東鳩王マルマイマー第17話「激突!鬼界四天王(Aパート・その2)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「……無から有を作り出す――こんな芸当が出来るのは」
「――神様だけです」

 マルチは、今、自分の口にした言葉に恐怖した。
 そしてそれを耳にした浩之も、耕一の得体の知れない能力に恐怖していた。

「――いや」

 槍を引き抜いて立ち上がった風姫が首を横に振った。

「無からではなく、有から有を造り出す。つまり、元素変換――分子構造の任意変化を実現することで、物質を異なる物質に作り替えることが出来るのです」
「物質を別のものに――?」
「この槍も巨鳥も、空間に漂う粒子や電子を――おそらく空気さえも元素転換させて造り出したのです」
「ご名答」

 耕一は、にぃ、と嗤った。その笑みを見て、風姫は睨んだ。

「まるでファンタジーものに出てくる錬金術みたいだな」
「それゆえにこの男は、ワイズマン――”賢者”と呼ばれていたのです」
「それだけではないのだがな」

 耕一は伽琉羅を薙いでみせた。

「しかし判ったとしてもどうにもなるわけではあるまい」
「――そう言いきれるあなたには油断が伺える!」
「何ッ?!」

 突然、マルチたちの背後から紫色の影が飛び上がり、耕一の頭上目がけて飛来する。耕一はすかさず伽琉羅で攻撃を受け止めるが、しかし紫の影にはそれで仕留める意図はなかったらしく、伽琉羅をクッションにして耕一の背後をとった。

「霧風丸!」
「おいらもおるでっ!」

 ゴルディアームもいつの間にかマルチと浩之でかばい立って耕一を睨んでいた。

「ゴルディ!」
「ゴルディ君!」

 マルチが嬉しそうにゴルディの背中に抱きついた。

「霧風丸に撃獣姫、そしておいらを相手にし切れると思ってかっ、こらっ!」
「霧風丸!初音さんが敵に連れ去られました!この先です、後を追って下さい!」

 同じく耕一の背後にいた風姫が霧風丸に言った。

「何ですって!」

 いつもの冷静さは何処へか、霧風丸は酷く大声で驚いてみせた。

「連れ去ったのは柏木楓、いえ、エディフェルという女です!ここはわたしたちに任せて、急いで!」
「了解!」

 霧風丸は躊躇わず背を向け、エディフェルが向かっていった先へ走りだした。

「追わせぬっ!」
「それはこちらのセリフだっ!號雷拳!」

 霧風丸を攻撃しようとする耕一に、雷虎はいきなり両腕を振りかぶり、組んだ拳を床に叩き付けた。すると拳で叩かれ、砕かれた床から電撃が発射され、床を這いずって耕一に襲いかかったのである。

「むっ!」

 慌てて耕一は飛び上がり電撃をかわそうとしたが、指向性を持った電撃は耕一の足許で噴水のごとく垂直に延び、耕一を貫いた。

「ぬぅおおおおっっっっっ!!」

 電撃を受けた瞬間、耕一は壁に伽琉羅を突き立て、電撃を壁に流した。マルチと浩之は既にゴルディに持ち上げられて飛んでいたので感電はしなかった。

「刀をアースに使ったが、高電流が通り抜けたんだ、ヤツもただでは――」

 浩之は即座にその考えを改めた。壁に突き立てた伽琉羅を握りしめる耕一は、ヤケドひとつ負わず悠然としていた。

「……電撃が訊かなかったワケではない。さっきもそう――こいつの代謝能力は常軌を逸している――元素変換能力の応用だな。電撃で死んだ細胞を、その能力で瞬時に甦らせているのか……化け物め――いや、これが人類原種というものか」

 浩之は、目の前にいる超生命体を本気で恐怖した。こんなものが、今の自分たちの敵なのだ。
 そんな恐怖の中で、浩之の脳裏にある仮定が生じた。

「――ということは……まさかこの鬼界四天王たちは――」

   *   *   *   *   *   *

 撃獣姫たちが耕一と対峙しているその頃、TH壱式の中央に位置する第1メンテナンスルームでは、観月が大破した超龍姫をメンテナンスケイジに接続して修理をしていた。
 その観月の横には、柏木梓の顔をした鬼界四天王のひとり、アズエルが居た。アズエルは観月の説明を聞きながら超龍姫の修理を手伝っていた。ここまで超龍姫を運んできたのはこのアズエルなのだが、超龍姫を大破させたのもこの鬼女であった。
 観月は道々、アズエルの真意を理解しようと努めたが、今もってさっぱり理解出来なかった。目障りだから破壊すると言っておきながら、急に興味が湧いたといって修理しろと言う。まるでからかわれているようであった。
 ただ、不快な気分にはならなかった。
 この鬼女からは、出会ってから一向に敵意と呼べるものを感じなかったのである。超龍姫を破壊した時も、殺意と呼べるようなものもなく、じゃれ合っていたような感じに見えていた。観月には兄弟が居ないのだが、もし居れば、まるで兄弟喧嘩のそれであったと表現したであろう。

