ToHeart if「Alive」第6話  投稿者:ARM


【警告】
○このSSはPC版&PS版『ToHeart』(Leaf・AQUAPLUS製品)の世界及びキャラクターを混在して使用しています。
○このSSはPC版&PS版『To Heart』神岸あかりシナリオのネタバレ要素がある話になっており、話の進行上、「今回は」性描写「が」ある18禁作品となっております。
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 浩之は、自分の耳を疑った。

「…………浩之ちゃん…………おばさんと、しよ」
「――――」

 しよ。おばさんと。
 なにを?

 ナニ、を。

 ――ああ、後かたづけのコトか。
 見回してみると、夢中でひかりを押し倒したので、テーブルや茶箪笥から色々なものが落ちていた。掃除しないと駄目だな。ごめん、おばさん、直ぐ片づけようや。

「…………わたし、浩之ちゃんが欲しい」

 もう一度、浩之は耳を疑った。さっきまでの妄想が引き起こした幻聴か。そうに決まっている。
 ほら。おばさんがやっと離れてくれた。そして俺の胸に唇を押し当てて…………っ?!

 ひかりは服を脱いで裸になっていた浩之の胸にキスした。そして浩之の右乳首を舐め始めた。思わず呻く浩之。

「……だ……な…………なにして……うわっ……!」

 ひかりは浩之の声を無視し、ゆっくりと頭を沈める。そして一番真下にあるそれを両手で優しく包み込み、くわえた。

「――――っ」

 浩之はひかりを押しのけようとしたが、それをくわえられた瞬間、背筋がぞくっとなり、力が入らなくなった。

「駄目…………駄目だ……って…………」

 必死に抵抗する浩之だったが、その意に反して浩之のそれは次第に大きくなっていく。ひかりはゆっくりと膨れ上がるそれを、愛おしげに舌で愛撫し続けていた。やがて堅く逞しくなったそれを頬張ると、先の溝を中心に舐め始めた。
 浩之の頭の中は滅茶苦茶になっていた。
 ――気持ちよすぎる。
 いけないことだ。
 ――続けて欲しい。
 駄目だ、駄目だっ!
 理性と快楽の葛藤が、浩之の思考を狂わしていく。
 不意に、あかりを思い出す。あの夜のあかりも、こんなふうに浩之のものを愛撫していた。もしかするとあかりは、こんなコトをしている両親の営みを偶然見て知っていたのかも知れない。
 ――あかり。

「…………駄目だよぉ……俺は…………あかり……が…………」

 浩之は、ひかりが夫を思い出して自らを取り戻したコトを思い出し、あかりの名を口にしてみた。
 駄目だった。ひかりの愛撫は止まらなかった。むしろ逆効果であったか、ひかりの舌の動きが一層激しくなった。

「あ…………あは…………はぁ…………」

 浩之は涙をボロボロ流しながら喘ぎ声を上げた。快楽と哀しさの入り交じった涙を。
 まもなく、浩之は腰の辺りがぞくり、とした。イキそうだった。

「…………駄目だ……ひかりおばさん…………俺……駄目だよ……………………はぁあぁっ!!」

 もはや限界だった。浩之は、ひかりの頭を最後の力を振り絞って掴み引き剥がした。
 ポン、と間抜けな音が聞こえた。
 その音に、浩之の気が抜けた。

「――――――あひっ」

 ブッ。ブビュッ。気が緩んだ途端、浩之はイッてしまった。浩之から放たれた雫が、正面にいたひかりの顔にかかり、日向の似合うあこがれの笑顔をおびただしい白濁で汚していく。ひかりは声も上げず、むしろ恍惚とした顔でそれを黙って受けていた。

「……はひぃ……はぁ……あっ!」

 涙を流し歯噛みする浩之は、ひかりの頭を掴んだまま、屈んだ姿勢で痙攣していた。

「……はぁ…………はぁ…………」

 浩之はひかりの頭から手を離して身を起こし、上を向いた。涙が頬を伝い、首から胸へ流れ落ちた。射精による快感の余韻が次第に薄れ、ようやく理性が自我を支配し始めた。
 汚してしまった。
 大切なこの人を。
 してはならないコトを。
 どうしてこんなコトになってしまったんだ?
 どうしてもっと我慢できなかったんだ?

