羅刹鬼譚 第1話 投稿者: ARM(1475)
第1章 噂の二人

 隆山の地回りたちの間で、決して手を出してはいけないと怖れられている人物が二人いた。
 そのうちの一人が、本当にこんな眼鏡をかけた優男なのか、と居酒屋の一角から遠巻きに見ていた石田はそう思いながらコップのビールを呷った。
 無口な男だった。そしていつも、何を考えているのか判らない不気味な男だった。
 だが、石田はこの男が噂の男であることに間違いないと確信したのは、問題の男の足許で三人のチンピラがのびている理由を目の当たりにしたからである。
 それは一瞬だった。最近、この隆山に進出してきた新興の暴力団「葉峰会」の構成員らしいこの三人組が、前の店ですっかり出来上がったのだろう、小さな居酒屋に泥酔したまま勢いで入店し、慇懃に入店を断ろうとした店員にアヤをつけて殴ったのがきっかけだった。
 問題の男は、コトが起きるまでカウンターで烏龍茶を飲んでいた。その飲みかけの烏龍茶が入ったコップを、狼藉を働く構成員の一人が掴み取って店員に投げつけた。構成員はコップを取り上げたとき、威しとばかりに男を睨み付けた。コップが店員に投げられた瞬間、そのま構成員のコップを持っていた右腕があらぬ方向に曲がった。続いて、構成員の頭頂が時計回りに180度回転し、生肉を綱板に叩き付けたような鈍い音を立てて床に突っ伏した。

「「――な!何だ手前ぇは?!」」

 店員に絡んでいた残りの二人が驚愕の相で振り向いたのは、噂の男がゆっくりと立ち上がって、床に寝そべっている仲間の頭を容赦なく蹴ったコトに気づいたからである。

「黙れ、チンピラ」

 それは石田が、この男が居酒屋の暖簾を潜ってカウンターに座り、気怠げに口にした「烏龍茶」に続く二声目であった。この間、30分間、男はコップ一杯の烏龍茶をちびちび飲みながら、一言も口にせずに黙り込んだままだった。
 この男が、相手が暴力団の構成員であるコトを、泥酔していたこの三人組が店員に絡んできたときに威しの言葉で使っていた時に知っていたハズである。相手が暴力団だろうが誰であろうとまったく臆することのない、この男の剛胆ぶりに、石田はまるで任侠映画に出てくる粋なヤクザを想起して、同性であるこの男にしびれさえ感じた。
 だがそれは直ぐに、まったく異なる印象に変化した。
 どうしてそれが「恐怖」へ変わってしまったのか、石田には理解できなかった。
 あるいは、本当の「恐怖」というものを知らなかった為かも知れない。
 たとえば、肉食獣に狙われた草食動物の心境。――「人」と呼ばれる生物が覚える必要が無かった、「狩られる」恐怖を。
 残りの二人が床に寝そべるのには、10を数えるまでもなかった。こんな乱暴な男が、隆山警察署の防犯課の警部と言われても、信じる者は皆無だろう。
 男が追い打ちとばかりに三人の腹を足で蹴っていると、やがてそれを静止させる声が暖簾を潜ってきた。

「なにやってんの、柳川」
「耕一か、遅いぞ。――ゴミ掃除だ」

 柳川と呼ばれた男が暖簾のほうへ振り向くのを追いかけるように、石田は暖簾を潜ってきた、耕一と呼ばれた男をみて慄然とした。
 石田は、耕一と呼ばれた男を知っていた。この隆山温泉で商売する者に知らぬ者はいない、老舗の旅館「鶴来屋」の現会長の柏木耕一。隆山の有力資産家、柏木家の現当主でもある彼は、齢28にして、8年前の会長の急病から傾きかけた鶴来屋を無債再建したばかりか、会長に就任して6年間の間にホテル鶴来屋の別館を2館も新築させたその経営手腕は、鶴来屋を隆山で一番の旅館にした祖父の再来かそれ以上の才覚の持ち主とうたわれた有能な経営者である。
 だが、決して、そのような評判に石田は恐れを成したわけではない。
 隆山警察署の防犯課の警部と、隆山のトップリーダーたる鶴来屋の会長。”噂の二人”である、「柏木の男たち」がこの居酒屋に揃ってしまったのだ。

