ToHeart if.『被りモノ少女に花束を』  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』(Leaf製品)の世界及びキャラクター(ボツキャラ含む)を使用しています。「ToHeartVisualFunBook」(発行・メディアワークス)がお手元にありましたら、「原型少女」のページを参照願います。
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 季節と言うものはいつも、さりげなく通り過ぎていくものだ。一日はこんなにも長く感じるのに、それを綴る季節は、俺たちに感慨を抱かせる暇もなくさっさと移り変わってしまう。
 ……気がつけば春。……気がつけば夏。……気がつけば秋。……気がつけば冬。

 ……そしてまた、春がやってきた。

 俺、藤田浩之が高校二年生になって今日で三日目。いつものように幼なじみの神岸あかりに起こされ、慌てて登校する、在り来たりの毎日。たまに、今日のように長岡志保や佐藤雅史と一緒にもなったりするが、取り立てて変わり映えのない朝だ。
 だが、今朝は違っていた。

「…………ザク?」
「いや、あれはバイファムの後半に出てくるトゥランファムだ」

 唖然とする雅史に、俺は首を振って見せた。この歳でバイファムを何故知っているといわれても、最近のビデオ屋は古いアニメ作品も扱っているし、なによりバイファムは最近昔の話の裏話的な新作が作られたので、目の前を行く物体がトゥランファムだと言うのは一発で判る。それ以前に、俺は皆に黙っていたが、広く浅くをモットーにしたヲタクであった。もっともその「浅い」というのはどのレベルを指すのかは、比較するモノがないので俺にも良くわからない。あるいは、広く深い、なのかもしれない。

「――――つーか、何であんなモノをかぶったヤツが登校しているんだよ(汗)」

 異様な光景であった。恐らくバイクのヘルメットを改造したモノであろうが、トゥランファムの頭部に似せたヘルメットをかぶった女子学生が、平然と学校の門を潜っていったのである。

「ああ、あの子ねぇ」
「何だよ、志保、知っているのか?」
「ふふぅん、この志保サマに校内のコトで知らないモノなんて無いわよぉ」

 志保は自慢するが、胡散臭い話ばかりするので今ひとつ信用ならねぇ。しかし聞いてみても別に減るモノでもないので、俺は黙って志保の話を聞いた。

「あの子、今年入った新入生で、中学の頃からずうっとあんな調子だったんだって。なんでも酷い対人恐怖症で、昔は鎧に入っていたとか」
「もしかして、彼女の家は金持ちで、星の目ン玉した血を分けた実の兄貴にぞっこんとか」
「なにそれ?」
「判るヤツだけ判ればいい」
「何、ワケのワカランコトを……とりあえず、彼女はそれなりの家の子だけど、一人っ子だって」
「ふぅん」

 何故だか知らないが、俺は彼女のことがとても気になってしまった。イヤ別に、通好みのトゥランファムのヘルメットを被っていたから気に入っただなんて、そんなつもりは――――

   *   *   *   *   *   *

 やはりヲタク魂は押さえきれないらしい(笑)。結局俺は、その日の昼休み、志保から聞いた情報を元に、被りモノ少女が居る1年B組の教室に足を向けていた。
 居た。一発で判った、っつーか、あんなもの被っていて気付かない方がアレだ。
 被りモノ少女の名は、八重樫すずか。被りモノだからザク子とか滅都とかそういう名前かと思ったのだが、ARMの野郎、手元にあった「羊のうた」をパラパラめくって普通に考えてつけやがったか。ちぃ、ヒネリのないヤツ。
 とかつっこんでいたら、彼女が教室から出てきた。丁度良い、呼んでみよう。

「ねぇ、そこの、トゥランファム娘ちゃん」

 俺がそう言った途端、すずかちゃんは、びくっ、と驚き、当たりをきょろきょろする。まずい、被っているヘルメットの視界のことを考えていなかった、背後から声をかけては判らないか。俺は慌てて近寄った。

