『羅刹鬼譚 天魔獄』 第5話 投稿者:ARM(1475)
【警告!】この創作小説は『痕』『雫』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、ネタバレ要素のある作品となっております。
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 第9章 柏木邸の死闘

「……届いた」
「?」
「――言い間違えた、ソろった、よ。……へぇ、機密クラスSAの文献まで閲覧できるの?ああ、ソうか、私のIDで要求シたから、か。……へぇ、ソうなんだ。アズサ、これ、見て」

 そう言ってブランカは画面を指した。梓が覗き込むと、そこには、〈アレクサンドリア大博物館〉の検索によって抽出された、天魔に関する事件事象のデータログが表示されていた。

「……ふぅん。最古の情報は、ペルー?あれ、これって、有名なナスカの地上絵じゃない」
「これが、本当は天魔が残したミステリーサークルだって、信じられる?」
「――――」
「絶句スるのも無理はないわね。これを含めたすべての地上絵を、複数の天魔が協力しあって描き上げたんだって。その時、ナスカ平原の上空を天魔の群れが覆い尽くシたソうよ」
「…………なんとも、はや……」

 呆気にとられる梓は、他にめぼしい情報がないか、ログを読むが、どれもナスカの地上絵ほどのインパクトのあるモノはなかった。もっとも、全文英語で書かれていた為に、梓には何が書かれているのかさっぱり判らなかった。

「判らないでシょう?」

 梓は、どきっ、とした。

「英語で書かれているからね。他にもフランス語、ドイツ語、ポルトガル語でも記載サれているから。えっとね、内容を大まかに言うと、上の方が、天魔の生態。珪素属の身体を持つ彼らはどこで繁殖スるのか、について論じているの。諸説があるんだけど、地上付近での生態行動に関する観測件数が非常に少なくて決定的な証拠が無く、どれも推測の話になっているの」
「さっきも言ってたけど、宇宙で生まれるんじゃないの?」
「いいえ。主な生息地であるラグランジェポイントは、重力溜まりと言うコトもあって自然にソこに集まっていくだけで、130年間の天体観測で、ソこでは繁殖行為は観測サれていないの」
「てことは、やはりこの地球?」
「とりあえず、どの説も、地球産、ってコトになっているわ。月まで飛行できるらシいけど、やはり、オゾンホールを維持する性質を考えると、地球圏の生態系の中で生まれた生命体と考えるべきでシょう」
「ふぅん。…………でも、さ」
「?」
「天魔の身体って、珪素なんでしょう、あの半導体に使われているシリコンってやつ」
「ええ」
「この間さ、衛星放送でやっていた怪獣映画で、シリコンを餌にしている怪物が暴れ回ったものがあったんだけど、その映画の中でさ、珪素、って、自然界には珪素だけでは存在しない、っていってたんだ」
「ええ、土壌中に、石英や鱗珪石のような二酸化珪素や珪酸化合物とシて存在シて、単体珪素を作り出スのには電気炉を使い、炭素によって還元するコトで得られるわ。ソれでも純粋な珪素を作るのは難シいんだけど」
「やっぱり、変だよね」
「変?」
「自然界には純粋な鉱物として存在しない珪素で身体が作られている所」

 梓の指摘に、ブランカは、あっ、と驚いた。

「……と、いっても、流石に安直に、どこの誰かが作った疑似生命体というのも、地球の自然の生態系に巧い具合に組み込まれている現状をみれば、そんな外連味は見えないわね。いったい、どういうコトなんだろう?」
「――――確かに。地球の自然界では純粋な形で存在シない物質で作られた身体を持つ生命体って、不自然スぎまス」
「――だからさ。そんなヤツが、『自然』でいられる理由って、いったい何かしら?」
「不自然が、自然という理由――」

