東鳩王マルマイマー第13話「金色の破壊神」Aパート(その1) 投稿者: ARM(1475)
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

 人類対人類原種エルクゥとの闘いは、新たなる局面を迎えていた。
 3年前、長瀬祐介の進化した能力「爆弾」によって時空の彼方へ吹き飛ばされたエクストラヨークが、鬼界四天王リーダー、ワイズマンの策略によって再び元の世界へ帰還したのである。

「は――っはっはっはっ!エクストラヨークが還ってきたぞっ!これでクイーンJが蘇るっ!!人類は鬼界昇華から逃れられなくなったぞっ!」

 都庁舎展望台で、この悪魔の復活を待ち望んでいたワイズマンの狂喜。
 そして、自らの失態と目前の敵に対し抱かれている、黙示政樹の激しい怒り。

「――ワイズマン、いや――――次郎衛門」

 黙示がその名を口にした時、全身を地上に露わにしたエクストラヨークの獣のような咆吼がそれを遮った。
 だが、ワイズマンにはその名が聞こえていたらしく、見る見るうちに顔を険しくしていった。

「……ふん。気づいていたか」

 ワイズマンは黙示を真っ直ぐ見据える。

「……来栖川京香を中心にMMMを結成した初期メンバーの中に一人、名も顔も表に出なかった者が居たコトは、陸幕のほうでも掴んである」
「?」
「そして、MMMが本当に結成された理由が、人類の鬼界昇華を実行させるコトにあった事実も」

 静寂。奇遇にも、二人が居る新都庁舎の外もその瞬間、静まり返っていた。

「…………だが、お前の脱退ともにMMMはその方向を転換し、鬼界昇華を防ごうとしている。――すべてあれは、お前の意志だったのか?」
「だとしたら、どうする?」

 ワイズマンがそう答えると、黙示は何故か当惑した。

「…………そんなハズは…………ない…………!」
「ほう」

 ワイズマンは、にぃ、とほくそ笑み、

「そうだったな。お前は人の心――オゾムパルスを見る事が出来る能力者だったな」

 黙示は暫し沈黙した。

「……すべてを知りたいのなら」

 ワイズマンはゆっくり身構えた。

「この俺を斃せたら教えてやる!」
「――柏木初音をどうするつもりだ?」

 ビクッ!一瞬、ワイズマンに動揺の色が走った。

「――お前には関係ない」
「ああ、関係ない。お前を慕ってきた彼女のコトなど、僕は関知しないで闘うつもりだ」

 してやったりとほくそ笑む黙示は、ゆっくりと両腕を上げた。

「ワイズマン、いや、次郎衛門。亡霊は滅びるべきなのだ。――いくぞっ!」

 黙示が飛びかかった。
 それと同時に、ワイズマンは背後に跳んだ。

「――?!」

 愕然とするワイズマンの視界に拡がる床が、突然粉砕されたのは飛び上がったのと同時であった。

「――既に仕掛けていた」
「逃さンぞ!」

 宙でとんぼを切ったワイズマンは、直ぐ隣の柱の影へ飛び込んだ。だが、何かあるコトを思い出したらしく、咄嗟にその柱から離れる。
 次の瞬間、輪切りにされて崩れ落ちる柱の向こうから、黙示が跳んできた。

「食らえっ!」

 黙示は再び飛び退こうとするワイズマン目がけて、いつの間にか手にしていた手裏剣を投げつけた。一投で、その数、十数枚はあったか。だがワイズマンは臆することなく、床を叩き付け、粉砕して舞い上がった床の破片ですべてはじき返した。

「――もっと楽しませてくれよ、黙示」
「いうかっ!」

   *   *   *   *   *   *

 ARFの穴の中から、10キロメートルはゆうに越す巨大な禍々しい翼を広げて出現してきた異形の巨体に、誰もが言葉を無くしていた。
 脳裏に浮かぶ言葉はただ一つ。
 悪魔。

「――――?!」

 TH参式の艦橋にいたミスタは、突然のめまいに動揺する。

「……なんだ…………この……魂を持って行かれそうな……プレッシャーは?」

 ミスタが覚えたプレッシャーは、メインオーダールームにいる初音が覚えた感覚に酷似していた。ただ一つ違う点は、そのプレッシャーの源が、ミスタにははっきりと感じ取れたコトだった。

