What'sマルチュウ?19  投稿者:ARM


○この創作小説は『ToHeart』『痕』『雫』『WhiteAlbum』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、決して世界的に有名な某ひげオヤジを世に送った京都の某カルタ屋の携帯ゲーム機の某ゲームの国民的電気ネズミ様(笑)のパロディばかりではありませんというか毛頭もないので要注意。(笑)

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「 What’s マルチュウ?19」

 ===くらいまっくす直前?!

      しょうげき、<ぱわーすのー>のしょうたい?! の巻===


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【承前】

ARM:季刊「ほわマル」がはじまるよぉぉぉぉぉ!(笑顔でキメっ!)

一同:なに、それ?

ARM:ガーソ(笑)ま、まだ、つづいているんだよっ!

 それはそれとして、スタート。

 旅館鶴来屋が所有する海岸に、浩之抹殺の為に現れた〈ほわるば死鬼隊〉。対峙するこの二組を、鶴来屋本館の一室から見ていた人影がひとつ、あった。

「……まったく、何をしているのだか。さっさとあの男を始末すればいいモノを――――むっ?」

 浩之たちの闘いを歯噛みしながら見ていた人物は、その人物が居る部屋の扉がいきなり開かれたコトに驚き、振り返った。

「やっぱりこの放送室に居たのね」
「――お前は?」
「りーふ団遊撃部隊隊長、そして十傑衆がひとり、〈騒乱の志保〉!」
「ソーラン節?」
「ちゃうわい!くらへ、ソリタリーウェェヴッ!」

 志保は窓際に立つ人物に向けて、ゴルディオンマイクを通して発した衝撃派を放った。しかし謎の人物はそれを颯爽とかわし、放送室の奥へ飛び移った。

「やるわね!さっきの独り言と言い、どうやらあんたがあの〈ぱわーすのー〉に間違いなさそうね」

 その名を耳にした途端、放送室の奥に立つ人物が、びくっ、と反応した。

「さぁて、その面、拝ませてもらうわよ………………うわっ、なにっ?」

 マイクを構えた途端、志保は突然波打つ床に驚いた。発信源は、放送室の奥にいた人物のたった一回の足踏みであった。堪らず志保はしりもちをついた。
 敵対するモノなら、その隙を逃すハズもなかった。放送室の奥にいた人物が、超スピードで志保に襲いかかってきた。

「危ない、志保っ!浩之直伝、ドライブシュート!」

 その危機を、飛び込んできた雅史が蹴ったサッカーボールが防いだ。サッカーボールは空中を飛ぶ謎の人物に命中し撃墜した。

「雅史っ!」
「いまだ、志保――――うわっ!!」

 雅史は志保にその場から逃げ出すように言ったが、しかし謎の人物は直ぐに起きあがり、今度は雅史に飛びかかってきた。もはや武器などない雅史など敵ではなく、謎の人物は雅史を跳ね飛ばし、廊下へ逃走していった。

「ま、雅史ぃ!」

 慌てて雅史の元へ駆け寄る志保。しかし雅史の身体は、謎の人物が仕掛けた攻撃によってズタズタにされていた。その傷跡はまるで猛獣に引き裂かれたかのように酷く深く、とても生きているとは思えなかった。

「そ…………そんな、雅史!?死んじゃったの!嘘でしょう」
「あー、死ぬかと思った」

 いきなり血塗れの雅史が起きあがる。志保は真っ白になった。

「誰が死ぬの、こんなふざけた話で」

 雅史はいつものスマイルで何事もなかったかのようにハンカチで血を拭う。猛獣の爪痕などすっかり消えていた。

「そ、……そりゃそうね」
「それにしても今の……」
「え……、ええ、今のが例の〈ほわるば死鬼隊〉のダークリーフ団を統括する〈ぱわーすのー〉よ」
「うそぉ」
「なによ、素っ頓狂な声を出して」
「だって今の後ろ姿は――」

 雅史が口にしたその名を聞いて、志保は唖然とした。

「――――ちょ、ちょっと待ってよっ!なんであいつが〈ぱわーすのー〉なのよっ!」
「ありえんことではない」

 そう言ってきたのは、謎の人物が逃走していった通路の方向とは反対側からやってきた浩之であった。しかし現在、浩之は海岸で〈ほわるば死鬼隊〉と対峙している。
 〈びっくりーふに近い男〉。りーふ団十傑衆がひとり、そして最強の男である、このポケモンとLeafワールドが融合した世界での藤田浩之である。

