東鳩王マルマイマー第16話「その名は撃獣姫(Aパート・その3)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM

【承前】

 姉、千鶴との予想外の再会。初音は機械仕掛けのその身に抱きつき、9年にも及ぶ孤独との闘いからの解放に、止めどなく涙があふれ出た。しかし――

「…………本当に、千鶴お姉ちゃん……なの?」

 ようやく泣き止んだ初音が顔を上げ、戸惑いげに千鶴の顔を見つめた。そして、後ろにいるマルチのほうへ振り向き、一層困惑の色を深めた。

「……だって……長瀬さんが……マルチに組み込まれているTHライドの中で眠っているって……!」


 ――千鶴くんは一度死んでしまった。その為、千鶴くんの魂と言うべきオゾムパルスが著しく減少してしまった。マルチの中に組み込んだTHライドの中で再び自我を取り戻すのはかなりの時間を要することになるだろう。……だが、いつの日か彼女は目覚める。それまで――初音くん、キミがマルチを護ってやるのだ。

 初音がMMMに任官された最初の日。その日は、ダリエリのTHライドを組み込んだ特別仕様のHM−12型、後にTHライド搭載型と非搭載型メイドロボとの区分が新たに設定され、製造コードKHEMM−12SPXに呼称変更されるマスプロボディ・マルチを所有している浩之の家に、THライドのプロテクト解放用暗号キーを記録したDVD−ROMが、MMMの諜報部が宅配に偽装して発送されることになっていた。
 浩之に、そのDVD−ROMを持ってきたのは、宅配の担当に変装した初音であった。

 浩之の顔を見るのは、これが初めてではなかった。
 マルチが浩之の学校で運用試験を行っている期間、初音は来栖川芹香の送迎用リムジンに載って、毎朝マルチの様子を伺っていた。しかしその頃の初音は、千鶴の死の直後、地球にやってきたEI−01との闘いで家族を失い、そのショックで精神が壊れ、失語症に陥っていた。その為、初音はリムジンから出ることなく、浩之と嬉しそうに会話するマルチを遠巻きに見ているだけしかなかった。

 数ヶ月後、来るべき敵を迎え撃つべく心身鍛え抜いて立ち直った初音は、やがて非情な闘いを余儀なくされるマルチにひとときの平穏を与えようと提案した。長瀬は、マルチは初音の側に置いてやろうと進言したのだが、初音はその役は、浩之のほうが相応しいと言った。

「……耕一お兄ちゃんに似ているんです……藤田さん」
「似ている?」
「……顔とかじゃなくって……雰囲気が…………とても懐かしいんです。……それに、お姉ちゃん、いえマルチが運用試験を行っていたとき、彼に一番懐いていたから……その時まで彼のそばにおいて上げた方がいい、と思ったんです」
「……そうか」

 数年後、浩之はマルチに約束したとおり、マルチの妹であるHM−12型を購入した。浩之は父親に借金して買ったと思っていたが、実際は、浩之がHM−12型の購入を決意した時点で、来栖川財団が無償で提供したモノであり、支払った代金は、内閣調査室室長である浩之の父親によって、浩之の名義口座で積み立てられていた。浩之の父親は、浩之があかりと結婚するときに、祝儀として渡すつもりらしい。
 そしてマルチと暮らす浩之の様子を監視し、マルチに対する態度や言動を厳重に分析し――初音は分析するまでもないと言ったが、問題なしと判断して、プロテクト解放用暗号キーを記録したDVD−ROMを浩之に委ねたのである。
 浩之にDVD−ROMを直接渡す役目を、初音は願い出た。


「……マルチ」

 初音は困惑の眼差しをマルチにくれた。

「…………これが千鶴お姉ちゃんなら…………いったい……あなたは…………誰なの?」
「え?…………わたし、が、ですか?」

 マルチは、初音が何を訊いているのか理解出来ていなかった。
 その隣にいる浩之は、初音の疑問が良くわかっていた。
 EI−08戦において、マルチと電脳連結していた時、浩之はマルルンの中にいる千鶴と接触していた。そして千鶴が、自分はマルチではない、と告げていたのである。

 そうよ。マルチは、あたしたちと同じ存在。――れっきとした、人間よ。

 浩之は、あの闘いでビームの直撃に消えた朝比奈美紅が、マルチの正体を浩之に告げた時の言葉を思い出していた。
 マルチは、人間。しかし、柏木千鶴は、自分ではない、と告げた。
 ――では、いったい、マルチとは何者なのだ?