「コネクタの接続はこれで良いのか?」
「あ、ああ。……済まない」
「気にするな」

 そういって嬉しそうに微笑むアズエルに、観月は複雑な思いを積もらせるばかりであった。
 だがそんな思いさえ吹き消す事実が、観月を昏くさせた。

「……駄目だ。メインフレーム、リキットサーキットすべて破損が酷い。このボディはもう使い物にならない。新しいボディでなければ」
「無いのか?」
「?」
「新しいボディは無いのか、と訊いている」

 観月が驚いたのは、済まなそうな顔で訊くアズエルを見たからではない。
 ボディはある。このメンテナンスルームは観月が管理するもので、直ぐ隣の倉庫に一基、新しいボディがある。
 しかしそれは、今までのボディとは違う。
 正確に言えば、超龍姫の本当のボディは、そのもう一つあるボディなのだ。
 機種管理コード、MMM−SDQ−DR2−JK。通称、「DR2」。
 従来の超龍姫は、レスキュー活動やマルマイマーたちの戦闘をバックアップ用に設計されたボディで、内装武器はほとんど無い。
 しかしDR2は違う。戦闘能力を重視した、機械仕掛けの戦乙女(ヴァルキリー)である。そしてこのDR2をベースに、生前の朝比奈美紅は重火器戦闘用勇者ロボ「ドラゴン・マルマイマー」と、高速戦闘用勇者ロボ「ブレード・マルマイマー」を設計開発していたのだが、美紅の死によってこの計画は頓挫し、半ば放棄されていたそれを観月が個人的に研究し、DR2を完成させていたのである。
 そう、こんな非常事態を懸念して。
 なのに、観月は超龍姫をDR2のボディに移し替えることを、何故か躊躇っていた。

「――だから、無いのか、と訊いている」
「あ――い、いや」

 観月は少し怒って訊くアズエルの声に、躊躇い迷っていた自分から我に返った。

「…………ある。…………あるが、しかし」

 そう言って観月はアズエルの顔を困ったふうに見た。

「――あると判ったら、今度はそちらを壊すと思っているのか」
「――――」

 観月は困却するしかなかった。無理もない、今は好意的だが、所詮この鬼女は敵なのだ。
 だが、その敵が、こんなふうに微笑むものなのか。もの哀しげな顔をするアズエルに、観月はどう応えて良いものか判らなかった。

「…………直ったら戦わないとは言わぬ。……しかし、このままではこの女が余りにも哀れだ」
「……え?」
「……わたしはな、傷ついた女はたとえ敵であろうとそのままにはしておけぬ。女はやはり、毅然とした美しさを常に持っていて欲しいのだ。――私の愛するリズエル姉さまと同じようにな」
「リズエル……」

 観月はその名を知っていた。エルクゥ皇女の長女、そしてマルマイマーを始めとするMMMのウルテク技術を発明し遺していた天才の名を。

「そう、リズエル姉さまはとても美しいお方だった。そして母上と違い、分け隔てなく誰にも優しかった。――そう、こんなわたしのような出来損ないのようなモノにも」
「出来損ない……?――――!」
「知っていたようだな」

 アズエルは、観月の顔に浮かんだ閃きを見逃さなかった。

「……いや、詳しくは……超龍姫のAIシステムが特殊な理由は知っているが」
「ほう」

 アズエルは感心したふうにいうと、メンテナンスケイジに接続されている超龍姫を見た。

「わたしのTHライドを使うにあたり、さぞ苦労したことであろう。なにせひとつで二人分の魂が収められる仕掛けになっていたのだからな、二人分の魂を用意しなければならない」
「やはり――」

 観月は絶句した。そんな観月に、アズエルは照れくさそうに苦笑した。

「……わたしは男と女の魂を持つ突然変異体――もともと男女の双子で生まれるはずだったそれが、母上の中でひとつに混じり合わさって生まれ落ちたばかりに、男と女のエルクゥの特性を兼ね備えてしまった雌雄同一体――もっとも今は、身体はちゃんと女だがな」
「…………」
「……始めは母上もわたしに優しかったが、やはり男女の特性を持つわたしを不気味に思うようになった。女でありながら男のエルクゥと同じように力の制御が出来なくなるときがある――凶暴に、な」

