ToHeart if.「雅史の事情」第8話 投稿者: ARM(1475)
(BGM・「正太郎のマーチ」)

琴音&葵&マルチ「「「これまでのあらすじぃ!!!」」」

琴音「校内一の美少年、佐藤雅史に春が来たっ!相手はなんと、長岡志保以上の問題児と噂される、これまた美少女の南雲ゆえ!留年プラス不登校児でありながら校内一の才女のゆえに、保科先輩、大嫉妬ぉっ!」

葵「それはそれとして、月夜の晩に巡り会ったゆえに一目惚れした佐藤先輩、幸運にもペットショップで再会し、見事お近づきに成功っ!」

マルチ「ところがでぇぇぇすっ!佐藤さん、あと一歩と言うところでっ『ごめんなさい攻撃』!」

南雲ゆえ「――私、人殺しだから」

マルチ「ショックを受けた浩之さんたち、南雲さんのコトを調べ始めます。そして知った、南雲さんのお父さんが殺されたという事実!」

葵「ところがその死に、佐藤先輩、疑問を抱きます!いったい南雲先輩の過去の真相とはっ!」

琴音「ところで今回の話には、あたしたち3人の出番はまったくないからって、別に嫌味ゆうつもりはないんですけど、第7話で、2学期が始まった頃の話であるにも関わらず、半年前に南雲先輩のお父さんが殺されたというのに、その日付が8月末というミスはおおわらいっ!」

葵&マルチ「「本当は『一年前』になるんですよねぇ(笑)初級シスアド試験勉強の現実逃避なんかしているからこんなミスするンですよねぇ(笑)」」

ARM(楽屋裏から)「うーるーさーいーーーーーーっ!!りーふ図書館に訂正版載せたからほっといてくれっ!ほれ、スタートっ!」


8. 信じるものか。

 午後の授業が始まったが、あかりはまだ涙ぐんだままで居た。隣にいる雅史は途方に暮れつつ、小声で、あとで事情を教えて、とあかりに告げた。あかりは俯いたまま、何も応えなかった。

 5時限目の授業が終わると、雅史はあかりのほうに向いた。

「――で、あかりちゃん、さっきの件だけど……」
「……ごめん」
「?」
「…………やっぱり……言えない」

 その返答は、しかし雅史には予想通りのコトだった。

「…………ん。わかった」

 雅史は仕方なしに言うと、今度は浩之のほうをみた。
 浩之も、隣にいる智子に聞こうとしていたが、あかりと同じ結果だったらしい。

(こうなったら、志保から直接聞き出すしかないかな)

 放課後、雅史は浩之とともに2−Aの教室へ足を向けた。
 しかし、志保とゆえは既に教室を後にしていた。

 翌日。雅史は朝練後、二木と一緒に教室に来ると、入り口前で意外な人物が待ち受けていた。

「――南雲さん?!」
「……これ。ありがとう」

 と言って、ゆえは、昨日、雅史から借りた小動物の飼い方をまとめたノートを差し出した。

「……コピー、取ったから。母さんがとても参考になるって喜んでいた」
「そ、そう……」

 雅史は戸惑い気味にノートを受け取った。

「あ、あの……」
「…………何?」

 ゆえは、戸惑う雅史の顔を覗き込むように訊いた。

「………………昨日のコト」
「……………………?」

 どうして自分を人殺しだ、なんて言うの?――雅史はどうしてもその一言が訊けなかった。隣で当惑の顔で黙り込んでいる二木も同じだったらしい。
 雅史たちがもじもじしているうち、ゆえは、その理由にそれとなく気付いたらしい。うん、と小さく頷いて、

「…………あたしが言ったコトでしょう?」
「「――――」」
「…………驚かせてしまったみたい。ごめん。……でも本当のコトだから」
「どうしてそんなコトを言うんだよ」
「「「――?」」」

