東鳩王マルマイマー第16話「その名は撃獣姫(Aパート・その2)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「……何がそんなに可笑しいのか?」

 アズエルは、破壊された超龍姫を見て何故か笑っている観月を不思議そうに見ていた。
 だが、観月にもどうしてそれが可笑しいのか、判らないでいた。
 ただ、訳もなく可笑しい。
 そんな観月を、アズエルは不気味に思い始めていた。

「……わからん。まるでその笑い、楽しんでいるようだな」
「楽……しむ?」

 アズエルの言葉に、観月はようやく笑いをやめた。そして呆然とした顔でアズエルの顔を見つめ始めた。
 アズエルには、観月の行動がさっぱり理解出来なかった。そしてこれ以上は関わりたくなかったので、当初の目的通り、超龍姫の胸部から、アズエルの魂が眠っていたTHライドの完全破壊を実行することに決め、超龍姫のほうへ進み出した。

「ま――待ってくれ!」

 観月は慌ててアズエルを呼び止めようとした。しかしアズエルは振り向きもせず、大破して横たわる超龍姫のそばに立った。

「や、やめろ!やめてくれっ!!」

 観月は立ち上がり、アズエルに飛びかかろうとした。
 だがアズエルは、超龍姫にとどめを刺すどころか、超龍姫を両手で優しく抱き上げ、観月のほうへ振り向いたのである。それをみた観月はまた呆気にとられてしまった。

「……わからん」
「――?」

 観月が怪訝そうな顔を作ると、アズエルは、はぁ、とやや困憊した溜息を吐いた。

「……こいつを破壊する気は変わらん。――わからないのは、何故、この人形を柏木梓の顔を模さなかったのか、と言うコトだ」
「……え?」
「エディフェルが――柏木楓の身体を使っている我が妹が言っていたよ。我々の来世の身体を模した、ふざけた人形だと。なのに、こいつは明らかにあたしの、いや、柏木梓の顔ではない。こいつのTHライドの中で眠る柏木梓の魂が覚醒した時、その自らの姿に愕然としてしまう、と考えなかったのか?」
「それは…………!」
「あの紫のロボット――霧風丸、とか言ったな。あれは柏木楓を模している。それはTHライドの中に柏木楓の魂が眠っているからと思っていたのだが――”やはり”違うのか?」
「――――」

 観月は絶句した。そんな超龍姫の生みの親を見て、アズエルは何かを理解したような、それでいて落胆したような顔をして俯いた。

「…………では……エディフェルは……」
「――――超龍姫は、僕の妻の顔を模して作ったモノだ」
「妻?」

 観月は頷いた。
 暫しの沈黙。
 同じように黙っていたアズエルが、にぃ、と口元をつり上げた。

「…………面白そうな話だな」
「?」
「あたしは、自分が納得できないモノには妥協できない主義でな。それがたとえ味方だろうとも同じ。――――修理室はどこだ?」
「え?」

 きょとんとなる観月に、アズエルは抱えている超龍姫を差し出すような仕草をしてみせた。

「興味が湧いたのだよ。お前が、超龍姫を妻の顔に模した理由を。そしてそこに、あたしがあの男から聞いていた話に対する疑問を解く鍵が見つかりそうだと思ったのだ。――それだけだ。さぁ、案内しろ」

 そう答えて、にぃ、と笑うアズエルに、観月は親近感を憶える自分を不思議がった。

   *   *   *   *   *   *   *   *

 浩之たちは、メインオーダールームのある最下層階まで続く階段を駆け下りていた。20分ほどかけ、ようやく最下層階にたどり着いたそこにある、電源が落ちて開かない扉は、柳川の拳骨一発で吹き飛ばされた。その非常識な光景を目の当たりにした浩之は、驚きを越して呆れていた。

「……格闘大会に出る気あります?」
「勝ちの見えているモノに出て何が楽しい?」
「そりゃそうだ」

 浩之は肩を竦めて苦笑した。そして意外とこの柳川という男とは気が合いそうだと思った。

「ここは、AブロックとBブロックの中間ですね」

 マルチが通路をきょろきょろと見回した。

「……エルクゥが暴れ回ったような形跡は無いのね」

 マルチの後ろにいた初音が、マルチと同じように通路をきょろきょろと見回していってみせた。

「……でも、血の臭いが凄い」

 初音が気付く前に、浩之も既に、通路一杯に立ちこめる、鼻を突く鉄分のような臭いには気付いていた。

「壊滅的ダメージを受けている可能性はあるな」
「それじゃあ、メインオーダールームも……」
「そんなコト、あって堪るかっ!」

 不安げに言うマルチに、浩之はキツイ口調で言い返した。マルチは思わずびっくりして身を竦めてしまうと、憤っていた浩之はそれに直ぐに気付き、悪い、といってマルチの頭を撫でた。

