東鳩王マルマイマー第15話「狙われたMMM(Bパート:その2)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。

【承前】

「……柳川さん…………でよろしいんですよね」

 来栖川邸から旋回しながら離陸したヘリの中で、マルチはおずおずと訊いた。

「……あのビルの屋上で確か」
「身体はもう大丈夫か?」
「え?」

 マルチは柳川が応えてくれるとは思っていなかったらしく、思わず瞠った。

「……やっぱり、あの時、志保さんと一緒にいらっしゃった方でしたね。よくご無事で……」
「間一髪だった。――急ぐぞ」

 そういって柳川はジェットエンジンを噴かし、ヘリを発進させた。

「……宜しいですか?」
「どうしたんだマルチ、そんなに不安そうな顔をして」

 妙に質問するマルチを、浩之は不思議がった。

「ちょ、ちょっと色々と…………柳川さん、もしかして、あのビル以前にどこかでお会いしたコトありませんか?」
「ある――9年前にな」
「9年前?」

 浩之はきょとんとした。

「9年前なんて、マルチは作られていなかったんじゃなかったか」
「柳川さん――ちょっと」

 初音が少し困った顔をして割って入ってきた。

「そのコトは――」

 すると柳川は初音の顔に一瞥をくれ、ふう、と溜息を吐き、

「…………そうだったな」

 この二人の不明瞭な会話に、浩之は少し苛立った。しかし、いつの間にか目の前に天王洲の高層ビル街が見えてきたので、質問することを諦めた。
 ふと、浩之は下の道路を見ると、パトカーや消防車が沢山集まっていた。エルクゥが天王洲ゲートから侵入したと聞いているので、その際ひと騒動があったのだろう。

「降りるぞ」

 柳川は天王洲にある区営野球場にヘリを着地した。ヘリが着地すると、警官たちが近寄ってきた。

「MMMの者だ。現場はどうなっているか?」
「――おや、柳川ではないか」

 ヘリに近寄ってきた警官たちの中に一人、トレンチコートを着た中年男が驚いたような口調で言った。

「――長瀬さん」

 柳川が口にしたその名を聞いて、浩之たちは、えっ、と驚いた。柳川が長瀬と呼んだ、刑事であろうトレンチコートの男は、あの長瀬主査によく似た男であった。

「失踪していた男が、まさかあのMMMに居たとは思わなかったよ。――おや」

 長瀬はローターが巻き起こす風に目を細めていたが、ヘリの中から降りてきた浩之たちを見て、これまた驚いて見せた。

「柏木千鶴――いや、妹の初音くんだね。――それと藤田浩之くんか」

 驚いたのは浩之だった。

「な、なんで俺の名を」
「いやいや、やはりそうだったか。あの目つきの悪いところは9年前とひとつも変わらんな」
「9年前?」

 奇妙な符号であった。柳川はマルチと9年前にあったと言い、この刑事は浩之と9年前に会っているというのか。

「すまないが、俺、あなたとは初対面だが――あなたによく似た、同じ名前の教師や執事、技術者とならよく顔を合わせているが」
「教師と執事――ああ、源一郎兄貴と親父、源五郎のコトか」

 今度はマルチも驚いた。

「長らく顔を合わせていないがな。失礼、自分は長瀬源三郎と申します。警視庁広域機動捜査隊の隊長を勤めさせていただいております。長瀬源四郎の息子で、教師の源一郎の弟、来栖川電工に勤める源五郎の兄です。はっはっはっ、とんだ腐れ縁だな、こりゃ」

