東鳩王マルマイマー第13話「金色の破壊神」Bパート(その1) 投稿者: ARM(1475)
(悪魔のようなシルエットを持つエクストラヨーク(ギガティック・フォーメーション)の映像とおよびスペックが表示される。Bパート開始)

【……目標、新都庁舎展望台。――発射】

 ワイズマンの指示から発射まで、時間はかからなかった。エクストラヨークに開かれた砲門から荷電粒子が轟音を上げて放たれ、大気中にその大半を散らせながらも破壊エネルギーは、新都庁舎の展望台の中で、黙示の右手を掴んでいた志保の背中を白く染め返していた。

「ちぃ――」

 志保は背負っていたギター、『ラウドネスVV』を慌てて抱え直し、迫り来る荷電粒子の渦へ振り向いた。

「間に合わな――――」

 死を覚悟した刹那、志保は、目の前に拡がる白い世界の中心に、緑色に輝く光を見つけた。

「――プロテクト・シェェェェェェェェェェィドッ!!!」

 轟音の中に聞こえたその声を、志保と黙示は聞き逃さなかった。いつの間にかマスターマルマイマーが、新都庁舎展望台の外に現れ、荷電粒子に左腕を翳してそれを受け止めていたのである。しかし、展望台どころか都庁舎そのものを一瞬にして破壊させてしまいかねないほどの膨大な荷電粒子を受け止めるとは。マスターボディのなせる技と言うべきか。放出された荷電粒子はプロテクトシェイドが生み出したハート型の歪曲空間にすべて吸い込まれ、エクストラヨークへはじき返された。

「……マルマイマー?」
「――黙示!そこに――あれ?」

 展望台へ振り返ったマルマイマーは、そこに、黙示と、見覚えのある顔を見つけて驚いた。

「…………長岡……志保?」
「――政樹さん!」

 唖然となるマルマイマーの右腕に抱かれていた、朝比奈美紅が、ボロボロになって志保に抱きかかえられている黙示を見つけて、思わず悲鳴を上げた。
 その声に黙示は反応し、ゆっくりと顔を上げた。

「……美紅……か?」
「政樹さん――っ!」

 美紅はマルマイマーの右腕から飛び出しそうな勢いで、黙示のほうへ両腕を広げた。

『…………三年間、か』
「はい?」

 浩之はどこか感慨深げに呟いた。マルマイマーがきょとんとすると、浩之は、うん、と頷き、

『…………マルチ。お前が俺の許で目覚めるまで、何年かかったっけ?』
「え……?」

 マルマイマーは一瞬、返答に窮したが、やがて浩之が何を言わんとしているのか、すぐに理解した。

「…………わたしも、待ちました。朝比奈部長、さぁ」

 マルマイマーはつられ泣きをこらえ、嬉しそうな声で応えると、ゆっくりと展望台に着地した。
 マルマイマーが着地すると、美紅は腕の中から飛び出し、黙示の身体に抱きついた。

「――政樹さん!政樹さん!!」
「……痛ぇ……」
「――あっ!ご、ごめんなさい!!」

 美紅は慌てて黙示の身体から離れた。黙示の身体はワイズマンとの闘いでボロボロになっていた。
風閂で傷口を縫うという荒技的応急処置を施していなければ、常人ならばとっくに死んでいるくらいの重傷であった。
 美紅は、そんなボロボロになった黙示の身体をしげしげと見つめ、やがてしゃくり泣き始めた。

