東鳩王マルマイマー・第15話「狙われたMMM(Aパート・その1)」 投稿者:ARM(1475)
【警告!】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;LVN3作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

「どうしたの?」

 観月沙織は、珍しくテーブルの上の朝食を残している夫、透の様子がおかしいコトに気付いた。

「まさか、一昨日負った怪我の後遺症?」


 沙織が指しているのは、新宿新都心においてMMMがエクストラヨークと交戦した事件のコトを指していた。沙織はMMMの事を知る、数少ない非MMMのメンバーである。夫がMMMの中枢メンバーのひとりであるためである。
 エクストラヨーク戦は結局、地下組織OZの実力行使である、と報道されていた。あれが人類の神とも言うべき存在の仕業と人々に知られた時の大混乱を考慮してのことである。無論、三流ゴシップ誌やインターネット上に、ワザと本当の情報を流すというフェイクも行い、操作した情報に真実味を与えるコトも忘れていなかった。
 事件からの2日間、世界中のあらゆるメディアは混乱していた(正確に言うと混乱すら意図的なモノであったのだが)。悪魔を想起させる巨大な破壊兵器に対し、事件直後から日本政府だけで対処しきれるのか?、という各国の意見が上がっていた。特に、米国からは、MMMの管理を米国を中心とする国連軍の管轄下に置くべきであると主張があったのだが、何故かその進言が日本政府総理大臣の元に届いてから丁度一時間後、米国大統領名義でそれは撤回するという旨の連絡が届いた。

「……ルミラ様、何処に電話されていたの?」
「昔の教え子ンとこ。昔からわがままなボウヤでねぇ、いい年コイてゴチャゴチャいってきたから、叱ってやったのよ」
「ふーん。あ、その二萬、当たりニャ!」
「――ま、まった!(汗)」

 ところがそれを追うように、米国の提案を、MMM総代である来栖川京香から受け入れるという連絡が入り、総理大臣を続けて驚かせた。MMM自体、来栖川財団の私兵ともう言うべき存在で、いわば民間企業が運営する非合法の武装組織である。ただしそのまま容認するわけではなく、京香の提案は、国連軍のひとつとして機能するが、国連軍の傘下ではなく、独立した一機関、国連直轄の防衛組織として運用するというものであった。これは、組織自体の存在意義が軍隊とは異なっているコトと、国連加盟国の軍隊の連合体である国連軍との戦力に圧倒的な差があり、それを考慮してのことである。
 無論、どちらが上なのかは明白であろう。
 核兵器を無力化するイレイザーヘッド。
 空間を制御するディバィデングクリーナー、カシナートドライバー。
 機動形態を持つ超戦艦、キングヨーク。
 そして、無限加速する衝撃波で空間ごと光粒子に変換する、ゴルディオン・フライパーン。

 すべては、人類原種エルクゥの侵略を防ぐためのモノである。


「…………いや、大丈夫だよ。ちょっとここしばらく立て込んでいたから、少し疲れが抜けなくてね」

 観月透は、にっ、と妻に笑顔を見せた。

「本当、色々あったから」

 そういって観月は、沙織の顔をじっと見つめた。観月が残した朝食の食器を洗っていた沙織は、背後からじっと見つめられているコトに気付いて振り返り、赤面した。

「――な、なによ?何かついている、とおるクン?」

 沙織が恥ずかしそうにいうと、観月は、ぷっ、と吹き出した。

「とおるクンはやめろよ、とおるクンは」
「いいじゃない。昔から、そう呼んでいたんだから」
「でもなぁ、いい加減、結婚しているんだから、あなた、とか言ってくれると、こちらとしては非常に嬉しいんだが」

 観月がそう言うと、沙織は、うーん、としばらく考え込み、そして、

「あ・な・た(はぁと)」
「――似合わん」

 次の瞬間、洗剤まみれのスポンジが観月の顔を見舞った。

 新婚ホヤホヤのように見えるこの夫婦が結婚して、はや3年たつ。
 しかしこの夫婦の間には子供が居ない。結婚して以来、一度も夫婦の営みがなかった。
 流行りのセックスレス夫婦、子供は当面作らないと約束を交わしているワケではない。
 かといって、どちらかに身体的障害があるわけではない。――いわば、精神的障害。
 そういった機会がなかったワケではない。ただ、沙織が「性交渉」に対し、極度に拒否反応を示してしまうからであった。
 以前付き合っていたという長瀬祐介とも、まったくそう言った関係はなかった。
 沙織は、極度の潔癖性であった。――表向きはそうなっている。
 すべては、沙織の高校時代に起きた、「あの事件」に起因していた。
 しかし、沙織はその事件のコトを記憶していない。ミスタが――あの事件の関係者である長瀬祐介が、オゾムパルスによって記憶を消し去っていたからである。だが、身体が、そして心の底の奥深くに刻まれてしまった「痕(きずあと)」だけは、祐介にも癒すコトは出来なかった。後に祐介は、観月に、沙織と付き合っていたのはその傷を治すためであったと教えていたのだが、観月はその事実を沙織には告げていない。妻が憶えているであろう、死んだ男との美しい想い出を踏みにじる愚かなマネをする気はなかった。
 観月自身、この美しい妻との生活に満足していた。子供の頃から気心の知れていた女性との生活に不満などなかった。子供のことは半分あきらめていたが、まだ二人とも若い。いつか沙織の心の傷も癒される日が来る。そう信じていた。

