東鳩王マルマイマー第15話「狙われたMMM(Bパート:その1)」  投稿者:ARM


【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。

(三連型多次元機動衛星艦TH五号「フィルスノーン」の映像とスペックが表示される。Bパート開始)

「――どうゆうことや?」

 メインオーダールームにいる智子は、TH弐式の艦橋から入った連絡を聞いて険しい顔をした。

『駄目なんです!管制用のネットワークが途絶し始め、全艇発進が不可能になっています!』

 TH弐式の艦長は悲鳴のような声でもう一度返答した。

「どないなっとるんや――ミスタ!」
『現在、分析中だ』

 メインスクリーンに映る、TH参式艦橋にいるミスタが困ったふうな顔で答えた。

「それでもおよそ見当はついとるんやろ?」
『――現状の範囲で推論できるのは、おそらくエルクゥがネットワークをクラッキングした可能性がある、というコトだ』
「それしか考えられンやろ……!フォロンのファイアウォールはどないなっとったんや!」
『それを現在調査中だ』

 だが、ミスタは、MMMのセキュリティを管理しているフォロンの抗ネットワーク不法侵入システムがこうも簡単に突破された理由が、既に判っていた。
 ワイズマン。確かに、MMM設立に関わったあの男なら、それを可能であった。
 調査はしていた。但し、何故、MMMから離れたあの男のメンバー登録が、未だに残されていたのか、その理由を、である。

「――長官!敵です!」

 突然、隣の管制席にいたあかりが悲鳴を上げた。

「敵?敵なら――」
「違います!――増えてます!バリアリーフ基地内に、敵が増殖しています!」
「何やて――」


 バリアリーフ基地メインターミナルに近いTH壱式接岸部通路で、MMM女性隊員二名が、猛スピードで飛び回る黒い影に襲われ、悲鳴を上げていた。通路にはこの黒い影に襲われたと思しき死体や負傷者が累々しており、逃げていたうちひとりが、死体に蹴つまづいて倒れてしまった。
 その上に覆い被さるように、黒い影が飛びかかってきた。倒れた女性隊員は、恐怖のあまり、目を閉じて絶叫した。
 その直ぐ上の虚空を、疾風が駆け抜けた。
 黒い影は、倒れた女性隊員の直ぐ手前にある通路の壁に串刺しになって絶命していた。
 黒い影を串刺しにしたのは、武装した〈レミィ〉が手に握り締めている新兵器ウィルナイフであった。ハンターモードのレミィは、他の武装した隊員たちが追いつけなかった黒い影のスピードを上回り、ナイフの一撃で葬り去っていた。
 串刺しになっている黒い影は、異形の姿をしていた。毛むくじゃらの全身に、腕と胴体の間に薄膜を持った人型の獣であった。
 〈レミィ〉はこの怪物を串刺しにしながら、悔しそうに歯噛みしていた。
 きらり、とモスマンの首もとで光るモノがあった。
 〈レミィ〉は左手をウィルナイフの柄から放し、その光る物体を掴んだ。
 それはロケットだった。ふたを開くと、そこに入っていた写真には〈レミィ〉が助けた女性隊員と並んで笑っている、MMMの制服を着た青年が写っていた。
 〈レミィ〉が助けた女性隊員は、その場で男の名を叫びながら号泣していた。
 その泣き声を耳にして、〈レミィ〉は今にも爆発しそうな顔になった。

「…………次郎衛門。……貴様また、あの時のように死者を愚弄する気かっ!」

「――『モスマン』?」
「はい。エルクゥが遺伝子操作で作り上げた生体兵器に間違いありません」

 あかりはモニタに映されている情報を見て嫌悪感を露わにした。

「まちぃ。うちがアメリカで襲われたときのヤツとちとちゃうで」

 智子が口を挟んできた。

「長官の言うとおりフォロンのデータベースに照会・分析しました。生体反応が98パーセント一致しています」
「するとなにか?ここには、エルクゥの遺産が眠っていたとゆうわけか?」
『NO』
「「「レミィ!?」」」

 スクリーンに、警戒カメラを使って連絡してきたレミィの顔が大写しになった。

『智子を襲ったモスマンは、地下遺跡に眠っていたヤツでもね、フリスコを襲ったモスマンは、そうではなかった』
「レミィ…………」
『フリスコのモスマンは、生機融合体――戦闘で死んだ海兵隊の死体と機械を合成して作り出した怪物だったわ。今、MMM基地内部で暴れまくっているモスマンは、それと同じ。――やつらに殺された隊員の身体を使って作り出されているのよ!』