 ブランカは首を傾げて考え込んだ。追うように、言った梓もまた、首を傾げて考え込み始めた。

「……もしかすると」
「?」
「いや、ね。物事って、一般に非常識と思われているコトが、さ、本当は常識だった、なんてコト、珍しくないんだよね」
「どういうコト?」

 訊かれて、しかし梓は暫し返答を躊躇し、

「……バカバカしい説と思って聞き流してくれても良いんだけどさ。あたし、思うにさ、もしかすると珪素って天魔の――」

 そこまで言って、梓はふと、窓の外に一瞥をくれ、

「――あ、そうだ。そろそろ夕飯にしない?千歳がさ、冷麺用意してれてるんだ。……難しいことは後にしよう、後に」
「そうね」

 そう答えたブランカが、画面保存ボタンをクリックしたその時だった。

「「――悲鳴!」」

 居間のほうから聞こえたそれは、千歳のものだった。ブランカと梓は血相を変え、居間へ急いで向かった。2秒ともたたず、超高速移動を果たした二人は、居間の中を見て仰天した。

「鬼――いや、これは、祐也じゃないの!」

 そこには、へたり込む千歳を、振りかぶって睨む巨大な、そして血塗れの鬼神が立っていた。梓はそれを一目で柳川であると看破した。

「何で血塗れ――怪我しているの?!」
「違うわ、あれは他人の血――」
「まさか――――」

 梓は戦慄した。

「祐也、あんたまさか、鬼の血に負けて――」
「ち、ちがうよ」

 惑乱する梓に、腰を抜かしていた千歳が応えた。

「ゆーちゃんのこころがかんじられない。なにかに、あやつられているのかも」
「どうしてそんなコトが――」

 と訊いたところで、梓は、あるコトを思い出した。それはかつて、千鶴を再起不能にした第3の鬼の意識と、耕一と柳川の意識がシンクロしていたという事実である。柏木の男たちのみに見られるその現象は、〈三賢者〉がひとり、〈神羅〉ラプラス・ソートによって、神族特有の、アリや蜂などが蜜や餌を他の仲間たちに伝えるために用いるとされるリミビットチャンネル現象、つまり一種のテレパシー現象によって意識を共有したのだ、と教えられていたコトがあった。
 柏木の女には見られないその現象は、鬼神化による中枢神経の変態が起きないためだとされているが、耕一と千鶴の子供である千歳は、どうやら柏木一族の男女それぞれが持つ長所を巧い具合に受け継いだらしい、と聞かされていた。
 その一面が、まだ完全に制御できないのだが、凄まじい破壊力を秘めたPK(念動力)。その発現により周囲に巨大な溝をもたらすコトから、〈鬼の爪〉と耕一に名付けられた。〈鬼の爪〉による攻撃は、物質の構成維持力さえも不能とする破壊を可能とし、〈不死なる一族〉の肉体をしても、攻撃で傷を受けたら再生にかなりの時間とエネルギーを要する。かつて不死身の肉体を持った魔人が千歳を襲い、返り討ちで首を引きちぎられて再生できず、”不死身のまま”死に至ったほどである。
 そして今、千歳の秘められた力がまた新たな一面を見せているのであろう。夕食の準備をしていたところへいきなり現れたために、千歳は悲鳴を上げて腰を抜かしてしまったが、直ぐに目の前の怪物が柳川であるコトに直ぐに気づき、様子を伺っていた。だが、飼葉の毒電波によって精神を支配され、千歳を殺しにやってきたはずの柳川は、何故か千歳を前に、何も手を出せずにいた。
 意識のない柳川はそれを理解する頭がなかったのだが、千歳を襲えない理由は、千歳を見た途端、頭の中に飛び込んできた声にあった。
 ゆーちゃん。遠く聞き覚えのある声であった。しかし千歳は恐怖に声をなくしていたのだが、そこで千歳と柳川のリミビットチャンネル現象が生じたのだ。意識の共有化によって、意識のない柳川は千歳という固有の意識を自分の意識と思い込み、果たして見失ってしまったのである。
 だが、新たに飛び込んできた梓とブランカは、今の柳川にとって異なる固有の意識であった。だから、それを柳川は、敵と見なした。
 大気が切り裂かれた。蛍光灯が衝撃波に粉砕され、黄昏色を散らして千歳の上に降り注ぐ。天井にほとばしる血飛沫は、不意を突かれて飛びかかってきた柳川に左腕を食いちぎられたブランカの肩口から吹き出たものであった。

