東鳩王マルマイマー第16話「その名は撃獣姫(Bパート・その2)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 浩之は初音を抱きかかえて、マルチと一緒に通路を走っていた。先ほどまで錯乱して抱え辛かった初音だったが、今はすっかり大人しくなっていた。

(……まさか)


「お止めなさい。あなたは、ワイズマンの元へ行ってはなりません」
「ワイズマン――」
「彼の狙いはあなたです。だから、ここにいる限り、彼の目論見は成功しません」
「目論見――」


(……総代はこうなるコトを知っていたのか……?)
「……藤田君」

 困惑していた浩之の耳に、抱きかかえている初音が声をかけてきた。

「……降ろして。……一人で走れるよ」
「あ――――、そ、そう?」

 浩之は慌てて初音を降ろした。初音は気怠げに身を起こすと、浩之のほうを向いた。

「……ごめんなさい」
「い、いいって。――それより早く逃げよう」

 急かす浩之に、初音は走ってきたほうを見つめた。

「……柳川さん…………」
「あの怪物みたいな人なら大丈夫だって。それより、この先にある、AブロックとDブロックの間にある別の非常階段で、メインオーダールームに行かないと」
「……うん」
「行くぞ、マルチ」
「はい!」

 三人は駆け出した。
 走っている間、浩之は、実の姉の顔をした敵と遭遇した初音の心情を察し、心配した。
 死んだハズの姉が、敵として再び現れた。そのショックの大きさはいかばかりか。
 浩之と列んで走る、険しい顔をしている初音はそのショックに今も耐えているのだ。
 浩之には兄弟も、死に別れた肉親も居ない。だから、初音が味わった動揺など判りようもない。
 もし自分が初音だったら――。
 どうして生きていたのか。
 そしてどうして敵対するのか。
 知りたいハズだ。だが――

 ずん、という衝撃が、床から浩之たちの脊髄を駆けめぐって脳天に届いた。

「「「うわっ!」」」

 突然、床が波打ち、浩之たちはその場に転んでしまう。

「な、なにが――うわっ!」

 慌てて身を起こした浩之は、床を突き破って出現してきたモスマンの群れを見て仰天した。

「敵が待ち伏せしていやがったかっ!――くそっ、マルチ、初音さん、引き返せ――うわっ!」

 浩之が立ち上がって、進んできたほうを見た途端、同じように新たなモスマンが床を突き破って現れた。浩之たちは挟み撃ちになってしまった。

「し、しまった!」
「くっ!」

 素早く初音が立ち上がり、近寄ってきたモスマンを数体、瞬時に鬼化した右手で引き裂いてみせた。しかし、斃した後ろから新手が迫り、初音はたまらず後退する。

「――数か多すぎる」
「柳川さん!早く来てくれっ!」

 浩之は大声で叫んだ。しかしその頼みの綱が、エディフェルに倒されてしまったコトを浩之たちは知らない。

「――藤田君!わたしが壱式側に突破口を開きます!そこからマルチを連れて逃げてっ!」
「で、でも――」
「マルチとあなたを失うわけにはいかないのよ!わたしなら大丈夫、柳川さんが――」
「……来ないわ」

 その声が浩之たちの耳に届いた瞬間、モスマンたちが一斉に引いた。
 浩之たちは、声の聞こえてきたほうへ振り向いた。
 聞き覚えの新しいその声は、浩之たちを一層、焦らせた。

