東鳩王マルマイマー第18話「鬼哭」(Aパート・その1)  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

 17年前。
 当時13才であった柏木千鶴は、両親を事故で失った。
 だが、千鶴はその真相を知っていた。
 両親は自殺したのだ。
 雨月山の鬼伝説。隆山に伝わるその伝承は、実際にあった話であった。
 室町の時代、隆山近隣は異形の鬼たちが闊歩していたのだが、隆山を護る侍たちや法師たちの尽力によりその殆どが斃され、唯一生き残った鬼の娘をめとった侍の末裔が、柏木一族であった。
 柏木一族は呪われていた。隆山に古くから住む人々は皆、陰でそう噂していた。
 柏木の男は、代々不幸な死に方をしていた。その多くが早死にしていたのだ。
 父は、鬼の血に苦しむ夫を見かねた母とともに自動車に乗ってガードレールを突き破り、崖の下へと落ちていったのだ。
 千鶴は、あの日の母の顔を忘れられなかった。

 9年前。
 当時23才であった柏木千鶴は、親代わりの叔父、柏木賢治を事故で失った。
 だが、千鶴はその真相を知っていた。
 賢治は自殺したのだ。
 賢治もまた、兄同様に鬼の血に苦しみ、限界を悟って死を選んだ。千鶴の両親と同じように、自動車事故に見せかけて。
 千鶴は、あの日の賢治の顔を忘れられなかった。
 母と同じ顔だったから。

 だが、千鶴は知らなかった。
 賢治は、自殺などしていなかったコトを。


 9年前。
 柏木賢治は、柏木一族の男を苦しめていた鬼の血に目覚め、人としての限界を悟り、人としての死を選んだ。
 護るべきモノがあった。
 柏木の家。そこに住まう、兄の娘たち。
 両親を亡くし、そのコトで噴出した、人間たちのエゴに晒され、人の心を失いかけた姪御たちを護らなければならなかった。
 千鶴は年頃だけあって感受性が強く、それ故に、遺産を巡る親族たちの汚い顔を無理矢理見せられ、こころを壊しかけていた。

 ひととは、こうも薄汚いこころを他人に見せつけられるものであろうか。ある親族は死文の息子を使い、千鶴に強姦まがいのコトをしでかして柏木の家を乗っ取ろうとさえした。その時は賢治がこの柏木の家にやってきたばかりで、賢治の持つ不思議な能力のお陰で事なきを得ていた。それも含め、賢治が柏木の家に戻るまでに、この四姉妹たちは、ひとの歪んだこころがつくり出した生き地獄に晒されていた。
 そういったコトがあり、賢治は始め、暫く人間不信に陥っていたのだが、それを支えたのが、まだ幼い四人の姪たちであった。
 彼女たちは、人の心の汚さを目の当たりにしながらも、その人の心を信じていた。最後まで希望を捨てなかったのだ。彼女たちの高潔なこころが、嵐を乗り切ろうとする賢治を支えたのだ。賢治は、ひとのこころの素晴らしさを、姪たちを通して実感した。
 やがて、柏木の家に平穏がようやく訪れた。姪たちの顔は笑顔を取り戻していた。
 その代わり、賢治は同じくらい大切なモノを失っていた。
 妻は理解してくれた。しかし、自らの息子は違っていた。息子にはこんな苦しみを与えまいと、隆山の地から遠ざけさせた。そのコトで自分を恨んでいるだろうコトは察していた。しかし真実は告げられるハズもなかった。いや、いつかは知るコトになるだろうが、隆山から離れていれば、柏木の男にかけられている宿命に気付くコトは無いだろうと信じていた。

 賢治は、朦朧とする意識の中、ステアリングを必死に握った。常人ならば寝るどころが体を壊すコトは間違いないであろう大量の飲酒と睡眠薬をもってしても、目覚めようとしている鬼の血が意識を保たせているのである。
 しかし死を覚悟した賢治にはそれは幸いであった。後はアクセルを踏むだけなのだから。

 不意に、雨月山にさしかかる満月のビジュアルが、賢治の脳裏に甦った。鬼の血の目覚めが酷い時によく見る幻視であった。今しがた幻た幻影は不思議と今まで以上にはっきりとしていた。