「ブランカ!?」
「離れ――――!」

 腕を食いちぎられても苦悶も悲鳴も上げるコトなく、梓にその場から逃げるよう言ったブランカの胴体が、一瞬にして水平に走った鬼神の爪に引き裂かれて二つに分かれ、床に散らばった。
 無惨に引き裂かれたブランカを見て、梓はその場に立ちつくした。恐怖によるものではなく、何が起こったのか、突然のコトに理解出来ず頭の中が混乱したからである。

「梓お姉ちゃん、ふせて!」

 そんな梓を正気に戻したのは、千歳の悲鳴であった。梓はその声に反応して慌てて身を逸らすと、Tシャツの胸の布を、水平に走る鬼の爪の先から発せられた衝撃波に持って行かれ、上半身が裸になった。

「あ、あぶなぁ……って!祐也!あんた、しっかりしなさいよ!それでも鬼の血の呪縛から解き放たれた男?耕一に笑われるわよ!」

 ぴくっ!柳川は、耕一という名を耳にした途端、神速で動いていた巨躯が凍り付いたように止まった。
 それを見て梓は、ほっ、と溜息を吐いた。まだ、完全に操られていないのだ。
 しかし、次の瞬間、柳川は再び動き出し、梓めがけて剛腕を放った。梓ははだけた胸を左腕で隠しつつ、慌てて飛び退いた。
 空振りに終わった攻撃に苛立って居るかのようにその場に立ち止まる柳川が、梓のほうを見た。梓は、その鋭い眼光に、覚悟を決めて左腕を降ろした。
 すると、周囲の気温がゆっくりと下がり始めた。正確には気温など下がっていない。その場にいる者の体感温度が下がっているのだ。
 梓の足許が、べこん!とへこんだ。心なしか、梓の体格が少しボリュームアップしていた。
 そして、柳川を睨み付ける梓の瞳孔が、まるで獣のように垂直に狭まり、金色に煌めいた。
 鬼が、もうひとり。

「梓お姉ちゃん!駄目!」

 千歳が、鬼神化した梓に驚いて止めようとする。

「ゆーちゃんは操られているだけなんだから!」
「それはわかっている。――それはわかっているんだけど」

 千歳は、あっ、と驚いた。柳川を見つめる梓の悔しそうな顔を。涙を溜めているそのまなじりを。

「……なんで…………あたしが、祐也と…………バカヤロウ!!」

 梓は、柳川と戦いたくないのだ。

「とめなきゃ……とめなきゃ……!」

 しかし千歳はおろおろするばかりで、まだ幼い頭にこの無意味な争いを止める術など思いつくハズもなかった。
 やがて、柳川は咆吼し、梓に突進する。
 梓は突き出された柳川の両腕を、鬼神化したその腕で受け止めた。その衝撃は互いの足許に達し、踏みしめている畳は粉砕されてイ草の雨を降らした。鬼神化した柏木の男の剛腕を易々と受け止められるのは、柏木姉妹の中でもっとも強力なパワーを誇る梓ならではである。
 しかし、今の梓には、そのパワーをフルに発揮するために必要な要素がひとつ、かけていた。
 それは、非情になり切れていないところであった。僅かな心の隙が、そのままパワーの隙となり、梓の腕を払いのけた柳川の剛腕が、梓の身体を締め付けた。

「――ぐはっ!」

 締め付けられた衝撃で、梓はあばら骨に激痛を覚えた。折れたか、あるいはひびが入ったか。いずれにしてもダメージは大きかった。それでも梓は必死になって柳川の腕を引き剥がそうとするが、波のように押し寄せる激痛と、次第に強まる柳川の腕の力に、やがて腕に力が入らなくなってきた。

