東鳩王マルマイマー第13話「金色の破壊神」(Bパート:その2) 投稿者: ARM(1475)
【承前】

「琴音」

 葵が訊いた。

「エクストラヨーク、どうしてあんな思い出したような攻撃ばかり仕掛けて来るんだろう?」
「多分――そうですね、隊長。あいつは、エネルギーが巧く確保できていないからなのでしょう」
「補給?」
「……あった。これを見て」

 琴音は、メインスクリーンに、新宿新都心のCG地図を映しだした。中心にあるコウモリのような形をしたシルエットは、現状と比較してエクストラヨークだろう。

「TH伍号のサテライトビューによる、新宿周辺のエネルギーの流れです。エクストラヨークの周囲に高エネルギーが観測されるのは、そこにエネルギーが集中しているからです。そして、これを」

 次に、地図CGが映るスクリーンの右上に、エクストラヨークを地上から見た映像のスクリーンが浮かび上がった。

「触手みたいなものが見えますね?あれで新宿一帯からエネルギーをEI−08と同じようにエネルギーを吸収しているものと思われます。しかし、EI−08が同じコトを行ったとき、次元崩落後、新宿地区への送電を封鎖完了していますから、思ったように集まらないのでしょう。――マルマイマー!ディバイディング・クリーナーでまた、ARFを作って下さい!」

『わかった!保科、ディバイディングクリーナーを!』
「でも、また奴らが次元崩落を……」
「この状態で次元崩落を引き起こせば、エクストラヨークもひとたまりもない」
「――そうやね。綾香、いい?」

「ええ!ディバイディングクリーナー、起動承認!」

 メインオーダールームにいる綾香の号令とともに、TH弐式に搭載されているアプリケーターで梱包されたディバイディングクリーナーが、ミラーカタパルトから射出された。

【…………そうはさせないよ】

 DCの発射を見た瑠璃子が、エクストラヨーク艦橋の壁をひと撫でした。
 すると、エクストラヨークの体表に次々とEI−08のコピーが吹き出物のように現れ、エクストラヨークと繋がっているへその緒のような触手を引きながら次々と飛び出してきた。目標は、マルマイマーである。

「邪魔をする気?」

 マルマイマーは右腕を振り上げ、ブロウクンマグナムバーストの発射態勢をとった。

「マルマイマー!任せて!――葵、隊長、行きますよ!」

 琴音が叫ぶと、琴音の周囲に、CGで描かれた十基の照準が浮かび上がった。10連メーザー砲の照準なのだが、これを琴音ひとりで制御するのであろうか。
 すると、琴音はいきなり目を瞑り、両手を合わせて祈るようなポーズを取った。
 その横で、葵が自分の腰についていた奇妙な箱を外し、手前に突き出した。突き出された途端に変形したその箱は、銃身のない、トリガーが付いたグリップであった。
 そして、その背後にある紅いTHライドの中にいる芹香も、目を瞑り、琴音と同じように――いや、こちらは呪文らしき詠唱をしながら両手を合わせて祈りだした。

「行くわよ、琴音、隊長!10連メーザー砲プラスESミサイル全砲門開放!――〈トゥルパ弾撃〉っ!!」

 絶叫とともに葵がトリガーを引いた。すると既に葵の動きに合わせて両腕を突き出していたキングヨークは、全身に配されているESミサイルの砲門を一斉に開き、光と爆煙の咆吼を上げた。全方向へ発射されたESミサイルが、突然方向転換し、エクストラヨーク目指して飛んでいったのは、自動照準による方向転換が可能だったとしても、衝撃波に過ぎない十筋のメーザーが自力でその進行方向をねじ曲げ、他のESミサイルと同様に、一発も外れることなく正確にEI−08のコピーに命中したのはどういうコトか。次々と粉砕されるEI−08のコピーの破片をかいくぐり、飛来してくるDC目指して飛ぶマルマイマーは、目の前に飛んできたESミサイルが、よけようとしたその時、その進行軌道を垂直移動させて自ら避ける光景に、ただただ唖然となった。
 この驚異の――衝撃波さえも方向転換を果たすキングヨークの特殊攻撃、トゥルパ弾撃。「トゥルパ」とは、魔術の熟達者の思考集中により投影される思念形態を指す言葉であり、思念レベルでの物理的干渉を果たす。その言葉がついたこの特殊攻撃は、芹香の魔力による高次元エネルギーと、琴音の念動力によって、すべての攻撃の照準と移動を制御し、絶対命中率を可能としているのである。つまり見えざる芹香と琴音の手が、キングヨークの攻撃すべてを操っているのである。

