東鳩王マルマイマー第17話「激突!鬼界四天王(Aパート・その3)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 どかっ!唖然となるアズエルの前で、観月は顔を覆っていた右手を外し、拳を握って直ぐ近くにあった机の上を力一杯叩いた。

「――僕と沙織は幼なじみだった。途中、学問の道が異なり、大人になって再会したが、その時は既に――、僕は昔から沙織が好きだった。なのに、何もかもオゾムパルスが奪ってしまった!――復讐したいと思うのは当然だろう?――――それが本当は――」

 アズエルは、この若き科学者が自らの心の葛藤に耐えきれず混乱している姿を見て、複雑な思いに駆られた。
 アズエルは思う。自分は雌雄同一体。生物界では珍しくはないが、しかし己を括る種として見れば異常な存在である。
 そして、こころも男と女の心を兼ね備えていた。
 ――果たして、それは本当なのか。
 男のつもりでいるのではないのか。
 女のつもりでいるのではないのか。
 あるいは、そのどちらでもないのではないのか。
 どちらかが偽り。心が自らの存在意義を護るために、謀っているのではないのか。
 自分の心が。――自らを。
 だからアズエルは理解した。自分はそのどちらでもないのだと。
 男でも女でもない。しかしその両方でもない。
 自分は全く別のモノ。そう言う生き物なのだ、と。
 ――そうやって、自分を誤魔化してきた。

 いつか気付くかも知れない。目の前にいるこの男のように、自分の心を誤魔化してきたツケに。
 不意に、アズエルは進み出した。そしてわななく観月の両肩を両手で掴むと、すぅ、はぁ、と深呼吸した。

「……落ち着け。それは必ずしも本心とは限るまい。――そう自分を貶めるものでは……」
「僕は――」
「?」
「――僕は、沙織を護りたかった。……子供の頃からずうっと――でもね、僕はそのコトを沙織には告げられなかった。臆病すぎて――違う、自分が傷つくのが怖かっただけなんだ。だから――」

 そこまで言って、観月は声を詰まらせた。心なし、顔が青ざめていた。
 アズエルは、この観月という男が、極度の緊張感に弱い人間であるコトに気付いた。神経質なのだろう。そして思い込みも激しい。そのくせ、人には優しすぎる。だからいつも自己嫌悪ばかりしていた。
 アズエルは、男ではないが、そんな人間を良く知っていた。

「……もういい。今はそんなコトをお、いや、あたしに告白している場合ではないしょう?」

 アズエルは意識して女言葉を使った。
 しかし観月は、一回深呼吸すると再び話を続けた。

「――だから、汚された沙織が許せなかった」
「――――」
「……処女信仰なんて時代錯誤なコトは思っちゃいない。しかし、そのうかつさが許せなかった。――昔から何でもかんでも首を突っ込み、時には痛い目に遭うコトを承知で絡んでくる。興味本位で覗き見ばかりするから、こんなふうになるんだ。――子供の頃から同じコトを何度口にしたコトか!」

 アズエルは、観月とその妻である沙織との見知らぬ幼少の姿を想像した。
 興味津々で、不思議と思ったらそれをとことん追求せずに入られない女のコと、そんな女のコに振り回される、大人しい男の子。そんな二人だったのだろう。そして観月は、そんな頃から沙織が愛おしかったのだろう。そうでなければ相手などしまい。そしておそらくは、沙織という女のコも。
 途中、二人の付き合いに空白の時期が合ったという。その間に、沙織は汚された。
 守れなかったという後悔と、相手の迂闊さを咎める怒り。愛憎の二律背反。
 しかしそれを何故、アズエルに告白するのか。そもそもアズエルにはそれが理解出来なかった。
 だが、ここに来てアズエルは、観月がそれを語る理由を何となくだが理解した。
 いわばこれは、懺悔なのだ。
 つまり、理想が現実になったコトで、この男は自分の闇にようやく気づき、その闇を照らしたのがアズエルであると無意識に思いこんでいるのだ。そしてそう思いこむコトで、自分は贖罪しているのだと信じているのだ。
 いわば、観月にとって、自分の考えを肯定することでその存在を否定した、柏木梓の顔をした「神様」が、自分を否定する存在であるべきなのだ。
 古来、信仰とはそういうものであった。自らの信仰者の生き方やあり方を否定した上で、これから進むべき道を示し、その先を肯定する。信仰者はそれが「絶対」であると信じて進むのである。
 しかしアズエルは、そんな先読みの力など持ち合わせてはいない。はっきり言えば、アズエルは観月の「張り子の神(アイドル)」なのである。
 だからアズエルは、そんな観月が少し許せなかった。