 その頃、ワイズマンは、TH参式に近い通路の上に立っていた。通路には死体が累々としていた。すべて、ワイズマンが手に持っていた妖刀『伽瑠羅』による殺戮の結果だが、どういうワケか今は、その手には握られてはいなかった。
 その空いた両手を、ワイズマンは近くに転がっている死体に次々と突き立てていく。そして近くの壁を蹴って破壊し、壁に埋められてあった通信用の機器を引き抜くと、死体の上へ放り投げた。
 するとどうだ、ワイズマンの手が突き刺さった死体が痙攣を起こし始め、壊れた機器を体内に吸収するように取り込み始めたのである。
 やがて、死体は立ち上がった。そして全身が毛むくじゃらになり、脇から胴体にかけて薄膜が拡がり始めたのである。そう、〈レミィ〉が斃した、モスマンへと変化していったのである。

「……メイドロボットたちの相手はもうこれぐらいでいいか。……あの二人が基地内にいなかったのは誤算だったが、まぁ、こうなってしまっては、来ないわけにはいかぬだろうな、ふっふっふっ。――――さて、アズエルとエディフェルめ、どこへ行ったか」

   *   *   *   *   *

 浩之とマルチが京香の書斎を訪れたとき、当惑する初音が、席に座って無表情でいる京香と向かい合っていたところだった。
 京香は浩之たちの入室に気付いて、慇懃に頭を垂れた。

「丁度よいところに来ました。藤田さん、マルチちゃん、貴方達もここで待機して下さい」
「待機……って、そんなのんきなコトを言っている場合じゃないですよ!バリアリーフ基地が襲われているンですよ!」
「だからです」
「だから、って――――」

 浩之は絶句した。

「何故、あたしたちがここで待機しなければならないのです、おばさま!」

 入れ替わるように、初音が京香に食ってかかった。

「マルマイマーの力がなければ!相手はエルクゥなんですよ!」
「そ、そうだよ!――マルマイマーの――」

 そこまで言って浩之は、はっ、と気付き、隣で不安げな面持ちでいるマルチを見た。
 つまり、マルチをまた戦いに送り出してやらなければならないのだ。キングヨーク戦で割り切っていたつもりだった浩之だが、それでもまだ、マルチを闘わせるコトには抵抗があったのだ。
 そして、次の瞬間、レミィや智子や綾香、そして今メインオーダールームにいるであろうあかりの顔が浮かんだとき、浩之の苦悩は一層増した。
 その時、マルチは浩之の手を引いた。マルチは当惑する浩之の顔を見据えて、面を横に振ったのだ。
 それを見て、浩之はようやく口にするコトが出来た。

「マルマイマーの力なら、奴らを撃退できます!それを何故?」
「先の戦いで受けた、貴方達のダメージが回復していないコトを、私が知らないとお思いですか?」
「「「――――」」」

 毅然とした口調で言う京香に、浩之は思わずたじろいだ。あの二人の死は、浩之にもマルチにも深い傷を負わせていたコトを、京香は知っていたのだ。

「それに、基地には超龍姫と霧風丸、そしてゴルディアームと撃獣姫がおります」
「「撃獣姫?」」

 その名を聞いて、浩之とマルチが瞠った。初音はその名を知っていたらしく、眉をピクリ、と動かすに止まった。

「特戦隊に所属する、新型の勇者メイドロボです。マルマイマーMk2として、戦闘能力に特化して設計され、マルマイマーの不在を埋める働きをしてくれるハズです。今回は浄解は必要ありませんから、彼女たちで充分でしょう」
「しかし……」

 初音が食い下がると、京香は、はぁ、と深い溜息を吐いた。

「……そこまでして闘いたい理由は、一体何なのですか?」
「「「――――」」」

 3人とも、答えられなかった。直ぐには。

「…………もう、誰も死なせたくありません」

 浩之の手を掴んでいたマルチの手が震えていた。

「マルチ……」
「誰かを守りたい。それが理由であってはならないんですか?!」

 それは、マルチが戦場に赴くとき、同じような問いかけをしてきた者に対して聞く、いつもの言葉であった。誰もが戦いなど不似合いだと思っているこの機械仕掛けの少女には、自らを犠牲にしてまで護りたいものがたくさんあった。
 その問いかけを耳にした途端、浩之はマルチの腕をいきなり引き、部屋を出ていこうとした。