「あの女なら、この放送室にいてもおかしくない」
「で、でも、どうして――ねぇ、その女はまさかっ?!」

 志保はようやく、浩之がある女性を抱きかかえているコトに気づいた。それは今の志保にとって意外な人物でもあった。

「〈あるじゃーのん〉、だ」
「「――――」」

 苦々しく告げる浩之に、志保と雅史は絶句した。

   *   *   *   *   *   *   *

「いけっ、マルチュウ!電撃だっ!」
「はいっ!――って、でーきーまーせーんーっ!」

 浩之の指示に勢い良く進み出たマルチュウだが、突然思い出したように立ち止まり、浩之へ振り返って泣きわめいた。

「なんででけへん?電気系やろ?」
「マルチュウさんは水系なんです」

 芹香と綾香に付き添ってやってきたセリチュウの答えに、智子はきょとんとなる。

「なんでや?あいつ、機械仕掛けやろ?」
「そ、それが…………」

 そういうと、セリチュウは、ぽっ、と頬を赤らめ、惚けるように目をそらした。かつてあの超必殺技に敗北したセリチュウだからこそ、流石に必殺技がアレでは言い辛いだろう。

「なんやアンタ……、ああっ、もうええわっ!マナ、いくでっ!」
「あいな、姉さんっ!」

 戸惑うマルチュウの横をすり抜けて、観月マナが飛び出した。

「……無駄ね」

 迎え撃つは、〈冬の弥生〉。

「くらえっ!すねげりっ!」

 ばしぃんっ!マナの音速の蹴りが弥生の顔面を捉えた――ハズだったが、弥生はいつの間にか、砂浜にあったパラソル傘を取り上げ、それで蹴りを防いだ。

「スネはもっと下の方よ」
「う、うるさいっ!回転蹴りっ!」

 ソニックヘッジホッグよろしく、マナは空中で高速前転回転を開始し、弥生が持つパラソルを粉砕する。しかし弥生にはまったく動揺した様子はなかった。

「無駄ね。――――『布団が吹っ飛んだ』」

 出た。〈冬の弥生〉」必殺の冷たいギャグ。あまりにもサムすぎる言霊が真冬の吹雪となり、マナを吹き飛ばしてしまった。

「マナッ!?」
「まずいっ!セリチュウ、行きなさいっ!」
「了解しました。サテライトキャノンオープン」

 綾香の命令を受けて、セリチュウが進み出す。そして背中から取り出したターボザックを構え、マイクロウェーブキャプターを展開させた。

「アンタの相手はあたしよっ!」

 そういって飛び出してきたのは〈歌姫理奈〉。

「『SOUND OF DESTINY』!ソリタリーウェーブ、ファイアーっ!」

 〈歌姫理奈〉は取り出したマイクを突き出し、軽快に歌い始める。するとどうだ、理奈の正面にある空間がゆがみ、その中心から黄金色の衝撃波が放たれたではないか。

「間に合いません――」

 ドドーンっ!直撃を受けたセリチュウが吹き飛ばされてしまった。

「ああっ!マナさんに続いてセリチュウさんまでっ!」
「わたしに任せて下さい!」

 そう言ったのは琴音であった。琴音は宙をだらしなく舞うセリチュウを、先ほど吹き飛ばされたマナを助けたように念動力で受け止め、砂浜にゆっくりと降ろした。

「琴音は二人をっ!あたしが行きますっ!」

 セリチュウの無事を確かめた葵が、叫びながら〈ほわるば死鬼隊〉に突進する。

「今度は私がお相手します」

 そう言って出てきたのは、〈シスター美咲〉。おおよそ闘いとは無縁の、ベリーショートの髪を靡かせたシスター姿の美少女が前に出た。

「覚悟っ!」

 葵は美咲に向かって跳び蹴りを放つ。ところが美咲はそれを避けようともせず、その場に立ちつくしていた。

(受け止める気っ?――――いや、これはっ!)