「メインオーダールームは健在だ」
「?柳川さん、何か連絡でも取れたんですか?」
「通信網は相変わらず遮断されている。――音だ」
「音?」

 マルチが訊くと、柳川はAブロックのほうを指差し、

「この先に、メインオーダールームと繋がる通路がある。今はシャッターが降りているが、その先に綾香たちの鼓動が聞こえる」
「こ、鼓動?」
「ええ」

 驚く浩之の横で、初音も頷いてみせた。

「綾香と智子の心音ね」
「…………あのぅ」
「?」
「……いや、いい」

 浩之は思わず、本当にあんたら人間か、と訊きたい衝動を我慢した。

「――あれ?」

 初音が、はっ、とするのと同時に、柳川はAブロックへ続く通路のほうを見て身構えた。
 次の瞬間、風を切る音ともに、無数の黒い影か浩之たちに襲いかかってきた。

「りぃぁあああああああっっっ!!」

 身構えていた柳川は、襲いかかってきた影に向かって飛びかかり、一瞬姿が消えた。
 再び浩之たちの視界に現れたのは3秒きっちり。柳川は天井に振り上げた右拳で重ねるように二体、壁のほうへ蹴り込んでいた右足で一体のモスマンを串刺しにしていた。その一瞬の反撃に臆したか、他のモスマンたちは攻撃をやめて後退した。

「――違う」

 初音は舌打ちした。後退したのではなかった。モスマンたちは突然身を寄せ合うと、なんと融合を始め、巨大な岩のような塊に変化した。

「こんなコトもできるなんて……」
「モスマンは生機融合体。オゾムパルスブースターもそうだけど、他の物質を取り込んで増殖するコトが可能なのよ」
「モスマン?――あ、あの4年前に世界各国で同時に暴れ回ったというUMA(未確認生命体)」


 人類が、その事件に戦慄したのは4年前。なんの前触れもなく、世界各地に群れをなしてほぼ同時に出現した、人とも獣ともつかぬ姿を持つ、残虐なパワーをもった怪物が人々を襲った。日本では昼間、京都・清水寺の地下より出現し、観光客を襲ったのだが、しかし出現して僅か10分の間に、怪物たちは人的被害一つ出せずに全滅した。目撃者の話では、怪物たちは、何処からともなく現れたギターを抱えた女性が演奏を始めると、突然その身体を震わせ、風船のように次々と爆発していったという。他の目撃者によると、他にも、巨大な十字架のような黄金の槍を持つ女が怪物を串刺しにして粉砕したり、外国人の青年が腕をひと振りすると一瞬にして怪物の身体がバラバラに分断されたりと、複数による制圧があったと言われているが、彼女たちが何者かは今だ不明であった。
 しかし人的被害がゼロであったのは日本だけで、ロンドン、パリ、サンフランシスコ、北京といった北半球の大都市では大被害をもたらし、世界合わせて万単位の死者を出していた。サンフランシスコに至っては、米海軍の巡洋艦が一隻沈没する被害があったが、消息筋の話では、ある女性が巡洋艦に怪物たちを呼び寄せて自爆自沈させたという情報もある。後にそのUMAを解剖した科学者グループは、その怪物が人工的に作られた生命体であると結論が出た。しばらくして一部のテログループから怪物たちを使役したのは我々だという犯行声明文が出され、現在も国際警察機構が総力を挙げて問題のテログループの追跡を行っている。
 ――と、されていた。浩之はMMMと関わり合うまでは、そこまでしか知らなかった。問題の「モスマン」と名付けられたUMAが、かつてエルクゥたちが使用していた生体兵器であること、そして出現した理由が、月島瑠璃子の謎の暴走によって作動したエクストラヨークに触発されて、地底に眠っていたモスマンたちが一斉に覚醒した為であるコトは最近知ったばかりであった。