「…………こんなに……こんなにボロボロになって……」
「……これはお前を甦らそうとして、周りに迷惑かけた罰さ」

 そう言って黙示はマルマイマーのほうをみた。

「…………やっぱり、贅沢すぎる望みなんだよな。死を癒すのには、死をもってあがなうべき――」
「バカを言わないで下さい」
「――――」

 マルマイマーはゆっくりと頭を振った。

『俺たちも、信じて待ったンだから。――こんな日が来るのを』

 少年は、こころ優しき少女の目覚めを待った。
 信じれば、奇跡はいつかきっと。

「………………黙示さん。貴方は、”私たち”だから、その奇跡に賭けてみたんではないのですか?」

 マルマイマーは、どこか嬉しそうな笑顔で訊いてみた。

「……違うよ。――違うさ」

 黙示は照れくさそうに苦笑すると、傍らにいる美紅の頬を優しく撫でた。

『…………ところで』

 ふう、と溜息を吐くと、マルマイマーは志保のほうを見た。

『……なんで、お前、ここに居る?』
「仕事よ仕事――ヒロ、あんたあたしがジャーナリストだってコト、忘れたの?」
『忘れちゃいねぇよ――――』

 マルマイマーは、はぁ、と浩之が溜息を吐く仕草をトレースし、

『――ってゆうか、なんでこの姿で俺だってコト、判るんだ?』
「――ふっ。女の感よ」
『胡散臭ぇコトゆうんじゃねぇ。ソレに何だ、その抱えているギター――』

 マルマイマーが指したのは、ラウドネスVVの先端で放電している光球だった。

『――そいつは、ギターなんかじゃねぇ!――そうとも、オーガニックブースターの発信器じゃねぇか!そんな物騒なシロモノもっているジャーナリストなんか、聞いたコトねぇぞ』
「あらぁ?おーがにっくぶーすたぁ?何、それぇ?」
『惚けるなっ!量子工学の博士号は伊達じゃねぇよ。量子レベルでの多次元反応を実現させる最新鋭のジェネレーティングデバイスだ!そんなモン抱えて大声上げたら空間に――?!』

 浩之がそこまで言った途端、志保は、光球が生じているラウドネスVVをマルマイマーに差し向けた。

『――お、おいっ!』
「U――――Ya――――――――Taaaaaaahhhhhhhh!!!」」

 狼狽しながら制止するマルマイマーを無視し、志保は大声で怒鳴った。するとラウドネスVVの先端に灯っていた光球がそれに呼応するかのように膨れ上がり、バレーボール大にまで膨らんだ途端、それは炸裂した。
 展望台の屋内が全部白色に染まった。光球が灯っていたラウドネスVVの先端から凄まじい光が放射され、それが尾を引いてマルマイマーの真横をすり抜け外へ飛び出ていった光景は、志保の目以外には、光に眩んでみることが叶わなかった。
 展望台から発射された巨大な光は、エクストラヨークが展望台を狙って作り出していた砲口を直撃し、一気に粉砕した。

「『…………?!!」』

 爆発音に気付いて振り返ったマルマイマーは、ラウドネスVVがもたらした凄まじい破壊力によって押し飛ばされるエクストラヨークを目の当たりにして、言葉を無くした。

「――凄い!あの巨大なエクストラヨークを吹き飛ばした!――でも、マルマイマーにはあんな光学兵器は装備されていませんよ。……あの展望台に誰か居るみたいです」
「まさか撃獣姫?」

 エクストラヨークの攻撃を警戒していた特戦隊、葵と琴音、そして芹香は、展望台から発射された凄まじいエネルギーの正体に騒然とした。

「それはないわ、葵。彼女はマルマイマーMk2。荷電粒子を中心とした武装しか装備されていない。無論、風姫の圧縮空気弾でもない。……分析したところ、今のは衝撃波……ソリトン反応があった」
「じゃあ、メーザー砲?」
「恐らく、ソリタリーウェーブ…………あった」
「?なにがあったの?」
「……これです」

 そういって琴音は、艦橋の正面スクリーンに、今、分析していたデータを映し出した。

「……5年前……京都で起きた………………モスマン襲撃事件?」

 ぎりっ。それを見た葵が、忌々しそうに歯噛みした。

「ええ。同時期に世界各国で発生した、エルクゥが作り出した生体兵器、モスマンによる襲撃事件で、唯一、日本のみ、人的被害が出なかった。――清水の舞台周辺に呼び寄せられた70体のモスマンを、一瞬にして消滅させた作戦が成功したからなんだけど、……あの時に使用された火力と、同じ反応だった」
「同じ――?」
「ええ。――清水の舞台や、必死に抵抗していた警官や自衛隊員は一切破壊されず、70体のモスマンだけが分解された。――ソリタリーウェーブライザーによる、物質の固有振動周波数を限定した分子破壊攻撃。でも…………」
「でも…………え、隊長?――どうやってモスマンの固有振動周波数を分析できたのか?――そ、そうですよね、私たちのメーザー砲も、TH参式に搭載されている多次元コンピューターのフィードバックがなければ…………まさか?」

「…………今のは?」
「オーガニックブースター――量子励起機関による、ソリタリーウェーブライザー。ヒロの言うとおり、あたしの声をこいつでエネルギー変換させ、空間粒子のみならず空間に存在する重力や電磁力を励起させて、物質を限定した破壊エネルギーに昇華させて、エクストラヨークに叩き付けたのよ」
『「――――』」
「驚いているヒマはないのわ、ヒロ、マルチ!――この二人はあたしに任せて、あんたたちは早く奴らを追い返しなさいよ!」
「で、でも――」