 次の瞬間、跳び蹴りを仕掛けていた葵の身体が空中で停止する。まるで見えない壁に遮られたかのように。葵は美咲の手前の砂浜に落ちてしまった。

「葵――――なにっ?!」

 ゆっくりと起きあがる葵を見て、綾香はほっとするも、だがその安堵も直ぐに驚愕に取って代わられた。
 攻撃を仕掛けた葵が、なんとボロボロ泣きながら〈シスター美咲〉に許しを請い始めたのである。

「こ、これは――――」
「あのあんなの周囲には、異空間が存在します」

 答えたのは、再起動したセリチュウであった。

「セリチュウ、大丈夫っ?」
「戦闘は不可能ですが、センサーはまだ生きています。あの女性の周囲には、毒電波に近い粒子が高密度に存在します。おそらく葵さんはあの奇怪な空間に取り込まれ、意識を支配されてしまったようです」
「なんだってぇ?!」

 唖然とする浩之たちの前で、〈シスター美咲〉は和やかな笑みを浮かべながら、足許で泣いてすがりつく葵を足げにしていた。

「わが〈懺悔の結界〉に叶うもの無し。悔い改めよ、悔い改めよ」
「うわぁ、ひでぇ」
「これでARMは美咲さんのファンを敵にしましたね」
「うるさいだまれ――マルチュウ、葵ちゃんを助けるんだ!」
「で、でも、あの空間に入ったらわたしも……」
「お任せ下さい!」

 そう言って琴音が飛び出し、念動力で、足げにされている葵を回収した。精神、物理面でダメージを受けた葵は戦闘不能になっていた。

「これでもうお終い?」

 動揺する浩之たちを見て、〈歌姫理奈〉があざ笑った。

「むぅっ……!」

 そう言って浩之は辺りを見回す。残るはマルチュウ、貧乏神理緒そしてエスパー琴音。

「ええぃっ!カシワギシスターズはどこに行ったっ!」
「無駄よ」

 そう言って〈冬の弥生〉は、どこから取り出したのか判らないが、奇妙な物体を手前の砂浜に放り捨てた。

「あ――あれはっ!」

 浩之たちは愕然とする。弥生が出したものは、初音のスクール水着、楓のブルマーそして梓のヘアバンドであった。

「ここへ来る前の前哨戦での戦果よ。気が済んだ?」
「そ、そんな…………ばかなっ!?」
「もはやここまでね」
「そうはさせないっ!」

 そう言って貧乏神理緒が飛び出した。

「理緒ちゃんダメだっ!奴らに近づくと――」
「うおおおおおおおおおおっっっ!!」

 浩之の制止も聞かず、理緒は〈シスター美咲〉に突進していく。

「ふっ、無駄なことを。――あなたも懺悔なさいっ!」

 〈シスター美咲〉が突進してくる理緒に身構えた。その時であった。

「――?」

 突然、理緒は〈シスター美咲〉の〈懺悔の結界〉のギリギリ手前で立ち止まり、呆気にとられる美咲の顔をまじまじと見た。
 そして一言。

「ぴっかぁ?」

「――――ああっ!ダメ、ダメすぎるっ!」

 別にどこの誰かがマルチュウシリーズのコトを嘆いているわけではない。理緒のピカチュウの物真似が美咲の脳幹を直撃し、泣きながら理緒に飛びついてきたのである。理緒が編み出した超必殺技、「声優ネタ」である(笑)。美咲は結界を張るコトを忘れ、理緒に頬ずりし始めた。

「ごめんね」

 え?と驚く〈シスター美咲〉は、理緒のもうひとつの技、触覚攻撃ではじき飛ばされてしまった。

「おおっ!理緒ちゃん、強いっ!」
「頑丈と根性だけが取り柄ですからっ!それに生活かかってますしっ!――そう言うわけで来栖川のお嬢様、ギャラ弾んでねーっ!」

 これには芹香も苦笑せざるにはいられなかった。

「くっ!おのれっ!」

 慌てて弥生が理緒に攻撃を仕掛けようとする。

「くらえっ!『ナイフに歯がナイフっ!』」

 弥生のサブいギャグ炸裂。絶対零度の吹雪が理緒を見舞った。

「ま、負けませんっ!」

 なんと理緒、絶対零度の吹雪を堪えているではないか。流石頑強人間スパルタン。

「させませんっ!」

 琴音が空を飛んで弥生に挑みかかる。

「それはこっちのセリフよっ!ソリタリーウェーブファイアっ!」

 琴音の前に立ちはばかる理奈の必殺技。
 だがその衝撃波を、まったく同じ衝撃波で吹き飛ばした者が居た。

「お――――お前、志保っ!」
「〈騒乱の志保〉かっ!」

 歯噛みする理奈は、鶴来屋本館からやってくる志保と雅史のほうを見た。

「あ、やっぱりこの世界にも志保と雅史居たんだ」

 浩之は感心したふうに言った。

「衝撃使いの名にかけて、あんたごとき安っぽい歌い手を野放しにはしないわよっ!行くわよ、雅史っ!」
「う、うん」

 雅史が頷くと、その背中に背負っていたカラオケ機器にスイッチが入り、スピーカーが機械の中から飛び出してきた。カラオケの機械はどこから見つけてきたのか、旧式も旧式、若い衆は見たこともない8トラのカラオケであった。

