東鳩王マルマイマー第12話「鬼神の方舟」Bパート・エピローグ 投稿者: ARM(1475)
【承前】

「判っているっ!――待っていたわよ、ファイナルフュージョン、承認っ!」

 今まで異常事態に動揺していた綾香だったが、ファイナルフュージョン要求信号
を知ると途端に喜悦し、声を張り上げて承認した。

「了解――――ファイナルフュージョン、プログラムドライブっ!!」

 それを受けてあかりも元気よく返事し、右拳を振り上げてコンソールのFF起動
スイッチを保護するアクリル板を勢いよく叩き割った。


「FF承認コード及び転送プログラムを確認!メインオーダールームから来たっ!
プロテクト解除は中止、このままファイナル・フュージョンを行うぞ、マルチ!」
『了解しました!マスターマルーマシン、起動っ!』

 長瀬の指示にマルチは返答すると、マルルンから超電磁竜巻を放出し、メンテナ
ンスケイジ内部で回転し始めた。マスターマルマイマー用に設計された、B2ステ
ルス機の形状にウルテクエンジン搭載のブースターを装備した「ステルスマルー2」
バルーンマルーにジェットブースターと収納可能な可変翼が追加装備された「エア
マスターマルー」、そして推進用バーニアが追加装備されたドリルマルー改こと
「スペクターマルー」が稼働し、超電磁竜巻の中へ飛び込んでいく。
 エアマスターマルーがガイドアームを広げながら前後に分かれ、超電磁竜巻の中
心で回転を止めていたマルチの頭上から両肩にマウントされる。続いて分離したス
ペクターマルーがマルチの両足をゆっくりと飲み込み、足を保護するブーツに変形
した。そして最後に、背部に回ったステルスマルー2が、両肩にあるパーフェクト
ロックとドッキングする。背中に密着すると、両脇からマルルンのたてがみを引き
出してドッキングする。そして両脇にある戦闘用腕部がマルチの両腕をスライドし
ながらゆっくりと飲み込んでいく、つづいて、マルチの後頭部から、Mの字を模し
た角飾りをつけた、ヘルメットタイプの頭部センサーが現れてマルチの頭を覆った。
頭部の装甲強化はヘルメットだけでなく、そのひさしから牙のようなマスクも現れ、
マルチの口元を覆い隠した。
 最後に、額にあるMマークがせり出してエメラルド色に輝くと、マルマイマーは
両腕を大きく振りかぶった。

「マスター・マル・マイ・マー!!」

 FFが完了すると、超電磁竜巻が霧散する。そしてその中から現れた、さらなる
武装・装甲強化を施されて物々しいシルエットをもった、マスターマルマイマーが
出現した。

「…………凄い」

 FFをモニターしていた観月が、コンソールパネルを見つめて絶句していた。

「どうしたの?」

 様子に気づいた美紅が、観月の肩越しに、コンソールパネルにあるモニターの数
値をのぞき込んだ。
 そして、唖然とした。

「……シンクロ率、200パーセントをマーク?あの柏木初音ですら、初めてのテ
ストでは80もマークしなかったのに!?」

 複雑な面もちをする美紅は、いつしかすがるような眼差しで、ARFの穴を平然
と見つめている長瀬のほうを向いていた。

「……長瀬先生。やはり彼は、ダリエリが言うとおり、<次代>なのですか?」
「……いかんな」
「は?」
「ARFが、エクストラヨーク通過の影響でまた閉じ始めている」
「?!」
「みたまえ」

 そう言って長瀬は、ARFの穴へ突入しようとしているエクストラヨークを指し
た。よく見ると、エクストラヨークの周囲の空間が歪み始めているのだ。

「エクストラヨークの巨大なTHライドの出力が、ARFの維持に影響を及ぼして
いるのだろう。このままでは我々は脱出出来なくなる」
『そんなコトはさせないっ!!』
「マルチ――」

 艦橋内の大モニターに、毅然とした面もちのマルマイマーがアップで映し出され
た。

『直ぐ、わたしとカシナートドライバーを放出してください!』

 不断の日向のような雰囲気のマルチはそこになかった。浩之との超絶した電脳連
結が人格的ユニゾンを果たし、凛々しい戦士が危機に対し敢然と立ち向かおうとし
ているのだ。
 美紅はそんなマルチを見て暫し呆けるが、やがて我に返ると、とても嬉しそうに
頷いて見せた。

「判りました!主査、マルマイマーとカシナートドライバーの放出を!」
「了解した」

 長瀬がメンテナンスケイジのハッチを開放した。気圧差から生じた空気の移動が
始まり、マスターマルマイマーと、テーブルに置かれていたカシナートドライバー
が外へ一気に放出された。