「さて」

 観月は洗剤まみれの顔をタオルで拭うと、スーツに着替えた。沙織も隣で、勤務先である学校へ向かうべくスーツに着替えていた。

「?」

 ふと、観月は、隣で着替えていた沙織が自分をじっと見つめているコトに気付いた。

「どうしたんだい?」
「………さっきのとおるクン、…………すっごく怖い顔していた」
「――――」

 沙織は不安げな眼差しで夫を見つめていた。
 それをみた観月は、デジャヴューに見舞われていた。
 新婚初夜にも、その顔を見ていた。結局観月は、沙織を抱くコトをその時から諦めた。

 いったいあの時、自分はどんな顔をしていたのだろうか。
 あのコトを考えると、そんな顔になってしまうのであろうか。

「…………ごめん」

 そう謝ると、観月は沙織の身体を抱きしめ、やさしく唇にキスした。

 観月はその時、夜に再び、妻のその温もりを確かめるまでのこの今日一日が、途方もなく長く感じるコトになろうとは、知る由もなかった。

(今回よりOP曲「東鳩王誕生!」、2番へ歌詞変更とともに、キングヨークをバックに柳川や芹香達が登場し、マスターマルマイマーがゴルディオンフライバーンで決める新OPへ変更。OPの後、「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出る。Aパート開始)

 浩之はエクストラヨーク戦直後、バリアリーフ基地の医療ブロックにかつぎ込まれた。〈The・Power〉発動によるマルマイマーの急激な出力アップの反作用で、肉体的ダメージを受け、心臓停止にまで至ったのだが、早期治療が幸いし、その日のうちに意識も回復していた。重傷を負っていたTH壱式の乗組員たち同様に、〈The・Power〉がもたらした奇蹟的な回復力が浩之にも作用したらしい。大事をとってそのまま浩之はあかりとマルチに世話されながら2日間入院していた。
 退院後、エクストラヨーク戦の事後整理で奔走する綾香たちに挨拶し、ひとまず家に戻るコトになった。

「ごめんね、浩之ちゃん。こっちの仕事が忙しくて付き添い出来なくって……」

 綾香たちと一緒に書類整理をしていたあかりは、メインオーダールームの入り口で、退院した浩之に済まなそうにいった。
 浩之が昏い顔をしているのは、その為ではなかった。


「…………バカヤロウ…………何処が贅沢な望みなんだよ…………くそぉっ!くそったれ、死んじまったら、なんにもならねぇじゃねぇかよぉっ!…………あんたたちには…………あんたたちには、生きて…………生きてもらいたかったのに………………ばかやろぉっ!ばかやろおっ!!」

 浩之は、ベッドの中で何度も、ちくしょう、ちくしょう、と泣きわめいていた


「……浩之ちゃん。……大丈夫?」
「ん?あ、ああ」

 黙示と美紅の死は、浩之に計り知れない哀しみを与えた。二人の姿を、マルチと自分に重ねてみていただけに、余計に辛かった。
 それは、浩之の隣で、浩之の着替えが詰まったバックを抱えているマルチも同様であった。

 差し伸べた先の、永遠に失われた虚空。
 いくら左手を伸ばしても、そこには虚空しかなかった。

 このこころ優しきロボットには、あまりにも辛く哀しい結果であった。どんなことがあってもめげない強い心を持っていたこの少女が初めて遭遇した、計り知れない哀しみと離別。
 だが、マルチは哀しみに打ちひしがれているわけには行かなかった。
 愛する若者が、哀しみに身も心も傷ついていた。そんな彼の前で、無様な姿はみせられない。
 マルチは、浩之の世話をするコトで、自らの哀しみを忘れようと努めた。
 あかりはそんな二人の心を気遣いつつ、何もできない自分に不甲斐なさを憶えていた。
 浩之もマルチも、そんなあかりの気持ちは知っていた。
 だから、僅か二日で立ち直って見せたのだ。