「ひ、浩之さん?!」
「マルチ、行こう。――あかりたちを助けに」

 一瞬、浩之が京香の言葉に従ったものだと思っていた思っていたマルチは、その浩之の言葉を聞いて、嬉しそうな顔で元気よく、はいっ!と答えた。

「……総代」

 浩之は振り向かずに、

「……エゴだと思ってくれても良い。でもいまは、あかりたちを助けたいんだ。その為には、マルチの力が必要なんだ」
「…………」
「……俺は、あかりを泣かせたくない」

 そう言う浩之の脳裏に、幼い頃、夕暮れの公園に置き去りにされて泣いているあかりの姿があった。それは今の浩之を作り上げた原風景なのかも知れない。

「……わたしもです」

 マルチもうなづいてみせた。そう答えた二人は、そのまま部屋を出ていった。
 そんな二人の背を見つめていた初音も、やがて二人の姿が見えなくなると、突き動かされるようにその場から駆け出し、二人を後を追う。

「初音さん!」

 呼ばれて、初音は思わず立ち止まった。

「お止めなさい。あなたは、ワイズマンの元へ行ってはなりません」
「ワイズマン――」
「彼の狙いはあなたです。だから、ここにいる限り、彼の目論見は成功しません」
「目論見――」

 初音は京香のほうへ振り返った。

「……おばさま。何故、そんなコトを知っているのですか?」
「それは――」

 そこまで言いかけて、京香は口をつぐんだ。
 そんな京香の曖昧な態度に、初音は苛立った。

「――行きます」
「おやめなさい」
「あたしにも、守りたいものがあるんです!――御免なさい」

 そういって初音は京香の書斎から飛び出して行った。京香は慌てて立ち上がったが、既に手遅れであった。はあ、と溜息を吐くと、京香は机の上にある電話の受話器を上げて短縮ダイヤルのボタンを押した。

「……もしもし。裕也さんは…………えっ?もう出た?」

 それを聞いて、京香は、また、はぁ、と溜息を吐いた。

「…………エルクゥの血が呼び合っているのですか」


 浩之たちが来栖川邸の玄関を出ると、そこには意外な人物が待ち受けていた。

「……セバスのおっさん」
「お待ちしておりました」

 そういってセバス長瀬が慇懃に指した方向には、一台のヘリがあった。

「MMMバリアリーフ基地と繋がっていたセキュリティネットワークが途絶えました。そのため、直結地下モノレールは使用できません。だから、ジェットヘリで、一番基地に近い天王洲ゲートへ参りましょう」
「長瀬さん…………」

 追いついた初音が、浩之たちの後ろからそれをみて驚いた。

「来栖川警備保障の非常勤常務として、既にMMMの非常事態は聞き及んでおります。芹香お嬢様、綾香お嬢様をお守りするのが私めの使命。だが私よりも、藤田殿やマルチ殿のほうがあの方たちをお救いになれるハズ。なればこそ用意させていただきました。皆さま、急がれなされ。――京香様はお任せ下さい」
「済まねぇ!いくぞ、マルチ!」
「はい!」

 浩之とマルチはセバス長瀬にお辞儀して、急いでヘリに向かった。それを追って、初音もヘリに向かった。

「後ろに乗れ」

 浩之たちがヘリにたどり着くと、ヘリの操縦席に座っていたパイロットと思しきスーツ姿の男に指図された。

「あ、ああ――どうした、マルチ?」

 浩之はそこで、ヘリのパイロットをまじまじと見つめていた。浩之にはどうしてマルチが、パイロットを見て慄然としているのか判らなかった。

「柳川さん?どうしてここに?」

 追いついてきた初音が、パイロットの名を呼んだ。

「急いでいるのだろう?早く乗れ」
「あ、は、はい!藤田君もマルチも乗って」

 初音に促され、浩之は戸惑うマルチを引っ張るようにしてヘリの後部座席に座らせた。

「初音さん、パイロットさんとはお知り合い?」
「一応、おじさんなの」
「おじ――」

 浩之は絶句した。するとこの男も、柏木一族つまりエルクゥの血を引く者なのか、と。

「出すぞ。ちゃんと掴まっていろ」

 柳川はヘリを発進させた。

           Bパート(その2)へ つづく