東鳩王マルマイマー第17話「激突!鬼界四天王(Bパート・その2)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「――隔壁が!隔壁がぁ破壊されますっ!」

 メインオーダールームのセキュリティシステムをモニタしていたあかりが悲鳴混じりに申告した。
 同時に、メインオーダールームの四方にあるうち、B、C、Dブロックへ進む通路を塞いでいた隔壁が吹き飛んだ。B通路の隔壁は切り裂かれて四散し、C通路の隔壁は丸ごと押し出された。そしてDブロックの隔壁を打ち抜いたものは、高速自転しながら中央にあった大スクリーンを穿ち、見覚えのある弧を描いてゆっくりとD通路のほうへ戻っていった。
 それを唖然とした顔で見つめていた智子は、息を吐くように声を洩らした。

「……アホな……今のは…………今のヤツは……!」

「――わたしがもうひとり!?」

 通路に出現した新たな敵をみて、マルチは唖然とした。そこにいるのは、マルチの姿形をしたマルマイマーなのである。
 そればかりか、Aブロックでアズエルとの交戦で大破し修理中の超龍姫と、初音を連れて逃走したエディフェルをおっていたハズの霧風丸までもが肩を並べていた。

 同じ時、エディフェルを追い詰めていた霧風丸も、突然出現したマルマイマーと超龍姫、そして自分と同じ姿をするもう一人の霧風丸を前にして唖然となっていた。

「ル、ルミラ様!廊下にも、マルマイマーや霧風丸がおります!これはいったい?!」

 ルミラの背後に付いていたイビルが、廊下の方を見て素っ頓狂な声を上げた。エビルは声も出ず狼狽している。

「……ワイズマンの仕業よ」

 ルミラだけが冷静にその場を分析していた。MMM創設メンバーのひとりであるルミラは、ワイズマンの能力を知っていたのだ。

「空間そのものを変質させて作り上げた、実体のある虚像――偽物だが、しかし彼は彼が知らないものを造り出すことは出来ない」
「え……?」

 霧風丸が驚いてルミラのほうを向いた。

「――ワイズマンは、自分が認識しているものなら造り出すことが出来る。マルマイマーを含めた、エルクゥが残したウルテクの殆どは、あの男が居なければこうも再現は出来なかったでしょう」
「え?ワイズマンって、人間なんでしょ?どうしてエルクゥのテクノロジーを知り仰せたのですか?」

 イビルが不思議そうに訊いた。するとルミラは顔を険しくし、口を開いた。

「……ヤツは、あの次郎衛門の魂を取り込んだ男。次郎衛門はリネットによってエルクゥのテクノロジーを学び、その力は後世にも脅威と認め、ヨークを含めたエルクゥのテクノロジーの流失を恐れて封印したのだ」
「くっ……!」

 霧風丸は再びエディフェルのほうを向いた。先ほどまで追い詰めていたと思っていた優勢だった状況は、前後に出現したコピー勇者メイドロボによって逆転されていた。

「エビル、イビル!コピーとはいえ、その性能はオリジナルと同じ!覚悟して掛かりなさい!」
「「はっ!」」

 ルミラの号令とともに、イビルとエビルは廊下の方へ飛び出し、コピーマルマイマーたちに突進した。二人が飛び出したのと同時に、ルミラは霧風丸のほうを向いた。

「霧風丸!二人で行くよ!」
「――いえ、わたし一人で相手をします」

 霧風丸はエディフェルとの間に出現した自分のコピーたちを睨みながら答えた。

「しかし――」

 ルミラは続けて言おうとして、突然声を詰まらせた。

(………笑っている?)

 ルミラは、自分たちと同じ顔をする敵を前にして、嬉しそうに笑っている霧風丸を見て唖然となった。

(……この女……ここまで好戦的だったか――)

 戸惑うルミラの脳裏に、ある青年の顔が浮かんだ。
 仏のような慈愛に満ちた青年であった。
 そして何より、血を見るのが至福と考える青年であった。
 善と悪、正反対の貌を持つその青年たちは、ひとつの肉体を共有し合っていた。
 二重人格。ルミラはかつて、彼がしでかした連続殺人事件に巻き込まれたコトがあった。そして青年の善の貌の意志に従い、善と悪の貌が一緒に開発していた機械仕掛けの少女が、彼に引導を渡した瞬間に立ち会っていた。
 気の所為か、霧風丸のその不敵そうな笑みは、青年が悪の人格の時にルミラに見せたそれと良く似ていた。ルミラはまるで、霧風丸に彼の魂が入り込んでいるのかと思わずにはいられなかった。

