東鳩王マルマイマー・第14話「リズエルの遺産」(Aパート・その1) 投稿者:ARM(1475)
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

『「EI−08っ!!ミートせんべいになれぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ!!』」

 マスターマルマイマーの右腕に装着されている、ゴルディアームが、メインオーダールームから送信されたゴルディオンナックルシステムプログラムをロードして変形した、ゴルディオン・ミトンが握りしめる、活断ショックウェーブライザー、ゴルディオン・フライパーン。無限加速する重力波を受けた物体は、その分子構造の維持さえも叶わず、粉砕され光粒子に変換される。その圧倒的な攻撃力の前には、マルマイマーを遙かに凌駕する体躯と質量を持つオゾムパルスブースターさえも、一瞬にして破壊されてしまうのである。最強の勇者ロボと化したマルマイマーに、敵は、無い。
 マルマイマーは、きっ、と上空を睨み付けた。

 そこに滞空するは、巨大な魔神――エクストラヨーク。
 マルマイマーは、右手にするゴルディオンフライバーンをエクストラヨークに差し向けた。

『「――次は、お前だっ!!』」

(OP後、「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出る。Aパート開始)

『マルマイマー!』

 頭上のエクストラヨークを睨み付けているマルマイマーへ、TH参式のミスタから通信が入った。

『エクストラヨークは、キングヨークを中心とした布陣を敷いた。マルマイマーは弐式でスペアの右腕を回収後、キングヨークのサポートにまわれ』
『「え?でも、このままゴルディオンフライバーンで――』」
『……自分の身体をチェックしたまえ』

 ミスタがあきれ気味に言うので、マルマイマーと電脳連結している浩之が、アナライザーウインドウを開いてステータスチェックを行った。
 それを見た浩之が驚く前に、マルマイマーが突然、力尽きたように膝を落とした。

『「…………〈マグロの心臓〉現象』」
『頑張りすぎて、THライドの出力が下がっているコトに気付かないとはな』

 マルマイマーが倒れるのと同時に、マルマイマーの右腕からゴルディオンフライバーンとゴルディオンミトンが分離し、ゴルディアームに姿を戻して、慌てて近づいた超龍姫と一緒にマルマイマーを抱き起こした。

「ハリキリすぎやで、マルチ姉さン。そのマスターボディだって、まだ本調子やないんやろ?」
「で、でも……」
「大丈夫。特戦隊のキングヨークの強さはハンパじゃありませんよ」

 超龍姫がなだめるようにいうと、ようやくマルマイマーは、ふっ、と微笑んで頷いた。

『「でも、その前にこれを壱式へ届けないと』」

 そういってマルマイマーが差し出したモノは、左手に持っていた、暴走が収まった地球製THライドであった。エメラルド色に煌めくそれは、赤子の泣き声を上げ続けていた。

『「長瀬主査が必要なモノと言っていました。――この中には、犠牲になって封じ込められた人の生まれ変わった魂が入っているんです。絶対、守ってあげないと』」

 マルマイマーは左手に持つそれを見つめて、嬉しそうに微笑む。いのちを、こころを救えたコトがよほど嬉しかったのだろう。超龍姫(と、一応表情の作れないゴルディも声だけで)、ふっ、とつられるように微笑んだ。

「ああ、そうやな」
「……うん。そうですね。――姉さん、壱式まで私が送りますよ」
「ほな、弐式へはおいらがひとっ走り行って、スペアアームをとって来るわ。壱式であんじょう待ちぃや」

 そういうと、ゴルディアームは背部スラスターに火を入れ、弐式が滞空するほうへ飛んでいった。
 ゴルディを見送った超龍姫は、両手でマルマイマーを抱き上げた。

『「あ、いいって、自分で行けますから』」
「タマには、妹のわがままぐらい聞いて下さいよ」
『「妹――』」

 マルマイマーはきょとんとした顔で、にこり、と笑う超龍姫の顔を見つめた。
 少し困った顔をするマルマイマーは、電脳回線の中で、不意に、後頭部を優しく撫でる存在に気付いた。

