東鳩王マルマイマー第13話「金色の破壊神」Aパート(その2) 投稿者: ARM(1475)
【承前】

 ぐおんっ!天を突くマスターマルマイマーのカシナートドライバーが吼えた。

「「マルチ姉さんっ!」」

「マルマイマー!よぅ戻ってきたっ!」

 TH弐式の艦橋からエクストラヨークの動向を見ていた智子は、マルマイマーの姿を見て思わずガッツポーズをとった。

 マルマイマーの雄姿を見て喜悦する者達の中、メインオーダールームのTHコネクターに入っていた初音が不安そうな顔をしてマルマイマーにアクセスしてきた。

「マルチ!電脳連結が解除されているけど、誰と接続しているの?主査?観月さん?直ぐに回線をこちらに戻して――」

 そこまで言って、初音は絶句した。

「…………シンクロ率、200パーセント?だ、誰と連結しているの?」
『俺だ』

 メインストリーンに映し出された人物の声を聞いて初音は瞠った。

「――藤田君?」
「浩之ちゃんっ?!」
「「浩之っ!?」」

 あかりたちが素っ頓狂な声を上げて驚いた。

『――って、あかりっ?!何でお前そこにいるんだ?しかもその格好…………!』
「あ――えへへ、実は、あたし、MMMにスカウトされてね」
『スカウトって…………ってそう言えば習い事でここしばらくつき合いが悪いなと思っていたら、これか?』
「…………黙っててごめん。でもあたし、マルチちゃんたちの力にどうしてもなりたくって」
『そっかぁ…………』

 そういうと浩之は黙り込んだ。

「…………もしかして、怒っている?」
『ああ。後で職員室へ来い』

 それを聞いてあかりが吹き出すと、浩之も苦笑した。

『詳しい事情は後だ。初音さん、電脳連結は引き続きこちらで持つ』
「し、しかし…………」
「初音より、浩之のほうがシンクロ率が高い。任せましょう」
「でも、レミィ…………?」
「どちらにしても無理よ。マルマイマーの回線が全部、浩之のほうに開かれている。これでは、こちらからでは回線を閉じることが出来ない。まるでマルチの意志が全部浩之に向かれているよう」
「そ…………そんな」
「――わかった、浩之」
「綾香?」
「マスターマルマイマーの管制指揮補助を神岸さんが行います。浩之、任せたわよ!」
『了解っ!』

 浩之がそう返答してスクリーンから消えると、綾香は初音のほうをみた。

「浩之に任せましょう」

 初音は俯いて黙り込んでしまった。綾香は、ふう、と溜息を吐くと、再びメインスクリーンのほうへ面を戻した。

 再び、舞台を甲州街道上へ戻ると、状況が変わっていた。

「「「これはっ!」」」

 驚く超龍姫たちの前で、今まで闘っていたEI−08のコピーが、突然飛び上がり、マスターマルマイマーが現れたARFの方向へ飛んでいったのである。

「攻撃目標を変えたのかっ!姉さんっ!」

【…………新型マルマイマー…………絶対危険度100………………殲滅重要度100………………要消去!】

 続いて、エクストラヨークの体表から次々とEI−08のコピーが吹き出し、マスターマルマイマーに殺到していく。

「いかんな。あの数は一体では相手しきれないぞ」
「私が…………行きます」
「駄目よ、霧風丸!システムダウンしていてこれ以上は無理」
「しかし、柳川さんはともかく、超龍姫の装備では飛行出来ません」
「くっ!」

 超龍姫は舌打ちした。

「わたしさえ飛べれば――――」

 その時、超龍姫の脳裏に黒い翼が過ぎった。
 続いて、巨大な龍のシルエットが、大空を舞う姿が浮かんだ。

 今のわたしは、わたしではない。

「…………超龍姫?どうかしたの?」
「――あ?い、いや、なんでもない…………今のは…………?」

 今のわたしは、わたしではない。

「…………何の…………メモリーだ、今のは?」

 右手で顔を覆う超龍姫の隣で、柳川が通信機を懐から取り出した。

「俺だ、芹香はいるか――。いつまでも寝ぼけているな、琴音、葵っ!それでも特戦隊のメンバーかっ、全員、しっかりしろっ!マルマイマーの援護を急げっ!今、あれを失うわけにはいかンっ!――何っ?」