 困惑するマルマイマーに、志保はウインクして見せた。

「…………あとできっちり、アンタの足りない頭にも判るよう説明して上げるから――今はやるべきコトを果たしなさいっ!」
『…………』

 浩之は戸惑った。しかし、志保の言うとおりであった。
 今は、そこにある巨大な敵を叩いて、平和を取り戻す。
 あの志保からそんな言葉が飛び出るとは思わなかった。

 しかし、どうしてこんなに説得力があるのだろうか。
 あの志保の言葉が、どうして――。

 浩之の中で何か、根拠のない――それでいて確かな安心感が在った。
 目だった。それは、浩之が、自分を真っ直ぐ見据える志保の目を見てから生じた安心感だった。
 どこかで見覚えのある眼差しだった。
 いや、浩之は覚えていた。
 志保は、昔から、こんな目で浩之を見ていた。

『…………お前のゆうことはあてにならんからなぁ』
「な――なにぃ?」

 カチン、となって立ち上がった志保を見て、浩之とシンクロしているマルマイマーはくすくす笑い出した。

『――怒ったか。…………よかったよ、俺が知っている志保で』
「え…………?」

 志保はきょとんとなった。

『任せたぞ、志保。しくじったら、吉牛つゆだく大盛り、おごらせるぞ!』

 マルマイマーは笑いながらそういうと、ウルテクエンジンに火を入れて展望台から飛んでいった。
 しばし呆けていた志保は、やがて微笑みを浮かべて肩を竦めてみせ、

「……吉牛って、安すぎるわよ、あんた。――――ふたりとも、ここから逃げるわよ!」

「マルマイマーを確認!――――マルマイマーのオペレーターより通信入りまし…………ふ、藤田さん?!」

 今まで落ち着きを払っていた琴音が素っ頓狂な声を上げて驚いた。

『……驚いたのはこっちのほうだよ!なんで琴音ちゃんが――葵ちゃん!それに――芹香さん!?なんでみんながそこに?!――別のところと回線が混線してないか?』

 周章する浩之をスクリーン越しに見て、琴音はくすくす笑いだした。

「……適材適所、ってヤツですよ」
『適材適所――――』


 琴音がMMMにその超能力の才を買われてスカウトされたのは、高校卒業直後だった。琴音は海洋学者を目指して水産大学に進学したのだが、そこへ来栖川姉妹の母親、京香からエルクゥの存在と人類の危機を教えられ、MMMに参画を勧められたのである。
 戸惑っていた琴音は、同学年の親友、葵に相談した。葵は体育大学へ進学し、ゆくゆくはオリンピック代表として鍛錬に励んでいたのだが、琴音からその話を聞いたとき、葵も琴音にMMMの参画を勧めた。この時点で琴音は、葵が高校三年生の時に、既に京香からスカウトされていたコトを知らなかった。
 琴音は、葵がMMMへの参画を決意した理由を良くは知らない。直接本人に聞いたコトではないのだが、葵の家にいるHMX−13型メイドロボのセリオが、そのコトを気にしていた琴音に気付き、それとなく教えていたコトがあった。

「……自分は出来る――そう信じてくれる人が居る。それに応え、叶えた時の達成感を忘れたくない。そう言う人なんですよ、わたしのマスターは」

 それを聞いたとき、琴音は、かつてマルチと同時期に再起動を果たしたセリオが、綾香ではなく、葵をマスターに選んだ時のちょっとした騒動を思い出した。葵が、ちょっとした行き違いから生じた問題に巻き込まれたセリオのために、綾香と壮絶な試合まで果たしたその騒動は、浩之やマルチたちも知っている事件であった。結局、葵は綾香に負けたのだが、しかしセリオはそんな葵の姿にうたれて、葵をマスターとして選んだ。自分の力を信じてくれたセリオのために闘った葵を、マスターとして選んだときの機械仕掛けの少女の笑顔を――作れるハズの無かった笑顔をセリオが浮かべた時、綾香は自分の敗北を悟った。

 琴音は迷った。迷った末に、闘いの場へ身を投じる決意をした。


「……私たちは、自分たちの力を信じて闘いに赴いているんです。私たちの力は、きっとこんな闘いを終わらせるために神様から与えられたんです」
「だからあたしたちは今、ここに居るんです」

 琴音の言葉に呼応して、葵も笑顔でそう言った。二人の後方にいる芹香も、こくん、と頷いた。彼女たちは人類の神がエルクゥであることを知った上で、その神を信じ、その神に闘いを挑もうとしているのか。

『みんな…………!』
「藤田さん、マルマイマー、離れて下さい。エクストラヨーク相手にマルマイマーでは分が悪すぎます。――キングヨークは対ヨーク用決戦兵器。私たちが相手をします!」

              Bパート(その2)へつづく

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