「……これ以上は危険だな……はやく…………」

 賢治は気力を振り絞ってアクセルを踏もうとした。

 千鶴たちの笑顔が幻影となって賢治の脳裏を過ぎった。
 ごめん。ごめんよ。賢治はうわごとで詫びた。二度と哀しませないと誓ったのにな。
 そして呪った。どうして柏木の男たちにはこんな宿命が課せられたのか。
 柏木次郎衛門。あの男が、鬼の娘を愛さえしなければこんな目に遭わなかったのに。賢治にはその名は忌まわしい存在に他無かった。あの世できっと貴様に土下座させてやるからな。


 そんな時だった。

 賢治の脳裏に、柏木姉妹の三女と四女の面影を持つ、奇妙な衣装に身を包んだ美しい女性たちの顔が過ぎった。

「…………エディフェル……リネット……か。…………何故、そんなに哀しい顔をするのかな……………………?」

 アクセルを踏もうとしていた賢治の顔が引きつった。

「…………なんだ…………その名…………どうして知っている…………懐かしい……その名を…………」

 ――目覚めよ。

「……またか。…………満月の幻を見るたび、あんたの声が聞こえる…………俺は――いや、俺たち柏木の男は、その声に何度こころをかき乱されたことか――――」

 ――目覚めぬのか。

「…………煩ぇ…………俺はこれから……死ぬのだか――」

 また賢治の脳裏に、柏木姉妹たちの顔が過ぎり、続いてふてくされている息子の顔が過ぎった。

 ――何故、俺を拒否する。

「…………拒否?」

 ――お前は違う。――その強靱な意志と類い希なる資質。――俺はお前を待ち望んでいた。

「…………素質?…………はっ、ただの親父だぜ。……変な手品が出来るくらいだ」

 賢治は、自分でもタネを仕込んだ覚えのない手品を、千鶴たちに良くして見せた。よくわからないのだが、何もないところから、自分が考え出したモノを取り出せるのである。あるいは、本で読んだ超能力で言うところの物体誘引(アポート)とかいう能力でも持っているのだろうと思っていた。無論、自分でも気味の悪いこの能力は決して人前に晒したことはなく、手品と言うことで、落ち込んでいた千鶴たちを和ませるために多用したくらいであった。

 ――そう。――それは、人としての種の次の段階を証明する変調。お前は確かに目覚めている。

「……人としての……種の変調?」

 ――俺を受け入れるのだ。――そして、人を導け。――リズエルが言っていた、クイーンJがやってくる前に!

「…………何言っているんだか……わからねぇよ」

 賢治はアクセルを踏み込んだ。途端に、賢治が乗っていた乗用車が走り出す。

「……ははは…………幻聴さんよ、あんたも道連れだ――――」

 三度、柏木姉妹たちの顔が過ぎった。
 千鶴が、梓が、楓が、そして初音が泣いていた。

「――?!」

 突然、賢治が乗る乗用車が急停止した。賢治は反動で、ステアリングに覆い被さっていた。

「………………何故、泣く、リネット…………」

 ――いえ、泣いておりません、次郎衛門。

「……いや、泣いていたぞ」

 ――泣いておられていたのは次郎衛門のほうではありませぬか。

「…………エディフェルのことか」

 ――やはり、姉様のコトを…………

「…………済まない、リネット。…………俺はエディフェルのコトはやはり忘れられないらしい。…………しかし…………それ以上に…………お前が哀しんでいるのだよな……」

 ――次郎衛門……

「……暫く……お前を抱きしめさせてくれ…………お前はエディフェルの代わりなんかじゃない…………リネットとして…………一族の誇りを護ろうとしたその高潔なこころを、俺は愛したのだ…………?」

 そこでようやく賢治は我に返った。
 そして、悟った。

「…………俺が…………次郎衛門?」

 賢治の脳裏に、リネットの泣き顔が過ぎった。

「…………もう、哀しませまいと思ったのになぁ…………不甲斐ない」

 ――次郎衛門は優しいなぁ。

「…………リネット。……………………我が愛する……妻よ………………もうお前を哀しませない………………お前が信じるものを、俺は護り通して見せよう…………来世でもきっと――――――」

