What'sマルチュウ?21  投稿者:ARM


○この創作小説は『ToHeart』『痕』『雫』『WhiteAlbum』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、決して世界的に有名な某ひげオヤジを世に送った京都の某カルタ屋の携帯ゲーム機の某ゲームの国民的電気ネズミ様(笑)のパロディばかりではありませんというか毛頭もないので要注意。(笑)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「 What’s マルチュウ?21」

 === ねっせん!くるすかわシスターズ の巻 ===


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【承前】

 ついに勃発したLeafワールドの貧乳vs豊乳アルマゲドン。
 初戦は、ピクシィレミィvsライチュウ柳川。エルクゥの力を持つ柳川の超高速スピードと鬼神のパワーでレミィを圧倒するかに見えたが、「動いているモノは絶対外さない」レミィの神業のような弓技が逆に柳川を追い詰めた。果たして、レミィの超必殺技「無限矢」の嵐のような弓矢に全身を射抜かれ、柳川は倒れるが、しかし柳川の捨て身の突進でレミィは柳川に倒され、相打ちになった。
 そして第二戦目。

「残り全員、あたしが斃してくれるわっ!爬ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 レミィと入れ替わって出てきたのは格闘の天才、来栖川綾香。気合いを入れる綾香の周囲にある大気が激しく振動する。綾香の闘気が膨れ上がっていた。

「うふふ。なかなか手強そうね。――だけど、うちの妹も強いわよ」
「そーゆーこと、うっふん」

 貧乳を過剰保護しようとする世界の意志が生み出した病気〈あるじゃーのん〉に侵された柏木姉妹(ひとりハブ)側から出てきたのは、めっちゃ陽気な柏木楓…………ってえ?

「どうやらアレが噂の『セイカクハンテンダケ』を喰った楓やね」

 智子は、あの年中ブルーディの楓が、こんな、投げキッスまでするほど陽気になろうとは想像もしたコトがなかったらしく、困惑気味に苦笑した。

「楓ちゃん、いっきまーすっ!ずっぎゅぅぅぅんっ!」

 最初に前に出たのは楓であった。速い速い。計測すればライチュウ柳川よりも速いかも知れない。しまいには、楓の姿が見えなくなってしまった。お金が落ちる音が聞こえたら一瞬にして拾ってしまうあの貧乏神・理緒の得意とする神速の世界であった。
 しかし綾香は動じることなく、楓の動きを目で追おうとはせずに、気配で追っていた。
 綾香がようやく前に出た。

「そこっ!」

 綾香が突然、虚空に回し蹴りを放つ。何もないはずのそこで火花が散り、次の瞬間、空中に舞う楓の姿が出現した。

「あぶない、あぶない」

 楓は綾香の蹴りを赤くなった左腕で受け止めていたらしく、地面に着地して、照れくさそうに舌を出した。

「やっるぅ♪流石格闘の天才ぃ、イケてるネッ!」
「今のは序の口よ」

 綾香はこころの中で、今の蹴りで大したダメージを与えられなかったコトに舌打ちしたが、顔では笑ってファイティングポーズをとった。

「そうそう、序の口」

 そういって楓は、口元を妖しくつり上げた。
 次の瞬間、綾香の頬に赤い線が奔った。

「――――?!いつの間に――――」

 見る見るうちに唖然とする綾香が着る服が、次々と裂け始める。これには志保たちも酷く驚かされた。

「な――何よ何よっ!?何が起こったのよぉ?」
「かまいたち――」
「へ?」

 志保は、ぼそりとそう呟いた雅史のほうへ振り向いた。

「柏木シスターズの中に、かまいたちを得意とするポケモントレーナーがいる、って聞いたコトがあるんだ。スピード能力の高いポケモンばかり集めて鍛え上げ、その高速移動を生かしたかまいたち攻撃で相手を倒すらしいけど……」
「でも、あいつ、ポケモンなんか使っていないジャン!」
「ポケモン無しでも出来るンや、柏木楓は」

 そういって歯噛みする智子に、志保と雅史は、はっ、となった。

「綾香、気ぃつけぇやぁっ!柏木楓はかまいたちが得意みたいやで」
「バカ言いなさいよ」
「なにぃ?」
「かまいたちは空気の断層現象。ポケモンの引き起こすそれは超スピードで起こした風を使ったワザだけど、この女のは違う」
「「「「違う?」」」」
「――大気の――風の動きが無いのよ」