「まったく、鶴来屋はこんなカラオケマシーンしか用意していないんだからっ!いくわよ、本物のソリタリーウェーーーーヴッ、ふぁいあっ!!」

 ドコーン。志保のゴルディオンマイクから入力された固有振動波は、8トラのスピーカーを突き抜けて巨大な黄金色の衝撃波を理奈めがけて撃ち放った。

「ロートルは黙ってなさいよっ!『SOUND OF DESTINY』ファイアっ!」

 〈歌姫理奈〉も負けじと、衝撃波を放つ。
 二つの衝撃波は、丁度中間点でぶつかりあい、大気に激しい振動を残して霧散した。

「ううっ!――しまったっ!」

 衝撃波を間近で受けて跪いた弥生に、上空へ避難していた琴音が飛びかかってきた。

「貴女の不幸が見える――貴女の負けですっ!」
「なめるなっ!超必殺技!――――『がちょーーーん』」

 次の瞬間、弥生を中心に巨大な爆発雲が拡がり、琴音と理緒が吹き飛ばされてしまった。弥生の超必殺技、『終わってしまったギャグ』があまりのサムさに、大気中に超伝導を引き起こし、生じたプラズマを利用した爆発で二人を吹き飛ばしてしまったのである。琴音、理緒、KO。

「ううっ!」
「よそ見しているヒマはあって?」

 舌打ちする志保だったが、理奈がすかさずソリトン攻撃を仕掛けてくるため、理奈に集中するしかなかった。

「何やってんのよ、ヒロっ!あんたのマルチュウ、いつまでそこにホカしてんのよっ!」「イヤ別に何もしていないワケじゃ…………なぁ、マルチ先生、いつものようにびしっと、ほれ、あの超必殺技で」
「い、いやですぅぅぅぅぅぅ!こんな昼日中の衆人の中でアクアシャワーなんかできませんーーーーっ!(血涙)」

 すっかり駄々をこねてしまったマルチュウ。言い分はもっともである。

「くそうっ!このままじゃみんなやられちまうぞっ!どうすればいいんだっ!」
「ウフフフフ」

 焦る浩之たちの耳へ、不意に笑い声が。

「なんや、レミィ?こないな事態で何がおかしいンや?」
「Oh、sorry!だってまだ、アタシのポケモンが残っているネ!」

 ええっ?と驚く浩之たち。

「……まさかレミィ、自分自身で暴れて『幻のポケモン・レミィ爆乳』やらかす気じゃないだろうな?(笑)」
「Non、Non!そんな腐りかけのネタはシュミじゃアリマセン!アタシ、強力なポケモン持ってマス!」
「ど、どんなの?」

 綾香が聞くと、レミィは自慢げにポケットからポケモンボールを取り出して突き出した。

「聞いてビックリネ!この中には最強ポケモン、シナリオライター高橋龍


 ここで唐突に大宇宙の意志発動。やり直しになる。――


「――Non、Non!そんな腐りかけのネタはシュミじゃアリマセン!アタシ、強力なポケモン持ってマス!」
「ど、どんなの?」

 綾香が聞くと、レミィは自慢げにポケットからポケモンボールを取り出して突き出した。

「聞いてビックリネ!この中には最強ポケモン、デザイナーの水無


 再び、大宇宙の意志発動。またもややり直しに。――


「……おかしいなぁ、このシーン、さっきも見たような?」
「気にしない、気にしない!アタシ、強力なポケモン持ってマス!」
「ど、どんなの?」

 綾香がためらいがちに聞くと、レミィは自慢げにポケットからポケモンボールを取り出して突き出した。

「聞いてビックリネ!この中には最強ポケモン、アニメ監督の高……」

 そこまで口にすると突然レミィの顔が豹変し、ポケモンボールを地面に叩き付ける。

「ど、どうした?(大汗)」
「…………何となく、デスが、ムカつきました!なんでアタシのエピソード、アニメになかったんですかっ!この、こ


 またもや大宇宙の意志、発動。画面手前ではARMが土下座していた。


「……やっぱりおかしい。このシーン、あたし、覚えている?」
「気にしない、気にしない!アタシ、強力なポケモン持ってマス!」
「ど、どんなの?」

 綾香がためらいがちに聞くと、レミィは自慢げにポケットからポケモンボールを取り出して突き出した。

「聞いてビックリネ!この中には――」
「もういい、やめれ」
「Why?何故何故どうして、ヒロユキ?」
「……最強を通り越して危険すぎるわっ(爆)これ以上先に進まなくなるからやめれっ(苦笑)仏の顔も三度まで、ってゆうじゃないかっ!」
「Ah……判りました、残念デス」