 暫し静寂が訪れた。

 10分ほどして、賢治を乗せた乗用車が走り出し、スピードを上げてやがてガードレールを突き破り、崖の下へと落ちていった。
 崖の下で炎上するそれを、突き破られたガードレールの手前から見下ろしている人影がいた。
 第一発見者は、あろう事か今、崖の下へ墜ちていったハズの柏木賢治であった。その凛然とした眼差しは、奇怪な現象を冷静に見守っているようであった。

「…………なるほど。こうやって物質をつくり出すコトが出来るのか。これで、柏木賢治という男は、魂のない偽りの肉体の死とともに死んだコトになった。…………さて」

 そう呟いて賢治は西の方を見た。
 視線の果てには、賢治が、柏木の男たちが鬼の血にむしばまれながら幻視したそれと同じく、満月を背負う雨月山があった。
 その山の下にあるモノを、賢治は知っていた。リネットから教えられた知識が、みるみるうちに賢治の記憶となっていく。

「…………ヨーク。目覚めの時は近いぞ」

(OPにドラゴンモードの新生アルトことDR2が、THコネクター内にいる赤色のコネクタースーツに身を包んだ柏木梓と電脳連結するレフィとシンメトリカルドッキングして完成した真・超龍姫が、電撃をはらんだ嵐を巻き起こす撃獣姫と並んで登場し、「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出る。Aパート開始)

 話は、柏木賢治――ワイズマンがMMMバリアリーフ基地を襲撃した時に戻る。
 来栖川邸。その、来栖川グループの総代である来栖川京香は、浩之たちが出て行った後、書斎に一人いた。
 京香はおもむろに、向かっていた机の引き出しから、青く光る牙のような形をするペンダントを取り出した。
 かつて初音が耕一に託した、鬼のペンダント。それは以前、竹田輝男を名乗っていた柏木耕一が、マルチに手渡したモノであった。耕一はこれを初音に渡して欲しいと言ったが、それを京香が止めた。これを手渡すコトで、初音に耕一が生きているコトを知られてしまうからであった。もし初音の知るところになれば、精神的傷害から立ち直ったばかりの初音をまた苦しめる結果となるのは明白であった。

「…………リズエルが死の間際、自らの角をへし折り、リネットに託したもの……か」

 京香は手にするそれを、どこか懐かしげな顔で見つめていた。

 時を同じくして、MMMバリアリーフ基地内。
 柏木賢治と、柏木耕一。数奇な宿命の果てに、この親子は再会した。
 敵同士として。

「…………初音ちゃんを放せ!」

 怒鳴る耕一に、ワイズマン=賢治は、狡猾そうに笑った。

「……何を言う。これは我が妻、リネット。お前の様な”次郎衛門のなり損ない”に言われる筋合いなど無い」
「莫迦を言うな!てめぇ、初音ちゃんは実の姪だってコト忘れたかっ!」
「忘れちゃいない――愛する女には代わりがないがな」
「――っ!」

 堪りかねて耕一は突進した。

「――エディフェル!」
「は、はいっ!」

 怒鳴る賢治に従い、エディフェルが耕一の前に立ちはだかった。

「楓ちゃん……!」
「次郎衛門様の邪魔はさせないぞ…………柏木耕一!」
「くっ!」
「霧風丸、来るな!」
「!」

 クサナギブレード構えた霧風丸だったが、耕一に怒鳴られ、その場に立ちすくんだ。

「……おのれ、卑怯な!」

 賢治に敗れたイビルとエビルを介抱していたルミラが、見竦む耕一を見て歯噛みした。
 そんな緊迫とした中、賢治に肩で担がれている初音が、事態をまったく飲み込めていないのか、呆然とした面もちでいた。
 しかし、耕一の顔を凝視しているうち、初音が突然悲鳴を上げた。

「あ――あ――ああっ――――叔父さん?!……嘘…………賢治叔父さん――い、嫌ぁっ!!」
「…………ふむ」

 肩の上で暴れ出した初音の反応を、賢治はどこか楽しげな顔で頷いて見せた。

「…………どうやら、記憶が戻ったようだな――――9年前のあの事件の」

         Aパート(その2)に続く
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