 柳川が驚いたのは、キングヨークからの返答にではない。


『いくぞ、マルチ!』
「はい!うおおおおおおおおっっっっっっっっっっっっ!!」

 マスターマルマイマーは右腕を大きく振りかぶり、ブロウクンマグナムの発射態勢をとった。

「マルマイマー、あれだけの数にブロウクンマグナム一基で相手する気か?真っ直ぐにしか飛ばんアレでは無茶やっ!」

 智子は慌ててTH弐式のミラー粒子砲による援護射撃を行おうとしたが、次の瞬間、目の前の光景に唖然としてしまった。


「ブロウクンマグナムっ――バーストっ!」

 右腕の側面に内蔵されている回転用ブースターが火を噴いて高速回転を始めた。そしてゆっくりと振りかぶった右腕を振り下ろしてブロウクンマグナムを撃ち放った。
 そこまでは従来のモノとは変わらない。後は撃ち放たれたブロウクンマグナムの肘の裏にある推進用ブースターが発火するだけだが、マスターマルマイマーに新たに装備されていたブロウクンマグナムは仕様が変わっていた。
 それは、肘の中に内包されていた推進ブースターが、回転用ブースターと同様に側面に装備されていた点である。そして、撃ち放たれるのと同時に吹き出す炎の量が内包型のそれを凌駕していた点も見逃せない。今までのがミサイルならば、新型の推進力は宇宙ロケットのブースターを想起する凄まじい火力であった。速度も凄まじい。従来の倍はあろう。それが一番手前にいたEI−08のコピーの胴体を打ち抜くと言うより粉砕していた。しかも命中してもその勢いは衰えず、直線上に存在するEI−08のコピーを、衝撃波も利用して次々と破壊していく。
 しかしそれ以上に、最大の変化点はあった。なんと直線にしか飛ばぬブロウクンマグナムが突然方向転換し、多方向から迫り来るEI−08のコピーの群を、狙い澄ましたように次々と破壊していくのである。

『ブロウクンマグナム・バースト。肘の内側から外側へつけた強化ブースターは方向転換用アポジモーターの役目も持っていて、こちらからの制御で自在にコントロール出来る。最強の名は伊達じゃないぜ!』

「「つ、強いっ!――あれがマスターマルマイマーの実力なのか!」」

 超龍姫たちが呆然と見上げる中、短時間で、たった一回の攻撃でEI−08の群れを殲滅したブロウクンマグナムはマスターマルマイマーの右腕に戻ってドッキングした。ブロウクンマグナムを回収すると、マスターマルマイマーはエクストラヨークのほうを睨んだ。

「次は、あいつですね」
『待て。その前に、壱式を回収してくれ』

 浩之に言われ、マルマイマーは足許にあるARFを覗き込んだ。
 ARF内部にあるTH壱式は浮上しようとしていたが、脱出に必要に推進力が得られないようで一向に脱出できる気配がない。

「判りました。プラズマホールド!」

 マスターマルマイマーは左腕からカシナートドライバーを取り外すと、ARFに左腕を突き出し、稲妻のような巨大な荷電粒子エネルギーを放出した。ARF内部に進入したプラズマホールドはTH壱式の艦体を包み込み、がっちりと捉えた。

「引き上げます」

 マスターマルマイマーは左腕を引き上げると、TH壱式の艦体もゆっくりと浮き上がり始めた。少女のような小さな身で、80メートルもある巨大な物体を引き上げているのである。何というパワーであろうか。
 だが、片手間でこなせる仕事ではない。マルマイマーの後方にいるエクストラヨークは、その隙を狙って再び攻撃を開始しようとしていた。

「そんなコトはさせない!琴音!」
「反中間子砲発射まで20セコンド!メーザー砲OK!」
「了解っ!目標、エクストラヨーク!10連メーザー砲、斉射っ!」

 葵たちが搭乗しているキングヨークがその危険を見逃しているハズはなかった。エクストラヨークに出現に慄然となっていた三人だったが、先ほどの柳川から通信でやっと我にかえり、接近しながら迎撃体勢をとっていた。葵は両腕を上げると、キングヨークの両腕もあがり、そこに内蔵されている10門のメーザー砲が開かれ、閃光を放った。
 轟音とともにまばゆい光が新宿上空を駆け抜け、エクストラヨークの表面に命中すると次々と炸裂した。強力なマイクロ波ビームは、エクストラヨークの表面装甲を分子震動によって次々と破壊して行く。間断なく撃ち放たれるメーザー攻撃にエクストラヨークはマルマイマーへの攻撃が出来ずにいた。