「お前なぁ……仮にも警官がそんな乱暴働くかぁ」
「乱暴ではない。正当防衛だ。――なぁ?」

 今まで傍観者を決め込んでいた石田に、突然自分のほうへ振り向いた柳川が訊いてきた。とても偶然とは思えない。まるで一部始終を息を呑んで気づかれぬよう目線で追って傍観していた石田の存在に気づいていたような自然さがあった。石田はたまらず顔を伏せた。それきりだった。あとは怯えて震えるばかり。

「おいおい。タダでさえ警察は目の敵にされやすいんだぜ。もう少しスマートにやれよ。――おい、大丈夫かい?」

 耕一は柳川の許に近寄ると、足蹴にされているチンピラに優しい声を掛けてやる。こういう手合いは追いつめられると脆さを露呈するもので、痛みと恐怖でぐしゃぐしゃになった泣き顔を耕一に向けて、助けて下さい、と一言。――途端に、目を瞠った。

「――ひっ?!ひぁあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!助けてくれぇ!!」

 失礼にも、優しく声を掛けてやった耕一の顔を見て、チンピラたちは飛び上がって悲鳴を上げた。

「…………ん?――あ、お前ら、あの時の」
「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!お、お助けをををををっ!!!」」」

 耕一の顔を見た三人組は、顔を真っ青にして、ほうのていで居酒屋店内から逃げ出して行ってしまった。耕一はぽかんとした顔で、三人組たちの背中を見送っていた。

「……耕一。あいつらに、何、やった?」
「いや……。先週、駅前で初音ちゃんたちに絡んでいた酔っぱらいたちだ」
「……ああ、このあいだ、課長がそんな話してたな。確か、お前、伸したんだっけ?」
「伸したとゆうか、丁重にお帰り願っただけだ」

 耕一がゆう丁重なやり方とは、駅前の路上で、今夜のように泥酔していたチンピラに難癖をつけられたサラリーマンをかばって仲裁に入った、帰宅途中の楓と初音に、酔った勢いでいきなりナイフを向けた狼藉者に対し、駅前の屋台で食していた焼き鳥の竹串でその鋼鉄の刃を易々と刺し貫き、そのままアスファルト道路に串刺しにしてみせた所業を指すのか。柳川のやり方に比べれば相手を殴らないだけスマートではあるが、結局刺し貫かれたナイフは、3日後の夕方に防犯課の長瀬課長から連絡があるまでそれを忘れていた耕一が竹串を引き抜くまで、誰にも引き抜けずそのままになっていた。ちなみに三人組を伸したのは、耕一と一緒に屋台で飲んでいた梓である。慌てふためいて逃げだした三人組の足にさり気なく足払い――目にも留まらぬ速度で――をかけ、その勢いで三人組は闇の中へ転がっていってしまった。

「いずれにせよ、ああいう社会の迷惑になる輩は、甘やかすとつけあがる。とことん思い知らせてやらないといかんのだよ」
「隆山の防犯課は、そうやって犯罪を未然に防ぐ方針なのかい?」
「いや。俺の主義だ」
「さいでやすか」

 耕一は肩を竦めると、今の騒動で床に倒れていた椅子を起こし、柳川の隣に座った。

「マスター、俺、生チュウね。あ、隣にはもう一杯、――烏龍茶で良いのか?」
「酒の味は忘れた」
「……痛い飲み方じゃなければ、もう大丈夫だろうに」
「……俺は、忘れたわけではない」