 悔しかった。憎かった。
 不甲斐ない自分が。
 そして――。

 悔しさに唇を噛みしめる浩之は、顔を下げて、足許にいるひかりを見た。
 ひかりは顔にかかったそれを指先で拭い、恍惚とした顔で口にくわえて舐めていた。
 美味しいのか?
 最初に思ったそれを、浩之は何をバカなコトを、と思った。
 不思議と、そんなひかりを見た瞬間、浩之はひかりに抱きかけていた怒りが晴れた。むしろ逆に、自己嫌悪に陥ってしまった。この人の顔を自分のもので汚してしまった、と。
 そう思うと、浩之はゆっくりとしゃがみ、ひかりと顔を向かい合わせにした。
 白濁の色を弄び恍惚としている未亡人。淫靡な光景である。浩之の中では、この女性は、そんな姿は似合わないハズだった。
 ごめん。おばさん。
 浩之はこころの中で詫びると、ゆっくりとひかりの顔に自分の顔を近づけた。

「……わたし、ね」

 浩之が顔を近づけると、ひかりがようやく口を開いた。

「……浩之ちゃんを汚したかった」
「…………?」
「……あたしの中の可愛い浩之ちゃんを」

 それを聞いた途端、浩之の中で何かが弾けた。

「…………違うよ」
「?」

 浩之の言葉に、ぼうっ、としているひかりがきょとんとした。

「…………ひかりおばさん。綺麗にして上げる」

 そう言って浩之は、ひかりの顔にこびりついてしまった自分の白濁を、舌で舐めて拭い始めた。

 まるで子犬のようね。
 自分の顔を舐める浩之をみて、ひかりは微笑んだ。
 やがてひかりと浩之は再び唇を重ね合い、舌にこびり付く白濁の雫を絡め合った。


 第6幕 愛憎


 翌日。
 浩之は登校してこなかった。

「……なんで?」
「さぁ?」

 肩を竦める雅史に、志保は苛立った。
 志保は昨夜、ひかりがあかりでない証拠を告げた時の浩之のあの異常な反応をずうっと気にかけ、一時限目が終わった時、浩之たちの教室にやってきたが、そこには浩之は居なかった。
 志保はその足で職員室に向かい、そこにいた浩之のクラス担任である木林を見つけて聞いたが、やはり連絡は入っていないらしい。

 志保は今日の放課後、浩之の家に行くコトに決めていた。嫌と言われても無理にでも押し掛けるつもりだった。

               *

 昨夜、志保は自分の部屋でそう決めていた。
 浩之を慰めてやるんだ。
 あかりが居ない今、あいつのコトを慰めてやれるのはあたしだけだ、と。

 まるで泥棒猫ね。あいつの彼女が居なくなったから安心して寝取る気かしら?

 こころの中で志保は、もう一人の自分に嘲笑れていた。

 それでも構わない。
 いいの。欲しかったんだから。

 志保は昨夜、浩之の背を見送ったその時、自分が本気で浩之を愛ししているコトに気付いた。ひかりがあかりでないと言ったのは、その心が産んだ嫉妬心だからだ、と。

 志保は、ずうっと浩之が好きだった。あかりを介して初めて逢った時、なんだこのぶっきらぼうな男は、と思った。
 だが、自分が異性に初めて深い興味を示したのは、意外にもこの浩之が最初であった。
 いつも口げんかして、本音を剥き出しに出来る相手。しかしそれだけ気の合っていたのだ。

 あかりさえ居なければ。

 しかしそれだけは考えたコトはなかった。あかりもまた、志保にとってかけがえのない親友であった。

 だから、親友の幸せは奪いたくない。
 だから、浩之のコトは諦めていた。

 だが、今は違う。

 あたしには、あいつしか居ない。
 あいつも、あたししか居ないんだ。

               *

 放課後。志保は浩之の家の前に立っていた。
 高鳴る胸。愛する少年の家。これから自分はあの少年に抱かれるんだ。

 卑怯者。

 志保の中で、泣き顔のあかりが罵っていた。

 構わない。死んじゃったアンタが悪いのよ。
 志保は玄関のベルを力任せに押した。
 一分。
 二分。
 三分。
 四分。――――十分。

「…………なんで出てこないの?どこかに行って…………」

 シクッ。志保は胃の当たりに差し込むような痛みを覚えた。
 ――嫌な予感がした。

   *   *   *   *   *   *

 窓からこぼれる朝日を受けて、ひかりは目を覚ました。
 布団の横では、浩之がすうすう寝息を立てている。

 とうとう、一線を越えてしまった。

 あれから浩之とひかりは何度もお互いを貪り合った。あかりだけと、しかも二度だけしか女の肌を重ね合わしたコトのないこの少年をリードしたのはひかりであった。それはもう貪欲に求めたが、浩之の体力はそれさえも凌駕していた。始めは浩之のほうが先に達したがいつの間にかひかりのほうが先に達してしまい、主導権を完全に浩之に奪われてしまった。それがまた一層、快感を引き起こした。
 ここまで淫乱な女だったのだろうか。ひかりはまるで別人のような自分に恥じらいと恐怖を覚えた。
 何より、浩之を狂わせてしまったかも知れない。それが一番怖かった。
 そう思った瞬間、ひかりの目から一滴の涙がこぼれ落ちた。
 ごめん、あかり。わたし、あなたから全部奪ってしまった。
 ひかりは、あかりの顔を思い出せなくなっていた。