「後ろ後ろ」
「――え?」

 ようやくすずかちゃんは俺が後ろにいるコトに気付き、振り返った。

「あなたですか――――よくこれをFAM−RV−S1T、ROUND−VERNIAN〈TORUNFAM〉だと判りましたね!」

 トゥランファムの正式コードを、しかも名称をも見事なまでに流暢な発音で言ってのけたすずかちゃんは、俺のコトを嬉しそうに見る。しまった、この娘、本気でマニアだったのか(笑)

「トゥランファムってあたし、アニメに出てきたロボットの中ではすごく綺麗なロボットだと思うんです!形式コード、FAM−RV−S1T、名称、トゥランファム!全高は頭頂部までが17.6メートル、ガンダムよりちょっと小さいんですよ。全備質量は宇宙用が27.0トン、地上用が26.5トン。あ、乾重量は16.8トンです。動力機はシュペーレ系01A515型、移動用エンジンは2基搭載。姿勢制御用エンジンは12基、微調整用ロケットを6基。固有兵装は無く、オプションのビームライフルを使用!乗員が2名、っていうのがまたリアルで」
「はいはい、わかったわかった(汗)」

   *   *   *   *   *   *

 すずかちゃんに色々話を聞いているうち、俺は、すずかちゃんが好き好んで被りモノをしているわけではないコトに気付いた。
 すずかちゃんは、対人恐怖症ではなく、箱入り娘であった。――とゆうか、被りモノ娘というべきか、つまり、これはすずかちゃんの父親に原因があった。
 すずかちゃんを溺愛する父親は、すずかちゃんに悪い虫が付かないよう、子供の頃からこんな被りモノを付けて、男たちを近寄らせないようにしていたのだ。俺はその話を聞いて、昔話にあった「鉢被り姫」を思い出した。子供の頃に親から、外せない封印を仕掛けた鉢を被らせれ、まわりの者から気味悪がられて不幸な目に遭っていた少女の話だ。最後は鉢の封印を解いた若者と結ばれ、めでたしめでたし、という内容だった記憶がある。いわばすずかちゃんは「現代の鉢被り姫」というワケか。
 冗談じゃない。もう彼女は思春期真っ直中の少女だ。そんな子が、こんな酷い目にあって良いワケがない。

「よし。俺が何とかしてやる」
「でも…………」
「でも?」
「私のお父様、並のマニアではないんです」

 予想通りというか、出来れば外れて欲しかった想像通りの人物らしい。俺は心の中で、とほほ、とぼやいた。

   *   *   *   *   *   *

「わーっはっはっはっはっ!キミが新たなチャレンジャーかね!」

 なんだこの能天気なオヤヂは。すずかちゃんの豪華な家に俺は怯みつつ、居間に通されるなり、いきなり現れたこのオヤヂに面食らってしまった。なんてヤツだ、セラムンのタキシード仮面の格好をして黒マントひるがえしポーズとっていやがる。季節の変わり目にはこういった手合いが増えるので困る。

「父です」
「――――あ、どーも、俺、いや、僕、すずかさんと同じ高校に通う藤田浩之と申します」

 あーよかった。さっきの第一印象、口にしなくって。もっとも、隣にいるすずかちゃんは俺の横顔を見て複雑そうな顔をしている。案外、見透かしているのかも。

「今日は、すずかちゃんのことで…………」
「わかっておるっ!お主も、すずかに被せたトゥランファムのヘルメットを外したいのだナッ!」

 どうやら、以前にも俺と同じように義憤に駆られた者が居たらしい。どんなマニアか人徳者だか知らないが、すずかちゃんを何とかしてやりたいという気持ちは今の俺と同じだろう。
 だいたい、困っている女のコの顔を見て、黙っていられるなんて男じゃない。イヤ別に、下心があるわけではないぞ。確かにすずかちゃんは、ヘルメットを被って一目ではその顔はよく見えないが、間近で見るともの凄い美人だ。体型はLeafキャラだけあって例のごとくあの体型だが、無論俺もLeafワールドの住人、貧乳はオッケーだっ。要は中出ししてふきふきが出来れば……げふんげふん、なんでもないっ!(汗)誰だ俺に毒電波送るヤツわっ!(大汗)