「――反中間子砲エネルギー充填完了!」
「了解!――反中間子砲砲頭、開放っ!」

 葵がそう叫ぶと、キングヨークの胴体に変化が起きた。キングヨークの胸部にある筒の内部が巨大な砲口へと変化したのである。

「目標、エクストラヨーク!反中間子砲、発射っ!!」

 葵の叫びが引き金なのか、同時に砲口が火を噴いた。いや、吐き出されたのは凄まじい光量の光の渦だった。キングヨークの胸部から発射された巨大な光の矢は、一瞬にしてエクストラヨークの胴体に届いた。
 その瞬間、着弾した箇所からエクストラヨークの胴体が粉々に粉砕され、光と化していく。我々の空間に存在する物質分子には、中間子と呼ばれる素粒子が必ず含まれている。キングヨークの主砲であるこの反中間子砲とは、THライドが空間量子制御に使用する反物質制御システムを利用し、目標物体が保有する中間子を瞬時に分析し、目標の中間子に対する反物質を発射する超兵器である。中間子の反物質によって中間子は対消滅を起こし崩壊する。それにより、中間子を失うことで物質分子はその構成維持が不可能になり、このエクストラヨークの装甲のように分解するのである。

「…………たった一発では全部崩壊できないみたいね。出来る限り他のヤツで崩さないと期待している効果が望めないな。次は?」
「あと324セコンド!」
「判ったわ!――隊長、ジェイクォース、いけますか?」

 葵が振り返ると、THコネクターの内部にいる芹香が、こくん、と頷いた。

「いきますよ!10連メーザー砲プラス・ジェイクォースっ!!」

 再び葵がエクストラヨークにメーザー砲の全門斉射を6回行うと、次に両腕を重ね、巨大な荷電粒子エネルギーを開放した。先ほどのARFを広げたときとは比べモノにならないほど強大なエネルギー量であった。

「ジェイクォースっ!」

 葵の絶叫とともに、重なっている両腕から巨大な翼を持った火の鳥が現れた。するとキングヨークは右腕を振り上げ、ムチのようにしならせてエクストラヨークに撃ち放った。
 荷電粒子の巨鳥は一直線にエクストラヨークに飛びかかり、先ほど反中間子砲を受けて内部がむき出しになった先端に命中した。すると着弾した箇所から凄まじい爆発が起こり、次第にその爆発が周囲に拡がっていく。荷電粒子エネルギーがエクストラヨークの内部を破壊しているのだ。やがて500メートルほど内部を進むと、荷電粒子の巨鳥は装甲を突き破って外へ飛び出して行った。続いてその穴から爆発が起こり、エクストラヨークはついにバランスを崩し始めた。

「……凄い。あんな10キロメートルもある巨大な怪物を、30メートルしかない艦体で圧倒しているなんて――お陰で壱式が出られましたね」
『ああ。どうやら推進器がいかれてしまったらしい。このまま新宿御苑に降ろしてくれ』
「了解しました」

 マスターマルマイマーは頷くと、ウルテクエンジンブースターとプラズマホールドに牽引されて宙に浮くTH壱式を、近くで着地できる広い土地をもった新宿御苑へと移動させていった。その後を追って、霧風丸を背負った超龍姫が走り出そうとした。

「柳川さんは?」

 駆け出しかけて、超龍姫はその場に残る柳川に気づいた。

「少し気になるコトがある。お前たちで行け」
「…でも、この場はかなり危険だと」
「これぐらいで俺は死なんよ」

 そう言って柳川は、不敵そうに、ニヤリ、と笑って見せた。

「……判りました。――ご無事で」

 そう言って超龍姫はTH壱式の後を追った。後ろ髪の引かれる思いだったが、何故か、あの男なら、という気がした。
 どこか懐かしい、頼りがいのある気がしたのは、根拠など無い、直感である。
 ロボットの直感。どうしてそんな非論理的な――だが、何故か超龍姫はその直感を否定する気にはなれなかった。

 超龍姫を見送った柳川は、踵を返して背後にある新都庁舎のほうを向いた。

「…………柏木耕一。そこにいるのか」

 柳川は、いつの間にか消え失せていた耕一の行方を気にしていた。
 新都庁舎の上階からひしひしと感じる、凄まじい気配。――エルクゥの血を持つ者のみ感じ取る、エルクゥ波動がそこから届いているのだ。

        Aパート(その3)へつづく

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