「……だめ…………目を……さまして……祐……也…………!」
「ゆーちゃん!ダメだよ、梓お姉ちゃんをはなして!」

 千歳は立ち上がり、柳川の足に取り付いて、全く威力のない拳でポカポカと柳川の胴を叩く。当然ながら、叩かれた痛みなど感じられず、一致したリミビットチャンネルの所為で柳川は千歳のコトに気付いていない。柳川に締め付けられている梓が、口から血の泡を吹きだし始めたコトを知ると、千歳は全力で叩いた。それでも柳川は気付きもしなかった。

「だめ!だめ!だめ!だめ!だめぇ――――っ!ゆーちゃん、おきて――ぇっ!」

 千歳は半べそをかきながら訴えた。柳川は正気に戻る気配もなかった。

「こう言うときは、力技に限るのよ」

 その声が聞こえた途端、柳川の正面から発せられた閃光が、柳川の顔面を激しく打ち、梓を手放して仰け反った。
 柳川の目の前に立つのは、柳川の爪にバラバラにされたハズのブランカであった。裂かれた布地から覗ける、引きちぎられた右肩、そして二つに分かれた腹部から、しゅうしゅう、と煙が上がっていた。再生しているのである。

「〈不死なる一族〉の肉体をお忘れ、ユウヤ?次は私が相手でス」
「ブランカお姉ちゃん!」

 〈不死なる一族〉は、長命ばかりがその謂われではない。この、生命体と呼ぶにはあまりにも異常すぎる超速度の再生力は、たとえ核爆発の直撃を受けて分子レベルにまで分解されても、一分も経たずに元通り再生する。事実、ブランカはかつて、一度は小さな町ひとつを食い尽くしアイススケート場で凍結して北極海に封印しておきながら、米軍の迂闊さからテキサスに逃がしてしまった為に二千人も食い尽くした、〈不死なる一族〉の再生力に匹敵するアメーバ型外宇宙生命体<ゼノ>をコロラドの地下核爆発実験施設におびき寄せ、内側から水爆を爆破させてこれを消滅に成功している。彼女たちの一族にとって放射能の影響など皆無で、ブランカをして紫外線で日焼けしたほうが深刻と言わしめたほどである。
 だが、相手は柳川である。無論、戦闘力のような物理的な問題ではない。精神的な問題が、今の最大の懸念であった。
 つまり、ブランカは柳川を斃せるのか。毒電波で操られている、柳川を。
 もし、ここに耕一が居たらこう思うだろう。
 殺せる、と。
 先に動いたのはブランカであった。ブランカは詠唱を始め、宙に舞った。続いて、柳川が敵の動きに反応して鬼の剛腕を突き出した。
 闇色の中で物理的衝撃の波動が拡がった。既に陽は落ち、蛍光灯は先ほどの衝撃波で壊され、暗い部屋には血臭が漂う。ブランカの詠唱は自らの腕力を増すもので、神の血族である鬼神の拳を、女の細腕で易々と受け止めて見せた。そしてブランカは鬼神の拳を瞬時にからめ取り、あろう事かその巨体を軽々と背負い投げてしまった。
 だが鬼神はそのまま床に叩き付けられるのをよしとせず、その巨体でいかな動きをすれば可能とするのか、瞬く間に宙でとんぼを切り、そればかりか、投げ放ったブランカの右手を掴み取り、反動のすべてを利用して逆にブランカを投げ飛ばしてしまったのである。
 鬼神に投げ飛ばされたブランカの身体が壁に激突し、それをぶち抜いた。常人なら即死である。
 ブランカは、僅か二秒で立ち上がり、壁の向こうから飛んできた。そして詠唱を始め、こんどはその掌の中から鬼神目がけて無数の光弾を撃ち放った。
 光弾は鬼神の身体に命中する。鬼神の身体を外した光弾のひとつが、床を穿つように穴を開けた。こじ開けたと言うより、触れた物質を消滅させたそんな開け方だった。まともに喰らっては無事では済むまい。
 だが、流石は鬼神と言うべきなのか。ブランカの放った光弾は、すべて薄皮一枚で止まっていた。鬼神の体表に張り巡らされている結界とも言うべき鬼氣がこの攻撃を防ぎきったのだ。やがて光弾はすべて鬼氣に喰らわれるように消え去ってしまった。