「……ルミラさん……哀しいですね」
「え?」

 ルミラは、霧風丸が自分に声をかけたコトに驚いた。

「……わたしは、マルチ姉さんたちと違い、初めから戦闘用に設計されていました。……だからなのかも知れません」
「?」

 戸惑うルミラは、霧風丸の口元がつり上がった僅かな変化に気付いていた。

「……スペック上の話ではなく、実戦用の兵器として、マルマイマーや超龍姫よりも本当に戦闘能力が高いのか確かめたい――今はそんな気分で一杯なんです」
「…………」

 ルミラは半分呆れていた。残り半分は、この物憂げな面立ちの機械仕掛けの少女に、明らかに恐怖していた。
 だが僅か1パーセントほどであろうか、ルミラにはもう一つ、この戦闘を前に高揚している霧風丸に対する印象を抱いていた。
 はっきりとは言えぬが、そう、――共感しているのだ。あきらかに理不尽な戦いを前にして平然としているこの戦乙女に、ルミラは感動しているのだ。

(……〈神狩り〉の血が騒ぐのかね。……面白いよ、この娘)


 撃獣姫が一歩、コピーマルマイマー達の方へ進んだ。

「ちぃ!ワイズマンって野郎、逃げやがった!」
「テキィさん!危険です!」
「それは承知しています」

 制止しようとするマルチに、撃獣姫は振り返らずに答えた。

「……かつて姉さんたちと闘ったコトのあるわたしだからこそ、目の前にいるこの偽者たちがオリジナルと同等の能力を保有しているのは承知しています。――しかし」
「しかし?」
「――今のわたしは不退転。背負うものの大きさを知っているから、引くわけにはいかないのです」
「その通りだ」

 撃獣姫の胸部にある虎の顔、雷虎が毅然と答えた。

「姉上。今のテキィは多くのものを背負っております。――しかしそれは、嘗て犯した罪だけではありません。今のテキィは護るべき大切なモノが多くあります」
「護るべき……もの?」
「ひとつは人々の命。理不尽に殺されようとする人々を黙ってはいられない。それは、マルチ姉上や藤田殿も含まれております」
「それと同じくらいに――」

 そう言って撃獣姫は背負っている白い翼を大きく広げて身構えた。

「――姉さんたちの顔を模すこのような不逞な輩どもに、姉さんたちの気高い誇りを汚すマネを許せはしません!」
「へっ」

 それを聞いてゴルディアームも一歩前進して、撃獣姫の横に並んだ。

「気に入った。――おいらも同感だ」
「ゴルディ……」
「さぁ、さっさとこいつら片づけて、マルチ姉さんたちをメインオーダールームに送ろうや」
「ああ」

 撃獣姫は嬉しそうに微笑んだ。

「「「――さあ、かかってくるがいい!」」」

 撃獣姫たちの挑発に乗ったかのように、コピー霧風丸とコピー超龍姫が身じろいだ。

「先鋒はあの二体か――何?」

 てっきりコピー霧風丸たちが突進してくるものと思っていた撃獣姫たちは、単に左右に分かれただけだったので拍子抜けした。だが直ぐにそれは間違いであったコトに気付く。 なんと二体の後ろでは、右腕を振りかぶっていたコピーマルマイマーがブロゥクンマグナムを発射する態勢をとっていたのである。

「ブロゥクンマグナムだと!?」
「二人とも、危ない!」

 驚く浩之の隣でマルチが悲鳴混じりに注意した。
 しかし撃獣姫は逃げるどころか、またもう一歩進んだのである。

「――所詮、物真似。そんな者の拳を、何を恐れるか!」

 撃獣姫がそう怒鳴った瞬間、コピーマルマイマーはブロゥクンマグナムを発射した。たちまち狭い通路内に拡がるジェットの轟音に、浩之とマルチは思わず耳を塞いだ。音速を超える質量兵器は、まっすぐ撃獣姫の顔面目がけて進んでいた。

「撃獣姫!?」
「――笑止」

 バシィンッ!ゴルディが撃獣姫に声をかけ、撃獣姫がにぃ、とほくそ笑んで言ったのとそれは同時に聞こえた。

「「「――あっ!」」」

 浩之とマルチはコピーマルマイマーの攻撃が撃獣姫に決まったものと思っていた。ところが、敵が仕掛けたブロゥクンマグナムは、なんと撃獣姫が突き出している右手の手前の空間で制止していたのである。

「――『プロテクト・ストーム』。マルマイマーの左腕に内蔵されている量子制御式防御兵器、プロテクト・シェイドの強化版です。小規模ながら、ディバイディング・クリーナーと同等の性能を持っております」
「「「な……なんと」」」