「……楓……お姉ちゃん?!」
「柳川という男は斃した。――さあ、リネット、我らの許へ来い」

 初音が、膝から崩れた。

「……柳川さんが……そんな……!」
「……き……貴様ぁっ、よくもっ!!」

 そんな初音を見て、浩之は激高し、エディフェルのほうへ向かおうとしたが、マルチが慌てて引き留めた。

「ダメです、浩之さん!かないっこありません!」
「し、しかし――初音さん!?」

 浩之とマルチがすったもんだしている横で、がっくりとしていた初音がゆっくりと立ち上がった。
 姉の顔を持つ敵を見る初音の目は、迷いのない毅然とした光を湛えていた。

「…………我が姉を愚弄する敵……絶対、許さないっ!」
「……挑む気か、柏木初音」

 エディフェルは、にぃ、と嗤った。

「ならば、力ずくでも柏木初音を殺して、我が愛する妹、リネットを取り戻させてもらうっ!」

 エディフェルがそう言った途端、エディフェルの居る方向から凄まじいくらいの冷気が吹き付けられた。それを直ぐに殺気と理解できたのは初音だけであった。

「……くぅっ。まずい」
「え?何がまずいんですか?」

 浩之の呟きを、マルチは不思議がった。

「……今の初音さんは、どう考えたって動揺していて冷静を欠いている。以前、暴走した時と同じコトになる」
「あ……!」

 言われて、ようやくマルチは気付いた。相手は死んだハズの姉――の顔を持つ敵。まともに闘えるはずもない。事実、初音の顔は、極度のストレスに蒼白しているではないか。

「……顔色悪いわよ」
「――黙れっ!」

 先に飛びかかったのは初音だった。しかしエディフェルは一歩も動かない。
 その時だった。

「――初音さん、右へ避けてっ!」
「?!」

 初音は、突然叫んだマルチの言葉に反応した理由は判らなかった。
 そしてマルチも、どうしてそんなコトを言ったのか判らなかった。
 しかし、マルチの言葉に従い、咄嗟に右へ避けた瞬間、脇腹を微かにかすめた衝撃波が、後方にいた一体のモスマンの胴体が上下に分断される光景をかわしながら目撃した初音はあまりのコトに唖然となった。

「「……避けられた??」」

 初音もエディフェルも、同じ言葉を同時に口にして驚いていた。

「――とんだ食わせ者だな、その緑のメイドロボはっ!」

 エディフェルは即座に現状の優先順位を整理し、第一目標を初音からマルチに変えた。そしてマルチめがけて猛スピードで突進していったのである。

「――やばっ!マルチ、逃げろっ!」

 浩之が慌ててマルチをかばい、前に出た。

「――させるかっ!」
「まとめて仕留めてくれるわっ――――?!」

 エディフェルが振りかぶったその時であった。突然、エディフェルは凄まじい電撃を受け、駆けてきた方向へ弾き飛ばされてしまった。

「「「今の電撃は――――」」」
「……それ以上の狼藉は、わしが許さぬ」

 最初にその声に気付いたのはマルチだった。背後から聞こえたその声に振り返ってみせたマルチは、なんと行く手を塞いでいたハズのモスマンたちが黒焦げの山になり、その上にのし掛かる、一頭の白い虎を目撃した。

「だ、誰ですか?」

 マルチが聞くと、白い虎は大きくジャンプし、マルチたちと前に着地した。その白い虎は、よく見れば機械仕掛けのロボットではないか。

「――わしの名は、雷虎。システムチェンジっ!」

 雷虎と名乗るロボット虎は、そう叫ぶなり、その場で身を起こして何と人型に変形したのである。

「――MMM特戦隊所属のスーパーメガノイドです。以後、お見知り置きを、マルチ殿」
「雷虎――」

 突然の援軍の出現に驚いていた浩之は、しかしその名を知っていた。

「……『撃獣姫』になるヤツか?」
「いかにも」

 応えたのは雷虎ではなかった。その声に一番近かったのは、雷虎の指向性電撃波を受けて吹き飛ばされたエディフェルであった。
 エディフェルはその声を聞いて慌てて飛び上がった。入れ替わるように、エディフェルが倒れ込んでいた床が、見えない衝撃波を受けて粉砕された。