「よかろう。すずかのヘルメットがトゥランファムが元ネタであることが判っただけでも充分挑戦者の資格はある。でわ、トゥランファムのヘルメットを外してやろう」

 え?と予想外の展開に呆気にとられる俺の目の前で、すずかちゃんが被っているトゥランファムのヘルメットが外れた。なんだ、この呆気なさは?
 ――――甘かった。トゥランファムのヘルメットが外れると、その下からはすずかちゃんの素顔ではなく、別のヘルメットが現れた。まるでらっきょうだ。

「ヘルメットの仕組みがどうなっているかはこの際考えるな」
「いや、理性が保てるうちに考えさせてくれ」
「そんな時間など与えぬ。すずかには沢山のヘルメットが被らされている。そのヘルメットが一体何を元にしたデザインか、すべて当てて見よ!全部答えられれば、見事すずかからヘルメットはすべて外れる仕掛けになっているっ!但し、答えるのは各ヘルメットにつき一回だけ!いざ、尋常に勝負っ!」

 無茶ゆうなぃこのオヤヂ(^_^;…………………………しかし、俺の隣で、俺をすがるように見つめて涙ぐむすずかちゃんを見て、俺は腹を決めた。よし、全部当ててみせるっ!

「では、今のヘルメットは何かっ!」
「ガンダムのザクだっ!しかも中隊長機の角付きっ!」
「正解ッ!ちなみに堅い角がどうやってトゥランファムの下に入っていたかは考えるなよっ!」
「合点承知っ!」
「さぁ、次は!」
「ダグラムに出てきたソルティック!色はブルーだからダーボザック付きっ!」
「よぉし、次!」
「――ジャンルは無制限なのかっ!これは東宝特撮の地球防衛軍に出てきたミステリアンのヘルメットっ!」
「ほほう、正解だっ!並のヤツならここで間違えたものを。貴様、ただのマニアではないなっ!」
「コミケはまだ未参加だが、ガイナの電脳学園は全員ひん剥いたっ!」
「おおぅ、これは手強い――なら、次っ!」
「簡単っ!ダースベーダー!」
「今のはボーナス問題だっ!次っ!」
「小林稔持のキケロ星人ジョーのヘルメットっ!」
「アクターまでゆうかっ、このマニアめっ。ふふふ、嬉しいぞっ!それでは次っ!」
「マジンサーガのZのマスクっ!最近過ぎるわっ!」
「次っ!」
「バトルフィーバーJのバトルケニアっ!」
「次っ!」
「サルゲッチュのピポザルが被るピポヘルっ!これはこれで可愛いぞっ!」
「おおっ、お主もそう思うかっ!」

 思わずすずかちゃん、赤面。凄く可愛い。…………どうやら俺、本気ですずかちゃんのコト、好きになってしまったようだ。よーし、愛のパワーをみせてやるっ!

「次っ!」
「聖闘士聖矢のフェニックス一輝のヘッドマスク!これはアニメ版の初期の、格好悪いヘルメットタイプ!」
「次っ!」
「科学忍者隊ガッチャマン、コンドルのジョーのヘルメットっ!よーし、のってきた、どんどんきやがれっ!」

 俺はすっかり調子に乗って、次々とヘルメットの元ネタを暴いていく。いい加減、すずかちゃんのまわりにある外れたヘルメットの数は凄いコトになっている。一体どんな風に重なっていたのか、この際考えないコトにした。考えたらきっと寝られなくなっちゃうだろう。