「…………まさか…………あの中に…………”僕”が?」


 ちょうどその時、都心で起こっている非常事態に関する特別報道番組を、海葉高校の職員室で他の職員とともに観ていた観月沙織は、軽いめまいを覚えると、何故か無性に胸騒ぎを覚え、新宿方面へ面を向けていた。

「…………祐……クン?」


 エクストラヨークの中心には、オゾムパルスによって身体を構成している月島瑠璃子と、その背後にある座席に、凍り付いたように眠っている長瀬祐介が居た。
 無論、この祐介は祐介自身の肉体である。3年前、「爆弾」の能力によってエクストラヨークを異次元の彼方へ吹き飛ばした時に消滅したはずの祐介の肉体だ。その魂――祐介のこころを構成するオゾムパルスは、その場に居合わせていた月島拓也の身体に取り込まれ、奇妙な二重人格者、ミスタとして再生されていた。
 祐介の肉体はあの時、エクストラヨークに取り込まれていたのだ。

【……長瀬ちゃん。…………早く帰ってきてよ……くすくす】

 感情のない微笑をする瑠璃子は、ふと、その物理法則を凌駕した視界に、甲州街道上からエクストラヨークを見上げている超龍姫と霧風丸を見つけ出した。

【……柏木梓と柏木楓のオゾムパルスを護る者…………絶対危険度60――――要消去】

 瑠璃子の顔に険が走った時、エクストラヨークの表面に奇妙な動きが起こった。
 突然、エクストラヨークの表面が波打ち始め、そこから十本の触手が吹き出した。そしてその先端は次第に獣のような奇怪な容姿を持つ怪物へ変化し、空に弧を描いて地上にいる超龍姫と霧風丸目がけて殺到したのである。

「――仕掛けてきたかっ!霧風丸!」

 超龍姫が呼んだのは、霧風丸が繰り出している超々極細鉄鋼糸、風閂の様子を聞こうとしたからである。

「……駄目です。風閂はエクストラヨークから延びています」

 そう答える霧風丸の、なんと重々しい口調か。困憊しきったその声に、超龍姫は忌々しそうに舌打ちした。

「――マルチ姉さんがもう助けられないとは限らないわよ!あの異次元への穴が空いている限り――?!」

 超龍姫が開かれた並列空間の穴を指した時、ようやく二人は異常事態に気づいた。


「ARFが、エクストラヨーク通過の影響でまた閉じ始めている!」
「な――なんですって?!」

 蒼白する<レミィ>の言葉に、長官席にいた綾香は戦慄した。メインオーダールームにある中央メインスクリーンに表示されているARFの穴は、エクストラヨークが出現直後より、その周囲の空間が歪み始めていたが、指摘されるまで萎み始めているコトに綾香たちは気づいていなかったのだ。

「エクストラヨークの巨大なTHライドの出力が、ARFの維持に影響を及ぼしているんだわ。――このままでは30秒後に消えてしまうわよ!マルマイマー達は脱出出来なくなる!」

 <レミィ>の悲鳴に、あかりは、はっ、と我に返り、思わず席から立ち上がっていた。

「――浩之ちゃん、マルチちゃん!!?」
「そ――――!姉さん!もう一度ディバイディングエネルギーを!」
「駄目よ綾香!開放されたARFに負荷をかけるだけ。ヘタすると宇宙そのものが消滅するほどの大爆発を引き起こしかねない!」
「――――!?」

 綾香は歯噛みした。

「…………万事休すか」
「大丈夫。そんなこと、ない」

 THコネクターの内部で苛立つ初音の耳に、あかりの声が届いた。

「あかりさん……」
「マルチちゃん、あの並列空間の中でファイナルフュージョンの承認要求信号を発信してきたんだよ。絶対、還ってくる。浩之ちゃんがきっと、何とかしてくれる」


「そうだ!マルチ姉さんは必ず帰ってくるっ!」

 超龍姫は飛来してきたEI−08の分身を剛腕で吹き飛ばしながら叫んだ。

「――あきらめない。それが勇者というもの!『百花繚乱』!!」

 霧風丸は大回転魔弾とともに抜きはなったクサナギブレードで次々とEI−08の分身を切り刻んでいく。
 二人とも奮戦しているかに見えるが、しかし斃してもエクストラヨークから次々と打ち出されているEI−08の分身メカの物量攻撃に押され始めているのも事実であった。