 しょげるレミィをよそに、浩之たちばかりか弥生も胸をなで下ろしていた。

「――――なーんちゃって」

 そういってレミィは懐から取り出したポケモンボールを、弥生めがけて放り投げた。

「うわっ!ば、ばかっ、やめろっ!」

 堪らず浩之たちは砂浜に俯せになって怯える。この世を滅ぼすあくまでも召喚してしまったかのような絶望が過ぎったが、次に聞こえた弥生の悲鳴に気づいた浩之は、おそるおそる顔を上げた。

「な――――なんですかこれは?」

 あの弥生をここまで驚かせた物体。それはけっしてLeafやOLMのスタッフが現れたためではなかった。

「あ、あんたわっ!」
「呼ばれて飛び出てヂャヂャヂャヂャーン」

 なんとそこには、あの主任長瀬が立っているではないか。

「やぁ藤田君、このポケモン世界を満喫しているかね?」
「あ、あんた…………長瀬のおっさん?何でここに?」
「そら、藤田君たちと同じように、『クルスガワ・ヴァーチャル・ゲームボーイ』略してKVGBを使ってだよ。わからない人は『What’s マルチュウ?』の第5話を読み返してみると良い」
「……ってことは、だ。あんた、この世界の長瀬主任ではなく、俺たちの世界の長瀬主任かっ?」
「ご名答ぉ」

 陽気に答える主任長瀬は、クラッカーまで鳴らしてみせた。

「いやぁ、君たちの帰りがあまりにも遅すぎるので心配になって来たら、金髪の彼女にポケモンと間違えられて捕まってしまってねぇ」
「間違える方も間違える方でが、間違えられる方ももっと問題があるような」

 と芹香が小声でつっこむが、当然ながら誰も気づいていない。

「ところで藤田君、例の神岸さんがご所望のフシギバナは見つかったかね?」
「「あ――」」

 思わず声をそろえてしまう浩之とマルチュウ。すっかり当初の目的を忘れ去っていたようである。

「そら、そうだよねぇ。なにせもうこれ、2年もかかってまだ未完だ


 またもや大宇宙の意志発動。らーらー――――


「そら、そうだよねぇ。なにせもうこれ……」
「うるさい黙れ(汗)」
「はいはい。――それはそれとして、だ」

 そういうと主任長瀬は、しりもちをついてまだ驚いている弥生のほうを向いた。

「……ふむ」
「な、なに?」
「キミ、メイドロボだろ?」

 べべーん。奇怪な擬音が一同の上空を駆けめぐった。
 突然何を言い出すかと思った浩之だったが、ところがとうの弥生は、その言葉に激しく動揺していたのである。

「――ば、ばかをいえっ!何を証拠に――」
「では何故、初対面のわたしを長瀬主任と呼んだのだね?」
「なんだと?」
「言ったんだよ、この人が、さっきわたしの顔を見て。――わたしはね、自分で作ったメイドロボットをすべて把握している。キミの正体はズバリ、KVGBのテストに使ったメイドロボ、HMX−16型ヤヨイだ」

 ぴかっ!ベタフラの背景を背負う弥生の顔がみるみるうちに青ざめていく。

「なななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななっ、ここで問題です、『な』を何回言ったでしょう?」
「こんな切迫した状況下においてもなお、そのくだらないギャグを飛ばしてしまうのが良い証拠だ。そういうふうにプログラミングしたのだからな」

 ガーソ。意外な展開。あまりのコトに、浩之たちは絶句して固まる。大人の言葉で言うと、呆れているのだ。

「……どうして」
「?」
「どうしてそんなコトを言うんですかっ!」

 弥生嬢が泣き濡れた顔で訴える。こんな姿、誰も想像したコトはないだろう。

「いつもあなたはそうでした……。わたしの気持ちを知っていながら、わたしの気持ちを逆なでさせては困らせ、楽しむ。――――卑怯ですっ!」

 そういって弥生はわぁわぁと泣き出した。もはや別キャラである(爆)