 そうであった。綾香は気配で相手の動きを見ていたのだ。微妙な大気の流れさえも肌で知覚出来るほど研ぎ澄ました神経をして、かまいたちの発生を見逃すハズもなかった。

「えー?すっごぉーい!あたしのワザをちゃんと見抜いていたんだぁ、やっぱ来栖川の天才は並じゃないわねぇ」

 楓はせせら笑っていたが、正直に感心はしているようである。

「見抜いてなんかいないわよ――あんたがいつあたしをどんな手で攻撃しているのか――さっぱりなんだから」

 綾香は悔しそうに楓を睨んだ。決して楓が憎いのではなく、格闘の天才である綾香をして、その正体を見極められない己の不甲斐なさをプライドが許さなかったのだ。

「この勝負、終わったわね」
「な、なにをゆうかぁっ!」

 あざ笑う千鶴に、志保が怒鳴り返した。

「この闘いには致命的なものがある」
「致命的ぃ?」
「それは、来栖川綾香が格闘の天才である、というコトよ」

 千鶴の指摘に、志保たちは当惑した。

「姉の芹香は黒魔術のエキスパート、そして残る二人は超人的な特殊能力を秘めた戦闘集団、りーぶ団十傑衆。――しかし来栖川綾香は、徒手空拳の威力のみが常人の域をわずかに凌駕しただけの、格闘の天才。常人の中では圧倒的でも、超人の中ではさして秀でた能力ではない。しかしうちの楓や初音は違う。――超人さえも凌駕した魔人なのよ」

 確かに綾香の拳や蹴りが楓に上手くヒットできれば、綾香は楓を倒せるだろう。しかし楓は綾香に触れることなく攻撃が出来る。千鶴はその差を指しているのだ。

「――――!」

 青ざめた芹香が、〈びっくりーふに近い男〉の浩之に抱きかかえられている梓の元に駆け寄った。

「来栖川芹香――え、楓さんの技の秘密を教えて欲しい、って?」

 朦朧とする梓に代わって、浩之が聞いた。梓も聞こえていたらしく、ゆっくりと顔を向けたが、首を横に振るだけであった。
 そんな時芹香は、梓が受けた身体に傷の中には、綾香と同じ裂傷を見つけた。梓は〈あるじゃーのん〉に支配された姉妹によって蹂躙されたのだ。
 芹香はそのコトに気付くと、ポロポロと涙を流した。

「……酷すぎます……こんな……コト…………」

 いつもは蚊の泣くような声の芹香が、はっきりと、そして哀しそうに洩らした。綾香が危険なコト以上に、血を分けた姉妹が傷つけ合うその惨さにいたたまれなくなったのである。そんな芹香を前に、浩之も梓も、どう言えばいいのか困ってしまった。

「先輩」

 芹香に声をかけたのは、すっかりシリアスな展開から蚊帳の外に置き去りにされ、馬鹿ップルよろしくマルチュウをアオカンでイカせて一息ついていた、鬼畜なほうの浩之であった。

「綾香なら大丈夫だって」
「おい――」

 芹香の辛い心情を理解しているこちらの世界の浩之が、あまりにも野放図すぎる浩之に怒鳴りかけた。

「綾香だって、超人だぜ」
「……あ?」

 にぃ、と笑って言う浩之に、芹香はきょとんとなった。

「綾香にも立派な特殊能力だってある。――なぁそうだろ、綾香」

 後ろから浩之に声をかけられ、綾香は不思議そうに振り向いた。

「何よ、その特殊能力、って」
「忘れたか?――綾香の誰にも劣らない特殊能力、それは、綾香が『天才』だったコトだ」

 浩之がそう言うと、志保たちは唖然とした。

「……バカだ」
「うん、バカだ」

 呆れる志保と雅史の隣で、呆気にとられていた智子が次第に腹を抱えて笑い出した。

「ば、バカすぎ…………バカすぎやけど…………それ、そうやね」

 智子が笑い出すと、今までべそを掻いていた芹香もつられて笑い出し、そしてとうとう綾香までもが笑い出した。
 すっかり置き去りにされた感のある〈びっくりーふに近い男〉浩之だったが、何故か腹は立たなかった。むしろ、そんなコトを口にする浩之に感心さえしていた。