『すっげぇ……!』
「浩之さん、ディバイデングクリーナーをキャッチします」
『おう!』

 芹香達の攻撃に呆気にとられた浩之だったが、マルチに言われ、アプリケーターが飛来中に剥がれ落ちてむき出しになったオレンジ色のモップのほうをみた。

『それ――――取った!』
「……あうううっ」
『何だよマルチ、そんな泣き声上げて』
「初めて、ディバイディングクリーナーとぶつからずにキャッチ出来たんですぅ!」

「…………嫌味、それ?」

 THコネクターから出でメインオーダールームにいた初音が不機嫌そうに言うと、その隣にいる綾香は、ぷっ、と吹き出した。すかさず初音が綾香を睨むが、綾香は、ひゅ〜、と口笛を吹いてシラを切った。

「……それはそれとして、綾香」
「?」
「キングヨーク一隻では、あの巨大なエクストラヨークには勝てないわよ。わたしも、高速巡航空艇TH四号で出るわ――艦隊戦を仕掛ける」
「……わかった。これより、MMMはエクストラヨークに対し、総力戦を開始する!TH弐式並びに参式、」

「よっしゃあっ!――ミラーカタパルト、砲身モードへ移行ぉ!」

 飛行甲板空母TH弐式の艦橋にいる智子がそういうと、TH弐式内部にあるミラーカタパルトの発射起点後方にあるシリンダーが時計回りに回り、スライドしてセットされたミラー粒子を加速させる三本の電磁加速器が装填された。

 一方、TH弐式の右後方に待機していたTH参式も、ゆっくりと前進し始めた。

「多次元諜報飛空挺TH参式、第一級戦術形態へ移行」

 TH参式の艦橋に居たミスタが、手元にあるコンソールパネルを操作する。すると、いままで気球船形態をとっていた参式の上半分がフタのように持ち上がり、正面へ展開された。するとどうだ、その内部から八門の巨大な砲塔が現れたのである。さながら空中に浮かぶ巨大戦艦である。
 参式は情報戦がメインなのだが、搭載されている多次元コンピューターはMMMの要とも言うべきシロモノである。しのぶが最高の戦闘能力を誇る霧風丸へシステムチェンジするのと同様、参式はMMM大型戦術飛空挺の中で、攻撃こそ最大の防御という理念の元に設計された、最強の火力を誇る戦艦なのである。
 そして、初音が艦橋に向かった30メートル級中型飛空挺であるTH四号は、完全に艦隊戦を主目的にした、80メートル級のTH参式のミニチュア版ともいうべきものであり、弾丸TH六号――キングヨークのサポートを目的として設計されている。等身大のメイドロボットが暴走によって巨大化するとはいえ、今回のエクストラヨークや海上自衛隊の巡洋艦と融合したEI−06、07は例外中の例外だが、市内に存在する機器類を取り込んでもせいぜいキングヨークと同じ30メートルぐらいにしかならない。この辺りから、MMMが巨大飛空挺がいったい「何に対抗するためにつくられた」のか、MMMを容認している日本政府から幾度と無く問われていたのだが、今回の事件で、今まで疑問視していた関係者達にも、その目的がおぼろげながらも見えたことだろう。
 しかし、流石に大都市の上空で艦隊戦を行うわけにはいかない。
 その為に、マルマイマーが、受け取ったDDを再び地上に叩き付ける必要があった。まっすぐ新宿西口のロータリーを目指して飛来するマスターマルマイマーを見て、瑠璃子は小さく舌打ちした。

【――――行きなさい】

 キングヨークの間断無きトゥルパ弾撃は上空を行くEI−08を狙っていた。だから、エクストラヨークの直下から隠れるように出現した、新たなるEI−08――いや、その胸で真っ赤に燃えるように光り輝く地球製THライドを持ったオリジナルEI−08の存在には、芹香達もまったく気づいていなかった。
 ただ一人を除いて。
 EI−08がマルマイマーに襲いかかるべく現れたその時、直ぐ横から、無数のミラー粒子弾が襲いかかってきた。不意を付かれたEI−08は、ミラー粒子弾に身体を次々とえぐられていく。

【…………これは!?】

 驚愕する瑠璃子が見たモノは、エクストラヨークの体表に隠れながらEI−08に速射破壊砲を撃ち続けているゴルディアームであった。

「へっへぇ。待ってたンやで、手前ぇが出てくるのをなっ!」

 再起動したエクストラヨークに攻撃を仕掛けようとして飲み込まれて身動きがとれなかったゴルディアームだったが、逆にそれを利用して並列空間からの脱出を果たし、やがて動きがとれるようになると、エクストラヨークにエネルギーを送り込んでいたEI−08本体がもつTHライドの反応を頼りに探して歩き回っていたのだ。

「このエクストラヨークのアキレス腱が貴様だってコトは、承知やでっ!今までコピーを使っていたのがええ証拠や!エネルギー供給が完了してねぇのに、手前ぇがエクストラヨークから離れるのは、唯一THライドを持つ手前じゃなきゃマルマイマーには太刀打ちできゃしねぇからなっ!のがさへんでぇっ!オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