「でも、こんな芸当が出来るなんて……四年前はこんなコト……」
「ワイズマンだ」

 斃したモスマンを壁にめり込ませたまま、手足を離して床へ着地した柳川が答えた。

「ワイズマンは、細胞を制御する力を持っている。こいつらにはワイズマンの細胞が移植されているのだろう。以前闘った、EI−01のコピーと同じように」
「……ワイズマン?」
「鬼界四天王のリーダー格だ」

 その柳川の返答に、初音も不思議がった。

「……柳川さん。なんでそんなコトを」
「ヤツから聞かされた」

 初音の触覚のようなくせっ毛が、ぴくっ、と反応した。――ヤツ?

「――とにかく、だ。こいつを排除せねばなるまい」

 そう言って柳川は指をぽきぽきと鳴らし始めた。素手で、こんな機械仕掛けの化け物に対抗する気か、この男は。
 柳川は臆するどころか、うっすらと不敵な笑みさえ浮かべている。まるで、こんな怪物、敵ではない、と。

「…………変です」
「?」

 緊迫する中、ふと、マルチが不思議そうに呟いた。

「何が?」
「あの怪物です。…………後ろを気にしていません?」
「後ろ?」
「…………らしいな」

 柳川はつまらなそうに言った。

「奴らは後退したのではない。……ふっ、俺たちのほうには尻を向けているのだ。しゃくだが、向こうにいるヤツと争っていたらしいな」
「向こう?」

 言われて、浩之は怪物の身体にほとんど隠されている通路の奥を、目を凝らして見つめた。そしてその奥で蠢く、怪物の首らしき影に気付いた。
 次の瞬間、怪物の身体が中心から分断され、床に沈んだ。

「今のは高出力ビームカッターね。壱式の整備室にある作業用のものと同じ出力…………え?!」

 感心したふうに言っていた初音だったが、怪物の身体が分断されて開けた通路の先に、人影を見つけて絶句した。

「…………ええっ?!」

 初音が素っ頓狂な声を上げて驚くモノだから、浩之とマルチは唖然となってしまった。
 初音が驚いているのは、決して巨大な怪物がたった一人に斃されたコトにではない。
 向こう側に立つ、浩之たちには薄暗くて見ることが出来ないその人影の姿を、エルクゥの血族が故になせる超視覚で見知ったためであった。

「…………近づいてきます」
「ああ」

 マルチがそういうと、浩之は唖然としたまま頷いた。やがて、その人影を見て、今まで冷静だった柳川さえも愕然としているコトに気付いたマルチは、近づいてくる人物に興味を示し、目を凝らして見た。
 そしてマルチも、最後に浩之も愕然となった。
 その人物を、四人とも知っていた。しかし、直接面識があったのは、柳川と初音だけである。
 そして初音には、とても懐かしい顔であった。

「…………千鶴……お姉ちゃん?」
「みんな、無事かしら?」

 柏木千鶴の顔をもち、胸部にマルルンの顔を持ったその白い人型ロボットは、全員無事であったコトを知ると、嬉しそうに微笑んだ。
 やがて、子供が気の抜けたような顔でぽかんとしている初音のほうに振り向くと、千鶴の顔をした人型ロボットは、初音にとって懐かしい笑顔を浮かべて頷いた。

「…………初音。久しぶりね」

 無意識だった。衝動的だった。初音は千鶴の顔をした人型ロボットに飛びつくように抱きついた。
 抱きつく初音の顔は、しばらく、ぼぅ、っとした顔で居たが、やがて千鶴の顔をした人型ロボットが、初音の背中に手を回し、ぽんぽん、と軽く叩いてみせると、一気に爆発した。

「――千鶴お姉ちゃんなんだね!本当に千鶴お姉ちゃんなんだね!夢じゃ――夢じゃないんだよね!?」
「…………ご免ね、初音。…………今まで一人にして」

 千鶴は、大声で千鶴の名を何度も呼んで泣きじゃくる初音を抱きしめ、宥めていた。
 そんな姉妹の再会を見て、マルチは、ぐすっ、とつられて泣いていた。浩之はいったい何が起こったのが理解出来なかったが、なんとなく、嬉し泣きするマルチの頭を優しく撫でて、よかったな、と呟いた。

               Aパート・その3へつづく

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