 これには浩之もマルチも唖然とするばかりであった。

「今回は、来栖川警備保障が管理するMMMのゲートから非常事態の通報を受けまして、機動隊を応援に出したのですが……」

 長瀬警視が、ちらっ、と横目で見たモノは、何台もの救急車に運ばれていく負傷者を乗せた担架であった。

「なんですかね、あのビルの下にあるゲートに、凶暴な肉食獣でも入り込んだんですか――まるで、9年前の隆山を思い出すよ」

 そう言って長瀬警視は、ローターが止まったヘリから降りて、左手にトランクを持って操縦席のドアを閉めている柳川の背に向けていって見せた。

「アン時も凄かったよなぁ」
「…………ええ」

 浩之たちの耳には、どことなく長瀬警視の口調が嫌味を言っているように聞こえてならなかった。その所為か、返答する柳川の口調が、どこか苛立っていた。

「もしかして、あの時の犯人があの中にいるのか?」

 長瀬警視がそう言った途端、初音が、びくっ、と反応した。

「――それ以上の詮索にはお答えしかねます」
「おっと」

 柳川に睨まれ、長瀬警視は肩を竦めた。

「しかしこちらとしては、既に警官に犠牲者が」
「犠牲は来栖川警備保障にも出ています。MMMには超法規権限が与えられています。警察は至急ゲート内から撤収と、この一帯の封鎖をお願いします。――いくぞ、初音、藤田、マルチ」
「え――?え、ええ」

 さっさと歩き出した柳川の後を、慌てて初音たちが追い掛ける。浩之は追い掛けながら、後ろでやれやれと呟いて佇んでいる長瀬警視のほうに一瞥をくれた。

「……人外の問題、か」

 長瀬警視は、天王洲ゲートに向かう浩之たちを見送りながら呟いた。

「……しかしまぁ、なんという組み合わせか。9年前のあの事件の当事者たちが三人も、同じヘリから出てくるとはな…………さて、あとは彼らに任せようか」

 長瀬警視は頭を掻きむしると、近くにいた部下の刑事に指示を出した。

 柳川たちは、無惨な惨状をさらけ出したMMM天王洲ゲートを見て唖然とした。破壊された壁や機器、そして点在する血痕の数々。遺体や負傷者は既にこの中から運び出されていた。

「…………これが、エルクゥの仕業なのですか?」

 マルチは今にも泣き出しそうな顔で言った。

「ここから、たった三人の男女が侵入して、ここをこんなふうに変えてバリアリーフ基地に入った。…………さて」

 そう言って柳川はその場に屈み込み、手にしていたトランクを床の上に置いて蓋を開けた。その中は、浩之も見覚えのある、MMMのセキュリティシステムネットワークと繋がる無線端末機が入っていた。
 柳川は手際よい操作で端末機を稼働させた。だが、モニターには、ERROR、という警告メッセージが出るばかりで、ホストとは一向に繋がらないでいた。

「……やられたな。セキュリティシステムが完全に潰されたか」
「ネットワークがクラックされたんですか?でも――」
「侵入コードとIDを持つものなら、可能だ」
「え――――」
「敵は、MMMに関わりのある男だ。――いや、MMM設立時、ヤツは中核にいた」
「え――?」
「敵の名は、ワイズマン。元、MMM諜報部所属の男だ」

 浩之たちは絶句した。初音さえも。

「は――初耳です、柳川さん!誰なんです、ワイズマン、って?」

 初音は困惑した顔で訊いた。
 すると柳川は急に黙り込み、端末機の電源を切って立ち上がった。

「柳川さん――」
「後で、教える。――今は、藤田と初音のどちらかがメインオーダールームにたどり着き、マルチはマルルンと合流するコトに専念しろ。どうやら、システムが潰されたお陰で戦術飛空挺が全艇、発進できなくなっている」
「え?」
「敵に侵入された場合、戦略上、全艇は第一にバリアリーフ基地から離岸するように義務づけられている。すでに事件発生から30分以上も立つというのに、一艇も浮上してこないではないか」
「そ、そうですね……まさか?」

 みるみるうちにマルチの頭が蒼白する。
 そんなマルチの頭を、柳川が無造作に撫でた。

「……え」
「大丈夫だ。お前の妹たちはヤワじゃないだろう」

 ぶっきらぼうな口調だった。しかし頭を撫でる柳川の手に、初めて暖かみをマルチは感じて、頬をうっすらと赤らめた。

「さて、どうします?リフトもケーブルカーも潰されていますよ」
「歩くしかなかろう」
「歩く――――」
「天王洲ゲートはバリアリーフ基地にはいるのに一番近い」
「そうじゃなくって――奴らもここから入ったんでしょう?追いついたりしません?」
「安心しろ。奴らはとうに基地内に侵入している。どこから入っても、基地内でいくらでも鉢合わせになる」
「そう言うのを安心、っていうんですか?」