「……ふぅ。その歳でここまでマニアとはやるな。よし、あと二つだっ!」

 そう言って露わになった新しいヘルメットを見て、俺は、しまった、と呟いた。

「……これは…………スケバン刑事2の二代目麻宮サキが被っていたものか、それとも北斗の拳に出てきたジャキのマスクか――――ぬぅっ!」
「さぁ、なーんだっ?」

 うわぁ、すげぇ意地悪そうな笑顔。…………だが俺は、このオヤヂの性格は、今までの出題傾向から判った。

「――これは、実写版の北斗の拳に出てきたジャキのマスクだっ!(笑)」
「――ぬぅおっ、一番自信があった引っかけ問題を当てやがったぞ、この小僧っ!それでは、これでどうだっ!」

 ばきん。ヨーヨーを受けて割れた二代目サキのマスクよろしく、どくろのヘルメットは二つになった。
 そしてその下から現れた、最後のマスクとは――――

「…………なに?」

 そこにあったのは、素顔のすずかちゃんの顔であった。これはいったいどうしたことか?

「さぁ、どうだ?」

 さっきにも増して、嫌らしい顔をするオヤヂ。どうやらこれが本命らしい。最後のヘルメットを被ったすずかちゃんは、とても不安そうに俺の顔を見ている。
 しかしどうしたものか。どこから見てもヘルメットなど被っているようには見えない。

「さては、バカには見えない――とかいうオチとか」
「さぁ、どうだ?」
「黙れ、気が散る。――――くそう、オヤヂ捻りすぎだぞっ」

 オヤヂの後頭部を思いっきり履いているスリッパで叩きたい衝動を堪え、俺は必死になって考えた。――――考え抜いたが、どうしても思い当たる作品が無い。やはり、バカには見えない、とかいう安直なオチなのかっ?

「さぁっ!」

 …………駄目だ。どうしても思いつかない。………………ゴメン、すずかちゃん、俺、もう限界だ。
 そんな俺の心中を察したか、すずかちゃんは笑顔で面を横に振った見せた。なんていい子だ。こんな子を不幸にするなんて、なんて父親だ。くそぉ、もし答えが外れても、あとヘルメットがあとひとつなら、あのオヤヂ殴り倒して、力づくで外してやる。
 俺は返答を決めた。ホンのさっき思いついた、バカバカしい答えだが、こんなバカバカしい問題には一番相応しい答えだろう。

「ずばり、八重樫すずかのマスクだっ!」

 もうやけくそだった。外れても後悔はない。外れても力ずくで外すまで。
 外れだった。――いや、外れた。なんと、素顔のすずかちゃんの顔が二つになり、その下から、きょとんとするすずかちゃんの顔が現れたではないかっ!

「――――お見事っ!」

 オヤヂ、思いっきりデカイ声で、嬉しそうに言って見せた。しかしこんなコトで嬉しいか、フツー?

「――藤田さんっ!」

 本気で嬉しがったのはすずかちゃんのほうだろう。嬉し泣きにくしゃくしゃになった顔で俺の胸に飛び込むすずかちゃん。俺はつい調子に乗って彼女の口づけしたが、すずかちゃんは拒むことはなかった。

「――ただのオタクやマニアに娘をやる気は毛頭もなかったのでな、最後にお主の気持ちを試させて貰った。いや、見事。お主なら娘を任せてもよいっ!」

 オヤヂ、調子に乗っているが、只の親バカな男ではなかったようだ。どうやらこれからの人生、このオヤヂと楽しい勝負が出来そうだ、いやマジで。


 そう言うわけですずかちゃんとは親公認の仲となった俺は、彼女とデートする。

「あたし、あれでも被りモノは嫌いじゃなかったんですよ」

 そう言って屈託なく笑うすずかちゃん。流石マニアの子はマニア。まぁ人のコトは言えんがな(笑)、お似合いのカップルというワケか。

 とか言っているうちに、今夜はすずかちゃん、俺ン家へ初めてのお泊まり。すずかちゃん、例の音楽が鳴る中(笑)、生まれたままの綺麗な身体を俺に見られて恥ずかしがっている。いやー、苦労した甲斐があったというものだ。さて、俺も脱いで、と。

「…………よかった。浩之さんも被ってたんだ」

 いや(大汗)これはだな…………。

         おあとが宜しいようで(笑)ちゃんちゃん♪
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