「あはははっ……。やっぱ浩之、サイコーね」
「当たり前だ。よし、勝ったらご褒美やるぞ」
「なでなで?」

 綾香は、にぃ、と笑って言うと

「望むなら、ふきふきでもなんでも」
「おっけぇ!」
「ひ、浩之っ!」

 綾香と浩之のやりとりを聞いて、智子と芹香までもが嫉妬剥き出しに大声で怒鳴った。芹香はともかく智子はいつの間に浩之に喰われたのか(爆)

「はーい、松竹演芸場の喜劇はもうお終いかしら?きゃはははははっ♪」

 ハタで呆れていた楓は、再びファイティングポーズをとった綾香を見てあざ笑った。綾香が悪あがきするモノだと思ったらしい。

「ウザイから、とっととバラバラにしてくれるわね。まずは首から、いっくよーん」

 そう言って楓は翻った。この動きが楓の見えない刃に関係があるらしい。綾香はそこまで気付いていたが、どうやってこの長い間合いで攻撃しているのか判らなかった。

「どうせ見えないのなら――」

 そう呟くと、なんと綾香は目を瞑ってしまった。楓はちょっと驚くが、それを諦めたモノと思いこんで攻撃に転じた。
 音もなく見えることもない攻撃が綾香に迫る。見守っていた芹香も、浩之に勇気づけられていたとはいえ、綾香がこの危機をどう切り抜けられるのか確信もなく、胸が酷く締め付けられるようにいたんだ。そして衝動的に綾香の前に立って不可視の攻撃の楯になろうとさえ考えてしまい、無意識に足が一歩前に出た。
 だが、次の瞬間、芹香達の前でそれは起こった。
 綾香は、目の前の虚空に両手をつきだしていた。
 そしてそれを見て、向こう側で慄然とする楓が着地して身体を凍り付かせていた。

「…………そ……そんな…………?!」

 悲鳴のような声を漏らしたのは、楓のほうであった。

「……ビンゴ」

 綾香は、満面の笑みを浮かべて目を見開いた。

「……こいつが見えざる攻撃の正体ね」

 そう言って綾香は両手を楓のほうへ突き出してみせた。

「あれは……あ」

 唖然とする志保は、綾香の突き出した指の隙間に閃く光であった。

「髪、ね」

 映えた光は、楓の綺麗な髪のキューティクルの仕業であった。

「おそらくは、エルクゥの急激な代謝能力を利用して、頭髪を細く長く伸ばして、ムチのように振り払った。しかもこの細さは普通の髪ではない。500分の一ミクロセンチにまで細め、もはやそれは空間の隙間にさえ入り込むほどに。気配程度で追える代物じゃないわね」
「くぅ……」

 今まで陽気に笑っていた楓が、ここに来てようやく悔しそうに歯噛みした。

「どうやって……見切ったのよ……!」
「感、ね」
「感――――?」

 楓が呆気にとられた。

「あなた、あたしの首を刎ねるって言ったじゃない?だから、見当を付けて摘んでみたの」
「つ、摘んだ――――」

 綾香はこともなげにそう言った。瞠る楓を見て、綾香は、うふふ、と笑い出した。

「やっぱあたしって天才よねー、見当つけただけで見切っちゃうんだから」

 まさしく、超人技であった。綾香の見劣りしないその特殊能力は、浩之が指摘した魔人さえも凌駕する天賦の才であった。
 それを目の当たりにした〈びっくりーふに近い男〉浩之は、異世界から来た自分をもう一度見て、そして感心した。

