風に靡いた。 それを見て、浩之は唖然となった。 「……この間の、校内新聞の、ナガオカさんが書いていた記事を読んでね。…………”長岡”さんに、誰から聞いた話か、って訪ねたの」 「………………」 浩之は唖然としたままであった。 「…………そうしたら、”浩之”くんから聞いた話だって教えてもらったの…………」 「…………レミィ…………お前…………?」 浩之はようやく声が出た。 「…………やっと…………逢えた…………やっとあなたに……!」 レミィは微笑みながら、目に涙を溜めていた。心底嬉しそうな顔をしていた。そして突き動かされるように、レミィは浩之の胸に飛び込んだ。 綺麗な黒く長い髪を靡かせて。 「……そ、そんな…………?!」 一ヶ月前、迷子の面倒を見ていた時に出くわした、あの黒髪の美少女が、目の前でブロンドの髪を一瞬にして黒く染め変えてみせたレミィと同一人物であるコトを知ってもなお、浩之は夢でもみているような顔で、その場に立ちつくしていた。 第5話へ 続く http://www.kt.rim.or.jp/~arm/