【承前】
「「「ナニッ!!?お・も・ら・し・となぁっ?!」」」
べべーん。三度、けったいな擬音が公園内に轟いた。
同時に、浩之たちの顔が一瞬にして蒼白した。
「「「おもらしの時に、スペインふきふき宗教裁判っ!!!」」」
「「ああっ!いつの間に地球に戻ってきたんだおまえらっ!?(汗)」」←It’s4参照
慄然となる浩之たちは、颯爽と赤いマントと鍔広帽をひるがえして公園内に乱入してきた長瀬アミーゴスの姿を見て慄然となった。
「わはははははっ!ワシらの辞書に不可能の文字はない!!」
「「落丁で載らなかっただけなんだがな」」
自信満々に言うセバスの後ろで、教師長瀬と長瀬主任が小声でぼやいていた。
「それはそれとしてっ!『ふきふき』だとぉっ!!そのリーフワールドでもっとも大切な役目、何故ワシらにあたえんのじゃあああああっっっっっっっ!!!」
そういって長瀬アミーゴスは神岸親子に飛びついた。
「「「罰として『拷問ふきふき』っ!!告白せよっ!!!告白せよっ!!!告白せよぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっつつつつ!!!」」」
「「きゃあああああああああああっっっっっっっっっっっっっつつつつ!!」」
数秒後。
公園の木の上に、ボロボロになった長瀬アミーゴスがあった。
「…………つ、強ぇ」
唖然となる浩之の視界には、平然とした顔で、手についたホコリを叩いて払う神岸親子の姿があった。
そんな神岸親子を、公園の外から見つめていた謎の二人が居た。果たして、何者なのかっ!
答え:ただの通りすがりの近所の老人夫婦。
「…………まてい。そないなオトしかたでゆるされるとおもうんかあんた」
「浩之ちゃん、どこ向いて突っ込んでいるの?カメラはこっち、こっち」
「あ、そう(汗)」
てなわけで視線を神岸親子に戻した浩之。同時に、長瀬アミーゴスを一瞬にして屠りさったあの超絶すぎる戦闘能力を思い出して慄然となった。
葉っぱワールドで今密かに<天然>と噂されるあかりママ。天才を越えるその実力の片鱗を浩之は垣間見たのだが、それ以上に、あのセバスを一撃で撃破したあかりの実力。気の所為か、一瞬、その背中に
「犬」
という漢字が浩之には見えた。
「…………やるわね、あかり。流石、あたしの娘」
「…………っておだててもダメです、お母さん。あたしのプライベートに立ち入らないでよ!」
「あらやだよ、あかりったら」
そういってあかりママは口元に右手を寄せ、左手を振った。
「――――――!?」
それを見た瞬間、浩之は、凄まじいデ・ジャヴューに見舞われた。
「……浩之ちゃん。なんか、怖い顔している」
「…………い、いや、…………い、今の、どこかで…………」
あかりが不安そうに浩之の顔をのぞき見る。心配そうな顔をするあかりに気づいた浩之は、なんでもない、と笑って応えた。
「あ、浩之ちゃん、社会の窓が開いているよ」
「――――ぶっ!!」
あかりママに指摘され、浩之は狼狽しながらズボンを確かめた。
しかし、ズボンのチャックは仕舞ったままであった。あかりとのキスで少し興奮していたので、気まずいモノが顔を出していないかと浩之は冷や汗をかいた。
「驚いた?でも気が紛れたでしょう?」
そう言ってあかりママは、もはや21世紀を迎える人類としてやってはならないこっぱなポーズ、なーんちゃって、をかました。
それを見た浩之、再び、凄まじいデ・ジャヴューに見舞われる。
「…………あううう…………ぜ、絶対、俺、見たコトがあるっ!」
「?どうしたの、浩之ちゃん?」
また心配そうな顔をするあかりを余所に、浩之は腕を持て余して唸りだした。
「浩之ちゃん、溜まっているなら、スる?」
「――って、おいっ――?!」
あかりが突然下品な事を言い出したので、浩之は吹き出し、あかりのほうを見て怒鳴った。
ところが、今の発言は、目を丸めて赤面するあかりの背後から、あかりの声色を使っていたあかりママのモノであった。
「…………あ?バレちゃった?」
「…………おーかーあーさーんんんんんんんん!!!!」
閃光。その中心に、再び「犬」、いや、今度は「戌」の文字が。文字が複雑になった分、先ほどより戦闘力がパワーアップしているらしい。地面に巨大なクレーターが出現したが、あかりママはすべてレジストして無傷だった。
「……もう容赦しないわよっ!」
「甘い甘い。<天然>に勝てると思って?おーほっほっほっほっ!」
高らかに笑うあかりママ。声や容姿が区別付けづらいほどそっくりなだけに、高慢ちきなあかりを想起させる。浩之はこんな笑い方をされると良く戸惑ったモノだ。
「……本当、そっくり…………そっくり――――――?!」
浩之の中で、何かが弾けた。
「――――あかりっ!」
「え?ええっ?!」
「おばさん笑いのポーズ!さっきあかりママがやったポーズ!やってみせろ!」
「え?……な、なんで?」
「いいからっ!!」
「う…………ううっ、イヤだよぉ」