「……やはりこの男が、勝利の鍵が」

「ば、ばかな――――うわっ!」

 唖然とする楓は、その隙をついて間合いを詰めた綾香に驚いた。

「あなたも滅茶苦茶強かったわ。出来れば今度は、〈あるじゃーのん〉なんかに侵されていない状態でお手合わせ願いたいわね――爬ぁっ!」

 綾香は、にっ、と笑うと、楓を崩拳で仕留めた。楓、KO。

「……あー、つかれた」

 そういって綾香は仰向けになって倒れ込む。それを支えたのは、綾香の勝利が決まった瞬間飛び出した芹香であった。

「……ごめん、姉さん……心配かけて」

 綾香が済まなさそうに言うと、芹香は微笑んで首を横に振った。

「……おのれ……よくも楓を……!」

 今にも角を生やして暴れそうになる千鶴。その千鶴に、綾香をやってきた智子に託して振り向いた芹香が指した。

「……次は、わたしです」
「面白い」

 初音かピカチュウ耕一が出てくるモノと思われたそこへ、変態仮面の格好をした変質者が先んじた。それを見て、志保たちは酷く当惑した。

「「……〈策士月島〉……って、あの……なんつー格好を(笑)」」
「黒魔術のエキスパート相手に、パワーだけでは相手できまい。ならば、このわたしがお相手しよう」

 クールなセリフで決める月島兄だが、変態仮面の格好が壮絶なまでにアンマッチであった。

「これは精神レベルの闘いになるな」

 〈びっくりーふに近い男〉浩之は、月島兄の毒電波攻撃を知っていた。果たして芹香にその毒電波をうち破る術はあるか。

「黒魔術は結構何でもありだから、何とかなるんじゃないの?」

 と相変わらずおきらくごくらくに言う、主人公であるハズの浩之。

「でもさぁ」

 志保はかつての上司である月島兄を見て、

「ルリルリ人質に取られているだけなんでしょ?ルリルリはあたしたちが何とかするから、月島首領、やめてよっ!」
「志保……」

 雅史はかつて一緒にバカをや(大宇宙の意志、発動)……一緒に修羅場をくぐり抜けた上司の不本意な変節を嘆いている志保に同情した。もしかすると志保は長瀬兄のことが好きなのかもしれない、とまで思った。

「あんたにもしものコトがあったらね……あたし…………あたしたち」
「うんうん……って、あたし”たち”?」
「あんたにはりーふ団の給料の未払い分を何とかしてもらわなけりゃいけないんだからねーっ!」

 志保と芹香と月島を除く一同、阿吽の呼吸で一斉にこける。

「あはは……そんなところか」
「……バカめ」

 パンティを被っている月島兄も、これにはすこし呆れたらしい。

「……瑠璃子など関係ない。――わたしは、この世界を守るために彼女たちの味方をしているだけだ」
「……本当に、そうですか?」

 月島兄は、芹香が珍しく声にして聞いてきたコトにちょっと驚いた。

「瑠璃子さんの安否を気遣われているのではないのですか?」
「関係ない」

 クールに決める月島兄。でも変態仮面。
 しかし被っているパンティが、瑠璃子、と刺繍されているのをみて、芹香は月島兄の苦悩を察した。

「無駄話はそこまでだ。――食らえ、毒電波っ!」

 ちりちりちりちりちりちりちりっ!月島兄は芹香に指向性の毒電波をぶつけてきた。
 ところが、月島兄の目には、芹香の目の前ですべて毒電波が霧散されている光景が見えた。

「バリアだと?そんなばかな――――なに、バリアではない?」

 いわれて、月島兄は、はっ、と気付く。芹香の目の前にはなんと、半透明の人影が立っていたのである。

「――――瑠璃子ぉっ!」

 それはまさしくニャース瑠璃子。物憂げな妹の眼差しは、月島兄をその場に硬直させた。

「ばかな――幻覚か?」
『違うよ、お兄ちゃん』
「瑠璃子ぉっ?!」

 なんと半透明の瑠璃子が話しかけてきたではないか。月島兄はこの上なく瞠って驚いた。

『争うのは止めて、お兄ちゃん』
「うるさい、黙れぇっ!――おのれ来栖川芹香、幻で惑わすかぁっ!――なに、幻ではない?瑠璃子の生き霊を召喚しただとぉっ?!」

 そう。芹香は黒魔術の召喚術で、捕まっている瑠璃子の生き霊を呼び出していたのだ。毒電波は瑠璃子がすべて防いでいた。

『貧乳も豊乳も罪じゃない。どちらも均衡し合うことで維持するのよ。人の好みが千差万別であるように。――この世界は変わろうとしているの。だから――』
「うるさいうるさい、だまーれーーーーーーっ!!」

 とうとうキレる月島兄。そして頭に被っているパンティを外し、それを必要以上に嗅ぎ始めたのである。

「……世界なんて……世界なんて関係ない…………瑠璃子が……ボクの大好きな瑠璃子がいればそれで充分だ…………ああ、そうだ、この世界は約束してくれたよ、お前をボクのモノにするコトを許してくれた……瑠璃子、お前はボクだけのモノだ……」