 アズエルは微笑んで語るが、その横顔には哀しさばかりが伺えてならなかった。

「……そんなわたしでも、リズエル姉さまは優しく接してくれた。俺が男の魂に負けて暴走したときも、姉様はわたしを優しく受け止めてくれた。どんなときでもリズエル姉さまはわたしを愛してくれた。姉として、そして――女として」
「――――」

 観月は驚いた。伝説の鬼女たちの意外な一面をまさか知るコトになろうとは思っていなかった。もっともエルクゥたちは、人間にとって神々も同然の存在。神話のそれが指すように道徳観念が根本的に違うのであろう。あるいは、リズエルという女の懐の深さが遙かすぎるのであろうか。

「……呆れたか?」
「い、いや……」
「笑ってくれてもかまわんよ。この星の男でも、やはりふしだらだと思うか?」
「…………」
「答えづらいよな、やはり。――俺自身そう思っているのだから」

 そこでようやく観月は、アズエルが男言葉を使い始めているコトに気付いた。

「……でもな。実の母上を敵に回さなければならないリズエル姉上の寂しさを、放っておけはしなかった。…………俺にとってリズエル姉様は母上以上に母親であり、尊敬する姉であり、命に替えてでも護らなければならなかった愛した女であった」
「…………」

 観月は黙ってアズエルの話を聞いていた。聞き入っていたと言っても良いかも知れない。まるでアズエルの心情に感銘でもして居るかのように。

「……もっとも、リズエル姉様が、バカどもがしでかした罪を償うべく進んで機械仕掛けにならざるを得なかったのを何も出来ず、俺は俺で姉様の言いつけでリネットを次郎衛門の元へ逃がすための盾になって男どもに掴まった。不断は俺を男扱いしていた奴らだったがな、掴まえると欲情して俺を何度も強姦した」
「――――」

 その時、無言の観月の眉がぴくり、と動いたのだが、アズエルは気付いていなかった。

「なんてヤツらと思ったよ、あらゆる意味で。――抵抗もできなかった。挙げ句、リズエル姉様の目の前で槍で刺し殺された。最後に憶えているのはリズエル姉様とリネットの泣き顔だ。つくつぐ中途半端で不甲斐ないモノだと思っている…………さぁ、少しおしゃべりが過ぎた。早く彼女を直してやろう」

 アズエルは饒舌になっている自分に気恥ずかしさを憶えたらしく、顔を赤くして観月の背中を叩いた。
 だが、昏い顔のままの観月に気付くと、アズエルは、どうした?と訊いてみせた。

「…………そんなコトはない。僕よりあんたのほうが立派だよ」
「?」
「……さっき」
「?」
「どうして自分の妻の顔を使ったのか、って訊いたよね」
「ん?――あ、ああ」

 アズエルが頷くと、観月は右手をうつむく自分の顔に当てた。

「…………僕の妻は、あんたと同じように、昔、オゾムパルスを悪用した男によって陵辱されていた過去がある」
「――――」
「……今は、同じオゾムパルスを制御できる男によって、その忌まわしい記憶を消してもらったのだが…………その悪夢が拭いきれなくてな、夫婦になっても未だに夫婦らしい営みは無い。もっともお互い、それでも構わないとは思っているが、やはり結ばれていない夫婦、って言うのには不満があるもんだ。だから――」
「……だから?」

 アズエルが訊くと、突然観月は、くくくっ、と笑い出した。

「…………ささやかな抵抗だよ。オゾムパルスに翻弄され、人生や心を傷つけられた妻の代わりに、妻の顔を模したロボットにオゾムパルス災禍を叩きつぶして貰おうと考えたんだ。ホント、餓鬼みたいな理由の――――」
「…………」

 アズエルは黙っていた。
 判らなかったからだ。何故、観月は笑い泣きながら言うのか、と。

「…………だけどさ。――そうじゃないんだよ」
「?」
「さっき、あんたに言われて、何となくだが気付いたんだ。――超龍姫が活躍するより、超龍姫が傷つく方が楽しい気分になるコトに」
「え…………?」
「僕は、傷つく超龍姫に欲情していた。――妻が傷つく姿に、僕は興奮していたんだ」

 アズエルは戸惑った。いきなりこの優男は何を言い出すのかと。

「妻が――沙織がさ、傷つけられているのを見て興奮して居るんだよ。――判るかい?自分の女が他人に汚されてさ、喜ぶなんて変だろ?――変だよ。変なんだよ、自分でも判るくらい。――結局、僕は、沙織を汚したモノに対して復讐しているんじゃないんだ。――僕は、沙織に復讐しているんだ!」
「――――」

               Aパート・その3へつづく
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