東鳩王マルマイマー第18話「鬼哭」(Aパート・その2)  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 9年前。
 夏の終わり。
 柏木千鶴は死んだ。

 当時、隆山では猟期連続殺人事件が発生していた。
 その奇怪な犯人を、警察関係者たちは大型の肉食獣の仕業と考えていた。その手口が人の手によるモノとは考えられないほど、余りにも残忍かつ非常識な犯行であったためである。人が5メートルも跳躍し、平手で胴から肉を削ぎ落とし、拳で粉砕する。どこをどう鍛えればそのような人間になれるモノなのか。
 結局、犯人と思しき人物の部屋より(当初はそこに住む麻薬中毒患者が犯人と思われていたらしいが、後の調査で犯人と思われた麻薬中毒患者の体調が凶行を引き起こせるだけの体力が備わっていなかった為、除外された)拉致された女性たちが発見され、ピタリと凶行が無くなったコトから迷宮入りとなってしまった。後に、二流週刊誌が、犯人が警察関係者であるというゴシップ記事を載せたコトがあったが、それ以上この悪夢のような事件を追求する者はいなかった。

 犯人は、柳川裕也。柏木耕一の祖父の愛人が産んだ子供であった。耕一や千鶴たちにとっては、そう歳の差のない叔父に当たる人物なのだが、柳川の母が耕一の祖父に黙って産んだ為、その事実は彼らにはまったく知るところではなかった。

 それが、悲劇の原因でもあった。
 柏木の鬼の血を知る千鶴は、猟期連続殺人事件の犯人が、鬼の血に意識を乗っ取られた耕一ではないかと疑ってしまったのである。こんな凶行を引き起こせる存在が柏木の男以外心当たりがない以上、千鶴が耕一を疑ったのも仕方のないコトであった。
 だが、千鶴は余りにも優しすぎた。ひとのこころの暗黒面を見過ぎてしまった千鶴は、それでもひとのこころを信じる高潔さを持っていた。
 それ故に千鶴は、不幸な宿命を背負っている耕一を愛してしまった。
 自分の心を凍り付かさなければ、柏木の鬼の血という呪いに耐えきれない。しかし何も知らない耕一は、そんな千鶴に優しかった。
 同情なんかではないコトは判っていた。二人とも、出会った時から惹かれていたのだから。
 事態が深刻化する中、千鶴は決意した。
 耕一を殺すコトを。耕一を殺して、これ以上被害を増やさない。柏木家の当主としての覚悟であった。
 そして、女としての千鶴は、愛する男を受け入れるコトを決めた。せめて、この手に掛けなければならない愛した彼の子を残そうと。
 千鶴は耕一に抱かれた後、耕一を裏山の水門に連れていった。そこは耕一が幼い頃、初めて鬼の血に目覚めた場所でもあった。千鶴はそこで柏木の鬼の血の秘密を耕一に告げ、最後に言った。

「私は…、あなたを、殺さなくてはいけない!」

 耕一は千鶴の話を理解しつつ、しかし自分は犯人ではないと反論した。凶行を幻視する理由を耕一は、本当の犯人と意識がシンクロしていたのだと言うが、千鶴は聞く耳を持たなかった。やがて耕一は千鶴の攻撃を受けて水門の下に落ちてしまった。
 その時だった。柳川が隙をついて千鶴に襲いかかってきたのは。突然のコト、そして本当の犯人を知った千鶴は冷静さを失い、鬼化した柳川に敗れ去ってしまった。
 そして同じ時、強靱な精神力と生まれついての素質が奇跡を起こし、耕一に鬼の血を克服した。耕一は急いで水門の上に戻り、柳川を撃退した。
 だが、千鶴は虫の息であった。覚醒が遅すぎたのだ。

「……いろいろ……つらかったけど……これで……やっと……らくに……なれる…………もう……なにも……うしなわなくて……すむ…………」
「千鶴さん!ダメだ、しっかりして!」