 浩之は苦笑して見せた。

「いつかは正面から立ち向かわなければならない相手だ。それが今になっただけだ」

 なんともドライな返答だが、柳川の言うことももっともであった。
 だが、この時点で、この柳川の言葉が深い意味を持っていたなどと、浩之もマルチも、そして初音も知るよしもなかった。

「さて」

 柳川はきょろきょろと辺りを見回し、やがてその視線が一点に集中した。柳川が見つめるものは、壁に危険マークが書かれた場所であった。柳川は徐にその壁を近づくと、なんと握り拳を壁に叩き付け、外装を一気に引き剥がしたのである。これには浩之とマルチは目を白黒させた。

「……そ、そうか、この人もエルクゥの末裔だったっけ。しかしまぁ、なんて怪力だ」
「ほら」

 そう言って柳川は、呆れていた浩之に、壁の中からとりだしたアサルトライフルを手渡した。柳川がこじ開けたのは、警備用の非常用武器庫であった。

「敵は三人だけではなくなっている。どうやら奴らの中に、兵隊をこしらえることが出来る能力を持った者が居るようらしい」
「兵隊をこしらえる?」
「前に、マルマイマーが外套を着た化け物と闘ったコトがあろう」
「あ――EI−01」
「あれは、EI−01の細胞を植え付けられたコピーにすぎん」
「「な――――」」

 EI−04つまりテキィとの闘いの際、マルマイマーや超龍姫を翻弄し、霧風丸によって切り刻まれながらも逃走したあの怪物を、浩之とマルチは思い出した。

「そいつか、もしくは、四年前に世界各国に出現して被害をもたらした、エルクゥが作り出した生体兵器、モスマンの可能性もある。いづれにせよ、一筋縄ではメインオーダールームには辿りつけんと思え。ほら」

 そう言って柳川は、初音にもアサルトライフルを手渡した。その時、ライフルを受け取った初音の顔が強張っていたコトに、柳川はようやく気付いた。

「…………初音」
「…………ヤツが直ぐ目の前に居るんですね。…………お姉ちゃんたちを殺したあいつがっ!」
「ああ」

 柳川は素っ気なく頷いた。その返事には、柏木千鶴を殺したのが自分であると言うコトが含まれているのであろうか。初音は柳川が千鶴を殺した男であるコトを知らされていなかったのである。

「……だが、前みたいに焦るな。またあんなコトがあれば、今度はお前も死ぬ」
「…………判っています」

 初音は、柳川から手渡された銃を両手でぎゅっと抱きしめた。横にいた初音は、強張っている初音の横顔を、少し哀しそうな顔で見つめていた。

「――藤田くんとマルチは、あたしたちの後ろから離れないで!いきましょう!」
「あ、ああ」

 奥へ進み出した柳川と初音の後を、浩之とマルチは慌ててついていく。
 ふと、浩之は初音の背を見て、不吉な影を予感した。それは以前、マルチを暴走させたあの鬼のような初音の顔が頭を過ぎった為であったが、それがこれから彼らを待ち受ける悪夢のような結末を予知していたなどと、浩之は気付いていなかった。


「さて」

 浩之たちが天王洲ゲートの奥へ進みだしたちょうどその頃、機動空艇・高速巡航空艇TH四号の艦橋と接岸されている搭乗ゲートから、わらわらと出てくる三つの人影があった。

「タマ、アレイ、いい?メィフィアがセキュリティネットワークからパージが完了するまで、キングヨークにいる芹香お嬢の面倒をしっかり見てやるのよ」

 先頭に立つ長髪の美女は、TH四号艇長のルミナ・ロワイヤルであった。ルミナは頭にかぶっていたヘッドギアに内蔵されているマイクを使って、艦橋にいるタマたちに指示を送っていた。その後ろには、手に三本の鉄パイプと防護ジャケットを着た男女の子供が居た。管制オペレーターのエビルとイビルである。