 どこか寂しそうに応えた柳川は、カウンターに新しく乗せられた烏龍茶入りのコップを掴んで呷った。
 耕一は、手前にビールジョッキが置かれるまで、全てを無くしてしまった男の横顔を暫し見つめた。
 耕一には、まだ残されたものがある。これは、その差なのかも知れない。時間が全てを解決してくれるとは限らないのだ。


第2章 奇妙な屍

 時の流れは、決して人に優しくはない。

 耕一が繰り言のようにそう思うようになったは、娘の千歳(ちとせ)が幼稚園に入学した頃が最初だろうと記憶している。
 病院にいる妻の千鶴の元へ訪れ、千歳と一緒に撮った入園式の写真を千鶴にみせるが、反応を期待するコトなど、とうにあきらめていた。
 8年前のあの悲劇から、千鶴は時が止まったように眠り続けている。耕一自身、もう目覚めることは無いのかも知れないだろうとあきらめている。千歳だけは生まれて以来、眠り続けている母の姿に違和感など抱くべくもなく、母の微動だにしない透き通るように白い肌の手に触れては、一方的に入園式であった出来事を話し続けている。
 千歳が生まれたのは、まさに奇跡であった。
 耕一と結ばれたあの晩、千鶴は、「鬼」と化した男にボロボロにされた。腕の中でみるみるうちに冷たくなっていく千鶴に、耕一は絶望を覚悟した。
 その絶望の淵から一縷の望みを彼に与えたのが、柏木一族の不思議な力であった。
 それは、千鶴をこんな目に遭わせた「鬼」を覚醒させた、「雨月山の伝承の鬼」を源とする、柏木の血であった。
 耕一は、「鬼の血」がどれだけ凄いものかを知っていた。耕一もまた、「柏木」の者であり、その常識を逸した自己治癒力に幾度と無く救われていたからだ。そして、その血の力は、今また千鶴の身体を蝕んでいた「死」をも癒し始めたのである。
 しかし、「こころ」までは癒しきれなかった。肉体的なダメージは、千鶴が会長を務める鶴来屋の社長、足立の古くからの友人で、柏木の血の秘密を知っているハズの医師をして、千鶴のあまりの回復力に絶句させた程であったが、結局、意識だけは回復することなく、植物人間状態に陥ってしまったのである。
 それから約4ヶ月後、身辺整理で東京に戻っていた耕一は、足立から千鶴が妊娠している事実を報され、慌てて隆山に帰ってきた。
 耕一ばかりか、梓ら千鶴の妹たちもこのコトには酷く驚愕した。もっとも、植物人間状態にある女性が妊娠し、子供を出産した実例は過去にも何件か存在する。ましてや、母胎の驚くほど安定した健康状態ならば、問題なく出産出来ると医師が太鼓判を押したくらいである。耕一はその事実を告げられた一ヶ月後、千鶴を籍に入れた。病室で、妹たちや足立社長ら内々でささやかながら結婚式を挙げた日の出来事は、耕一はいまでもはっきりと覚えている。自分が覚えていてあげなければ千鶴に済まないと考えていたからだが、改めなくともあの暖かい光景は、決して一生忘れることは無いだろうと思っていた。
 一年後。耕一は、「千歳」と名付けた自分の娘を腕に抱き、目覚めぬ妻を残して退院していた。
 父の腕の中で、己が背負っている不幸な環境のコトなど露も知らずにすやすやと眠り続ける娘の寝顔を観たとき、耕一はこの娘だけは、絶対幸せにしてやろうと誓った。


「――パパっ!はーやーくーおーきーなーさーいー!」

 幸せにしてやろうと誓わせた娘に足蹴にされ、耕一は寝床から渋々出てきた。まだ寝ぼけ眼の視界に映る、母親をそのままミニチュアサイズにしたような愛らしい容姿の千歳は、右手にフライパンをもって、ふくれっ面で父親を見下ろしていた。7歳ながら柏木家の家事を充分にこなす優秀な家事処理能力は、梓の教育の賜物だろう。