 ゴルディは速射破壊砲を撃ち続ける。不意をつかれ、反撃もままならないEI−08はミラー粒子弾の前に陥落寸前にあった。

【…………邪魔をするな】

 瑠璃子の怒り声がゴルディの音センサーを震わせた。驚いたゴルディがトリガーから手を離した途端、エクストラヨークの体表から出現した無数の触手がゴルディに襲いかかる。
 ムチのようにしなる触手の群れは、半ばエクストラヨークにぶら下がっていたゴルディの身体をはじき飛ばし、宙に舞ったそのオレンジ色の身体を地面へ斜め方向へ叩き落とした。ゴルディは絶叫を引きながら、直下にあったビルを三つほどぶち抜き、地面に激突して大量の粉塵を巻き上げた。
 ゴルディが地上に激突するのと同時に、マルマイマーは新宿西口ロータリーにDDを叩き付け、アレスティング・レプリション・フィールドを一気に形成した。

【……くぅ。時間を稼がれたか――エルクゥ最強の魂を持つ〈リズエルの遺産〉は、殲滅しなさい!】

 EI−08は、直下に形成されたARFの中心にいるマスターマルマイマー目がけて一気に飛んで行った。

『――THライドの反応だ――マルチ!本体が来やがったぞ!』

 浩之に言われて、マルマイマーは仰ぎ見た。落下しながら20メートル近くまで巨大化したEI−08から無数の触手が撃ち出され、マルマイマー目がけて襲いかかってきた。

「プロテクト・シェーーーーーッイドっ!!」

 マルマイマーは左腕を翳し、歪曲空間の盾で触手攻撃を打ち払った。
 攻撃を防がれたEI−08は、乱杭歯で一杯の巨大な口を開き、マルマイマーを飲み込もうとした。
 ところが、その両サイドから飛来してきたESミサイルの直撃を受け、EI−08はマルマイマーの居る地点から大きく離れた場所に墜落した。

「芹香さん、琴音さん、葵さん!ありがとうございます!」
「藤田さん、マルマイマー!エクストラヨークは我々が引き受けます!安心してEI−08の殲滅に専念して下さい!」
『「了解っ!!』」

 マルマイマーは頭上の敵を気にせず、EI−08のほうを睨み付けた。

 いよいよエクストラヨークとの戦闘が本格化してきた中、新宿御苑に不時着しているTH壱式の艦橋に居るレフィとアルトは、窓から新都心方面を見て苛立っていた。

「……長瀬主査!どうして我々が出られないんです?」
「超龍姫はレスキューを主目的として、そして戦術的にはオフェンスであるマルマイマーと霧風丸のディフェンスに徹するように設計されている。――武装らしい武装が施されていないお前たちでは、エクストラヨーク戦では……」
「それは承知しています!」

 レフィが長瀬に詰め寄った。

「それでも、マルチ姉さんを守る盾代わりにはなるハズです」
「莫迦を言うんじゃないっ!」

 呆れて、長瀬は怒鳴った。

「お前たちは、ロボットである前に、我々人間と同じ、こころある者であるコトを忘れてはいかん!」

 それ以上に、超龍姫のTHライドに、柏木梓のオゾムパルス――魂が封じられているため、無理強いはさせられないのが長瀬の本音であった。長瀬に叱られたレフィは、一瞬、はっ、と驚き、そして悔しそうに俯いた。

「……だからこそ、行かせてやっても良いのではないのでしょうか?」

 意外な援軍は、レフィのシステムや外観をデザインした観月主任であった。

「観月君……」

 観月は額の包帯を外しながら、面を横に振った。

「こころがあり、自我がある。ならば、我々とどう違うというのでしょうか?――マルチを思う気持ちは、否定できません」
「観月主任…………」

 感極まったレフィは、今にも泣き出しそうな顔で観月を嬉しそうに見つめた。

「それに、イレイザーヘッドの超振動を攻撃力に転用するコトも可能です。まず、EI−08を殲滅させるコトが先決でしょう」
「ううむ……」

 長瀬は腕を持て余して唸りだした。しかし、やがて仕方ないな、と呟き、

「――あのEI−08には、私の推測に間違いなければ、内蔵されている地球製のTHライドを回収しなければならないハズ。判った、超龍姫は、マスターマルマイマーと共闘し、EI−08のTHライドの回収を命じる」
「「了解!!」」

 レフィとアルトは嬉しそうに敬礼し、駆け出した。その途中、観月の隣を通ったレフィは思い出したように立ち止まり、にこっ、と微笑んで観月の頬にキスして、また走り出した。

「……AIまで奥さんに似せて作ったのかね、キミは」

 長瀬は頬をさすりながら唖然となる観月を茶化した。

「…………そうかも、しれません」

 観月はそう淡々と答えると、戦場となった新都心のほうをみて黙り込んだ。
 何故だか判らなかった。長瀬はそんな観月の横顔に、どこか暗然たる影を見たような気がした。
 まるで観月が見ている先に、予想もしない不幸が待ち受けているかのような。

      Bパート(その3)へ つづく

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