 三次元では、大混乱が生じていた。
 FF承認コードとFFプログラムの転送が完了し、綾香たちはTH壱式がマルマ
イマーとともに現れるものと思っていた。
 ところが、そのARFの穴の中から、巨大な禍々しい翼を広げて出現してきた異
形の巨体を認め、誰もが言葉を無くしていた。
 脳裏に浮かぶ言葉はただ一つ。
 悪魔。

「……そんな!」

 初音はTHコネクターの中で、その巨大な異形を目の当たりにして、メインオー
ダールームにいる綾香たちと同様に戦慄していた。
 その一方で、心が躍る自分に戸惑っていた。

「あれはヨークだ……!リネットが動かした……エルクゥの……ヨーク………!?」

 初音は、貯まらず両手で自分の顔を覆った。

「…………何?この、不安感…………すべて、持っていかれそうな………………不
快だっ!」

 MMMの面々ばかりだけでなかった。V−MAXに跨っていた藤田室長は、煙草
をくわえようとしていた矢先だったのでそれを思わず落としかけ、新都庁舎の入り
口でその姿を目撃した志保は暫しその場に硬直し、キングヨークの操縦席では、そ
の巨大さに3人とも絶句していた。ARFの穴の中から現れたエクストラヨークを
目の当たりにした人々は皆、恐怖に声を無くしていた。
 人類という生命体が、本能的に恐怖を抱いていた。人類原種の造りし、魔神。恐
怖は当然のことなのかもしれない。
 しかしそれを上回るモノが、あった。

「は――っはっはっはっ!エクストラヨークが還ってきたぞっ!これでクイーンJ
が蘇るっ!!人類は鬼界昇華から逃れられなくなったぞっ!」

 都庁舎展望台で、この悪魔の復活を待ち望んでいた狂喜。
 そして、自らの失態と目前の敵に対し抱かれている、激しい怒り。

「――ワイズマン、いや――――」

 黙示がその名を口にした時、全身を地上に露わにしたエクストラヨークの獣のよ
うな咆吼がそれを遮った。
 だが、ワイズマンにはその名が聞こえていたらしく、見る見るうちに顔を険しく
していった。

「……ふん。気づいていたか」
「お前だけは、絶対斃すっ!!」


「――ARFが閉じていく!?」

 絶句する一同の中で、<レミィ>が最初に閉じ始めたARFに気づいた。

「このままでは30秒後に消えてしまうわよ!」

 レミィの悲鳴に、あかりは、はっ、と我に返り、思わず席から立ち上がっていた。

「――浩之ちゃん、マルチちゃん!!?」


「ARFが閉じていくっ!ウルテクエンジン全開っ!!」
「間に合いません!――」

 青ざめた宮沢が悲鳴を上げた。

「……これまでかっ!」
「「希望は、あそこにあるっ!!」」

 思わずコンソールパネルを叩く観月に、長瀬と美紅が声を合わせて外を指した。
 その先には、エメラルド色の軌跡が、まっすぐARF目指して飛んでいた。

 マスターマルマイマーの左手は、ジューサーの形状をした新型ディバイジングツ
ール、カシナートドライバーの底を掴んでいた。

「――いくぞっ!カシナート・ドライバー、プロテクションオープン!」

 マルマイマーがそれを突き出すと、何もない垂直面に量子かくはんによって空間
湾曲を発生させる強力な3基のディバイジングツールを誤動作防止及び保護目的に
装着されている半透明カバーが展開し、光を帯びてスライドしながらマルマイマー
の左腕とドッキングした。むき出しとなった3基のディバイジングツールは回転を
開始し、七色の光を周囲に放出し始めた。

「ARF、ターゲットロック!――――ウルテクエンジン全開、いっけぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっ!!!!!!!」

 ブースターが爆発したように光ると、高圧力の宇宙を突き進むマスターマルマイ
マーのスピードが増す。ARFまでの距離は、あと200メートル。しかしARF
はすでに拳大の大きさにまで小さくなっていた。

「面ではないっ!点を、特異点化したその時を狙うぞ、マルチっ!!」
「判りました、浩之さんっ!!」

 ARFまであと50メートル。しかし、すでにその直径は1センチも無かった。

「閉じてしまうっ!!」
「藤田っ!」
「マルチっ!!」

 ARFまであと10メートル。ARFは既に光点と化していた。

「「カシナート・ド・ラ・イ・バ――――――――っ、いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!」

 並列空間と三次元に、閃光が立ち上ったのはその時だった――――

               To be continued

【次回予告】

 君たちに最新情報を公開しよう!

 ついに復活した鬼界創神、エクストラヨーク!キングヨークさえも退けるそのパ
ワーに、奇跡の大復活を果たした最強の勇者、マスターマルマイマーが立ち向かう
!マルマイマーの右手に宿る新たなる黄金色の力は、果たして人類最大の危機を救
う鍵なのか?

 東鳩王マルマイマー!ネクスト!
  第13話「金色の破壊神」!

 次回も、『ファイナル・フュージョン』承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 「ゴルディアームと、キーボード付きギターを肩から下げる長岡志保」


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