「ユウちんはさきにおきたのに、どうしておとーちゃんはいつもこう、まいあさダラダラしてるのよ、ほんとにだらしない!」
「……おいおい、お父さんは、昨日の夜は、仕事でえらく遅かったんだぜ」
「しごとって……ホテルにいったって、たいしてしごともないクセにえらそうにゆわないの!」
「おいおい、きっついなぁそれ(汗)」
「アズサおねいちゃんがいってたもん。しごとないのにしごとしているなんてゆうのは、キベンもいいところだって」

 この歳で詭弁という言葉を知っている千歳に驚かされた耕一だったが、それ以上に、梓に対して猛烈な怒りを覚えた。

「とんでもないこと吹き込みやがって……覚えていろよ、梓め。絶対、泣かしちゃる。――なぁ、俺は千歳のお父さんなんだから、もう少し優しくしてくれよ」
「ふーんだ!そんなあまえんぼうさんのイイワケなんかきくミミもってませんよーだ!」

 梓の教育ぶりには感心しているが、ここまで梓に似なくてもいいだろうに、と耕一はこころの中で愚痴る。
 しかし耕一は直ぐに、あの梓も、千鶴が居たからこそあんな立派な女性になれたのだろうと思い直した。梓が千鶴の代わりに千歳の面倒を見てくれているお陰で、耕一は千鶴の代わりに鶴来屋の会長職をなんとか勤められているのだ。ましてや、「裏」の顔を持った今は――

「ほら、とっとと起きろ」
「ぐっ!痛っ?!」

 いきなり、背後から耕一のこめかみに握り拳を押し当ててグリグリし始めたのは、耕一の叔父に当たる柳川祐也だった。祖父の隠し子である彼は、上司である刑事の長瀬の勧めで現在、柏木邸に住んでいた。

「あ、ユウちゃん!このごくつぶし、とっととおこしてよ」

 娘のこの追い打ちに、耕一は心の中で号泣した。

「こ、こら、やめろ、柳川!」
「とっとと起きろ。――仕事だ」

 相変わらず不満そうな顔をしている祐也は、肘に力を入れ、耕一の頭を一層圧迫する。堪らず悲鳴を上げる不様な父親に、千歳はどこか大人びた仕草で肩を竦めた。


 耕一は、呆れ顔の梓と千歳に見送られながら、柳川に引きずられるように、柏木邸の門を潜り抜けていった。

「おいおい、何だよ、そんなに慌てて……」
「お前は呑気すぎる。――お前が高いびき掻いている今朝方、ブランカから連絡があった」

 その名を聞いた途端、耕一の顔が強張った。

「……『夜叉姫』直々かよ」
「『死なずの一重(いちえ)』が来ている。また武闘派勢力が動き出したらしい。ヤツらの目的は……言わなくても判るだろう」
「……『不死王』捜し、か」

 耕一はその名を口にして、はぁ、と困憊しきった溜息を吐いた。

「そいつらが、事情は良く判らないが、内調の関係者を殺したそうだ。これから現場へ行くから、お前もついてこい」
「……まったく、やっかいな野郎が日本に居ついちまったもんだよな」
「『不死王』が居ようが居まいが、<不死なる一族>の抗争は、いつかは表の世界にも影響を及ぼす。二度と千鶴や貴之のような犠牲を出さないためにも……俺たちは奴らを狩るだけだ」
「…………ああ」

 耕一は、どことなく悔しそうな顔で頷いた。


 柳川と耕一が向かった現場は、隆山の海水浴場であった。
 現場では既に、警察による現場検証が行われていた。
 現場から少し離れた道路の上で、『死なずの一重』の二つ名を持つ内閣調査室直属捜査官、一重駿(いちえ・しゅん)が二人を待ち受けていた。

「よぉ、ご両人、おひさ。『月光荘』事件以来だな」

 夏だというのにトレンチコートに身を包み、無精ひげが目立つ、このひょうひょうとした印象を与える青年は、呑気そうに手を挙げて二人に挨拶した。
 柳川は警官たちが現場検証を続けている海岸を見渡し、