 血相を変える耕一は千鶴の身体を強く抱きしめ、必死に励ました。そんな耕一の手を、千鶴は力なく握った。

「…こういち……さん……とても……あたたかい……いもうと……たちのこと……たのみ……ます……」
 そう言った途端、千鶴の手から力が失せ、するりと耕一の手からこぼれ落ちた。

「え……千鶴さん?」

 耕一は呼び掛けた。だが、返事はなかった。

「……嘘…………だろう?…………返事…………して…………よ…………」

 次の瞬間、耕一は絶叫した。その声は精神波となり、家で寝ていた梓たちを呼び覚ますコトとなった。
 その時だった。

「………………遅かったか」

 不意に、水門の向こうから近づいてくる人影に耕一は気付いた。

「……誰……だ?」

 泣き顔の耕一が顔を上げると、やってきた人物が二人いるコトに気付いた。一方は子供位の背丈の持ち主であった。

「――千鶴くん?」

 背の高い方の人物が、悲鳴のような声を上げた。どうやら千鶴の知り合いらしい。

「……彼が次郎衛門の末か?」

 そう言ったのは、子供くらいの背丈の人物であった。子供特有の幼く甲高い声であったが、どこか大人びていた。

「……誰……なんだよ?」

 耕一がもう一度訊くと、背の高い方の人物が、はぁ、と溜息をついて、

「……私は長瀬源五郎という。柏木千鶴くんは大学での教え子だった」
「教え子…………」

 耕一は呆然と呟くが、視線は子供のような人物に注がれていた。
 どこか、懐かしい匂いのする人物であった。

「…………どうやら、次郎衛門の記憶では、俺のコトを覚えているらしいな」
「次郎衛門?」

 耕一はそこで、雨月山伝説の侍の名が出てきたコトを不思議がった。

「…………完全に覚醒できていないと言うコトか」

 子供のような人物は残念そうに言った。

「では、俺の名は覚えているか?――ダリエリのその名を」

 その名を耳にした途端、耕一は硬直した。
 確かに聞き覚えがあった。
 いや、聞いたコトはなかった。――記憶が覚えているのだ。――しかし、いつ覚えた記憶なのか。

「ダリエリ…………鬼…………いや、〈えるくぅ〉?」
「正解だ――さて」

 ダリエリと名乗る人物は少し嬉しそうにいうと、耕一が抱きかかえている血塗れの千鶴を見つめた。

「…………酷いもんだな。――だが、助ける方法はある」
「助ける方法――――?!」

 それを聞いた耕一は素っ頓狂な声を上げた。

「ああ」

 ダリエリは頷くと、辺りをぐるりと見回した。

「――この雨月山の地下に、ヨークが眠っている。そこにある、リズエルが造った『THライド』に、彼女たちの魂を収める。魂の喪失(ロスト)さえなければ、甦らせるコトが出来るのだ」
「甦ら――――」

 耕一は唖然とした。この子供にしか見えない人物が、死者を甦らせるという。からかっているのか、と思ったが、しかしそのワリに何故か耕一のこころの中には安堵感が拡がっていた。
 ダリエリ。この名が耕一のこころの平穏をもたらしていたのだ。

「もうじきこの場に、ヨークを覚醒させるコトが出来るリネットが来る。――いや、来たか」

 ダリエリが振り向くと、水門の向こうから走ってくる寝間着のままの梓たちの姿が見えた。

「――耕一!」
「……嘘?」
「……ち、千鶴お姉ちゃん?!」

 梓たちは、千鶴の酷たらしい姿を見て慄然とした。

「リネット」

 ダリエリが呼んだ人物は、真っ先に千鶴に飛びついた初音であった。

「……え?」
「ヨークを目覚めさせろ。急いで、な」
「ヨーク……?」
「……我が名はダリエリ――思い出したか?」

 その名を耳にした途端、初音は瞠った。

「………………お父様?」
「そうだ」

 ダリエリは微笑んで見せた。

「……思い出せたらしいな。――なら」
「あ…………う、うん」

 初音は戸惑いつつ、その場でゆっくりと立ち上がると両手を合わせて祈り始めた。
 すると、初音が寝間着姿でもなお首にかけていた、鬼のペンダントがエメラルド色に輝きだしたのである。