「その迂闊さを咎めるコトで、自己弁護を図ろうというのか」
「――――!?」

 観月は、はっ、とした顔で、自分を睨むアズエルの顔を見た。

「それがお前とお前の妻との間にある深い溝の正体だ。――それが見えるから、お前を拒んでいるのではないのか?」
「…………」

 次第におろおろし始める観月をみて、アズエルは益々憤った。観月の痛覚は、自分の両肩を掴んでいるアズエルの手に力が籠もり始めているコトを彼の脳髄に報せ、呻かせた。

「――そしてそのコトに自分も気付いている」
「――――?!」
「そうではないのか?」

 そう訊いてアズエルは観月を突き放した。両肩を押された観月は、直ぐ後ろにある、超龍姫が置かれているメンテナンスケイジによろめきながらぶつかった。
 ううっ、と呻きながら顔を上げた観月は、目の前にいるアズエルが、俯いて唇を噛みしめていたコトに気付いた。

「……あんた」
「…………愛おしいから憎い。…………わからんでもないがな」
「――――」
「…………もう、この話題に触れるのは止せ。……お前の心の闇を弁証しているもう一人の妻が傷ついたままでは尚更止めるべきだ。……今は早く直してやれ」

 観月は暫し考え、やがて頷いて立ち上がった。
 もう一つ、アズエルに聞きたいことがあったが、観月はそれは止めた。
 答は判っていた。超龍姫が直ったら、この鬼女はまた超龍姫と戦いこれを破壊するであろう。
 ならば――観月は、DR2が収められている保存ケースに近づいて、そのロックを解いた。

   *   *   *   *   *   *   *   *   *

 初音を肩に担いでいるエディフェルは、その重さなど苦もせず、疾風のごとく基地内通路を走り抜けていた。

(……そろそろ月島瑠璃子がこの基地に接近してくる頃だ。外周を破壊してくるだろうから、出来る限り基地内の奥へ――何?!)

 エディフェルは、自分の両脇を並行して走る二つの人影に気付いた。

「くっ!」

 驚いたエディフェルは急停止し、自分を追っているのであろう影の背後に回った。二つの影は即座に停止した。
 子供であった。男と女の可愛らしい、しかしその手に握られている小型ビーム兵器は余りにも不似合いであった。

「……このあたしのスピードに追いつく人間が居るとは――」
「柏木初音は返して貰うよ」

 その声は、エディフェルの背後から聞こえた。また驚いたエディフェルが振り返ると、そこには、腰の下まである亜麻色の長い髪を冠した美女が佇んでいた。
 この女もエディフェルを追っていたのであろう。しかし息ひとつ切らせていない。エディフェルでさえ少し呼吸が乱れているというのに。本当に人間か。

「自己紹介がまだであったな。……あたしはルミナ・ロワイヤル。MMM特戦隊所属、TH四号艇長。その後ろにいるのがあたしの部下、イビルとエビル」
「よろしく」

 そう言って無邪気に笑うイビルの横で、エビルは無表情に、こくん、とお辞儀した。

「ルミナ・ロワイヤル――」

 その名を聞いてエディフェルは瞠った。

「まさか――その顔――生きていたのか、貴様!」
「ほう――エディフェルの記憶は確からしいわね」
「ば――莫迦なっ!来栖川京香や次郎衛門とともに我らが同胞と戦ったのは今から何百年前だと思って――そうか、子孫か?!」
「残念――本人よ」

 そう答えて、ルミナは、にぃ、と笑った。

「――〈不死なる一族〉。そのようにあんたたちが造り出したのでしよう?」

 エディフェルは唖然となった。
 そう、かつてエルクゥ――人類原種は人類を創造した。そして、〈The・POWER〉によって「こころ」を得た人類という種を監視するために、彼らは人類種の進化を促進し調整した超人類、〈ゲートキーパー〉を創造した。後の血族たちから〈神祖〉と呼ばれるようになるその存在は、人類種と交わりながら、人類種の監視を行う血族を設けていた。それは長岡家や来栖川家ばかりだけでなく、中には神祖の直系である一族もいた。彼らは決してその名の通りの不死身ではない。非常に長命なのだ。ルミラの母は1200歳以上生きていた。ルミラはそれでもまだ一族の中では若輩であった。

「我らは〈神〉が成した業を晴らす、〈神狩り〉を生業とする」

 そういうとルミラの右手が光り、それは一瞬にして十字架を想起させる巨大な槍となった。

「〈ロンギヌスの槍〉――そんなものまで手に入れていたのか!」
「生憎、この神殺しの槍はある女から預かっているだけ。――だけどあたしにも使いこなせる」

 ルミラは自分の身長を遙かに上回るその巨大な槍を軽々と振り回し、やがてエディフェルに穂先を向けた。

「〈神狩り〉を3人、相手に出来るとお思いかしら?」
「そうだな――!」

 エディフェルは突然その場で回転を始めた。するとエディフェルを中心に空間に光の亀裂が生じ、3人目がけて延びていく。

「くっ!」

 ルミラはすかさず光の亀裂へ槍を向けて受け止めた。しかし反対側にいたイビルとエビルは避けきれず、光の亀裂を全身に受けた。
 次の瞬間、イビルとエビルの身体は粉々に引き裂かれてしまった。エディフェルの次元刀攻撃は、空間断層を引き起こすものだが、このような空間破壊も可能なのであった。
 二人の部下の無惨な姿を見ても動揺ひとつしないルミラも凄いが、空間断層を受け止めてしまうこの槍はもっと凄かった。