「――くうっ!」

 一瞬、霧風丸の動きが鈍くなる。その頭上から二体のEI−08が襲いかかってきたが、すかさず超龍姫の回し蹴りがそれを粉砕した。

「霧風丸!もう限界?」

 超龍姫は慄然とした。マルマイマーよりも高い戦闘力を持つ霧風丸は、その高出力を一気に消費する短期決戦型の戦闘ロボットとして設計されている。これ以上長引くと霧風丸は機能停止してしまう。
 そしてこの闘いの向こう側では、今まさに、ARFが閉じようとしている。マルチ達があの穴から出てくる気配がない今、絶望の闇が次第に迫りつつあった。
 それでも、超龍姫と霧風丸は信じていた。
 奇跡を。
 勇者のみが起こせる奇跡を。

「――くっ!」

 再び、霧風丸の動きが鈍くなる。そればかりか、足がもつれて倒れてしまったのである。

「霧風丸っ!くそっ、邪魔をするなぁっ!!」

 超龍姫は離れてしまった霧風丸の元へ近寄ろうとするが、EI−08の群れがそれを阻止する。

「「――ぐはっ!」」

 僅かな油断に、超龍姫はEI−08の群れの体当たりを受けて吹き飛ばされる。同時に、霧風丸も体当たりを受けて手にしていたクサナギブレードをこぼし、吹き飛ばされてしまう。

「トドメダッ!!」

 大の字になって倒れた霧風丸の上へ、EI−08の群れが殺到した――

「?!」

 次の瞬間、超龍姫は信じられない光景を目撃した。
 霧風丸を襲ったEI−08たちが突然、粉々に粉砕されていたコトではなく、それを行ったものが、背広姿の男の仕業であったからである。

「に――人間が――ロボットか?」
「生憎だがどちらでもない。――狩人だ」

 唖然となる超龍姫に、突然出現した柳川裕也は傲岸不遜の笑みを浮かべて応えた。

「あなたは…………特戦隊の柳川裕也さん」

 MMM諜報部所属の霧風丸は、柳川の顔を知っていた。

「人間が、どうやってEIメカを……素手で…………」
「彼はエルクゥの血を引く柏木家に縁ある者」
「エルクゥ――――」

 超龍姫は柳川の常人離れした戦闘力の理由を即座に理解した。あの柏木初音に、腹違いの縁者が一人いることは聞いていたが、どうやらそれがこの男らしい。
 柳川は素手で次々と鋼鉄の敵を粉砕していく。恐ろしいパワーである。エルクゥの男は、体組織を戦闘用に強化するコトで超人的なパワーを得られると聞いていたが、この柳川という男は、優男という外見を変化させることなく、素手で鋼の装甲を粉砕しているのだ。もっとも、エルクゥの女は外見をほとんど変化させずに超人的パワーを発揮できるので、この柳川は男性型としては進化したエルクゥと言えるのかもしれない。
 柳川が素手で鋼鉄を粉砕できるのは、単純に怪力を揮っている為だけではない。柳川は拳を装甲にインパクトさせた瞬間、その打撃点を目にも留まらぬ超高速で連打し、超振動を与えて分子レベルでの破壊を行っていたのである。

「インパクトの反動さえも破壊力に変えてしまうとは…………これがエルクゥの闘い方なのか」

 理解しつつ、唖然とする霧風丸は超龍姫に支えられながら立ち上がる。そして、もはや脱出不可能なまでに狭まっていたARFをみて、悔しそうに唸った。

「「これまでなの――――――?!」」

 超龍姫と霧風丸が絶望を覚えたその時であった。
 閉ざされたかと思ったARFから、緑色の光が噴き上がり、その上空にいたEI−08の分身メカを次々と粉砕していった。

「この光は、まさか――――」
「ふん。還ってきたようだな」

 柳川はねじ伏せたEIメカの頭部を踏みつぶすと、やれやれと肩をすくめた。

 次の瞬間、三度ARFが開かれた。そして今度は、ARF全周囲を縁取る巨大なエメラルド色の光の柱が天を貫いた。
 その柱の中心に、左腕にカシナートドライバーを掲げながらゆっくりと舞い上がってくるマスターマルマイマーの姿があった。

「「――エクストラヨークっ!勝負だっ!!」」

            Aパートその2へ つづく

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