パッ!パッ!
「…………えーと、なになに……赤旗が右へ二回、下へ一回、白旗が左上へ二回だから……こ・う・い・ち・さ・ん・あ・な・た・を・に・ま・す…………煮る?」
「違いますっ!もう一度っ!」
ぱっ!ぱっ!ぱっぱっぱっぱっぱっぱっぱっぱっぱっ!
「……音だけ聞いていると、イッパツマーン、とか続けたくなってくるなぁ…………えーと、こ・う・い・ち・さ・ん、あ・な・た・を・こ・ろ・し・ま・す…………殺す?」
134回目にしてようやく耕一に手旗信号が通じた千鶴だったが、安心して気が緩んだとたん、その場にへたり込んでしまった。
「あー、だいじょうぶ?千鶴さん?」
「大丈夫じゃないです〜〜(泣)何が楽しくて、手旗信号でビジュアルノベルしなきゃならないんですかぁぁぁぁぁ(泣)耕一さーん、疲れましたぁ、おぶってくださ〜〜い」
「あー、もう仕様がないなぁ。ほら」
そう言って耕一は、はぁはぁと息が上がっている千鶴を抱きかかえた。耕一に軽々と抱きかかえられた千鶴は、思わず赤面する。
「あ…………っ(汗)」
「うーん、意外と重いなぁ」
「――耕一さんっ!」
「冗談だよ、冗談。――さっき、激しい運動したから疲れたんだよねぇ」
「――――」
堪らず千鶴の顔は真っ赤になる。ホンの一時間前の逢瀬を思い出してしまったらしい。初めてあったあの小さな少年が、千鶴の背を通り越してたくましい男になっていた姿が今も目に焼き付いて離れていない。
「……エッチ」
「?手旗信号のコトが?」
「――――」
「……冗談だよ」
少し頬を赤らめた耕一はそういうと、ふくれる千鶴の唇に自分の唇を重ねた。
「…………ところで千鶴さん、何で俺のコトを殺そうと…………あれ、寝ちまいやんの」
千鶴はすっかり鬼の血のコトなど忘れ、耕一の腕の中で吐息を立てて寝てしまっていた。
「……まぁいいや。――――?!」
凄まじい殺意を憶えた耕一が慌てて振り返ると、背後にある水門の上で、鬼化した柳川が必死に手旗信号で耕一にアピールしていた。
「…………おいおい。…………る・る・る・る…………吼える声まで手旗かい(笑)…………なになに、『It’s』?」
And Now……For Something Completely Different.
☆ここで「自由の鐘」のテーマソングが流れ、サイケなOPが続く。締めは、画面中央にあるくまの頭が、画面上から出てきた、セイカクハンテンダケを食したヤンキー初音の素足に踏みつぶされる。
『手旗信号版・雫』
僕、長瀬祐介が学校の屋上に行くと、そこには赤と白の手旗を持った月島瑠璃子さんが居た。
「…………手旗、届いた?」
届くかぃ(^_^;
* * * * * *
それは授業中のコトだった。僕の隣に座っていた太田さんがいきなり立ち上がり、手旗を降り始めたのだ。…………えーと、…………ち・ん・ち・ん・で・ん・し・ゃ?……………………違うの?あーあ、泣いちゃった(^_^;
* * * * * *
階段から落ちそうになった瑞原さんを僕が支えた時、彼女の懐から、それは転げ出てきた。
白と赤の手旗…………またかい。
「……これ、お父さんの形見なの」
どーゆー親父ぢゃ。
「…………わたしが香奈子ちゃんと知り合ったのは中学校の頃、お父さんの形見の手旗を振っていたらクラスメートがわたしのことをいじめてね、香奈子ちゃん、わたしのコトかばってくれたの」
太田さん、立派だけど、…………そらぁ、いじめたくなる気も判る。
* * * * * *
「…………手旗信号部のエース?(*_*;」
「そうっ!」
そういって沙織ちゃんは必殺技「見えない手旗」を披露してくれた。もの凄い技だ。おかげでどう言い表せば良いのか、非常に困る。………………見えないんだモン(^_^;
* * * * * *
ついに、学園で起きていた謎の事件の首謀者を突き止めた。あろう事か、元生徒会長の月島さんだったのだ。…………謎すぎて、僕にも何が悪いのかよくわからないが、この話はそう言う筋立てらしいから、とにかく悪いらしい。
「ふっふっふっ…………。知られたからには逃がさないよ。――くらえっ!毒電波っ!!」
とん・とん・つー・つー・つー。……………………
月島さん。昨日の1/31付けで、国内での船舶向けモールス信号通信が幕を閉じたからって、ヤケになってない?(^_^;
「………………うるさいやい」
あーあ、泣いちゃった。それはそれとして、NTT長崎無線電報サービスセンタの皆さま、ご苦労様でした。
「いっておくけどなぁ、最初にSOSのモールス信号を発信したのは、あのタイタニック号なんだぞおっ!」
……だから、なんなの?