あかりは不承不承ポーズをとる。嫌がっているだけあって、どこかぎこちない。
「次!なーんちゃっておじさんの真似っ!」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!??そ、それだけは…………」
「良いからやれ」
「うぇぇぇぇぇぇん……!ひ、人として、そればかりは勘弁して…………」
「ダメ」
「びぃぃええええええええんんんんんんんん!!」
あかりは泣きながら、なーんちゃってポーズを取ろうとした。その動きが一瞬止まると、突然あかりはあかりママのほうを向いて、
「そのチェキで撮ったら――コ・ロ・ス」
あかりに睨まれて、シャッターチャンスを狙っていたあかりママは冷や汗をかいて萎縮した。
「覚悟完了――なーんちゃって」
嫌がっていた割に、けっこうあかりは楽しそうにポージングした。
それを見た浩之は、うん、と頷き、
「――違う」
「「へ?」」
きょとんとなる神岸親子の顔先を、浩之の右人差し指が指した。
「――謎は解けた」
「「謎?」」
「そう!――あかりのお母さん!あなた、神岸あかりに化けてプレイステーション版に出ていましたねっ!」
と不敵な笑みを浮かべて言い切ったのは、いつの間にか浩之の前に立っていた久品仏大志であった。
「て、手前ぇっ!どこから現れたっ?!(汗)」
「良いじゃないですか、「It’s」シリーズの主役はボクなんですから。それはそれとして、今まで見させてもらいました。藤田先輩の推理通りですよ。プレステ版のあかり先輩には、不審な行動がありすぎました。その年で、おばさん笑いはするわ、なーんちゃってポーズはとるわ」
「……なーんちゃって……って……結構……気持ちいいよ」
俯いて赤面し、ぼそり、呟くあかりを無視して久品仏の推理が続く。
「しかし、今の通り、我々が知るあかり先輩なら、一連のポーズには抵抗感を抱いています。にもかかわらず、プレステ版のあかり先輩は、あんな、二周り半して第3次やっちゃいけない期に入っているギャグ((C)目黒三吉)を平気でこなしてしまう。おかげであかりPC版からの先輩のファンがその変貌ぶりにいったい何人が枕を泣き濡らしたことか――つまり、あれはあかり先輩を陥れようとする非友好的立場の人間の仕業であると考えるべきでしょう」
「「……非友好的立場?」」
「ええ。そして現状から推測するに――あかりママがその筆頭容疑者」
驚く浩之とあかり。二人は慌ててあかりママの顔を見た。
「……ふふふ。バレちゃ仕方がないわねぇ。見事な推理ね久品仏くん。流石期待のルーキー」
「「誰が期待しているんだ、誰が」」
浩之とあかりが突っ込むが、無論、不敵な笑みを浮かべて睨み合う二人とも聞いちゃいない。
「動機は?」
久品仏が聞くと、あかりママは、ふふっ、と妖艶な笑みを浮かべ、
「……わたしね。浩之を愛しているの」
べべーん。あかりママの告白に、浩之とあかりの目が思わず点になる。
「…………わたし、あかりよりもずうっと昔から、――あかりが生まれる前から浩之のコトを愛していたのよっ!」
「「をぃをぃ(^_^;」」
※無論、突っ込んだの久品仏と浩之。あかりは呆れて何も言えないらしい。
「…………なのに、この犬娘は、わたしの大切な浩之を手込めにしようと狙っている。そこまでされて黙ってなんかいられないっ!だからわたしは、このナイフであの娘をめった刺しにっ!」
「「刺していない、刺していない」」
※くりかえし
<エンディング>
BGM:Gメン75のエンディングテーマ曲
予想外の親子丼攻撃に、挟まれている浩之はメロメロ、もとい途方に暮れていた。
あかり「浩之ちゃん!あたしのコト、愛しているよね!」
あかりママ「うふふ。浩之、そんな乳臭い小娘よりも……ね」
あかり「……やかましい、色ボケ」
あかりママ「あらぁ?狂犬モード?それともセイカクハンテンダケでも食べたの?でも、そんな悪態ぐらいじゃわたしは動じないわよ、おーほっほっほっ」
あかり「……うっさいわねぇ。お父さんに言いつけるわよ!」
あかりママ「ふーんだ!真実の愛の前には、偽りの婚姻なんて」
あかり「こらあっ!子供まで作っておいて偽りかぃ!!」
あかりママ「覚悟の差よ、覚悟の。…………浩之ぃ、こんな乳臭い犬娘じゃあ、あなたを満足させられないわよぉ。あたしなら、浩之をこの世の天国につれてってあ・げ・る」
あかり「く――浩之ちゃん!ダマされちゃダメ!――テクニックはないけど、初物よあたしっ!」
久品仏「……もう、お二方ともなりふり構ってられないようです。このまま続けると、収拾がつかない事態になりそうなので、ひとまずこの場はここまでにしとうございます」
浩之「久品仏ぅぅぅぅぅぅ、見捨てないでくれぇぇぇ(泣)」
久品仏「スミマセン、もう今月末から私のほうも仕事で忙しくなるので相手してられません、はい。――それでは皆さん、ごきげんよぉ〜〜〜」
そういって久品仏は、右手に持っていた紙袋を解き、中にくるまっていたカツサンドを加えた。外された紙袋に書かれていた文字は、
「The End」