「…………済まない」

 そういって主任長瀬はしゃがみ、泣き崩れる弥生を抱きしめた。

「すべてそれは、キミがこのわたしの理想に近い女性であったからなのだ。機械と人間、それが結ばれるのはいけないことなのだ」
「……卑怯です」
「……ああ。だからこうして君を迎えに来た」
「え――?」
「元の世界に帰ろう。そこでわたしと結婚しよう。わたしにはキミが必要なのだ。その完璧なマネジメント能力がなければ、生活破綻者であるこのわたしは人並みに生活できないのだ。――――愛している」
「――――ご主人様っ!」

 〈冬の弥生〉、いやHMX16型メイドロボ「ヤヨイ」はこの上なく喜び、長瀬に抱きついた。ああ、なんという感動の場面だろう。堪らずマルチュウとセリチュウは感涙する。浩之たちはもう何がなんだか判らなくなって呆れているのはきっとこいつらが薄情なだけなのだ、はっはっはっ(乾いた笑い)。
 そういうわけでどんなわけで、強敵〈冬の弥生〉、陥落。残るは志保と闘っている〈歌姫理奈〉のみとなった。

「やるわね、アンタ……」
「元祖葉っぱ歌姫の名にかけて、負けるわけにはいかないのよっ!それに、あの女が――」

 志保が喘ぎ喘ぎいった途端、理奈の顔が蒼白した。

「……なにっ?――まさかお前たち、あのお方に会ったというのか?」

 ん?と訝る志保の目の前で、あろうことか理奈は見る見るうちに戦意を喪失していた。

「ど、どうしたよっ」
「……見たのでしょう、〈ぱわーすのー〉様の正体を」
「あ――、ああ、見た見た。――想像もつかない人物だった」
「本気でそう思っているの?」
「……え?」
「あたしはね――あたしたち〈ほわるば死鬼隊〉の誰もが、あの〈ぱわーすのー〉様とは直接面識を持っていないのよ」
「なんですって……!」
「唯一、謁見を許されていたのが、〈ほわいとすのーの由綺〉ただ一人。しかしその由綺も、半年前から姿を消してしまった――粛正されたのでしょう」
「――――えっ?!」

 志保は理奈の話に当惑するが、しかしその顔は、何かに気づいているような顔にも見えた。

「以来、我々は〈ぱわーすのー〉様とは電話や文書、eメールを通してくる指令で動いていた。だがわたしは最近、この指令にひとつの疑問を抱いていた」
「疑問?」
「何故なら、その指令にはある共通点があった。――それもあまりにも不自然すぎる共通点が、な」
「――――」

「えーと、すけべいす」
「すりごま」
「まんぼう」
「うしろのひゃくたろう」
「また、う、ですかぁ?」
、
 かたやシリアスモード、かたや純愛モードに突入している敵を向こうに、主役であるハズの浩之とマルチュウは展開についていけず、しりとりなんぞしていた。


「……そしてこの闘いを遠くから見ていたのか。まるで我々の争いを楽しんでいるかのようではないかっ!」
「だ、だから、なにを――」
「『あるじゃーのん』」
「「!!?」」

 先ほど浩之が口にしたそれを、まさか敵である理奈が知っていたとは。

「…………茶番だ。もうやめよう」
「え?」
「お前が正体を見極めてくれたお陰で確信が得られた。――――判るだろう?あの女が黒幕であることを!――これが只の潰し合いだってコトを――――きゃあっっっっ!!!」

 どかーん。突然の爆発に一同は驚いて悲鳴を上げる。爆発元は、理奈が立って居たあたりであった。砂が舞い上がり、志保たちの頭におびただしく降り注がれる。堪らず志保と雅史がその場から離れると、まもなく砂が降り止んだ。
 そして、今まで理奈が立っていた場所に、明らかに理奈ではない別の人物が悠然と立っていた。
 それが理奈でないという証拠に、ズタボロになった理奈が、その人物に首根っこを掴まれて持ち上げられていたからである。
 志保と雅史は、新たに現れたその人物とは、今日だけで二度目、先ほど逢っていたばかりであった。

「…………見間違いじゃなかったのね」

 志保は、ぎりっ、と歯噛みした。

「――――千鶴姉ぇっ!」

 鶴来屋のほうから、ボロボロになった梓が、〈びっくりーふに近い男〉の藤田浩之に肩車されながら大声でその名を呼んだ。
 その声を聞いた千鶴は、持ち上げていた理奈を砂浜に放り捨て、にぃ、と薄ら寒い笑みを浮かべた。

「――――ショータイムは、これからよ」

                 つづく
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