 そういって妹のパンティをペロペロと舐めだした。流石にこれには芹香も嫌悪の相を隠せなかった。

「どうやら、〈あるじゃーのん〉は、各自が持つ負のこころを増幅させて操るらしいな」

 〈びっくりーふに近い男〉浩之は、凶相を浮かべて実の妹を恋しがる月島兄を冷静に分析した。

「あれじゃ、生身の妹さんがやってきてもダメだ」

 主人公の浩之も、流石にいつまでマルチュウと乳繰りあっている場合ではないと見守っていたが、月島兄を見て哀れむようにそう言った。

「……芹香先輩。ダメだ、楽にして上げてよ……え、でも?……いいやダメだ、あの人の暴走はこれ以上は本人にも良くない」

 主人公のほうの浩之に言われ、芹香はためらいがちに頷いた。月島兄を倒す決意をしたようである。
 途端に、芹香の前から召喚された瑠璃子の生き霊が霧散し、代わりに、芹香の周囲に呪文の文字で構成された結界が渦を巻き始めた。

「あれは――」
「召喚系の魔法やね」
「知っているの?」

 志保が訊くと、力尽きた綾香を介抱していた智子が頷いた。

「ああ、話にはな。呪文のマテリアル化によって詠唱の速度と威力を増せるらしい。そして一種の結界でもあるから、毒電波だろうが施行者には攻撃は届かへん」

「――しかしぃっ!詠唱が終わったその瞬間なら結界の威力はすべて消え去るっ!その瞬間にありったけの毒電波を叩き付けて廃人にしてくれる、いや、肉ドレイにして俺のモノを永遠にしゃぶらせてくれるわっ、うひゃひゃひゃひゃひゃぁっ!」

 月島兄は毒電波を凝縮し、その最高の攻撃の瞬間に芹香に叩き付ける気でいた。

「…………っ!」

 芹香の詠唱が終わった。周囲に張られていた結界が垂直面に魔法陣を作り出していた。

「今だぁっ、くらえっ!!」

 月島兄がすかさず毒電波を芹香に浴びせた。直撃を受けた芹香が電撃を受けたように痺れ、いや実際に濃度の高い毒電波は物理的破壊を可能とするのか、芹香の着ている服がビリビリに引き裂かれてしまった。

「もらったぁ――――なにっ!?

 突然、月島兄が吹き飛ばされた。彼の直ぐ目の前で爆発が起きたのである。

「……そこまでです、拓也さん」

 自分を見舞った毒電波が消えたコトに気付いた芹香が身を起こし、そして自分をかばうように立っている、召喚した人物の背を呆然と見つめていた。

「お前は――――長瀬祐介ぇ?!」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。そうです、精神爆弾使いの長瀬祐介です。よかった、出番が間に合った」
「出番って、アンタ……(笑)」
「いやぁ、まったくボクの出られる気配がなかったので心配しました」
「つーか、キャラ違う」

 思わず志保がつっこむ。

「いいんですよ。どーせプレイヤーキャラなんて人格は有って無きが如しなんですから」

 やけに能天気な祐介である。

「それに、毒電波なんて力を持っちゃった所為もあってね。空想癖の強い現代っ子に突出した力を与えたら、こんなふうにhighにもなっちゃうでしょう。それは偏見でしょうか?」
「しるか、そんなの――!」

 月島兄は、あの祐介が召喚されてきたコトに余計腹が立ったらしく、祐介の顔を睨み付けて離さず起きあがった。

「それはそれとして、拓也さん。瑠璃子さんから伝言です」
「……へ?」
「『瑠璃子のパンティを黙って持ち出すお兄ちゃんなんで、大ッ嫌い』、だそうです」

 月島兄、痛恨の一撃。

「『それに、あたしの部屋を黙って覗いてひとりエッチしているコトも知っているんだから。若いのだし、ひとりエッチするのはもう仕方がないとは諦めたけど、廊下はちゃんと拭いてね』…………最低ぇ」