 唖然とする浩之たちに、撃獣姫が不敵に微笑んでみせた。

「言いませんでしたか?わたしは、マルマイマーMk2。浄解能力とGツール使用機能を除いて、マルマイマーの性能を参考に強化された戦闘用メイドロボなのです。戦闘力に関しては、マルマイマーには引けを取りません。――そもそも、なによりも」

「なによりも?」

 奇しくも、撃獣姫がそう言ったとき、別のブロックで戦闘していた霧風丸もルミラに同じコトを言っていた。

「――わたしたちは負けるハズはありません。何故なら、この偽者たちと私たちには、決定的な差があります」
「決定的な差?」

「「そう」」

 霧風丸と撃獣姫の返答が場所を違えど重なった。

「「――偽者たちには勇者の証が無い!」」

「……勇者の……証?」
「……そうだな」

 首を傾げるマルチの横で、浩之が嬉しそうに頷いた。

「浩之さん、どういうコトですか?」
「あいつら見てて判ったよ。――違和感が。奴らはただ、闘うだけの戦闘マシン、こころがない!」

 指摘され、マルチは自分の偽者を見た。
 その顔はいずれも余りにも無表情で、同じ機械仕掛けのマルチをして、不気味な印象を与えるものであった。この偽者たちは、心も思考さえも行わない、目の前にいる敵をただ倒すだけの自動機械兵器なのだ。

「あのワイズマンとやらも、おいらたちのようなこころまでは造れないようだな――神なんかじゃねぇ!」

 ゴルディが自慢げに言うと、左右に分かれていたコピー超龍姫とコピー霧風丸が飛びかかってきた。

「おおっと、そうはいかねぇぜ!――慣性制御ォッ!」

 ゴルディが、飛びかかってきた二体に向かって両手を突き出した。すると弧を描いて撃獣姫たちの頭上から襲いかかって来るはずの二体は、まるで重力を失ったかのように天井に激しく激突したのである。ゴルディに内蔵されるWAサーキットは、THライドが量子を自由に制御できるように、慣性を自由に制御するフィールドを形成することが出来るのだ。飛びかかってきた二体に対し、ゴルディは二体に掛かっている慣性の力が、重力を上回るよう増幅させたのである。

「折角の機会、遠慮なくやらせてもらおうぞ、なぁテキィ」
「ああ。――この左腕に宿りし破壊力、味わってもらおう――ファントム・リング!」

 撃獣姫がそう叫ぶと、撃獣姫の左翼が肩越しにその頭上に延び、翼の先で大きな輪を描いた。描いたのは軌跡だけでなく、はっきりと目視できる光のリングをその虚空に残した。

「――フライホイール・シールアウト!」

 続いて撃獣姫がそう叫ぶと、その左腕から、カシャン、と鍵か外れるような音が聞こえ、左拳が左回りに高速回転し始めた。それは電撃を放つ撃獣姫の左腕に内蔵される、高エネルギーを保存するために超高速回転を続けているフライホイールと接続された音であった。

「――プラス!」

 撃獣姫はその左腕を振り上げると、先ほど翼が拵えた光のリングの中心に差し込んだ。すると撃獣姫の左腕が拳と同じように左回りに回転し始め、続いて光のリングが右回りに高速回転し始めたのである。

「「……まさか…………これはっ?」」
「そう!マルマイマーMk2の主砲、そしてマルマイマーの主砲であるブロゥクンマグナムの強化版!」

 撃獣姫が大きく身をのけぞらせ、反動を利用して光の輪を伴って高速回転している左腕を勢いよく突き出した。

「〈ブロゥクン・ファントム〉!!」

 ドゴォォォンッ!!先ほどのコピーマルマイマーが放ったブロゥクンマグナムとは比にもならないほど強烈な爆音を轟かせ、撃獣姫は超高速回転しながらロケット噴射して飛びゆく左腕という必殺の質量兵器を放った。巨大な光の弾丸となったそれは、天井から落下してきたコピー超龍姫とコピー霧風丸のボディを一撃で粉砕し、1秒も経たず、即座にプロテクトシェイドで防御していたコピーマルマイマーを、正面に組成した湾曲空間の盾などものともせずその左腕から粉砕し、続いて本体も粉砕した。

「…………心なきものなど、勇者にあらず。――勝敗など初めから決しておったわ」

 同じ頃、霧風丸も、心なきものに恐怖無し、と言うのと同時に、三体の偽者に必殺技の回転剣舞・百花繚乱を仕掛けて一瞬の元に屠り去っていた。

               Bパート・その2へつづく
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