☆ここで唐突に、テリーギリアムのアニメが入る。
『手旗信号版・ToHeart・ダイジェスト』
玉緒「おとーさん、ネタに詰まったからってダイジェストで逃げるの?(^_^;」
ARM「しー!黙っていれば、誰も気づかないって」
芹香先輩は無口だ。他人との意志の疎通は、すべて手旗でやっている。
だからといって、魔術の詠唱まで手旗ではやらないでほしい(汗)
* * * * * *
どんっ!――――また、レミィが後ろから俺のコトを突き飛ばしてきた。
レミィが持っている今日の手旗の色は黒だった。ラッキィ、これでCG100パーセントだっ。
* * * * * *
松原葵ちゃん。今年入ってきた新入生で、格闘技の上手な…………え、違う?
「はい!格闘”旗”!技じゃなくって、旗です!」
そういって葵ちゃんは両手に持つ紅白の旗を振り回し、十枚重ねた瓦を手旗を握りしめた拳で一気にぶち割った。…………こんなン、旗、関係ないヤン。
* * * * * *
みんなご存じの、感動のマルチシナリオのラストだ。俺の目の前には、心をなくしたマルチが居る。しかし、マルチを作った来栖川電研の粋な計らいで、俺の手元に、マルチのこころが入ったDVD−DISKが届い……………………?なんだ、この紅白の旗は?…………何々、DVDをインストール後、この旗を同梱のマニュアルに書かれてある手順通りに振ることで、マルチの心は元に戻る?――――マニュアルのページ数、300ページ。手旗を振るステップは、全部で6000。…………なるほど、マルチがまるで人間の女の子みたいによくできた心を持っているのは、こんな複雑な手順を踏んでいるからなんだな、よぉっし!待ってろよマルチ、今、目覚めさせてやるからなぁっ!!
意気込んで旗をマニュアル通りに振り続ける浩之は、既にDVDのインストールによって再起動して目覚めていたマルチが、本当は長瀬に担がれているコトをどう伝えようか迷っていた。
(本当のことを伝えたら、きっとご主人様、長瀬主任をボコボコに殴るに決まってますし、どーしよ〜〜〜(^_^; )
結局、マルチがとぼけて狸寝入りしているとは露も知らぬ浩之は、14回目のチャレンジで、4031ステップ目でまた失敗し、その場にへたり込んで困憊しきった溜息を吐いた。
そんな浩之をみて、マルチは少し苛立った。
「…………あーもう、ご主人様、4030ステップからは、赤色の旗を動かすのが中心なんですよぉぉ!」
「え?あ、本当だ、ここにちゃんと書かれて…………あ゛?(^_^;」
「あ゛?(^_^;」
<エンディング>
再び、水門の上。手旗を持ったエルクゥモードの柳川が、同じく手旗を持った耕一と対峙している。それを見守る千鶴。
「いくぞっ!」
「こいっ!」
星々を渉る狩猟民族エルクゥの末裔が今、おのれの血の定めにならい、「格闘旗」で決着をつけようとしていた。
「いくぞっ柏木耕一!必殺、インビジブル・フラグっ!この手旗、見えるかっ!」
「うううっ!やるな柳川っ!お返しだ、分身手旗っ!」
「うおっ!なにおっ、くらえっ、エビぞりハイジャンプ手旗っ!」
「げほっ!負けるか、大回転手旗ぁっ!!」
「させるかっ!ジャコビニ流星旗ぁっ!!」
「うわっ!旗に亀裂入れるのは規則違反だぞっ!!」
「はははっ!勝てばいいのだ、柏木耕一っ!!」
二人はエルクゥパワーを全開にした魔旗を次々と繰り出す。ほぼ互角であった。
そして、このあまりにも凄まじくもバカバカしい闘いに付き合いきれなくなった千鶴は、疲れ果てて眠りこけていた。寝返りを打ったその背中に書かれてあるその文字は、
「The End」