「「――圧縮空気弾!」」

 奇しくも、マルチとエディフェルの驚きの声が重なった。前者は驚き以上に、感嘆のような響きを持っていた。

「――まさか、あなたは!?」
「来たな、風姫」

 雷虎は、にぃ、と嬉しそうに口元をつり上げた。マルチたちは、通路の向こうからエディフェルに圧縮空気弾を浴びせた人影に釘付けになった。

「雷虎。一気に決着を着けますよ」
「――テキィさん!?」

 マルチが驚きとそして歓びの声でその名を叫んだ。

「――エルクゥの女。それ以上、私の愛する人たちを傷つけさせはしないっ!〈メガ・フュージョン・プログラム〉、セルフロードっ!」

 キュィィィィン!そう叫んだ風姫の胸部がエメラルド色に光り輝いた。それはまさしく、THライドが正常に、そして臨界点にまで出力した時に発させられる光であった。

「うわっ!」

 その緑色の光を見て、エディフェルはたまらず仰け反る。その横を、ビーストモード・チェンジで虎型に戻った雷虎が通り抜けた。

「〈メガ・ファイナル・フュージョン〉!」

 ピカッ!風姫から放たれた緑色の雷光を受けた雷虎は、身体のパーツを分解させて風姫にドッキングする。雷虎の頭部と胴体部は風姫の胸部にドッキングしてマルルンのそれと同じ形状になり、手足はそれぞれ風姫の手足の装甲になる。そして雷虎の胴体部を占めていた装甲が展開し、風姫の背中に回ると、なんと白い翼に変形したではないか。

「……まるで……天使様……!」

 黒き美しき肢体を覆う、白き装甲姿を見て、マルチは見惚れたように感嘆した。
 やがて緑色の光が消えると、白い羽根を二度ほど羽ばたかせ、それは着地した。
 胸に白虎の顔を頂く、白と黒の鋼鉄のワルキューレ。その名も――

「「〈撃・獣・姫〉っ!!」」

 テキィと胸部の白虎が同時に吼えた。

「……くっ!からくり風情がっ!行け、モスマンたちっ!」

 怒りに震えるエディフェルは即座に身を起こし、その場に残っていたモスマンたちをすべて撃獣姫に差し向けた。
 モスマンたちの群れが迫るが、撃獣姫は臆した様子もなく、すぅっ、と身構えた。そしてモスマンたちに両手を差し向けた。

「……あなた達の汚されし魂と肉を浄解しましょう。――うなれ疾風!とどろけ雷光!――風虎牙(フォン・フー・ガォ)!!」

 光った。それを追うように、轟音が通路を震わした。
 右手からは、竜巻が。
 左手からは、電撃が、放たれた。
 そして、撃獣姫の正面でそれが渦を巻いて混ざり合い、光り輝く巨大な虎へと変貌した。次の瞬間、それは一瞬にして挑みかかってきたモスマンをすべて飲み込み、灰に変えてしまったのである。

「……すげぇ……指向性をもった高出力の荷電粒子砲だと……圧縮空気が高速で移動して荷電粒子の通り道を造りだしているんだ……」

 電光石火。まさしくそう呼ぶに相応しい光景であった。エディフェルは瞬く暇もなく兵力をせん滅させられ、蒼白していた。

「……エルクゥの女。もはや、お前に勝ち目は無い」

 圧倒的だった。エディフェルは慌てて超スピードで逃げようとした。

「――何処へ行く?」

 立ち上がったその時、エディフェルは背後から右腕を掴まれる感触を憶えた。それが、つい今し方まで正面にいた撃獣姫が、エディフェルをも上回る神速で回り込んで掴まえた為だとは、直ぐには理解出来なかった。
 何から何まで圧倒的だった。エディフェルは初めて、敵に恐怖した。

「…………えっ?」

 それに気付いたのは、唖然とした顔で闘いを見ていた初音だった。
 始め、初音は一体それが誰の声か理解出来なかった。聞き間違いか、とも思った。
 初音がデジャ・ヴューかとも思ってしまったのは、あのEI−01と最初に対決した9年前にも、同じ声を聞いていたからであった。

「…………やだよ……耕一さん……助けて」

 蒼白するエディフェルの口から聞こえたそれは、紛れもなく恐怖に震える楓の声であった。

           Bパート(その3)へ つづく
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