あかりは、微睡みの中で見慣れぬものを視界に捉えていた。
いや、それは見慣れていたものだった。
藤田浩之。
こんな間近で、想い人の顔を見たコトはない。
しかも、二人とも、生まれたままの姿だ。浩之の肌の暖かみが妙にくすぐったい気がした。
不意にあかりは、ずきっ、と痛みを覚えた。
浩之を受け入れた結果だ。痺れるように痛い。
でもそれが、嬉しかった。
浩之は、寝息を立てて寝ている。ベットのそばにある窓へ視線を移すと、空が紅みを覚え始めていた。しかしあかりの頬がほんのりと朱色を帯びているのは、朝日の所為ではない。
無性に嬉しくなったあかりは、浩之を押さぬよう、ゆっくりと頬ずりをした。
「ん…………んん」
「あ…………!」
頬ずりの感触にむずかる浩之に、あかりは驚いて顔を離した。幸いにも浩之を起こさずに済んだ。
また寝息を立て始めた浩之を見て、あかりは、くすっ、と微笑んだ。
浩之が起きた時、何と言おうか。
おはよう。
在り来たりだが、それぐらいしか思いつかない。もう少し気の利いたコトを言いたいのだが、やはり思いつかない。
やはり、おはようなのかしら。それでいいのかしら。
幼なじみという関係ゆえに、それでいいのかも、と、言動にどうしても妥協が生じてしまうのかもしれない。あかりはその長すぎた関係を少し恨んだ。
でも、今は違う。
ただの幼なじみではない。
やっと。――やっと、想いが通じた。通じ合った。
だからこそ、あかりは、別の言葉をどうしても口にしたかった。
せっかく、ただの気心の知れた幼なじみという関係から一歩進めたのだ。
そう。ただの幼なじみという関係はもう終わったのだ。
「…………幼なじみから卒業したんだよね、あたしたち。…………そっか、卒業、か」
卒業式という言葉が頭に浮かんだ途端、あかりは浩之に卒業証書みたいなものを渡せないかな、と思ったが、しかし紙などに書いて手渡しても浩之の失笑を買うだけである。第一、莫迦みたい、とあかりは直ぐに頭を振って否定した。
「…………ん?」
そんな時、あかりは、浩之がいつの間にか目を覚まし、虚ろげな眼差しであかりを見つめているコトに気づいた。
「…………あ。起こしちゃった?」
「……いや、別に…………」
浩之はまだ微睡んでいるようである。不断の強気な雰囲気など微塵もない。これが藤田浩之の素なのであろう。あかりはこんな浩之を見られて少し嬉しかった。
「……なんだよ、にやにや笑って」
「…………だって……嬉しいんだもん」
「…………嬉しい?」
「うん。――あたしたち、ただの幼なじみから卒業できたんだよね」
あかりが嬉しそうにそう言うと、浩之の顔が少しこわばった。照れたのだろう。ややあって浩之も、ふっ、と微笑み、右手であかりの頬を撫でた。
「…………おめでとう、神岸あかり。卒業できたな」
「あ…………浩之ちゃん、先に言っちゃった…………」
「あ?」
思わず吹き出したあかりに、浩之はきょとんとなった。
「…………なんだよ」
「…………ごめん。だって、あたしが言おうかと思っていたコト、言っちゃうんだもん」
「?…………卒業?」
あかりは頷いた。すると浩之は照れくさそうに目をそらした。自分でもかなり臭いセリフだったと後悔でもしているのであろう。そんな浩之の心中を洞察してか、あかりは、ううん、と面を横に振った。
「…………素敵だよ、浩之ちゃん」
「ば、ばかゆうな」
溜まらず浩之は赤面する。そんな浩之の顔を、あかりは嬉しそうに見つめていた。しばらく視線を逸らしていた浩之だったが、ふと、右手にあかりの頬の暖かみを思い出すと、ゆっくりとあかりのほうへ視線を戻した。
「…………あかり」
じっとあかりの笑顔を見つめる浩之がその名を口にすると、あかりはゆっくりと顔を近づけ、浩之の唇に自分の唇を重ねた。
これが、二人だけの卒業証書。
了
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…ふう…Fスクさんとこでつこぉたネタをそのままこっちにも転載した卑怯な技(笑)だが…………も、もう駄目だ…………ああっ、
「あかりママ萌え萌えぇぇ〜\(゚▽゚)/」
玉緒「…………やっぱりおとーさん、壊れてなくっちゃ(^_^;」