「……浩之さん」
『マルチは、お姉さんだろ?』

 振り向いても撫で続けて微笑む浩之に、マルチは恥じらうように少し俯き、はい、と頷いた。

「了解」

 超龍姫は嬉しそうにそう言うと、マルマイマーを抱えたまま、新宿御苑方面へ走り出した。

「わたしもゴルディや姉さんみたいに飛べたら良いんですけどね」
「あれ?飛行能力、無いんですか?」
「観月主任いわく、ディフェンスや救援機能に特化したシステムデザインで設計されていましてね」

 そう答えると、超龍姫はシンメトリカルアウトを行い、クルーザーモードのアルトにまたがり、両腕でマルマイマーを抱きかかえるレフィに分離した。マルマイマーはそのままレフィの背中に回り、後部シートに腰を下ろしてレフィの胴に、アンバランスな両腕を回した。

「バイクモードもなかなか早いんですよ」

 アルトがそう答えると、マルマイマーとレフィは、くすっ、と笑った。

『でもなぁ』
「?何ですか、マルマイマー――いえ、今のは藤田さんですね」
『救援機能なら、飛行機能も必要だろうに』
「超龍姫は超振動を起こすイレイザーヘッドを使用しますから、そちらの対策にウエイトを置かれたのでしょう」
『うーん……』

 浩之はそれ以上は言及しなかったが、超龍姫に関し、前々から疑問に思っていたことがあった。それはレフィやアルトの時は武装や戦闘能力は有るのに、超龍姫に合体すると、その武装のほとんどを犠牲にしている点であった。ドッキングによってレフィは背部にある武器ツールは塞がれ、俊敏性も損なわれている。戦闘用に作られていないというのが建前だが、レフィとアルト、そして超龍姫のシステムには矛盾している点が散見されるのだ。
 やがてこの疑問を、浩之はもっと早く気付くべきであったと後悔するコトになるのだが、そのような事態が待ち受けているコトなど、誰も予想だにしなかった。――ただ一人を除いて。

   *   *   *   *

 舞台は、新都庁舎に戻る。
 展望台内部の床が落ちて墜落したはずの志保は、足場を失った瞬間、何者かが差し出した手を右手でしっかりと握りしめていた。

「――無事か」

 志保は、ひいひいいいながら、力強く自分の身体を引き上げるその腕を頼りに、上の足場へよじ登った。

「ふぅ、助かったぁ――って、柳川拓也ぁっ!なんであんたがここにいるのよぉっ!?」
「久しぶりに再会して出た言葉がそれか」

 志保を助けた柳川は憮然とした面もちで眼鏡を外し、ポケットから取り出したハンカチで、レンズに付いたホコリをぬぐい取った。

「6年振りか。――藤田浩之の監視役を外されて以来か」
「4年振り、よ。あんた、後がまであいつの監視役に収まってたクセに、のこのこと京都の事件の時にしゃしゃり出ていたじゃないの!」
「藤田浩之の監視役は、あの事件の前に、マルチがヤツのところに戻ってお役後免になった」
「あら、そうなの?」
「そのコトは内調に居て知っているクセに、何を惚けるか?」

 柳川は志保を睨み付けるが、志保は澄まし顔で、左手で握りしめていた「ラウドネスVV(ダブルブイ)」の肩掛けベルトを肩に掛けた。

「……相変わらず生意気なヤツだな」
「ナマイキ結構――兄さんよかマシ」

 ぴくっ、と柳川のこめかみが動いた。

「兄ではない。姪だろうが」
「いーじゃない。あたしの親父の妹の息子があんたなんだから。――しっかし、直接的には血のつながりはなくても、兄さんの存在であの柏木家と縁故があるなんて、あたし自身驚かされたんだから」
「…………」
「エルクゥの末裔である柏木家の血と、太古より<神殺し>を生業とした一族の末裔、長岡家の血を併せ持ったのが、兄さんにとって不幸だったわよねぇ。血が完全にバトルマニアの血。同情モノよねぇ」
「煩い。――狩るぞ」
「はいはい、もう聞き飽きましたわよ、その脅迫」