「二人とも、のうのうと死んでいる場合じゃないよ!」

 だが、そんな神秘な力もうち消してしまう、ルミラの叱咤。死者を叱咤するその姿は余りにも異常であった。
 そう、死体がその場にあれば。

「……ば、ばかな――!」

 エディフェルは自分の目を疑った。振り返ったそこには、粉々になったはずのイビルとエビルが無傷の姿で自分に襲いかかってきたのだ。

「幻術か――――!」

 すかさずエディフェルは次元刀を放ち、今度は二人の身体を頭頂から左右に分断した。朱色を引く四つの肉からは確かに血臭を放っていた。
 なのに、瞬いた瞬間、二人は元通り、いや、一緒に切り裂いたはずのビームロッドも含め、始めから何もダメージを受けていない姿で床の上に立っていたのである。どう考えても幻術を仕掛けられたとしか思えなかった。

「〈不死なる一族〉にも色々な〈死なずびと〉が居てね。――その双子の姉妹は、死んだ瞬間、死んでいない過去の世界から自分の肉体を呼び寄せて入れ替わる能力を備えているの」

 エディフェルは絶句するばかりであった。

「……決して不可能ではないのよ。量子世界では世界ですらフイルムのコマみたいなもの。使い捨てられた世界という廃品を再利用しているだけ。コンピューターゲームで言うところのリセットだけど、経験は残っているから――強いわよ。見かけは子供だけど、もう百年も生きているわ、二人とも」
「くっ――――!」

 エディフェルは直ぐ横にある通路の壁を目で見た。そしてそこへ次元刀を放って壁をくりぬき、その中へ飛び込んだ。

「これ以上、お前らのような化け物を相手には――何?!」

 突破口を文字通り切り開いたエディフェルは、入り込んだ部屋の奥の壁に、何者かが背もたれして佇んでいるコトに気付いた。

「……待たせてもらいました」
「――紫のロボット!」
「いい加減、憶えて欲しいところです。――わたしの名は霧風丸」

 そういって霧風丸は身を起こした。

「……ルミラ艇長、この場はわたしにお任せ下さい……さぁ、決着を着けましょう」
「ぐあっ!」

 度重なる、常軌を逸している敵の出現に激しいストレスを憶えていたエディフェルは、ここに来てついに我慢の限界を超えてしまったらしい。その美貌さえを禍々しくゆがめて咆吼し、初音を抱えたまま霧風丸に飛びかかってきた。

「愚かな――分身殺法!」

 次の瞬間、霧風丸の身体が光り、分離した。しのぶ、翼丸そして狼王から発射された鎖がエディフェルの身体を縛り付け、その動きを封じ込めるコトに成功したのである。

「――たわけっ!こんな小細工っ!」

 動きを封じたと思われていたそれは、エディフェルの咆吼とともに四散する。瞬時に次元刀で切り裂いていたらしい。そしてエディフェルは振り向き、慌てて三位一体で合体した霧風丸を睨み付けた。

「――初音さんを放しなさい!」
「黙れ、また切り裂いてくれるわ!」

 エディフェルはまたも霧風丸に飛びかかる。しかし霧風丸は、今度は分身殺法で避けようとはしなかった。

「次元刀はもう効きません――メルティハウルング!」

 すかさず霧風丸はエディフェルに狼王の頭部がパーツとなっている左手を突き出し咆吼した。これによりエディフェルの周囲の空間を構成する量子が一斉に励起し、エディフェルの空間断層を封じ込めた。

「なめるなっ!」

 次元刀を封じられても、エディフェルにはエルクゥの剛腕があった。エディフェルの右拳が、次元刀を警戒していた霧風丸の顔面を捉え、フェイスマスクを粉砕した。
 粉々に砕けたその下から、エディフェルは自らと同じ顔を目撃した。
 柏木楓の顔を持つ二人。しかしどちらも柏木楓ではない。

「霧風丸!」

 イビルが部屋に飛び込み、加勢しようと声をかけた。しかし霧風丸はエディフェルを睨んだママ、首を横に振って見せた。

「…………ここは、わたしにお任せ下さい」
「しかし――」
「…………お願いです!この人と向かい合うコトで、ようやく見えてきたのです!」
「「「?」」」
「わたしの真実が――わたしの中で眠る者の正体が、判りかけてきたのです!」

(Aパート終了:イビルとエビルが持つクリプトンガス・レーザーブレード内蔵ビームロッド、ビームジャベリンとビームサイズの映像とスペック表が映し出される。Bパートへつづく)
http://www.kt.rim.or.jp/~arm/