 二撃目はクリティカルものであった。月島兄のヒットポイント、のこり僅か。

「なななななななななな」
「なんでそんなコトを言えるかって?だって」

 祐介がそう言うと、なんと祐介の背後から、瑠璃子がひょこ、っと顔を出してきたのである。それを見て、千鶴たちは唖然となった。

「ど――どうやって?」
「わたしが探し当てました」

 そう言ってきたのは、遠くからVAIOC1を持ってやってきた藍原瑞穂と、包帯ぐるぐる巻きの、BB四天王の一人さおりん・ザ・レッドこと新城沙織であった。包帯ぐるぐる巻きの理由はマルチュウ第14話を参照のこと

「あ、生きてた」
「もう、勝手に殺さないでよ智子。お互い操られていたとはいえ、アンタには酷い目にあったわ」
「はっはっはっ、堪忍やでぇ」

 智子は乾いた笑いで誤魔化した。

「……もう、いつもそんな調子なんだから智子は。まぁいいわ。でね、あたしにはお兄ちゃんがいて、魔脚で吹き飛ばされたときに助けてくれたの」
「お兄ちゃん?」
「うん。凄いのよぉお兄ちゃんの乗る車。名前は青が付くんだけど、真っ赤な車でね、ブースターで時速500Kmまで加速出来るのよ。『フェニックスウィングっ!』とか言


 唐突に大宇宙の意志、発動。


「あ、生きてた」
「もう、勝手に殺さないでよ智子。お互い操られていたとはいえ、アンタには酷い目にあったわ」
「はっはっはっ」

 智子は乾いた笑いで誤魔化した。

「……なんかさっきも笑ってような気が(笑)」
「でもね、あたしにはお……えーと、なんかこれ以上は言ってはならないような……えーとね、あたしの祐クンに助けてもらったの!…………これでいいんだよね……なんか釈然としないけど」

 沙織は瑞穂に訊くが、瑞穂は流石に困って何も言えない。

「それはそれとして、瑠璃子さんは私たち正義の味方〈アストラルバスターズ〉が助け出しましたっ!」
「ああ、そういえばそういう設定もあったよね『雫』って」
「おいおい」

 にこやかに言う雅史に志保がつっこんだ。

「そう言うわけで、もうあなたが争う必要はありません」
「な……なんだと」

 青ざめた顔で祐介を見る月島兄。

「だって」

 そう言って祐介が肩を竦めると、脇にいる瑠璃子のほうを見た。すると瑠璃子は頷いてみせ、ヘロヘロになっている月島兄の元にやってきた。

「瑠璃子……なぜ……」
「だってお兄ちゃん、下手くそなんだもん」

 <ふぉんと SIZE=”でっかく”>どっかぁぁぁぁぁんっ!</ふぉんと>。粉々に吹き飛ぶ月島兄。

「長瀬ちゃんのほうが長持ちするし、大きいし、上手いんだよ」

 瑠璃子の追い打ちは過剰すぎる破壊力を持っていた。月島兄は、どーせ俺は皮かむりだよぉぉぉ、と断末魔を残して突っ伏した。月島兄、戦闘不能。
 端では、瑠璃子の言葉に赤面する芹香が、瑠璃子と祐介の顔を何度も行き来した。

「……え、何が上手いんだって?」

 芹香がそれとなく聞くと瑠璃子が微笑んで反応した。芹香は真っ赤な顔で思わず何度も何度もこくこく頷く。

「……芹香お嬢さんも、今どきの女のコデスなぁ」

 〈びっくりーふに近い男〉の浩之が、揶揄するようにもう一人の自分に訊いて見せた。主人公の浩之は惚けて鼻歌を歌っていた。

「じゃあ、やってみせてあげる」

 瑠璃子の言葉に、芹香は思いっきり顔を赤くした。

「……え?こんなところで?そんな人前で?って?どういう意味?――ほら」

 そういって瑠璃子が祐介に手渡したものは、ストローとシャボン液の入ったカップ。それを受け取った祐介は、ストローの先をシャボン液に沈め、ぷぅ、と大きなシャボン玉を作って見せた。

「ほら、長瀬ちゃん上手いでしょ?」
「その気になれば、人ひとり入れる大きさのものも作れますよ。今くらいなら10分くらい壊れないで浮いていると思います…………ん、どうしたんですか芹香さん唖然として」

 とりあえず、この勝負、芹香の勝ち。

                つづく
http://www.kt.rim.or.jp/~arm/