 不意に、ひかりは自分の手首に触れる力を感じた。

「……浩之ちゃん」
「……ひかりさん、おはよう」

 浩之は照れくさそうに笑っていた。ひかりは迷いをひととき忘れ、おはよう、と微笑んだ。

「……もう、こんな時間ね。学校、遅れるといけないから」
「――いい」
「え――――」

 きょとんとするひかりを、浩之は布団の中へ引き寄せ、組み伏せた。

「ちょ、ちょ、ちょっと浩之ちゃん」
「……今日は、学校行かない」
「え……」
「ずうっと、ひかりさん可愛がって上げる」
「ひ、浩之ちゃんっ!ね、寝ぼけているんでしょ、ほら――――」

 狼狽するひかりの口を、浩之はキスで塞いだ。
 それ以上は抗う気力も意志もなかった。
 とにかく浩之が欲しかった。
 これ以上、大切なモノが失われるのが怖かったから。

   *   *   *   *   *   *

 不安げな顔をする志保は、神岸家の玄関の前にいた。
 なんでこんなところに、自分はいるのだろう。
 浩之は、ここには絶対居ない。
 居ちゃいけない。
 居たら――――

 志保は、胃の当たりにキリキリとした痛みを覚えた。
 玄関のチャイムボタンに手をかけた。
 押せなかった。
 ためらう志保は、一度深呼吸をして、玄関に踵を返した。

 浩之は。
 居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない――――っ。

 がたっ。近くで、物音が聞こえた。志保は驚いて音の聞こえてきた方へ向いた。そこは庭のほうだった。

「…………何?泥棒」

 当惑する志保は、恐る恐る庭のほうへ向かった。
 庭に着いた志保は、音が聞こえてきたのは、家の中からだと言うコトに気付いた。何故なら音はまだ、聞こえていたからだ。
 何かがぶつかる音。志保はゆっくりと家のほうを見た。
 そこは居間に続く縁側であった。居間と縁側を仕切るサッシ窓はカーテンが仕切られていたが、中を覗くコトが出来た。

 そして志保は、目撃した。
 裸のひかりが居間の中からサッシ窓にへばりつく姿を。
 そして、ひかりの背後で激しく動く、裸の浩之の姿を。
 ひかりを後背位で責め続ける浩之の、そんな営みを。
 ――イク、イク、イクよ、浩之ちゃん。
 聞こえてしまった、ひかりの喘ぎ声。
 ――ひかりさん……ああっ!
 聞こえてしまった、浩之の喘ぎ声。

 確かに浩之は、ひかり、と言った。あかりではない。浩之はひかりをひかりとして抱いていた。

「――――うぐっ!」

 突然志保は、凄まじい嘔吐感に見舞われ、その場に吐いてしまった。
 不安。嫌悪。不潔。知らず知らず腹にたまっていたどす黒い想いを、志保はこれ以上堪えきれず吐き出してしまった。
 散々吐き出した後、志保は口元を拭ってその場から逃げ出した。
 
 志保はもう、浩之のコトもひかりのコトも、そしてあかりのコトを思い出したくなかった。
 全部、忘れたかった。
 そんな時だった。

「「わっ!」」

 前を見ずに走っていた志保は、道路で通行人にぶつかってしまった。

「――ご、ごめなさい…………あ」

 起きあがった志保は、ぶつかった相手を見て呆気にとられた。

「……あ痛ったぁ……って……あ、志保ちゃん」

 それは浩之の母親、玉緒であった。あかりの葬式で会ったばかりでまだその顔は記憶に新しかった。

「……もう、どうしたの、そんな泣き顔で走ってきて……」

 玉緒の母親は自分が転ばされたコトも忘れ、手にしていたバックから取り出したハンカチで、へたり込んだまま自分の顔を見て呆然としている志保の泣く顔を拭った。

「久しぶりに家に戻ってきたらこれよ……」

 言われて志保は、自分が倒れている場所が、浩之の家の前であるコトに気付いた。

「まさかうちのバカ息子が志保ちゃん泣かしたんじゃないでしょうね?」

 思わず志保の顔が引きつる。それを見て、玉緒は理由の見当が付いた。

「……やっぱりそうなのね。……うちのバカ息子、どこにいるの?」

 訊かれて、志保は頭の中が真っ白になった。

「………………ン家」
「?もうちょっと大きい声で言ってくれないかしら?」
「あかりン家」

 思わず玉緒の顔が硬直した。
 志保は、もうどうにでもなれ、と思った。そう思ったら、無性に可笑しくなった。

「……浩之、あかりのお母さんとエッチしていたよ。ははは…………」

                  つづく
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