 そう言って志保はクスクス笑い出す。困った顔をする柳川は、その従妹には相当手を焼いているらしい。

「ところで――ヤツはどこにいる?」
「ヤツ?」
「次郎衛門だ」

 柳川がそう訊くと、志保は、崩壊した壁の向こうに見えるエクストラヨークを指した。

「あすこへ飛んで行っちゃった。――吹き飛ばしてやったとゆうべきかな?」

 志保がそう答えると、柳川は、ちぃ、と舌打ちした。
 そんな柳川を見て、志保は、ふーん、と感心してみせ、

「……そんなに『次郎衛門のなり損ない』が頭に来るの?」
「お前にはわからん問題だ」
「そう」

 志保は素っ気なく頷いた。この話題は、志保ですらタブーにしていた問題であった。
 だが、エクストラヨークを憎悪の眼差しで見据える従兄の姿は、志保に今までにない興味を湧かせた。

「……9年前、目覚めた次郎衛門のエルクゥ波動にこころを狂わされ、すべてを失ったコトがそんなに憎いわけ?」
「――――」

 柳川は何も応えない。すると志保は、急に、むっ、として、

「――あれですべてを失ったのがあんただけだと思わないでよね」

 志保がそう怒鳴ると、柳川のこめかみが、ぴくり、と反応した。

「……俺は、お前の父親と母親がクイーンJとどんな闘いを遂げて散ったのか知らぬ。そればかりか、俺が長岡家の人間であることすら、知らなかった。――しかし、知っていたとしても、どうなっていたものか」
「まぁ、それもそうだけど」

 ふん、と志保は鼻を鳴らし、

「隆山にあった来栖川家の別荘にいた芹香先輩に助けられて、そのまま来栖川家に囲われて来栖川の人間になっちゃったんだモンね。そっちのほうが気が楽で――――」

 そう言った途端、志保は、いきり立つ柳川に首根っこを掴まれた。

「…………このまま、下に落としてやってもいいんだぞ」
「く、くっ、くるしい!じょ、じょ、冗談だって!!」
「お前の冗談はタチが悪すぎる。…………一度、死んで後悔しろ」
「あたしゃあ、あの死なずの一重じゃないんだから無理だわよ!」

 志保がじたばたしているうちに、柳川は、志保の身体を穴から戻し、足場の有る場所へ落とした。
 志保は床にへたり込んだまま、げほげほとせき込んで、柳川を睨み付けた。
 しかし柳川はそんな志保を無視し、再びエクストラヨークのほうを睨み付けた。

「…………すべてを狂わされた男の哀しみなど、お前などにはわかるまい」


 陵辱された白い肌の上に、涙が止めどなくこぼれ落ちた。
 少女は何も言わず、自らを汚した、鬼の青年を愛おしげに抱き留めた。

 かあさん。
 
 鬼の青年は、繰り言のようにそう呟いて、少女の胸の中で泣きじゃくった。
 この少女の胸の中で嗚咽するコトで、鬼の青年は長い間見失っていた安堵感を取り戻した気がした。


「――――だから、俺はヤツを――次郎衛門だけは、この手で殺さなければ気が済まん!」

 志保は、歯噛みする柳川の横顔を見ていた。
 いたたまれない貌であった。こころが哭く、とはこういう横顔を指すのだろう。
 ごめん。
 その言葉は自然に、志保の口を吐いた。
 次の瞬間、志保は、はっ、と大切なことを思い出した。

「――そうだ!黙示とあのメイドロボット!下に一緒に落ちちゃったんだっけ!どーしよー!?」
「事態は急を要するようだ」
「へ?」

 きょとんとなる志保が、柳川が指す方向を見た。
 崩壊した展望台の向こうに見える、エクストラヨークに向かって、TH弐式、参式、キングヨーク、そして初音の指揮で到着した機動空艇「高速巡航空艇TH四号」の姿が見えた。

「MMMの戦術飛空挺、勢揃いというところか。ARFが在っても、ここはもうじき、人類と人類原種の、本格的な総力戦の火線上に入るな」
「ちょ、ちょ、ちょっと!ナニ、のんきなコトゆっているのよ!?あのふたり助けるの、手伝ってよ?」
「断る」
「おい!」
「どうやって下まで降りる気だ?」

 柳川が指した、展望台の床に拡がっている巨大な穴は、5、6階ほど下まで抜け落ちていた。穴の中は暗く、黙示たちが何処にいるのか、まったく判らない。

「それから、どうやって脱出する気だ?」
「うむむむむむむむ…………!」
「タマには頭を使え」
「使っているワよっ!――そうだ、ヒロとマルチよ!マルマイマーなら、なんとかできるわ!」

              Aパート(その2)へつづく

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/