東鳩王マルマイマー第16話「その名は撃獣姫(Bパート・その1)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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(柳川裕也の映像とプロフィールが表示される。Bパート開始)

「――どうしたんだ、初音さん!」

 浩之は、突然声を張り上げて錯乱する初音に驚いた。

「藤田、柏木初音を連れて俺の後ろにいけ!」

 険しい顔をする柳川が、エディフェルのほうを見て身構えた。

「何なんです、いったい!?」
「なんで――なんで楓お姉ちゃんが生きているの?!」
「え……?」

 初音の腕を掴まえて後退しようとした浩之は、それを聞いて初音が錯乱している理由がようやく判った。
 楓――柏木楓。柏木初音の直ぐ上の姉で柏木姉妹の三女。霧風丸(しのぶ)の外見のモデルとなった人物。
 そして9年前、EI−01と呼ばれる、突如来襲してきたエルクゥとの闘いで、次女の梓とともに死亡し、柏木耕一が命と引き替えにEI−01が載ってきたエクストラヨークを、雨月山の地下から浮上させたヨークの自爆によって破壊したとき、ヨークに残されたままの二人の遺体は、一緒に爆発の中に消えていった。
 では、死んではいなかったのか?

 錯乱する初音の脳裏に、あの忌々しい闘いの一片が蘇った。


 到着した裏山の水門には、何故か裸の耕一お兄ちゃんと、――冷たくなっていた千鶴姉さんが横たわっていた。

 ごめん。俺、千鶴さんを護れなかった。

 耕一お兄ちゃんは、泣いてあたし達に詫びた。
 梓姉さんはその場にへたり込んで呆然とする。
 楓姉さんはうずくまって泣き出した。

 その時だった。

 突然、裏山全体に激しい振動が生じた。とても立ってられない物凄い地震だった。
 だけど、ものの1分も経たずにそれは収まった。
 同時に、私が持っていた賢治叔父さんがくれたお守りが激しく光り始めた。
 やがてその光は一点に集中した。
 そこには、大きな洞穴があった。さっきの地震で出来た穴だろうか?

 彼は、ヨークと名乗った。酷く、懐かしい。

 ダリエリは、千鶴姉さんから抽出した魂が収まったTHライドを耕一お兄ちゃんに手渡した。これが最後の希望だった。これで、千鶴姉さんが甦るのなら、賭けてみよう。
 また、来世で逢おう、次郎衛門――いや、柏木耕一。
 ダリエリの別れの言葉。私の胸が酷く痛む。

 洞窟を出てきた私たちの頭上を横切った、巨大な光球体。
 ダリエリが警告した、『奴』がついにやってきたのだ!

 梓姉さんが死んだ。心臓を一突き。

 楓姉さんも殺された。壁に叩き付けられて、首が在らぬ方向に折れ曲がっている。

 血塗れの耕一お兄ちゃんが、私をかばうように立ち、『奴』と対峙している。
 勝てない。勝ち目はもう無い。
 でも耕一お兄ちゃんは私に笑いかけた。

「初音ちゃんは俺が絶対護ってやる。……約束、したもんな」

 天まで届く耕一お兄ちゃんの絶叫。
 その時、お守りが発動した。


「大丈夫か?」

 耕一お兄ちゃんの友達――長瀬祐介という人が、わたしの頬を優しく撫でた。

 『奴』はどうなったのか判らない。ヨークが私を護ろうと『奴』もろとも自爆したのだ。『奴』と闘っていた耕一お兄ちゃんもあの後どうなったのか判らない。山ひとつ消滅させたあの爆発に巻き込まれた以上、多分、――。

「あとはわたしたち来栖川財団に任せなさい」

 綾香ちゃんのお母さん、来栖川京香さんが哀しげな顔で私にそう言った。京香さんの隣には、長瀬祐介と、そして彼と一緒に来た長瀬源五郎が、柏木邸の居間に一杯に置かれた31個の奇妙な物体をじっと見つめていた。
 そこにある31個の物体は、THライドだった。自爆する寸前、ヨークから持ち出されたモノだ。

「……ダリエリの言葉に従って、二人の亡骸から、二人の魂の回収に成功したが……」
「死亡して直ぐではなかったからな……彼女たちの覚醒には時間がかかるだろう。……それよりも」

 そういって長瀬源五郎と長瀬祐介が、あたしを見た。

 大切な人たちを失ってしまったわたしには、もううつつのことなどどうでも良かった。

 だけど、わたしは現実に帰らなければならない。
 ヤツが蘇る。みんなを殺した、あの怪物が。

 みんなを殺した――――

 初音。


 ビクッ!突然、初音は激しい痙攣を起こした。小刻みに震える初音の身体を抱き留めていた浩之は思わず焦ってしまう。

「初音さん、しっかりしろ!」
「……嘘」
「?」

 ぽつり、ともらしたその初音の言葉に、浩之はきょとんとした。

「…………なんで…………なんで」
「おい、しっかり――――?!」

 初音に呼びかけていた浩之は、いきなり初音に胸ぐらを掴まれて驚いた。

「…………そんなハズない……そんなハズ……ない!」
「だから落ち着いて――――」

 浩之がそう言った途端、蒼白する初音の顔が、ガバッと上を向いた。

「――――耕一お兄ちゃんが――――耕一お兄ちゃんが、みんなを殺しているの?何なの、これ?!」
「は…………あ?」

 当惑する浩之は、がちがちと歯噛みする初音の異常ぶりにどう対処すればよいのか判らないでいた。
 エディフェルと対峙する柳川は、初音の異常な様子に気付き、ちぃ、と舌打ちした。

「――藤田。柏木初音とマルチを連れてAブロックのほうへ避難しろ!」
「しかし――」
「これ以上、柏木初音をこの女に近づけるわけにはいかん!」
「……判った」

 浩之は柳川の言葉に従った。確かに、初音が異常を来しているのは、この柏木楓に似たエルクゥの女を見てからである。死んだハズの姉の顔を見て混乱しているのだろう、とは思っていたが、部外者の浩之でも流石に、この様子から、それ以上の深い理由があるのでは、と気付くはずだった。

(しかし――柏木耕一が殺した、とはどういう意味なのか?)