「とりあえず、いったん家に戻るわ。学校のほうにも顔出さなきゃならんし」
「……浩之ちゃん」
「なんだ?」

 浩之が聞き返すと、しかしあかりは黙り込んだ。

「――ううん。なんでもない。お疲れさま」
「おう。お前も無茶するなよ。新人なんだから綾香たちに迷惑かけんなよ」

 そういって浩之は笑いながら、あかりの額を右人差し指で、つん、と小突いた。

「……わかっているよ」

 あかりも笑顔で応えて見せた。
 端で黙っていたマルチの目には、二人とも、ぎこちない笑顔に映っていた。マルチにはそれが哀しく、そしてそれが二人の絆の強さなんだと感じた。

 本当に自分も、こんな人たちと同じ魂を持った、ひと、なのでしょうか。

 マルチは自答した。あの闘い以降、ずうっとマルチは自答を繰り返していた。
 答えなど得られるハズもなかった。出来れば、自分とフュージョンを果たすマルルンのTHライドに収められているオゾムパルス、柏木千鶴とリズエルの魂に問いかけたかった。
 そのマルルンは今、長瀬主査によって整備中であった。マスターボディとの調整がうまくいかないらしい。
 マルチは、いつも一緒にいたあのクマ型ロボットがそばに居てくれないコトを、とても寂しく感じた。

「――マルチ、どうした?行くぞ」
「え?あ、は、はい!」

 考え込んでいたマルチは、メインオーダールームから出て行こうとする浩之の声で我に返り、その後を慌てて追った。

 長瀬は、TH壱式のメンテナンスケイジで、アナライズモニターに映し出されているマルルンのパラメーターを見て、途方に暮れていた。

「…………なんてコトだ!…………ここまで…………進んでしまったとは!」
〈――先生〉

 モニターに、マルルンのTHライドの中にいる千鶴から送信した〈声〉が映し出された。

「……千鶴君」
〈……気になさらないで下さい。マルチの力になるのが、今の私に与えられた仕事なのですから〉
「しかしだなっ!?」
〈――ゲンゴロウ〉

 急に表示文字がカタカナに変わり、長瀬主査は、はっ、となる。

「……リズエル」
〈――チヅルとワタシは、まるまいまーのチカラになるためにココにいるのだ〉
「それが君たちの『死』に繋がることになってもか!?」

 長瀬は堪らず椅子から立ち上がり、モニターに向かって声を荒げてしまった。それから、はっ、と我に返り、辺りを見回した。幸い、誰も近くには居なかったので、長瀬は、はぁ、と深い溜息を吐いて再び着席した。

「…………俺はな。これ以上、犠牲を出したくないのだ」

 長瀬の脳裏には、美紅の笑顔があった。

「…………彼女の死によって、マルチたちに待ち受けている『破滅』の運命を逃れるすべは失ってしまった。――朝比奈君さえいれば、マルチたちが〈The・Power〉を完全に発現させてしまった時の保険が出来たモノを――」
〈……マルチたちは、決して不幸ではありません〉
「――――」
〈たとえ、マルチたちが滅びを迎えても、決して後悔しないでしょう〉

 暫しの沈黙。やがて、長瀬は、はん、と自嘲気味に笑って見せた。

「……残酷だな、キミは。――――マルチはキミにとってなんなのだ?」
〈………………〉

 今度は、千鶴たちが沈黙した。

「…………俺は、ダリエリの言葉を聞き入れて、君たちをこんな残酷な形で生き長らえさせている自分がとても愚かだと思うよ。美紅君はあれが最良の形であったというがな、俺は、人として、これほど残酷な行為はないと思う。――柏木耕一」

 びくん、とモニタ上のパラメーターが反応した。千鶴たちが驚いたらしい。

「……俺はその時、彼に何と言えばいいのだ?」

 途方に暮れる長瀬の問いかけに、しかしマルルンは何も応えようとはしなかった。

   *   *   *   *   *   *

「――ワイズマン」

 東京湾に面したコンテナー置き場の上で、アズエルが向かいのコンテナの上で座禅するワイズマンに問いかけた。

「……本当に正面から乗り込むのですか」
「怖いか?」
「そんなコトはない――しかし」

 戸惑い気味のアズエルは、ワイズマンの隣に立つエディフェルを見やった。
 エディフェルは、東京湾のほうをずうっと見つめていた。潮の香りと風を満喫しているような、この穏やかな笑顔が、血にまみれた狂笑を浮かべることが出来るなどと誰が想像できようか。
 その口元が不意に、少し、残酷そうにつり上がった。

「――そろそろ、狩りの頃合いも宜しいかと」

 エディフェルがそういうと、ワイズマンは立ち上がった。

「――目的は、マルマイマーならびに超龍姫、霧風丸の完全破壊!そしてMMM中枢の殲滅!クイーンJが復活した以上、もはやMMMには用はない!徹底的に破壊せよ!」
「「御意!!」」

        Aパート(その2)へつづく

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/