「ルミナ様」

 イビルに呼びかけられ、なんだい、とルミナは振り返った。

「久しぶりですね、こういうの」
「久しぶり過ぎて緊張してるのかい?」
「いいえ。――血は見慣れてますから」

 そういってイビルは、にやり、と笑って見せた。子供とは思えぬ不気味な笑顔であった。

「だいたい、血如きでびびっていたら、女なんてやってられないよ。そうだろ、エビル?」

 イビルがそう言うと、エビルは、こくん、と頷いた。可愛い男の子に見えたイビルは実はボーイッシュな少女であった。

「それよりも」

 といってイビルは手に持っていた、三本の鉄パイプを振り上げた。三本の鉄パイプは端で繋がっていて、一本の長い棍のような棒に繋がった。続いて、中央に位置した鉄パイプにぽっかりと空いていた、まるでビデオカメラのバッテリーの差込口に似た穴に、腰に下げていた大降りのバッテリーのカートリッジのようなスチールの箱を差し込み、金具で固定した。そしてちょうど手元にあったスイッチを指ではじくと、天井を向いていた棒の先から、青白い光が灯った。

「よかった。ビームサイズ、ご無沙汰だったからご機嫌斜めかと思った」

 安堵の息を吐くイビルの隣で、無言のまま黙々とイビルと同じように棒を繋げてスチールの箱を装着し、棒の先から赤い光を灯したエビルが居た。

「エビルのビールジャベリンもOKね。――さぁて、この区画の敵を一掃しに行きますか――あら、お客さんたちから来たわよ」

 のんきそうに言うルミラが指した通路の奥から、醜悪な姿をした獣、モスマンの大群が押し寄せてきた。

「やつら、この先にあるキングヨークが狙いみたいね。――行きなさい」

 ルミナの号令とともに、その両脇を、イビルとエビルが疾風の如き勢いで飛び出した。
 疾風は突進する速度だけではなかった。イビルとエビルが振りかざしたビームサイズとビームジャベリンは、迫り来るモスマンの群れをものともせずその身体を分断していき、通路を赤く染めていく。見かけからは想像もつかぬその戦闘力は、この姉妹が戦場で産湯をつかり、今に至るまでの人生の大半を硝煙と血臭が漂う戦場で過ごしてきた結果だと、誰が知ろうか。ルミナはこの戦争しか知らない姉妹を引き取り、実の娘のように育て、そしてその戦闘能力をより高めるべく鍛え上げてきた。イビルとエビルにとって、この美女は母であり姉であり、師であった。

「――しまった!」

 ビームサイズを振り回していたイビルは、一匹、狭い通路の壁を重力を無視して勢いよく駆け抜けてしまったために討ち洩らしたモスマンに気付き、思わず舌打ちした。

「あたしにまかせなさい」

 にやり、と笑うルミナは、刀のような爪を振りかざして飛びかかってきたモスマンに笑って見せた。ルミナは素手であった。
 次の瞬間、ルミナはモスマンの爪を軽々と避け、あろうことか右手一本でモスマンの顔を掴み、自分よりも巨大な身体を受け止めていたのである。

「……あとちょっとだったのにねぇ」

 にやり、と笑い、ルミナはモスマンの顔を右手で握りつぶした。まるでトマトを潰すような容易さで。続いて、脳漿と血を引く右手を振り上げ、頭を無くしたモスマンの首に手刀を振り下ろした。ルミナの手刀は聖剣いや妖刀の冴えを発揮して、スパン、とモスマンの身体を二つにした。

「もうちょっと回しても良いわよ、二人とも」

 くくくっ、とルミナは笑い、手にこびりついた血を口元に寄せて舌で舐めた。その姿、残虐な天使か、妖艶なる美貌を持つ悪魔というべきか。来栖川京香の古き友人は人外の者であった。
 結局、ルミナは一体を倒しただけで、残りは戦少女二人によってせん滅された。だが彼女たちは知っているのか、このモスマンたちが、鬼界四天王たちによって殺されたMMMのメンバーたちのなれの果てであるコトを。
 ルミラは、足許で二つになった遺骸に一瞥をくれた。冷淡なその眼差しには、必要以上の冷たさを感じられた。ちぃ、と誰かが苛立ちの舌打ちをしたが、その主は判らなかった。

            Bパート(その3)へ つづく
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