 ゆえの背後から不機嫌そうな声をかけたのは、登校してきたばかりの浩之だった。その隣では、あかりが浩之の腕を引っ張って狼狽していた。

「――どうしてそんなに自分を卑下するんだよ。――どうして無い罪まで被ろうとするんだよ?」
「ひ、浩之…………!」

 雅史は、ゆえを睨み付けている浩之に驚いた。こんなに苛立つ浩之を見るのはあまりなかったコトだった。

「…………だって、しようがないじゃない。本当にあたしは、人殺し――」
「んなコト、嘘でもゆぅんじゃないよっ!」

 浩之は怒鳴った。怒鳴ったが、しかし雅史には怒っているようには見えなかった。
 むしろ、哀しんでいるように見えてならなかった。
 浩之は、両拳を強く握りしめ、きっ、とゆえを睨み付けた。
 浩之に睨まれて、しかしゆえに動揺した様子はない。ゆえがクールに努めているからではなく、浩之が怒りたくて怒っているのではないコトを察しているからなのだろう。

「…………んなコト関係ない。……雅史はな、過去のコトなんか関係ない、って言ってくれてるんだぜ!雅史は、今の南雲さんを好きに――」
「ひ、浩之っ!」

 溜まらず赤面する雅史。そんな雅史を見て、浩之は呆れた。

「……雅史。今更、恥ずかしがることはないだろう?昨日も俺が言ってやったんだし」
「で、でも…………!」
「デモも体験版もねぇっ!好きなら好きで、いいじゃないかっ!」
「ひ、浩之ちゃん、もう、よそうよ」

 あかりが困った顔をして、噛みつく浩之を止めようとする。不断はこんなに熱くなるタイプではないので、ほとほと困っているようである。
 それは、雅史も同じだった。浩之がここまで怒りを露わに出来るタイプとは思っていなかった。
 一体、浩之をここまで苛ただせているのは何か。だが雅史は、少なくとも自分の優柔不断さに苛立っているとは考えていなかった。何故なら、浩之が苛立っている本当の相手は、ゆえだったからだ。
 二人の顔を見回しているうち、やがて雅史は、あるコトに気付いた。

「…………もしかして、浩之のヤツ」
「――雅史!お前もいい加減、はっきりいってやれよっ!」

 浩之に煽られたが、雅史はどういえばいいのか、判らなかった。ゆえの過去に何があったのかもはっきり掴めていない以上、その過去を否定し得るコトなど、何も言えないのは当然である。
 雅史がためらっているうち、ゆえは、ふっ、とどこか寂しげな笑みを浮かべて、肩を竦めて見せた。

「…………もう、いい?」
「――――」
「……好意は嬉しい。……でも、私には、もう関わらないほうがいい。――お願いだから」

 そう言うと、ゆえはゆっくりと2−Aの教室のほうへ歩き出した。

「あ、ちょっと!」

 慌てて二木が呼び止めるが、ゆえは振り向きもしない。目線で追ったまま睨み付けている浩之の横を通り抜けても物怖じひとつしない。
 ただ、無言で。――さよなら、といっているふうに。
 雅史たちに向けられている、そんなゆえの背中が、雅史には堪らなく寂しかった。
 だから、雅史は思わず口走ってしまったのかも知れない。

「――信じるものか」

 雅史の言葉に、ゆえの歩みが止まった。止まったばかりか、硬直さえしているではないか。

「――信じないよ、僕は。――僕が信じるのはただ一つ。過去じゃない、今、僕の目の前にいる南雲さんだけだ!」
「…………佐藤」

 雅史の隣に居る二木は、昨日、自分が口走った言葉を思い出していた。こういったコトは、案外、意に反して、あっけなく口に出るものなのかもしれない、と。
 暫しの静寂。
 やがて、ゆえは、雅史たちに振り返りもせずに大きく深呼吸し、再び歩き出し、2−Aの教室へ入っていった。
 ゆえの姿が教室の中へ消えていったのを見送った二木は、ようやく傍らの雅史が唇を噛みしめていたコトに気付いた。

「…………このままじゃあ…………いけないよ…………!」

 嗚咽のように呟く雅史の言葉に、二木は、ああ、と頷くしかなかった。

              つづく

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