「……初音。後ですべてを教えます。しかし今は、あなたとマルチはメインオーダールームへ急ぐのです」

 千鶴は毅然とした顔で、初音の目尻に溜まっていた涙を、マニュピレーターで優しく拭って言って見せた。

「で、でも!お姉ちゃんも!」
「奴らの狙いは、あなた達なのです」
「――――」
「初音、あなたは急いでTHコネクターに向かうのです。そしてマルチをガードしなさい」
「……だって……でも」

 初音は、千鶴の胸部にあるマルルンの顔を見て、

「……これ、あのマルルンなんでしょ?」
「ええ。今のわたしは、本体であるマルルンを使い、最大戦闘モードであるハンターモードつまり整備室の機材を取り込んでボディを作った生機融合体です」
「だから、マルルンがいないとマルマイマーになれないんじゃ……」
「大丈夫。ここを制圧したらわたしも直ぐメインオーダールームに向かいます。だから安心して、先に行きなさい」

 そう言って千鶴は、初音の頭を優しく撫でた。懐かしい感触だった。初音は頬を赤らめ、こくん、と頷いた。
 それを確かめてから、今度は千鶴は、浩之の後ろに黙って立つ柳川のほうをみた。

「――柳川さん。マルチたちを頼みます」
「……ああ」

 柳川は頷いた。どこか気まずそうに。

「…………しかし、柏木千鶴。お前、それでは――」
「?」

 浩之とマルチは、柳川の顔を見て戸惑っていた。あれほど高圧的だった柳川が、まさかこんな不安そうな顔をするとは。まるで、千鶴の身を案じているかのようである。

「…………何か気になることでも?」

 マルチがたまらず訊いた。しかし柳川はマルチのほうを見ず、千鶴の顔を見つめていた。
 ふっ、と微笑む千鶴は、黙って首を横に振った。
 それで、柳川は何かを理解したようであった。

「…………判った。三人は無事に連れていく。――いくぞ」
「あ――、ああ」

 浩之とマルチ、そして初音は、この二人のやりとりに一抹の不安を感じたが、今はメインオーダールームにたどり着くコトが先決であった。柳川が先導して進み、浩之、マルチ、そして千鶴を最後まで名残惜しそうに見つめていた初音の順に、その場から離れていった。
 千鶴は、初音たちの姿が通路の奥に消えていったコトを確かめると、力が抜けたように壁に身をもたれた。

「………やっぱり……ハンターモードはエネルギーを大量に消耗するわね…………しかし、遅かれ早かれ、わたしの魂は維持できなくなる……………だから…………初音とマルチは……彼には……彼の手には…………」

 千鶴は歯噛みし、ゆっくりと身を起こした。

「…………耕一さん…………二人を……守って下さいね……」

 千鶴はそう呟くと、初音たちが進んでいった方向を背に、壁に手をついて支えられながら、通路の反対側へ進んでいった。


「――この階段から上がればメインオーダールームにつく」

 Aブロックの入り口にある非常階段前に着いた柳川たちは、非常階段を塞いでいる扉を開けた。暗い奥に見える、吹き抜けになっている上り階段を5階分上がれば、メインオーダールームに当直するハズであった。

「えらく入りくった構造だよなぁ」
「TV局の建物もこんなふうに入りくった構造になっているものよ。侵入者を防ぐ意味でね。本来ならセキュリティシステムが働いていれば、この通路は常時レーザー銃が狙いを定めて、不法侵入者を容赦なく撃つけど」
「……大丈夫ですか?」
「みたいね」

 そう言って初音と柳川は、吹き抜けの上のほうを見た。

「だって、あすこに誰かいるから」

 初音がそう言った途端、初音と柳川の顔に緊張が走った。

「――――そこにいるの、誰?」

 初音は怒鳴って訊いた。すると、3階ぐらいの場所にある踊り場から、ゆっくりと顔を出した人影があった。

「誰かいる!」

 浩之がようやく気付くと、その謎の人影は、なんと踊り場から飛び上がり、一気に下まで飛び降りたのである。
 人影は着地した。この高さから飛び降りて無事であった。不気味なコトに、着地の衝撃音さえしなかった。

「…………感じる……凄く強いエルクゥ波動…………」

 初音の顔に、珠のような汗が滲んでいた。謎の人物が放つエルクゥ波動のプレッシャーの所為だった。
 そして、初音自身が、この謎の人物の存在に気付いてから感じていた、理解しがたい感情に戸惑っていた為でもあった。

 この感覚。初音には覚えがあった。
 エルクゥたちの侵略が始まってから、ずうっと感じていた、懐かしい感覚。

「…………お前たちを待っていたよ」
「「「「――――?!」」」」

 謎の人物の呼びかけに、浩之たちは、はっ、となった。
 女の声だった。
 それを聞いた初音の顔が、見る見るうちに唖然となった。
 やがて距離が近づいたことで、女性と思しき謎の人物の顔が浩之たちの目にもはっきり判るようになった。

「…………え?…………しのぶ……さん?」

 マルチは浮かされたように訊いた。
 謎の人物は、にぃ、と口元をつり上げて首を横に振った。

「…………あの紫のロボットと一緒にされては困るな、マルマイマー」

 そういって、鬼界四天王の一人、エディフェルは、ついに初音たちの前に姿を現したのである。

 一番歳の近い姉、柏木楓の顔を持つエディフェルの姿を見た時、初音は混乱のあまり絶叫した。

(Aパート終了:生機融合体・ハンターモードの柏木千鶴の映像とスペック表が映し出される。Bパートへつづく)
http://www.kt.rim.or.jp/~arm/