「流石は神様の眷属。〈神狩り〉をもってしても斃せなかったこの国の荒ぶる神の末裔は、やはり一筋縄では斃せないか」

 そう言ってブランカは、にやり、と笑う。まるでこの戦いを待ち望んでいたような、そんな歓び方であった。
 〈魔界〉最強の実力を持つ、〈不死なる一族〉の現当主。この女も間違いなく魔物なのである。
 それを、千歳はようやく理解した。ブランカは、本気で柳川を殺そうとしている。そして柳川も、次第に洗脳の域を越え、鬼神の本能で強敵の存在を歓んでいるかのように、咆吼した。このまま戦いを続けると、もう誰に求められないだろう。

「………………まてぇっ!」

 突然、柳川とブランカの間に割って入った者がいた。

「――アズサ!」
「ブランカ!祐也は操られているんだから!――お願いだから、もう――――うわっ!!」

 ふらつきながら柳川をかばって立つ梓を、背後から鬼神が掴み取った。

「アズサ!?」

 梓が再び鬼神に掴まり、身体を締め付けられてしまった。もはや抵抗するだけのパワーもなく、ぎしぎしと骨がきしむ嫌な音が室内に拡がった。
 その音を聞いて、千歳は堪らずその場に屈み込み、泣き出してしまった。

「……だめだよ……ブランカお姉ちゃんも、ゆーちゃんも…………どうすれば……どうすれば…………だれか…………だれか!」

 ――もう、おしまいだよ。

 その声が聞こえた――否、千歳の頭の中にその声が聞こえた途端、柳川は膝をついた。


「――あんたは?!」

 東隆山公園の高台に立つ飼葉は、ゆっくりと階段を上がってきた月島瑠璃子の姿を見て、ちぃ、と舌打ちをした。

 鬼神化した柳川の身体から煙が立ち上る。すると鬼神の巨躯に亀裂が入り、見る見るうちにその身体が鉱物のような質感の硬質化が始まり、ボロボロと砕け落ちた。まもなく、舞い上がる粉塵の中から、ぐったりとしている梓を抱きしめている裸の柳川が現れた。

「――ユウヤ」
「……済まない、……梓、ブランカ」

 柳川は息を荒げながら応えた。毒電波の呪縛から解放されたようである。意識を取り戻した梓は、安心しきった笑顔を柳川の胸に沈めていた。

「……まったく……情けないぞ」
「ああ」

 そう言って柳川は梓を強く抱きしめた。

「……本当に済まない、梓」
「……バカ」

 柳川に上半身裸のまま抱きしめられているコトに、頬を赤くした梓だったが、気が抜けたのか、そのまま気絶してしまった。

「よかったぁ」

 気が抜けた千歳は、その場にへたり込んだ。
 その時だった。

「――――?!」

 千歳の顔が、はっ、と閃いた。

「――見えた――また、あの夢が!」
「夢?」

 最初に千歳の様子に気付いたのは、ブランカであった。

「う、うん――」

 千歳は、ブランカに問題の夢の内容を語り始めた。



「それ以上――あっ」

 階段を登りきり、ゆっくりと飼葉に迫る瑠璃子は、突然背後から羽交い締めにされた。

「……えーと、隆山署の長瀬さん、でしたよね」

 瑠璃子を羽交い締めにしたのは長瀬だった。何の反応もないのは、飼葉の毒電波に操られている所為だろう。

「抵抗しちゃ駄目だよ。したら、そのお巡りさんを爆発させるよ。その距離なら、爆発した人間の骨で、あんたの身体もズタズタ」
「こまったなぁ、どうしよう」

 舌足らずで気の抜けた会話だが、それなりに緊迫している事態であるコトは互いに理解していた。

                つづく

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