「――そこをどけ、男」

 にぃ、と嗤うエディフェルが、一歩前に進んだ。

「リネットとマルチは我々がいただく」
「そう言うわけにはいかん――行け、藤田っ!」
「あ、ああ。――マルチ、行くぞ」
「は、はい!」

 浩之は錯乱する初音を抱きかかえるように引っ張りながらAブロックの通路のほうへ走っていき、その後をマルチが、トトト、と追い掛けていった。

「――逃がさない」

 エディフェルが通路のほうへ駆け出した。しかし直ぐに柳川が回り込んで立ち塞いだ。

「あいつらをお前たちの手に渡すわけにはいかん」
「――黙れ、次郎衛門のなり損ない」
「――――」

 エディフェルが軽蔑するように言った途端、柳川は、びくっ、となった。

「……どういう……意味だ?」
「言ったとおりだよ――――柏木の男は皆、次郎衛門の魂を受け継ぐ。しかしその器に値しない者は、皆、滅びる。――貴様もそうではなかったのか?」

 9年前。
 柳川は、鬼の血に負けて暴走し、血に飢えた狩猟者と化した。
 大勢の人間を殺し、そして、立ちはだかった柏木千鶴をその手に掛けた。
 果たして、鬼の血を克服した柏木耕一に倒され、水門から川に落ち、流されていった。
 死の淵にあった自分を救った、あの物静かな黒髪の少女。その少女さえも、自分は――

「――黙れぇぇぇぇぇぇ!!」

 ボコンッ!激高する柳川の足許の床がへこんだ。遺伝子の総変換。人とエルクゥとの重合するDNAが入れ替わり、急速な代謝活動が人から鬼神へ身体構造の劇的変革をもたらす。
 人の身を維持し、しかし人にあらざる者へと変わる。エルクゥの女のみが可能とする非変身鬼神化を、耕一同様鬼の血を克服した柳川も可能としていた。

「男でありながら、戦闘形態への変身をなさず、鬼神の力を手にしたか――進化したエルクゥというか」

 エディフェルは感心して言うが、聞きようには小馬鹿にしたようでもあった。

「――だが、わたしの敵ではない」
「?!」

 突然、エディフェルの姿が消えた。柳川は目で追おうとしたが、直ぐにそれを諦め、気配で後を追った。

「霧風丸を破ったスピードは承知している。――そこだっ!」

 柳川は通路側のほうへ飛び上がり、獣のような長い爪を伸ばした右腕を闇に薙いだ。
 シュンッ!薙いだ闇の中に火花が飛び散り、姿を現したエディフェルが、階段のほうへ飛び退いていた。

「――外したか?」
「わたしのスピードに追いつくとはな――しかし、それまでだっ!」

 エディフェルは両腕を上げ、頭上で交差させた。そして柳川のほうに狙いを定めると、両腕を一気に振り下ろした。

「――まずいっ!」

 それをみて柳川は、咄嗟に危険を感じ、垂直にジャンプして、直ぐ上の配管を掴んでぶら下がった。次の瞬間、柳川の立っていた場所が煌めくと、床が巨大な不可視の刃になます切りにでもされたように切り裂かれてしまった。

「――これは?!」
「次元刀――上へ逃げたのは良い判断ね」
「くそっ!」

 柳川は配管を蹴った反動を利用して、エディフェルに迫った。

「反撃する隙など与えぬ――なっ!?」

 エディフェルに飛びかかった柳川は、突然、視界を埋め尽くす幻視に戸惑った。

 青白い満月。雨月山の向こうからのぼってきたその綺麗な月の光の中に、奇妙な服装をした、物憂げな少女が居た。

 …………ジローエモン?

「――くぅっ!」

 柳川は突然のコトに身を捻り、飛びかかったエディフェルの手前に着地した。

「はははっ、どうした?」

 エディフェルは両腕を振り上げ、再び次元刀を仕掛けてきた。

「くっ!」

 柳川は咄嗟に飛び退こうとしたが、柳川が着地した場所は、先ほどエディフェルの次元刀で切り裂かれた床の上であったため、その反動で床が抜けてしまった。

「しまった――――」
「死ね、次郎衛門のなり損ない!」

 エディフェルは柳川めがけて次元刀を放つ。床が抜けて脱出できない柳川は、正面から迫る空間の亀裂になす術もなかった。

「うわっ!!」

 足掻く柳川が、舞い上がる粉塵の中に消え、続いて粉塵が分断された。エディフェルの次元刀は上にあった配管をも切断し、天井の壁ごと、柳川がはまってしまった床穴に降り注いていった。

「……仕留めたようだな。――手間をかけさせる!」

 エディフェルは階段から通路の出口まで一気に跳躍し、浩之たちが向かったAブロックへの通路へ向かっていった。

               Bパート・その2へつづく
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