「これは――」
「リズエルの角だ」

 ダリエリが答えた。

「正確には、リズエルが自分の角を改造して造った、プロトTHライド――リネットの母、アリエルの意識が収められている。これを介して、ヨークを発動させるのだ」
「え――」

 耕一たちがぽかんとした瞬間、地面が激しく振動した。

「「「「地震――」」」」
「違う」

 また、ダリエリが答えた。

「ヨークが目覚めたのだ。――ほら」

 ダリエリが東の方角を指した。すると同時に地震が収まり、指先の果てにエメラルド色に輝いている地面があった。

「あすこが入り口だ。――柏木耕一、急いで千鶴を連れてあの中へ入るのだ」
「入る、って……」
「行こう」

 初音は頷いて言った。

「ヨークの中にあるTHライド。あれがあれば、千鶴お姉ちゃんを助けるコトが出来るよ!」

 いったい、何のことか判らないでいる梓だったが、どうやら理解しているらしい楓が無言で腕を引いた。

「……わかったわよ」


 ダリエリは耕一たちを連れて、エメラルド色に輝く地面の上に立った。するとその地面が踏み場を失い、耕一たちの身体を沈めてしまった。これには梓と長瀬は驚くが、直ぐにそれが不可視不実感の床を用いたエレベーターであるコトに気付いた。
 着いた先は、巨大なフロアであった。余りにも殺風景な場所で、耕一にはどんなところなのか見当もつかなかった。

「……これは……?」
「ここはヨークの制御室ですね。…………宇宙船ヨークの」

 楓が感心したふうにいう。どうやら楓にも、ダリエリがいうヨークの正体を理解出来たらしい。

「待ってて」

 初音が突然走り出し、直ぐ向かい側にある壁面に左手で触れた。
 すると、どくん、と巨大な心音が室内に響き渡り、耕一たちを仰天させた。

「……凄い。…………400年も経つのに、活きている」

 初音は嬉しそうに言った。そして今度は右手で壁面に触れた。
 すると今度は、初音が触れている壁面から、フロア一杯に毛細血管を想起する光の線が縦横に走り、明滅し始めたのである。

「こ、これは――」
「今、ヨークにあたしたちのTHライドを用意させるね――真ん中の床に注意して」

 初音がそう言うと、突然フロアの中央が盛り上がり、直径2メートルほどの円柱が床からせり上がってきた。
 そしてその円柱の天面に、五つの緑色に光る、ハートマークを想起させる物体が現れた。

「これがTHライド――」

 長瀬は感動したような面もちで、THライドと呼ばれる奇妙な物体を見つめていた。

「この中に、魂を収めるコトで延命を可能とする、人類原種の超天才リズエルが造り上げた無限情報サーキットだ。――これを使って千鶴君を助けるのだな?」
「ああ」

 ダリエリは頷いた。

「時間がない。――それに」

 ダリエリは呆然としている耕一の顔に一瞥をくれ、

「彼女たちは非常に危険な状態にある」
「彼女――」

 耕一は抱きかかえている千鶴を見た。改めてみても、既に千鶴は事切れていた。ダリエリと名乗る人物は死者をいかにして甦らせようとするのか、謎だった。

「リネット」
「はい」

 初音が答えると、次にTHライドを載せた円柱の直ぐとなりに、床の下からベッドのような四角い箱を浮上させた。

「そこに千鶴を載せろ。――残存オゾムパルスの摘出並びに移植施術を行う」

 耕一はダリエリの指示に従い、その上に千鶴の亡骸を横たわらせた。
 するとダリエリはその奇妙なベッドのそばに近づき、その神妙な面もちを円柱の上にあるTHライドと千鶴の亡骸の間で行き来させた。

「…………ふむ。やはり、か」
「どうした?」
「長瀬。どうやらキミの言っていた”可能性”を試すコトが出来そうだ」
「可能性?」
「ああ」

 ダリエリは頷いて、

「リネット。リズエルと、俺のTHライド、その二つの封印を解除しろ」

               Aパート・その3へつづく
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