「……派手にやられたな。何人、殺された?」

 まるで集団殺戮現場と思しきその海岸一帯には、至る所に、まだ回収していない遺体を覆い隠す為のブルーのビニルシートが無数に点在していた。

「いや、こう見えても一人だ」

 それを聞いて耕一は当惑する。たった一人の人間が、果たしてここまで細切れ状態になれるものだろうか。

「……公安時代からの知人でね。結構、腕の立つ捜査官だったんだがなぁ」

 凄まじい惨状の中で、のんびりとした口調でいう一重に、耕一は嫌そうな顔で肩を竦めて見せた。

「……ちぃ。<不死なる一族>の武闘派連中は、たった一人相手にこんな無惨な殺しをするのか?」
「しゃあんめぇ。滅多なコトでは死なない一族の中でも、特に人間の命を軽々しく見ている連中だ。他愛のない生しか持たぬ人間なんて、塵芥みたいにしか感じないンだろうよ」

 歯噛みする耕一の前で、一重は懐からおもむろに取りだしたガラムをくわえ、その白い筒先にマッチで火を灯した。きつめの香りが辺りを支配したが、三人が居る、現場から遠く離れた道路にまで達する、潮の香りさえも凌駕する不快な死臭よりははるかにマシである。現場の向こうでは、この臭いに耐えきれず嘔吐し続けている新米と思しき警官も居た。

「しかし、<不死なる一族>らしからぬ殺し方だな」

 そう言って、一重は紫煙を吐き出した。

「誰の仕業か、判っているのか?」
「『夜叉姫』には思い当たる人物が居ないらしいが。――少なくとも、彼女の主な配下の者には、彼女自身も含め、アリバイがある」

 耕一の問いに答えた一重は、ガラムを収めていた内ポケットから携帯灰皿を取りだし、こぼれ掛けた灰をその中に落とした。

「……第一、200年前に結ばれた<不可侵協定>は、<不死王>の名の下にまだ効力を保っている」
「では、この事態を何とする?」
「――気づいたか。流石、柳川のダンナ」
「彼らの習性を知っていれば、直ぐにこの違和感に気づくさ」

 そう言って耕一は、一番手前にあったビニルシートを指してみせた。

「何故、被害者の『血』が残っていない?」

 耕一の指摘通り、現場のどこを見渡しても、血の痕跡はまったく見受けられなかった。遺体を被っているビニルカバーですら、一つも血に汚れてはいない。昨日から今まで、隆山は晴天が続いている。無論、遺体が点在する場所は砂浜の手前で、潮に洗い流されたコトもない。

「遺体の体内にも、血は一滴も残っていなかった。<不死なる一族>の者が全部吸ってからバラバラにしたか。――外連味に溢れたやり方だな」

 一重は忌々しそうに言うと、吸っていたガラムを灰皿の中に押し付けて消した。

「殺された男――伊勢と言うのだが、公安にいた頃は二係に所属していてな、主に対暴力団の仕事を行っていた。そんな仕事から、その筋への太いパイプがあってな。<不可侵協定>の結界を破って潜り込んでくる武闘派の動きを追うのに色々と都合が良いので、藤田室長がスカウトしたんだが――最近、聞き捨てならないやっかいな噂があった」
「噂?」
「おおかた、武闘派の連中と繋がっていたってところだろう」

 柳川が言った。

「ご名答。良く、わかったな」
「最近の、暴力団関係の麻薬事件で、新型の麻薬が流れ始めている情報がある。鑑識でも分析しきれない新成分が混ざっているヤツだ。――近年、武闘派の連中が、資金源集めに麻薬を使っているのは俺も知っている」

 そう答える柳川の顔が、次第に険しさを帯びてきた。
 例えるなら、鬼を喰らう鬼――羅刹の貌か。

           つづく